保魂域へ
再生神姿のラピスリは、かつて働いていた再生域を掠めて抜け、死司域に入ると同時に黒衣に変えた。
【マディア。話したいのだが、よいか?】
【ラピスリ姉様♪ 近くに来てるの?♪】
【再生域から死司域に入った所だ】
【行くよ♪】
マディアはナターダグラルのまま現れ、ラピスリの手を取って瞬移した。
【座って座って~♪】
【あら、いらっしゃい♪】
【此処は……? あ、お邪魔致します】
【ゆっくりしてね♪】
エーデラークはお茶を淹れに行った。
【死司最高司の執務室♪】
ソファーに腰掛け、向かいを示した。
【ま、座ってよ♪】
【そうか。早速だが、ナターダグラルは保魂域に行けるか?】
【急いでそうだね。
行こうと思えば行けるよ♪
最高司って何でもアリだから♪】
【私を伴えるか?】
【何か取りに行きたい、とか?
魂が必要なの? 誰か再生するの?】
【シアンスタ兄様の尾が保管されている】
【【ええっ!?】】
【エーデリリィ姉様もご存知なのですね?】
【名前だけね。あと、青い弟ってだけよ】
【禍の滝でネモフィラ姉様から聞いたんだ。
捜してるって。
姉様たぶん滝から出て、人神の街とかに行ってるんだと思う】
【危険な事を……そうか。
つまり、そういう事か】ふむ、確かに。
【わかっちゃった?
たぶんね、会えたら結婚だと思うよ♪
カーマイン兄様とプレリーフ姉様みたいに♪
ネモフィラ姉様、プレリーフ姉様とも仲いいんだ♪
次は月で会いましょうって約束してた♪】
【それじゃあ、すぐ行くのね?
連絡するわ。視察でいいかしら?】
お茶を置いたエーデラークが離れる。
【ありがとうございます】
【うん。それでお願い♪
ラピスリ姉様は姿変えられる?
ルロザムールになれる?】
【月の神殿で眠っていた男神だな?
イーリスタ様が成っておられた】
【そうそう♪】
【ふむ】ルロザムールに。
【じゃあソレで♪
エーデ、留守番お願いねっ】
【解ったわ】紙を持って出て行った。
【保魂域のどの辺り?】
【堕神にする手前の魂を保管している場所は知っているのか?】
【うん♪
この前の大勢が、昨日その場所に移されたってラナクスから連絡あったんだ。
ちょうどいいから見学させてもらおうね♪】
【浄化が早いな】
【うん♪ 浄化してないからね♪
したフリだけ上手くやってもらったよ♪
ロークスも お偉いさんになってるから♪
僕……みんなと会いたくなくて避けてたんだ。
グレイさんを悪く言われると思い込んでて。
でも職域で頑張ってる みんなは、そんなコト言わなかった。
グレイさんも操られてるんだろ? って。
だから、これからは ちゃんと連絡とるよ。
ちゃんと連携するからねっ】
【そうか。
皆が無事で、マディアが元気で良かった】
【ありがと♪】
【この十日程、毎日オフォクス様にお会いしている。
オフォクス様が月で彼奴を監視する間、父様と共に堕神達を護る為にな】
【父様と? って目覚めたの?】
【完全にとはゆかぬが、開いて頂いた。
父様と共に動けるよう、オフォクス様から様々なお話を伺った。
過去も、未来も、だ。
彼奴が再び災厄を齎す事は確定。
遅らせる事しか能わぬ。
故に備えよ。そう仰った】
【やっぱり そうなんだね……】
【油断せず、此方が有利に動けるよう足場を固めておくより他に無いだろう】
【うん。
だからグレイさんも僕達も、少しずつ変えていってるんだ。
でも人神達が操られてるままだから思うようにはいかないんだけどね。
だから解きたくて、ナターダグラルの家から水晶玉ぜ~んぶ持ち出してマヌルヌヌ様に見て頂いたんだけど、マリュース様の御力だけは見つからないんだ】
【最初に盗んだとしたならば、取り込んでいるのではないか?】
【やっぱり~。
どうしてもソコに行き着くんだよね】
【マディアが言う通り、ダグラナタンとザブダクルは分離せねばならぬな。
支配を使われてしまったならば此の世が終わる】
【そうだね】
ノック音がし、エーデラークが戻った。
「最高司様、ルロザムール様。
保魂域より許可を得ましたので どうぞ」
「ご案内致します」
エーデラークの後ろの若い女神が礼をした。
「わざわざすまないね。ありがとう」
【ラナクスの弟子で僕達の妹のプラムだよ♪
行こっ♪】
―・―*―・―
「ん……? あれれ? この匂い……社?」
彩桜が少し頭を上げて見回した。
「まだ朝じゃねぇから寝てろよな」
「オニキス師匠?」真っ暗に真っ黒~♪
「だよ。安心して寝ろ」
「でもショウのトコ行かなきゃ」
「狐儀が行ったよ。
たまには任せてやれよ。
狐儀もショウと仲良かったんだからな」
「そっか~。
ショウは友達いっぱいだね♪」
「彩桜は?」
「……いない。人の友達いないんだ」
「だから祓い屋になりたいのか?」
「うん。俺……たぶんソッチ側だから」
「ソッチ側? ってナンだよ?」
「違うからイジメられてた側。
モグラさんも、そぉだったんだって。
気持ち悪いって言われてたんだって。
祓い屋さん達そゆヒト多いんだって」
「そっか」
「認めてもらえなくても、友達なってもらえなくても、誰にも知られなくても、ヒトの役に立てるの、幸せだったって。
俺も……そぉ思うんだ。
信じてもらえなくていいから役に立ちたい。
青生兄みたくコッソリ治癒も憧れてるんだ。
だから勉強は頑張るよ。獣医なりたいから」
「そっか。頑張れよ」
「ん……頑張って、とるよ」
「ん? 獣医の免許か?」
「ヒトデ」
「はぁあ?」
寝息しか聞こえない。
「どこから寝言だったんだよっ」
「ヒトデ」
「そーかよっ」
「美味しい?」
「知らねぇよ!」「何を騒いでいるのです?」
「あ、狐儀。もう帰ったのか」
「いけませんか?」
「じゃなくてな、ショウの心配してたんだよ」
彩桜を指す。
「そうですか……」
「で、喋ってたんだが、どっからか寝言だったんだよ」
「彩桜様の寝言は普通に話しているのと同じですからね」くすくす♪
「そーなんだよなぁ」「ヒトデい~っぱい♪」
「ほらな」「そうですね」くすくすくす♪
―・―*―・―
「此方が浄化域から届いたばかりの魂を保管している場所です。
再生神様のお迎えを待つのです。
ですが放置ではなく、強い欠片が紛れていないかを確かめているのです」
漂う魂達の中に、ぽつりぽつりと保魂神の姿が見える。
「こんな夜中にも務めているのですね」
「普段は夜勤の者が数名のみなのですが、今日は多く届きましたので」
「そうですか」ちょっと誤算~。
人神は劣化の為か、それとも獣神とは違うと示したいのか、夜は眠るものと習慣にしている。
「強い欠片を見つけた場合は?」
「浄化域に戻すか……此方に」更に奥へ。
若い保魂神プラムが説明しつつ先導し、ナターダグラルとルロザムールが後に続く。
「此方で対話し、欠片の保管場所に移すか、再浄化するのかを見定めます」
「彼方の結界は?」
「堕神魂の保管場所です」
「入っても?」
「はい。ご案内致します」
【目的地っぽいね♪】
【ああ。見つけている】【もう!?】
【よく知っているからな】
【シアンスタ兄様を?
いつ知り合ったの?】
【随分と前だ。
さて、これだけの目がある中、如何にして近付き、触れるかだな】
結界の中には、これまでの倍程の密度で神が見えている。
勿忘草色の装束の保魂神ばかりの中で、黒装束の高位神は、ただでさえ目立っている。
【何に隠すの?】
【私の内に取り込む】
【えっ?】
【再生の際、連れて行くのが困難な場合は そうするのだ。
獣魂で よくやっていた】
【へぇ~♪】
【死司も同様にしていた筈だが?】
【え? してないんだけど?】
【ダグラナタンが知らぬだけなのか、操られると出来ぬようになるのか……?】
【調べてみるよ】
3代(シアンスタの代)は、
1★シアンスタ(青) ハムスターとリスと保魂
2★カーマイン(紅) 月
3☆プレリーフ(緑) 月
5☆ネモフィラ(空) 滝
の他は今のところ行方不明です。
名の前は生まれ順と★男神/☆女神、後ろ( )内は鱗色です。
シアンスタ達は王都の南西に位置する大都の護りをしていました。
王子達の襲撃を受けた際、途中までは一緒に逃げていたシアンスタとカーマインは盾となって留まり、同代弟妹を逃がしました。
プレリーフとネモフィラは街道の結界を点検しに出ていたので、逃がした弟妹に見つけて一緒に逃げるよう言っていたのですが、会えなかったらしく大都近くまで戻ってしまいました。
シアンスタはカーマインに妹達を託して残り、追手を引き連れて反対方向に飛び、単独で戦ったのです。
禍の滝に直行したカーマインは妹達を残して大都に戻りましたが、シアンスタを見つける事は出来ませんでした。
先に逃がした弟妹達も、それっきり行方不明なんです。
100代(エィムの代)は職域に潜入しています。
指導神
1★エィム(青紫)死司 リグーリ
2★ミュム(白) 再生 ハーリィ
3☆リリム(白) 浄化 ロークス
4☆プラム(赤紫)保魂 ラナクス
5★クァム(深緑)魂生 チャリル
6☆ポポム(橙) 観測
7★テイム(水) 観測
8★シャム(銀) 研究
9★アシム(灰) 研究
10★ホルム(藤) 研究
魂に直接 関わらない観測域と研究域にはアーマルと同代の指導神は居ません。
なので複数で潜入しているんです。
保魂衣の勿忘草色は、落ち着いた感じの水色です。
神世と人世を行き来する死司と再生は遠目でも分かり易く黒衣と白衣。
職務が近い浄化と保魂は青系です。
浄化は薄縹色、淡い青です。
あ、神世の物は人世の物とは異なります。
紙も違うんですよ。
どう違うのかは、ずっと後です。m(_ _)m