無謀に無謀が相乗効果
【では魂身分離を行います。
蛟喜さんは そのままで。
空間を拡げます】
部屋が拡がったと言うより、何も無い光っている霧の中のような空間に移動したかのようだった。
ベッドの足側には青光で描かれた魔法円。
横たわっている知世理と向かい合う位置に青生、ベッドの裏側、背面に彩桜が立った。
【重力無視かぁ?】【紗ちゃんは?】
ベッドを立てていると見ればよい形だ。
白久と黒瑯が首をコテッと倒して確かめている。
【ランちゃんは瑠璃姉トコ行ったよ。
白久兄 黒瑯兄、重力 感じる?
思い込みに囚われてにゃい?】
【は?】【へ?】
そこまで言うならと青生と彩桜に合わせて90°回転。
【立てたな……】【なぁ。あ、紅火も居た】
ベッドの向こう側に、ちょうどベッドに隠れて立っていた。
藤慈も来て、すんなり同じ向きに立つ。
【もしかして彩桜は、この感覚利用して壁やら天井やらを走ってたのかぁ?】
【うんっ♪】
【前に紅火も走ってたよな。彩桜と鬼ごっこ】
【む】
【納得しましたか? 始めたいんですけど?】
【六角形?】【兄貴は無理だからな】囲む。
【ナンで?】【リュニロゥ様トコだからだよ】
【そっか。目覚めたんだな?】【だよ】
既に青生の詠唱は始まっており、彩桜が上ハモっていた。
紅火と藤慈は神笛を奏でている。
【バランスが悪い】【早く集中してくださいね】
向かいの紅火は睨んでおり、藤慈は困り視線を向けていた。
【合わせるぞ】【雅楽っぽいな】
彩桜から曲の情報が飛んできた。
【【ありがとな♪】】
―・―*―・―
【ラピスリ叔母様♪】
【何かあったのか?】
【悪神の欠片については青生様とサクラお兄ちゃんが何やら掴んだようです。
でも……話せないみたいですね】
【ふむ。あの強い拾知だ。
黙って従うより他には無いだろう。
あの無謀兄弟、今日は何をしている?】
【なんだか……超越者様の妨害? そんな言葉が掠めて消えたのですが、雑多な事に振り回されているようです。
リュニロゥ様もお目覚めで、リュニヴェ様とお話しなさっていますが、青生様とサクラお兄ちゃんは行けていないのです。
レストランの黒蛇さんのお母様が危篤で、輝竜家に運ぶのに常陸での手続きやらを諸々。
今は魂身分離をしています。
金錦様がお社に居られますので、南米の方々の案内はサクラお兄ちゃんがサーロン様と。
青生様の方は手術が必要な急患が続いて、梅華様が診察をなさっておられました。
梅華様が応援を呼びましょうかと声を掛けられましたら、青生様は今日は神世には行かないから大丈夫だとお答えになりました。
すると急患はピタリと止んだのです。
他には雑誌の取材とアニメ製作のお話。
それは白久様が対応してくださいましたよ。
サクラお兄ちゃんは分身に行かせていましたけど。
あと、心太さんもいらして。
神世に行きたくても行けない状態を作られてしまっているのです】
【ふむ。つまり二人が行き着いた結論が正解だと、超越者とやらから行動を起こさぬよう縛られているのだな。
それ程に災厄が迫っている、か。
人世に行こう】机上を片付けた。
【はい♪】
―・―*―・―
〈本当に自由なのねぇ〉ふわふわ飛んでいる。
〈母も一緒に住まわせていただいてもよろしいのですか?〉
〈トーゼンだろ♪ この部屋、仕切るか?〉
〈いえ、このままで!〉〈そうですねぇ〉
〈軽く襖くらいあった方がいいだろ。
紅火、頼む〉〈む〉瞬間的に三分割。
〈わ……〉〈あっという間なのねぇ〉あらあら♪
〈俺の部屋みたい~♪
それぞれの個室と共有スペースねっ♪〉
〈具現環だ。使えるよう、頼む〉
〈はい!〉自分の時と同じく霊体を抜き取った。
〈母さん、腕輪だよ。使い方は教えるからね〉
兄弟と黒蛇母子が話しているのとは少し離れて、青生はウケモチに保護珠を渡し、中のタートシンキの眠りを解いていた。
置き換え分離した際に眠ってしまうのは よくある事なので。
【では、ごゆっくりお話しをどうぞ。
結婚の絆もお任せくださいね】
【あのっ!】〖そうだな〗【えっ!?】
〖嫌なのか?〗【いいえ、いいえっ!】
タートシンキの返事にも驚いているが、目覚めの早さにも驚いている。
〖私の神力が高まって後となるが、宜しく頼む〗
【はい。魂頭部の方も急ぎますので】
〖そうか。眠っておるのだな。
近いとは分かるが反応せぬな〗
【はい。人神のみの術に縛られているんです。
ですが今は協力してくださる人神様も多くなりましたので、もうそんなにもはお待たせしないと思います】
〖すまぬが宜しく頼む。
あの母子、器達は私が離れても保てるのか?〗
【ええ、大丈夫です。
タートシンキ様の神力の写しと、俺達の内のドラグーナ様の命の欠片で霊体は保てますよ】
〖そうか。この、私を支える神力も、その龍の大神様のものなのだな。
ありがとうございます、ドラグーナ様〗
【そんな御大層な。ほんの少しですので】
それに実行したのは彩桜(真核)の自分だとでも言いた気に、青い頭は すぐに引っ込んだ。
【また恥ずかしがって隠れてしまいました】
〖謙虚で強い、優しい大神様だな。
あまり居座ると大神様が出られまい。
ならば、そろそろ。ウケモチ、少し話そう〗
【はい♪ では失礼いたします。
ありがとうございました】
ウケモチは保護珠をしっかり抱いて瞬移した。
【ねぇねぇ青生兄♪
ウケモチ様とタートシンキ様、相思相愛だよね♪
でも、どっちも片想いしてた?
これから告白なのかにゃ?
あ♪ だからノワールドラコ、お社代わりしてたのかにゃ?】
【そうなんだろうね。
俺達には黒蛇さんの小さな欠片が どんな神様なのか見えなかったけど、ウケモチ様には見えていたんだよ。
だから近くでお護りしたくて――】
【ウケモチ様、居なくなっちまうのか!?】
【――明日、確かめてみたら?】
【うわ……】【ま、仕方ねぇだろ。頑張れよ♪】
【ったく白久兄は~】
【それよか青生、瑠璃サンが待ってるぞ♪
彩桜も。紗チャンと一緒に神世に行くんだろ?】
【はい。ですからリュニロゥ様の方はお願いします】
【おう♪ もっともっと兄弟を頼れよ♪
そんじゃあ行ってこい♪】
【はい♪】【うんっ♪】手繋ぎ瞬移♪
【お~い黒瑯、行ったっキリか? 黒蛇は?】
【ほら黒瑯も♪ 相棒が呼んでるぞ♪
そもそもリーロンと2人だけでやるつもりだったんだろ?
早く行けよなっ♪】背中バシッ。
【ったく馬鹿力だよなぁ】瞬移。
【さてと、俺達は――ん? 紅火は?】
【先にお社に行きましたよ】
【お~い♪ キリュウの誰か♪
迎えに来てくれ♪】ご陽気な独語。
【今度はメーアかよ。ったく!】
【私が行きますね♪】瞬移。
すぐに藤慈は戻った。
【では、お先に行きますね♪】社へ瞬移。
【メーア、コッチ来い】連れて自室へ瞬移。
――白久の部屋。
「使うのはいいが、メンバーは?」
「今回は俺だけだ♪
ソーカイのサポートとして打ち合わせに参加するんだからな♪」
「打ち合わせ? 何処で? 誰と?」
「スタジオ借りるぞ♪
ジュークの担当も、ソーカイのメンバーもキリュウの家なら知ってるからな♪」
「ったく勝手な~。ま、いいけどな」
「そんじゃあ時差ボケ解消させてもらうぞ♪
邦和式の風呂は最高だからな♪」
笑いながら風呂に向かった。
「ビールも貰うぞ♪」
「だああっ! 一緒に行くからっ!」
―◦―
【明日の妨害、メーアなの?】
【そうかもね】くすっ♪
【ねぇねぇ瑠璃姉、どしてお社?
お部屋に忘れ物?】
瑠璃の部屋に向かっているので。
【その二人は初めてなのだからな。
身体を保管する為の保護珠は緊急用。
それを普段使いするのは無謀兄弟くらいのものだ】
戸を開けると飛鳥とユーロンが瞑想していた。
【あれれ? あ、そっか。もぉ大丈夫?】
悪神の落としっ屁な禍を浴びたので。
以降、飛鳥の存在は桜華の分身が維持している。
【【うん♪】】
【そっか♪ あ♪ カイさん出て出て~♪】
〖今度は何事だ? ん? その子ユーレイ……〗
彩桜が後押ししたので出てしまい、ユーロンを見て首を傾げた。
【そのオジサン……まっくろオニさん?
でも、ちがう?】
【鬼じゃなくて神様なんだよ。
ユーロンも黒いモヤモヤに襲われて苦しかったよね?
カイさんも黒いモヤモヤに包まれてたんだ。
悪いヤツに襲われてすぐだったんだよ。
だからほら、もぉ黒くないでしょ♪】
【うん♪ またボク、まちがっちゃった?
カイさんゴメンナサイ!】
【ボク達が禍に襲われた時、サクラお兄ちゃんと一緒に戦ってくれましたよね?】
見てはいないが、そういう事に。
【うんうん♪ 正義の神様だから~♪】〖おい〗
【【カイさんカッコイイ~♪】】〖いや、その〗
【カッコイイよね♪】〖恥ずかしいのだが……〗
【彩桜、遊んでおらず分離するぞ】
【ねぇねぇ瑠璃姉。俺達、神魂なんでしょ?
瑠璃姉みたくできないの?】
【は?】【あ♪ 身体回収ねっ♪】
飛鳥がサッと彩桜と手を繋いだ。
彩桜は青生と手を繋ぐ。
【サファーナ……】【ん? できるよね?】
連れて部屋の隅へ。
【あの無謀兄弟には教えるつもりが無かったのだっ】
【どうして?】
【自力で神世に行ってしまうだろっ】
【神力射に狙われない服も持ってるのに?】
【だからこそだ!】【でっきた~♪】
瑠璃がチラリと見てガックリ。
【これも時流か……】諦め溜め息。
【怒って悪かった。すまぬ】
【瑠璃、早く行こうよ】
神と同じく身体を回収しただけでなく、竜騎と夕香の分離も終えて、身体を強めの浄治癒で包んでいた。
【もう取り込んでもらわなくてもいいんだよね?】
再生神の白衣も纏っている。
【……そうだな。ん? 彩桜は?】
【ランマーヤ様に乗って行ったよ】
【無謀に無謀が相乗効果……】頭を抱えた。
【サファーナ様、二人の身体とユーロンをお願いしますね】
【うん♪ やっぱり青生先生すっご~い♪
サクラお兄ちゃんが行ったってことは、カイさんも行っちゃった?】
【うん。だからアフターフォローをお願いね】
【そっか。ユーロンのゴメンナサイのね。
お任せください♪】
【子供は間違いや失敗を繰り返して成長するんだからね】
【さっきのボクも失敗?】
【そんな事はないよ。ね、瑠璃?】 【ふむ】
【少なくとも俺と彩桜は感謝しているからね】
【うん♪】
超越者とやらから人世に縛られているのは青生と彩桜だけではないようです。
輝竜兄弟皆が縛られていて、特に白久は双璧で何でもアリなので強く縛られているようですね。
このまま彩桜達は災厄が起こるまでザブダクルには会えないのでしょうか?
神世で途中になっている事も?
あれこれと中途半端ですが、時の流れは止まってはくれません。
可能な限り対処しようと頑張る輝竜兄弟です。




