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危険なスタリーナ



 竜騎と夕香の魂を取り込み、意識があり安定していると確かめたラピスリは青生を背に乗せてランマーヤへと術移した。

【ハーリィ、何故?】


【リハビリだ。プラムが ようやく飛べるまでに回復したのでな。

 再生最高司補の仕事も世話になっていると聞いた。

 申し訳なさが大きいが、ありがとう】

飛び立って直ぐに二神を見付けた彩桜は話し込んでいたようだ。

【瑠璃姉 行こ~♪】


【今度は何をしに神世へ?】


【今日のところは散歩だな。

 青生と彩桜が身体回収を覚えたのでな】


【そうか。益々神らしく成ったのだな。

 では気を付けて】


【ありがとう。では】ランマーヤを連れて術移。



――ガンガンガツンとアミュラの結界。

【瑠璃姉、神力射トコも術移? いいの?

 竜騎と陽野さん大丈夫?】


【っ!?】

ついつい無謀兄弟のみの気分で術移を繰り返してしまった。

【案ずるな。無事だ】ほ。


【そっか~♪ アミュラ様~♪】


〖見えてるよ。その嬢ちゃんだろ?

 結界壁に出しな〗


【竜騎と陽野さん、大人なったら結婚するの。

 だから一緒でいい?】


〖かまやしないよ〗【うん♪】

いつもながらだが、勝手に話して決めるのは彩桜で、動くのはラピスリ。


〖皆も入ったらいい。

 幾分かはマシだろうからねぇ〗


【うん♪ あ、カーリとカイさんも♪】出した。

【い~っぱい協力ありがとねっ♪】


〖此方こそだ。ありがとう〗

〖そうだよ。イマチェリーありがとう♪〗


〖ふたりは修行に戻りな。

 けど修行の前に休みなよ〗


〖〖ありがとうございます、アミュラ先生〗♪〗

手を振りながら笑顔で降下した。



〖いい経験をしたようだね。

 それじゃあ始めるよ。

 スタリーナ、今なら出られるだろ?〗


【はいっ】

穏やかに照る白に近い白銀の龍女神が浮かんだ。

狐神力の影響か、煌めき靡く髪が美しい。


〖神力を確かめさせてもらうよ。

 ……ふむ。まずは称号を調整しないとねぇ。

 相反する称号なんて、よくも貰えたもんだねぇ。

 嫌がられたんじゃないのかい?〗


【それは……】


〖ドラグーナが居るから言いたくないのかい?

 強くなりたいと焦るのは良くない。

 片方を捨てるなら、どっちだい?〗


【捨てる!? 弱くなってしまいます!】


〖ま~ったく、この子は。

 相反すると言ったろ。

 相殺と言やあ聞こえがいいが、潰し合って弱まってるのも気づいてないのかい。

 さっさと選びな〗


【そんな……】

【スタリーナ様。静寂、残した方が良くない?

 陽活(ようかつ)、押し潰されて悪足掻きしてるみたくなってるから、歪んで変に現れてるよ?】


【え? それは兄様が?】


【ううん。俺の判断。見えちゃったから。

 ドラグーナ様、神耳だけ研ぎ澄まして狸寝修行してるよ。

 俺達にもね、最初は静寂しか見えなかったの。

 ご陽気な静寂って何? って感じ。

 でも違ってた。押し潰されて1コに見えてたの。

 後で入った静寂のが強いから乗っかってるの。

 静寂の大神様、渋々なのも見えたよ。

 陽活、鳳凰神様と勝負して得たんでしょ。

 ちょこっとだけ『うらめしや~』なの。

 だから外そ?】


【でも……】

〖ま~ったく! ドラグーナの器よりも下だってのすら解らないのかい。

 ドラグーナに恋い焦がれて目指してたのは解らないでもないけどねぇ。

 それにしても、やり方が問題だよ。

 静寂にしても亀神から奪ったようなもんだろ。

 守りの亀神に一度も攻撃しなかったから自分の勝ちだと言い張るなんてねぇ。

 その亀神が直後に狩られたなんて知らないんだろ。

 さんざん攻撃を受けた挙げ句に大神称号を与えて神力が尽きかけてたところに、お前さんの攻撃神力を感知した王軍が来ちまったんだよ。

 亀神だって攻撃は出来るんだ。

 けど若い女神相手に攻撃なんてと防御に徹してくれたんだよ。

 独りよがり、自分勝手に強奪したような称号なんだから、とっとと全て手離しちまいな!〗


スタリーナは何も言わず俯いている。


【アミュラ様ぁ、しゅ~んなっちゃったよ?】

拾知情報を与えた彩桜はアミュラだけに話し掛けた。


〖神としての常識すらも無いのなら、このまま萎んじまっていいんだよ。

 基底はドラグーナ同様に高いんだからねぇ。

 こんな考えじゃあ、災厄を起こすのはスタリーナってことになっちまう。

 ドラグーナと戦うことになっちまうからねぇ〗

アミュラはドラグーナに聞かせようと、彩桜と青生だけに伝えた。


【だからドラグーナ様もダメなんだねぇ】


〖そうさねぇ。それも、という状態だけどねぇ〗


【ほえ?】


〖彩桜とランマーヤでも心配したんだが、片方が強すぎると支え合えずに強い側が吸収しちまうんだよ。

 弱い者は強い者の神力になるしか支えになれないんだ。

 神は好き合えば高め合うから、あんまり知られちゃあいないが、結婚の絆は最強だからこそ、そういう縛りもあるんだよ。

 好き嫌い云々以前に、ドラグーナは そんなことしたくないんだよ〗


【そっか。ドラグーナ様、優しいもんねぇ】



 彩桜とアミュラが話している間、竜騎と夕香はスタリーナを説得しようと頑張っていた。

【スタリーナ様、神様は長く生きられるのですから、鍛え直してドラグーナ様に認めてもらえるように頑張るべきですよ。

 きっとドラグーナ様ほどの大神様なら、称号を得た経緯も全て見えているんですよ。

 だからこそ絆を結びたくないと言ったんだと、僕は思います】


【お兄様に近づくのは、とてもとても遠いわ。

 称号も失くなるのなら遥か彼方よ。

 私がオモテになってもいいの?】


【それは……】嫌だと夕香を抱き締めた。


【たくさん修行しなければならないわ。

 だから――】〖まだ勝手言うのかい!〗


一喝したアミュラは物凄い速さで唱えた。

〖気付けと治癒を頼むよ!

 総相殺、総解還分離、魂縛!!〗

夕香から引き出された白光球が、浮かんでいたスタリーナを巻き込みながら、結界壁内に現れた封珠に吸い込まれた。

〖戻れるくらいに回復したら早く人世に……少し眠らせてもらうよ……〗



【竜騎、大丈夫だからね。

 スタリーナ様 抜いた反動で気絶しただけだから、すぐに意識戻るからね】

青生もラピスリもランマーヤも彩桜と共に全神力(ぜんりょく)で強治癒と反転治癒眠を当てていた。

小さな魂片を神力と置き換えるのとは大違いな、大神を丸ごと抜いた反動なので。


【僕にも当てさせて。治癒でいいんだよね?】


【うん♪ めーいっぱいねっ】【うん!】


【青生 彩桜、俺の命の欠片を代わりに】

兄弟から抜け出たドラグーナが合わさり、小さな光球を夕香へと飛ばした。

【それだけあれば神力的には十分だと思うよ】

言いつつも心配そうに治癒を足した。



【ね、彩桜】


【ん? 大丈夫だよ♪】


【うん。それは信じてるよ。

 神様って取り出せるんだね】


【アミュラ様て、すっっごい大神様だから。

 それでも疲れて寝ちゃうくらいの大技だったみたいだねぇ。

 それに……】浮かんだままの封珠を見た。


【スタリーナ様、静かだけど大丈夫なの?】


【うん……陽野さん保護した代わりにスタリーナ様のがダメージ大きかったみたい。

 でも……仕方ないよね。

 あんなの言ったらダメだよ】


【スタリーナ様がオモテになったら?】


【竜騎、馬なったの覚えてる?】


【うん。少しだけ――って、もしかして!】


【龍なっちゃうのは確定。

 陽野さん、修行 始めたてだから……たぶん、大神様なスタリーナ様に取り込まれちゃう。

 消えちゃうの。だからアミュラ様 怒ったの。

 強引 大技だけど、やりそぉ危険だったから切り離したの】


【そう……】

伸ばしかけた手は躊躇った挙げ句、引っ込めた。


【抱き締めて大丈夫だよ。

 今は魂だけなんだし、心は もぉ結婚してるんでしょ?】


【恥ずかしいんだけど……】


【治癒 纏って、ね♪】

引き寄せられたランマーヤは紗に。

微笑み合うと互いに ぴとっと くっついた。

【俺達も結婚してるから~♪】【ね~♪】


【紗ちゃん、小学生だよね?】


【でも龍神様だから~♪】【ね~♪】


【そ、それ、じゃあ】

治癒光を纏って支える形で抱き寄せた。

【彩桜は紗ちゃんに乗ってたんだね】


【うん♪ 青生兄は瑠璃姉に乗って来たの~♪】


【それは取り込んで運んでもらったから。

 そっか。神様だったんだね……】


【ビックリ? 狐松先生も狐神様だよ?】


【あ、そうだったね。紫マーズの慎也さんも。

 ジョーヌ教授も龍神様だし】


【うんうん♪ 慎也さんしてるの理俱師匠♪

 狐松先生の狐儀師匠の弟さんなの~♪】


【お社に居る神様だけじゃないんだね】


【人してる神様も多いの~♪】


【災厄に備える為?】


【今は そぉだけど――】

「んっ……」「夕香ちゃん!」

【大丈夫♪ 目覚めただけだよ♪】


「えっと、私……あっ、スタリーナ様は?」


「とっても危険なコトしそぉなったから封じられちゃったけど元気みたい~♪」


彩桜が指した方を見ると、浮かんでいる珠が揺れていた。


「消音されてるから静かだけど、たぶん大騒ぎ♪

 だから元気♪

 アミュラ様にお任せして帰ろ♪」

「うん、帰ろうよ。

 夕香ちゃんにはドラグーナ様が神力を分けてくれたから、スタリーナ様とは離れるべきだよ」

「うんうん。ちゃんと眠ってドラグーナ様の神力を落ち着けないとね。

 双子神力だから相性バッチリだと思うよ♪」


「そう……スタリーナ様、かわいそう……」


「でもねぇ」「スタリーナ様は――」

【その話ダメ。俺に任せて】


「スタリーナ様は、何?」


「修行し直さないとダメなの。

 ドラグーナ様のが ずーーーーっと強いから結婚なんてしたらアンバランス過ぎてドラグーナ様に吸収されちゃうの。

 だからアミュラ様トコで修行しなきゃなの。

 此処、神様が長居できないトコなの。

 ほら、すっごい吹雪でしょ。

 だからスタリーナ様は保護してもらって修行なの。

 瑠璃姉とランちゃん、もぉ帰らないと帰れなくなっちゃうの」

せっせと『修行』だと繰り返した。


「そうなのね。

 あ、本当に紗ちゃんが居――どうして?」


「説明は帰りながらねっ♪

 ランちゃん帰ろ~♪」「うん♪」

龍になり、彩桜が乗る。


「紗ちゃんて……」「人世に帰るぞ」

さっさと取り込んで出発した。



―・―*―・―



〖ウケモチの為にと成していた『静寂の女神』の称号は龍の女神に与えてしまったのだ。

 再び成すには私の神力を高めねばならぬ。

 故に何も持ち合わせていないのだが……私との結婚を考えてはくれまいか?〗


【何もなくても……私は神亀(しんき)様をお慕いしておりますので……どうか末永く、お願いいたします】


〖しかし私もウケモチも亀。

 結納をするのが亀の しきたりだ。

 何かを贈らねば私の気が収まらぬ〗


【神亀様が生きていてくださったこと。

 またこうして お話し叶ったこと。

 それだけで私には十分な結納です。

 ですが何にしても、まずは修行です♪

 明日からは私の修行場に、共に参りましょう♪】


〖ふむ。確かに先ずは修行だな。

 ならば共に。末永く共にな〗


【はい♪】







亀神様の『結納』は、結婚(の絆)を申し込む側から贈り物を納める儀式で、プロポーズに指輪とかを贈るのに似ています。

というか地星では、この亀神様の儀式を模して人も結納をし始めたようです。


スタリーナ様の方は……まだ何か起こしそうですよね。

災厄を起こすのはオーロザウラなのかスタリーナなのか。

ドラグーナ様、困りきってそうですよね。



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