ラピスラズリ?
高位死司神達は堕神魂を保管している結界の中に入った。
【この結界も龍の力なのだな……】
【悔しいよね。
封じられている兄弟が何処に隠されているのかすらも見えないなんて……】
「魂生域から届きました堕神魂は、此方で眠らせ、保管するのです。
数年から数十年、時には百年以上もかけて、ゆっくりと落ち着かせてから、再生神様にお渡しするのです。
あの辺りは長く保管しておりますので落ち着いていると存じます。
近づいてご覧になられても安全ですので、どうぞ」
案内のプラムにもマディアとラピスリの会話は聞こえているので、説明が邪魔にならないように配慮している。
「触れても?」
「目覚めることはないと存じます」
「ではルロザムール、確かめなさい」
「はい」
ルロザムールは、浮かんでいる幾つかの魂に触れたり覗き込んだりしつつ、徐々にシアンスタの尾に近付いた。
その後ろ姿を目で追いつつ、
「堕神魂は人魂で封じておりますね?」
ナターダグラルがプラムに尋ねた。
「はい。確かに封じております。
方法をご存知なのは魂生神様のみですが」
「封じているのでしたらよいのです。
解ける事無きよう、お願い致しますね」
聞き耳を立てている周囲の保魂神達からの緊張が伝わる。
「堕神も神。
いずれ無事に神世に戻れるよう、人魂で保護しなければならないのです」
――と、ナターダグラルが周囲の目を引き付けている隙に、ルロザムールはシアンスタの尾を取り込んだ。
【ありがとう、マディア】【ん♪】
戻ったルロザムールはナターダグラルに並び、プラムと周囲の神達に深く礼をした。
「良い勉強になりました」
プラムも嬉しそうに礼を返した。
「では次に、想いの欠片を保管している場所をご案内致します」
―◦―
保魂域を一周し、保魂最高司に挨拶して、マディアとラピスリは死司最高司の執務室に戻った。
【堕神魂、全部 持ち帰りたかったね】
【そうだな。悔しい限りだ】
【でもシアンスタを連れて無事に戻れたのだから、今は それで良しとしなければね】
心配して待っていたエーデリリィは弟妹を抱き締めた。
【エーデ、ごめんね】
【無事ならいいのよ。
もちろんラピスリもよ】
【すみません……ありがとうございます。
あの……散々お騒がせするばかりで申し訳ありませんが、急ぎますので。
それに、これ以上お邪魔も出来ませんので失礼させて頂きます】
【待ってよ。僕も行くよ。
ネモフィラ姉様も連れて行かないと】
【知っている。
滝に行けばよいのだろう?
マディア、心から感謝している。
だが、ここからは任せてくれ。
これ以上エーデリリィ姉様に御心配をお掛けしてはならぬ】
【だったらエーデも一緒に行こっ♪
エーデにとっても弟妹の結婚式なんだから♪
ね♪ それならいいよね♪】
【此処を留守にする気か?】
【会議とか、しょっちゅう留守だよ♪
出発しよっ♪】
妻と姉の手を取って瞬移した。
――1瞬移で禍の滝。勢いよく森を抜ける。
【ネモフィラ姉様~♪ 見つかったよ~♪】
物凄い勢いで晴空色の龍が飛んで来た。
【シアンスタが!? 本当なの!?】
【本当だよ♪ でも尾だけなんだけどね】
【いえ、頭と胴も月にいらっしゃいます】
【まあ♪】【【えっ!?】】
【あら?
この鱗色……この気……でも女の子?】
【それは後程。月に急ぎましょう】
【僕に掴まって♪ 行くよ!♪】
ぱっ、ぱっ、ぱっ、ぱっ――と大瞬移を繰り返して月の門へ。
通路でも瞬移を繰り返して月の裏側に出た。
【オフォクス様~♪】
ちょうど禍を滅したところだった狐達が一斉に此方を向き、オフォクスが術移して来た。
【ふむ。掴まれ】【【【【はい】】!♪】】
――古神の神殿へ。
【ネモフィラ♪】【プレリーフ♪】
《早かったねぇ》にこにこ。
《始めようぜ♪》《ふむ》《そうじゃな》
【まさかこのネズミとリス……】
【ハムスターだそうよ♪】
【そうじゃなくて!】
【シアンスタの頭と胴よ】
【こんな姿にだなんて……】
【尾も揃ったんだから泣かないでよ】
【そうね……】
【ネモフィラ……?】【ネモフィラだよね?】
【そうよ♪ 思い出せたのね♪】
【だよね、って……?】
【聞いても泣かないでね?】
【……ええ】
【記憶を抜かれているのよ。力も】
【そんな……】
【カーマインすらも覚えていなかったわ。
知っている筈、止まりよ。
私なんて全然よ。
でも、ネモフィラだけは ちゃんと覚えているのね。
だから大丈夫よ。しっかりなさいな】
【うん……】《その子、真ん中にねぇ》
【あっ! はい! すぐに!
解いて頂けるわ。行きましょ】
ネモフィラの手を引いて飛んだ。
魔法円の中央には人魂と分離し、眠りを解いてもらったばかりのシアンスタの1/3、尾が成した青い龍が淡い姿で浮かんでいた。
【ネモフィラ、大丈夫だよ。
尾が分断されずに無事だから、術も知識も大切な記憶も ちゃんと此処に在るよ】
《尾の重要さを知らぬ人神じゃからの、記憶を全て抜き取ったと思うておるんじゃよ。
さ、始めるからのぅ》
プレリーフとネモフィラがハムスターとリスを魔法円中央に下ろして離れると、詠唱が始まった。
―◦―
輝きが収束すると、その名の通りなシアンブルーの龍が現れ、古の四獣神各々に丁寧に礼をした。
【ありがとうございます】
【シアンスタ!】
飛んで来たネモフィラが抱きついた。
【皆様! ありがとうございます!】
【ネモフィラ、また会えて良かった。
嬉しいよ】
《よしよし無事じゃな?
ならば次に、その厄介な龍の子に掛かろうかのぅ?》
眠ったままの利幸が浮き上がり、魔法円の中央へと飛んで来た。
《コイツ、解けるのかよ?》
《難しそうだけど、やってみようよ》
《随分と我等も慣れてきた。遣るぞ》
――と、古の四獣神達が話している間に、シアンスタとネモフィラは、青龍の器となっている瑠璃龍の後ろに行った。
其処に兄弟龍達が集まる。
【カーマイン、プレリーフ、ラピスラズリ。
集めてくれて、励ましてくれて ありがとう。
神力は修行して直ぐに元に戻す。
だからもう心配しないで】
瑠璃龍は振り返って微笑み、魔法円に向き直った。
【ラピスラズリ……?】
【マディアだったね?】
【あっ、はい♪】
【尾の眠りを解いてもらって直ぐにラピスラズリから弟だと聞いたよ。
マディア、エーデリリィ姉様。
僕の尾の回収に御協力くださり、ありがとうございます】
【僕達は大したことなんてしてませんので。
えっと その、ラピスラズリって……?】
【僕達の弟、マディアにとっては兄かな?
カウベルル様から預かって、僕達が鍛えたんだ。そうだよね?】
同代3龍に確かめた。
【記憶は確からしいな】カーマイン、ニヤリ。
【やっぱりラピスラズリなのね。
でも女の子なのよ?】
ネモフィラが首を傾げる。
【そうよね。
だから声を掛けられなかったのよ】
プレリーフも瑠璃龍を見ながら首を傾げる。
【あの……彼女、ラピスリ姉様は僕の同代なんです。
小さい頃から一緒だったんです】
兄姉達が驚きで目を見開き息を呑む。
【何かあったのね。再誕なのかしら?】
エーデリリィが呟き、瑠璃龍を見た。
【だから今はマディアと一緒に来たくなかったのね……】
【えっ……? あ、再誕って?】
【魂の浄化を経ずに生まれ直すことよ】
【ラピスリ姉様はラピスラズリ兄様……。
だからシアンスタ兄様を知ってたんだ……】
【何があったのかは分からないけれどラピスラズリは命を落とし、父様はラピスリとして再誕させたのね】
【カウベルル様は、ラピスラズリを特別な子だと仰いました。
四獣神を継ぐべく生まれた子なのだと。
神世に災厄が降り掛かる前に継がせなければならないから、急ぎ鍛えてほしいと。
そのラピスラズリが命を落とした。
ラピスリとして再誕させたけれども災厄には間に合わなかった。という事か……】
シアンスタとカーマインも瑠璃龍の背を見詰める。
【マヌルの里に戻るよう、言わなければ良かったのかしら……】
【そんなこと……きっと、言わなくても結果は同じになったと思うわ】
プレリーフがネモフィラを支えるように背を抱いた。
【あの時、僕達の家を出ていなければ軍に連れて行かれたのではないか?
ネモフィラは僕達の家に向かって来ている軍を見てラピスラズリを逃がしたのだろう?
運命という見えぬものが在るのならば、神世が災厄に襲われるのは必然で抗う事は許さぬと示されてしまったのでは?
それでも父様は抗った。
今も抗い続けているのではないか?
僕も一刻も早く加わらなければならないな】
《うん。鍛えるからねぇ》
【その前に絆でしょ♪】
《そうだよなっ♪》
さて、魂の経路が複雑ですよね?
書いたら書いたで複雑怪奇なんですが、一応書いておきます。
軽く流してください。m(_ _)m
大きく分けると、
・新魂ルート
・再生ルート
・堕神ルート
となります。
・新魂ルートは
魂生域で魂の素材を精製して新たな魂を生み出し、再生域に渡すだけです。
再生域では神魂を販売(と言っても金銭で、ではありません)しています。
人世魂は再生神が運んで身体に込めます。
・再生ルートは
①死司が導いた死魂を浄化域で浄魂。
②保魂域で検査(場合に依っては鎮魂)。
③再生域へ。
です。
①では堕神の欠片や想いの欠片が分離され、魂に残る記憶などが消去されます。
②の検査で、隠れて残っている欠片が見つかれば、①に戻すか、鎮魂(保管)して消えるのを待つか、になります。
①で分離された欠片は、保魂域の別の場所に保管されます。
また、②では欠片を取り出して減った分を新魂素材で補填もします。
・堕神ルートでは
①浄化域で記憶等を分離、消去。
②魂生域で身体から切り離して魂化。
③保魂域で鎮魂。
④再生域へ。
⑤人世生物として浄罪。
⑥浄化域で記憶を戻し、神王殿で再審。
⑦再度①、または、魂生域で身体に戻される。
これが本来のルートなのですが、ナターダグラルが⑥⑦をせず、人世魂(人魂・獣魂)と同様に浄魂するように変えたんです。
浄化域で人世魂と同様に浄魂すると無自覚な堕神魂は粉砕されてしまいます。
細かい欠片は人世魂で包んでおけばいずれは吸収されるか、自然消滅します。
それを利用して欠片のまま長期保管し、獣神達を滅してしまおうとしているんです。
なんですが。
劣化した人神の常識なら、それで消滅に至るんでしょうけど、鍛え続けている獣神は違います。
欠片になっても生き続け、巧みに隠れて人世に戻り、自身を集めようと奮闘しているんです。
そんなこんなで人世は堕神の欠片だらけになってしまったんです。




