バタバタの原因
有兎のインタビューは続いていた。
「キリュウ兄弟と最初に登場したマーズの7人が似ているのは納得しました。
もしもよろしければ、ですが……誤解と騒ぎの原因になった年末と年始のドイツでのコンサートの謎について、お話しいただけますでしょうか?」
「「謎?」」
「はい。今もなお囁かれ続けているんです。
『だから同一だ』と。
年末、オッテンバッハ記念ホールの杮落とし前の設備試験コンサートにキリュウ兄弟が出演されましたよね?」
「はい。設備の最終確認でしたから観客はオッテンバッハ社の社員とそのご家族のみのコンサートで、杮落としコンサートをするフリューゲルにも配慮して極秘でしたけど。
ま、それでも話が出歩いて走り回るのが今の世の中ですよねぇ」
「つまり、年始にはキリュウ兄弟を呼んだのに忍者が出てきた、ってのが引っ掛かってるんですよね?」
「そうです! そこが『謎』として、ひそひそ話が続いているんです!」
「確かに年始は俺達マーズが行った。
オッテンバッハ社長に呼ばれたのはキリュウ兄弟だったけどな。
キリュウは前日、夜遅くまでイタリーに居たんだ。
アンコールに応えまくるのは俺達も同じだから、コイツらに言えたモンじゃないけどな。だから遅くなった」
「で、フリューゲルとのリハーサルに間に合わなくなったんだ。
初顔合わせだから打ち合わせも必要なのにだ。
どうにもならないから忍者に代わりを頼んだんだ。
コイツらなら忍者移動でシュシュッと間に合わせられるからな♪」
「到着する迄の打ち合わせとリハーサルの代理だけを頼まれたんだけどなぁ、フリューゲルに気に入られちまったんだよなぁ。
リハ途中でキリュウは到着したんだが、その日は裏方になってくれたんだよ」
「休みたかったからな♪」
「ったく~。
フリューゲル城には一緒に行ったけどな♪」
「だよな♪ だからフリューゲル城でのレコーディングのメイキング映像には俺達兄弟も写っちまってるんだ。
あれだけ顔隠しゃあ性別男くらいしか判別できねぇからってな♪」
「だよな♪
で、フリューゲルはキリュウも気に入った。
音の面ではコイツらのがダンゼン上だからな」
「パフォーマンスで目を喜ばせるマーズのがトータル上だろーがよ♪」
「やっぱ真剣音楽なんだからキリュウが上だ♪
けどコイツらのメインはクラシックだ。
だからロックなフリューゲルとは俺達マーズが組んだんだ。
それでもキリュウとも一緒にやりたいと、メーアが しょっちゅう邦和に来るから『withキリュウ兄弟』もアリにしたんだ」
「そういう経緯で……ありがとうございます♪
考え方、、ポリシーが似ているのは、そもそも そこで意気投合したから。
奏法などが似ているのは一緒に高め合ってきたから。
年始はキリュウさんが呼ばれたけれども、スケジュール的な問題でマーズさんが代打出演した、と……」
録音もしているが、せっせと書き込み書き込み。
「ありがとうございました!♪」
―◦―
彩桜とサーロンはピエーリ・カルーロ兄弟とも仲良くなって夕食も共にして、各々の家に帰った。
【あれれ? 青生兄リュニロゥ様いいの?
白久兄は?】
【来客だから代わりにね。
まだ黒蛇さんの帰りを待っているんだ。
リュニロゥ様は金錦兄さんにお願いしたよ】
【俺も治癒する~】
【心太君が居間で待っているから先に行ってあげてね】
【ん……寝ちゃいそぉだから先だねぇ】
「心太さん♪ いらっしゃ~い♪
俺たっだいま~♪」
「やっと彩桜だぁ」
「バイト、クビなった?」
「ナンだよ。その挨拶はナイだろ」
「だって中途半端な日にち~」
「心咲姉ちゃんの結婚式に間に合うよーに来たんだよ!
俺、んな服なんか持ってねぇんだよ。
ここ来たら誰かのが合うと思ってな」
「そっか~♪」【彩桜】【ん♪】
「ちょっと待っててね~♪」走った。
すぐに戻った。
「はい♪ 着てみてみて~♪」
「スーツ!? ネクタイもムリ!」
「ナニ着てくつもりだったの?
俺の部屋で着せてあげる~♪」
「うわ! 引っ張るなっ!」「引っ張る~♪」
そしてササッと出来上がり。「どぉ?」
「ど、どうって……動いていいのか?」
「直立不動のまま結婚式場 行くの?」
「あ~、、だな」ギクシャクカクカク。
「ロボット~♪」「うっせー!」「俺も着る~♪」
自分エリアに入ったと思ったらスーツで出て来た。
「動く~♪ パルクールしても大丈夫♪」
ピョンピョンくるくる跳んだり跳ねたり壁も走る。
「うわ……スーツって、んな自由服なのか……?」
「紅火兄作だから~♪」
「そっか。
うん、フツーに動けるな♪」「でしょ♪」
「なぁ、当日も――」「着せてあげる~♪」
「ありがとなっ♪」「まっかせて~♪」るんっ♪
【お~い彩桜、帰ってるんなら桜マーズで来てくれ】
【青生兄の部屋?】【だよ】【ん♪】
「お疲れ心太さんは早寝してね~♪」
「どーやって脱ぐんだよ!」
「まっかせて~♪ このままお風呂?」
「恥ずいだろ! 廊下で誰か会うだろーがっ!
だあーーっ! ソッチは自分で着るからっ」
―◦―
「桜マーズ参上♪」「俺も来た~♪」
【どっちが本体だぁ?】【どっちも分身~♪】
【はあ?】【知世理さんに治癒してるの~】
【そっか。頼む】【うんっ♪】
―◦―
無兎からの話を聞くだけなら分身で十分だと、彩桜は青生と一緒に居る。
【紅火兄の結界に青生兄の相殺消音?】
【どうしても人が多くて騒がしいからね】
【そっか。外のを消音してるんだ。
黒蛇さん遅いねぇ】
【繁盛しているから仕方ないよ】
【今日は神世は?】
【行きたいんだけどね、諦めているよ】
【いろいろ い~っぱいなっちゃったもんねぇ。
竜騎と陽野さん、待機してくれてるのにねぇ】
【それもあったね】
【青生兄、何しに行きたかったの?
他の森探し? ザブさんの様子見?】
【それも、両方ね。
どうにも敵神が気になるからね。
それに瑠璃の手伝いにも行きたくてね。
ハーリィ様は もう少しお休みだからね】
【そっかぁ。
ホントいろいろ い~っぱいだよねぇ。
他に悪神の欠片 見つかんないから俺もザブさん見てなきゃダメ思うのぉ。
あ! もしかして喋る【真核】!
……拾知、震えにゃいねぇ。でも……】
【うん。震えようとして押さえつけられた?】
【うんうん。これって……】
超越者の妨害。
【だと思うよ】【あ~あ~あぁ】
同時に至った答えに、顔を見合わせて溜め息。
【ねぇねぇ、俺、悪神はルサンティーナ様と ちゃんとな結婚の絆、結べてない思うの】
【うん、震えたね。試したんだよね?】
瞬き肯定。
【さっき心太さんとジョーヌ師匠の結婚式のお話ししてて そぉ思ったの~♪
第9伯爵家の皆さんのもニセ絆ばっかりで、支配核にしか結べてなかったんだもん】
【そうだね。きっと同じだね。
悪神には結婚の絆なんて強いものは結べないだろうからね】
【うんうん♪ また震えた~♪
他のコトならいいみたいだね♪】
つまり、ザブダクルの真核にオーロザウラが潜んでいるのは確定だとは思ったが、青生も彩桜も言葉にはしなかった。
【なら死司域に近寄らなければいいのかな?】
【そぉみたいだねぇ。
神王殿の食事会も終わりなっちゃったし、ザブさんに会えないねぇ】
【そうだね。
それが時流の意志、決定事項なんだろうね】
【超越者さんは時流さん?】
【微妙な震えだったね。
時流様も超越者様の中にいらっしゃるのかな?】
【あ~、メンバーさんなんだ~。
ザブさんに近寄っちゃダメ。
だから妨害いっぱい?
でも~、それだけだったら黒蛇さん戻ったらアミュラ様トコ行く?】
【そうしよう。瑠璃は再生域だから紗ちゃんにお願いしてもらえるかな?】
【ん♪】【お~い彩桜、昼のは何だったんだ?】
【黒瑯兄だ~♪
えっとねぇ、黒蛇さんの母ちゃん危篤なのぉ】
【ソレ早く言えよな! 黒蛇! 急いで帰れ!】
【常陸じゃなくてウチ!】【部屋に帰れっ!!】
何やら叫び合っているらしい。
【もーいいから! 連れてくぞ!】【うんっ!】
黒蛇を連れた黒瑯が瞬移して来、続いてウケモチが現れた。
【あれれ? ウケモチ様どした――あ! 亀さん!】
【彩桜、今ソレどこじゃねーだろ】
【黒蛇さんの神様! 蛇亀様なのっ!
知世理さんのが大っき欠片なの!
お手伝いしてもらって知世理さん目覚めさせて、お話ししてもらわなきゃなの!】
【お~い興奮するな~】白久も来た。
【兄さん、香田さん達は?】
【晩メシ中だ♪
姉さんの方は沙南チャンの部屋に泊まって、弟は斜め前の空き部屋だ♪
桜マーズの分身ワラワラ声真似バッチリに感動して居座っちまったんだよな♪】
【銀色蛇亀様お目覚め~♪ タートシンキ様♪
器さんの意識、目覚めさせてく~ださい♪】
【神亀様っ、ウケモチでございます!
お支え致しますので、お願い致します!】
〖ウケモチか……ならば……この、人の女性だな?〗
【【はい!】あっ、兄貴達、神笛!】
【そっか、音色で支えるんだな?】【うん!】
神笛の音色は神力に直結する。
紗も来て一緒に奏で、結界内を優しさで満たした。
〈蛟喜……〉
母が伸ばした手を息子が確りと握った。
〈母さん、僕に話したいことって?〉
〈この話し方も知っていたんだねぇ〉
〈うん。ユーレイだからね〉
〈生きてるうちに、この力や、生き方を伝えないとと思ってたのに……もう生きてなかったなんてねぇ……〉
〈交通事故でね。ごめんね〉
【白久先生、青生先生。認知症は?】
【今は身体には縛られていません。
ですから認知症にも縛られていませんよ】
【ありがとうございます!】
〈母さんもユーレイにならない?
今みたいに認知症から解放されるよ〉
〈そうしようかねぇ。
認知症だけじゃなく、もう動けないからねぇ〉
〈一緒にユーレイとして生きようよ。
母さんは僕が死んだと思ってるみたいだけど、僕は身体から離れただけで、生きてるんだよ〉
〈それじゃあ……蛇と亀の神様、お医者先生方、よろしくお願いしますねぇ……〉
〈母さん? 母さん!〉
〖意識が沈んだだけだ。
身体から離れる準備なだけ。案ずるな。
では私も音神の皆様に委ねよう。
ウケモチ、話は後でな〗【はいっ!】
【では魂身分離を行います】
超越者の妨害。
それがバタバタの原因でもあったようです。
ウケモチ様とタートシンキ様、仲良しさんみたいですね。




