サイの魂内、紗の魂内
前夜、彩桜が青生と瑠璃に連れられて神世に行った直後に、怨霊だと呼ばれて離れていたサイオンジが戻った。
【キツネ殿よぉ、オイラが尋ねようとしたら呼ばれちまって声掛けただけになっちまったが、今いいかぁよ?】
【構わぬが難儀な相手であったのか?】
【いんや。弟子が多いからよぉ、1人1人 修行の進み具合をちぃと見ただけで数時間だぁよ】
【然うか】フッ。【して、何だ?】
【マリュース様たぁモグラの神様だろ?
なんでかなぁ、その名が出るたぁんびにオイラの内がザワザワするんだぁよ。
見てくんねぇかぁ?】
【ふむ。フィアラグーナ様は?】
【よ~お眠っておられるよぉ】〖サイ!〗
【おんやぁ、お目覚めなさったよぉ♪】
〖ナンで俺が猫の手なんか持ってるんだよ!〗
【原因はソイツかぁ。
ちぃと落ち着いて待ってくんなぁよ】
〖早くしろよな!〗
【ふむ。見えた。
確かにマリュースの魂塊、右手だ。
魂尾も見える。
何れもフィアラグーナ様が掴んでおられる人魂の内だ。
これから人として生まれようとしていた魂を保護したのであろうな】
【そんじゃあフィアラグーナ様がオイラになる前に助け出してたって事かぁよ?】
【然うだな。『掴む』と表現したが、サイの内に居られるフィアラグーナ様が魂腹部に取り込んでおり、サイも含め他者には易々とは見えぬようになっておる。
サイの魂が膨れ上がる事も無いが故に、此迄 全く見えておらなかった。
すまぬな】
【そりゃあ仕方の無ぇこったぁよ。
ありがとよぉ。
そぉかぁ、モグラと同じ神様がオイラにもいらっしゃるかぁ。
嬉しいこったなぁよ♪】〖プラティーナ!?〗
【おんやぁ? また どうなすったよぉ?】
〖妻の欠片だ! サイが集めてくれたのか!?〗
【い~や。オイラは知らねぇよぉ。
アリアナティ様から頂いた欠片じゃあねぇのかぁよ?】
何やらゴソゴソ。〖それは持っている!〗
【ふむ。どうやらサイの魂には、そもそもプラティーナ様の欠片が入っており、マリュースを掴んだフィアラグーナ様を引き寄せたようだな。
フィアラグーナ様はサイが生まれ出でた後に入られたようだ】
【い~い奥様だぁな♪】〖それは当然だ!♪〗
【フィアラグーナ様、欠片を合わせましょう】
〖やってくれるか♪ 頼む!♪〗
【では――】
探りまくりで疲れているが、詠唱を始めたオフォクスだった。
―◦―
【青生? 起きているのだろう?】
【うん。
もっと寝ていろと言われそうだったから静かに義兄様と話していたんだよ】
【私の兄と?】
【うん。ラナキュラス様】
【は?】〖初代の兄だな。双子だと聞いている〗
【『当たり』だそうです、ラピスラズリ様】
〖優しくて思慮深い方だと聞いている〗
【『恥ずかしいからヤメて』だそうです】くすっ♪
〖ふむ。確かに父様から聞いた通りのラナキュラス兄様だな〗
【青生、その父様は、今は?】
【眠り修行中だよ。なんだかお疲れみたいだね】
【青生から離れてオニキスと話していた為か?
いや……彩桜の言う『狸寝修行』だな。
父様、説明から逃げるのは――】【うん……】
【――何を見つけたのです?】
【うん……まだ可能性程度なんだ。
だから調べたかったんだよ。
青生と彩桜が まだ連動している原因がラナンとソニアじゃないかと思ってね。
俺が最初に生んだ双子だから試した部分が多いんだよね】
【それで、何故ラナキュラス兄様の声が?
青生の魂内に欠片が入っているのですか?】
【うん。でも堕神魂片としてじゃなく、命の欠片としてラナンが成したものを、俺を包んでいた封印結界を割る為の楔としてオフォクスが打ち込んでいたんだよ。
これは兄弟全てでね、初代の子達の魂片楔が一斉に目覚めて、先日 神王殿の子達を目覚めさせていたから話し始めたんだよ。
たぶんね、魂片を運んだタイガルル様を助けたのが きっかけになったんだと思うんだよね。
獣神狩りが激しくなった中、大切に保護して命懸けで運んでくださったんだから】
【では、タイガルル様は雲間でダグラナタンと遭った時には職神をしていなかったのですね?】
【そうなるね。でも俺達の身体を捜し続けてくださっていたんだろうね】
【そうですか。
ではオフォクス父様には父様を封じている結界が見えていたのですね?
青生と父様は別だと知っていたのですね?】
【それは……兄弟の方が先だけど、この前 見えたランマーヤと同じく思っていたんじゃないかなぁ?】
【そうか……それならば……】
【うん。あ、彩桜が目覚めたようだよ】
【様子を見ます】
―◦―
【お稲荷様ぁ、ランちゃん起きないのぉ】
【ドラグーナ達は?】
【お疲れで寝てるのぉ。ホント寝なのぉ】
【ふむ……】
サイオンジを連れて現れ、紗に治癒を当てる。
【どぉなってるのぉ?
俺、やり過ぎちゃった?
コレ、ホントに結婚の絆?】
【其れは……】
〖なぁオフォクス様よぉ、キチンと説明してやってくれよ。
父様もアーマルも黙って寝ちまったんだよ〗
意思塊ウンディも合わさって落ち着いたようだ。
【ふむ……】〖結婚じゃなくて虹紲だよね?〗
【ほえ?】〖お~い誰だぁ?〗
【ウンディ、初代の兄ソニアールスだ】
〖初代!?〗〖当たりです♪〗
【ねぇ、どして虹紲なのぉ?】
【順に話す故――】【俺も聞きたいので】来た。
【青生兄 瑠璃姉、ランちゃん助けてなのぉ】
【うん。治癒しながら聞くからね】【同じくだ】
【ありがとなのぉ。
俺、絆トキ眠らされたのもソレなの?】
【俺まで眠らせましたよね】
【私には説明不十分でした】
青ドラグーナと桜ドラグーナが出て合わさった。
【彩桜 青生、ラピスリも怒らないであげてね。
ダグラナタンが変えるまでは堕神魂が そのまま人魂の代わりに込められていたんだからね。
つい最近まで誰しもが そのままだと信じていたんだからね】
【そうでしたね】【有難うドラグーナ】
『それで?』な視線がオフォクスに集まる。
【儂も堕神魂を人魂で包んでおり、神格と人格として別な存在だと知る迄は、輝竜の兄弟をドラグーナそのものだと信じておった。
故に探りも、神眼すらも全く向けておらなかったのだ。
ただ、表面と深部とは封印結界で隔てられておるのは見えており、ドラグーナとしての記憶や神力が内側に封じられておるのだと信じて疑わなかった。
その封印結界に、預かっておった初代の子等の命の欠片を楔として打ち込んだのも、記憶と神力を取り戻させたいが為、其れのみであったのだ。
然うではなく、現状の堕神は人世魂で包まれておると証明したのは彩桜達だ。
ドラグーナも、ドラグーナの子等も次々と目覚め、確かな事実だと認識して未だ1年に満たない。
ウンディと云う例外は居るが、ドラグーナと輝竜の兄弟だけでなく、アーマルと飛翔、ウィスタリアと犬、ジョーヌとフェレットと、この方法が今の堕神の成し方なのだと常識というものを改めさせられた。
以降は紗も同様なのだと信じ、最近では人神魂で成された彩桜と人魂である紗との絆を成すべく方法を模索しておったのだ。
そして紗にも魂核を成し、彩桜の魂核と結ぶ方法に至ったのだが……】
【それでランちゃんを先に眠らせたんだよね?】
【然うだ。紗の魂を調べていくと、アーマルとラピスリの封印を解けば、確かに最外は人魂であったが、極めて薄く、全体の1割にも満たぬ状態であったのだ。
その内には亀裂程度の小さな隙間を開けた強固な封印が幾重にも在り、ランマーヤが丸ごと圧し固められた状態で入っておったのだ。
つまり紗はランマーヤそのものに極めて近い存在なのだ。
しかし正確にはランマーヤではない。
此迄の紗としての記憶は表層の人魂に在る。
例えるならば眠っておる時の彩桜の如きだ】
【彩桜の寝言や、眠っていて無意識状態でも的確に神力を発動できるのと同じなんですね?】
【然うだ。表層の人魂には意思は無い。
ただ封印を通り抜けられなかった人としての記憶が蓄積しておるのみだ。
其程に少ない人魂を生かし得たのはランマーヤが大神であった事、子神であるが故か分割されておらなかった事、封印に意図的な隙間が成されておった事、等の奇跡的な複合要素が良い方向に作用した為だ。
ランマーヤは未だ封印から出ておらぬ半覚醒状態だ。
覚醒し、完全に封印を滅すれば表層の人魂も消えてしまうであろう】
【俺のランちゃん……消えちゃうの?】
【ランマーヤが人魂層を取り込み得れば……其れだけが一縷の望みだ。
ランマーヤは無意識ながらに彩桜に向けて救いを求め、繋がりを成しておった。
今、封印を割らせる訳にはゆかぬが故に、安心して眠り修行が続けられるよう、彩桜も眠らせ、連動する青生も眠らせて、其の繋がりを虹紲の絆に変えたのだ。
誓って言うが彩桜への誤魔化しではない。
全てはランマーヤを安心させ、力ずくで封印を破る前に方法を見出だすべく、時を稼ぐ為だ】
【俺のランちゃん、ランマーヤ様て思っていいの?
寝てても起きてても俺は俺だもん。
寝てる間の記憶なくても俺だもん】
【つまり、此迄の記憶が無くともランマーヤを紗として愛せるのだな?】
【ランマーヤ様と話させてよ。
目覚めさせてよ。
それからじゃないと答えられないよ】
【ふむ。確かにな。
瑠璃、サイ。ランマーヤを支えてくれるか?
神力を引き出した事で、封印には無数の亀裂が入っておる。
目覚めた際に驚いて、脆くなった封印を破らぬよう頼む。
青生は彩桜を頼む。ドラグーナもな。
彩桜は陽の気を保つよう】
〖ラナン、僕達も〗〖そうだね。支えよう〗
【俺、頑張る。ランちゃん、頑張ろぉね】
起き上がり、紗を自分に凭れ掛けさせて支えた。
【彩桜の俺も目覚めさせたからね】
【ふむ。ならば眠っておるアーマル達は離しておこう。
ランマーヤが無意識に神力を取り込んだならば目も当てられぬ故な】
ショウと保護珠をスイッと動かした。
【父様、先に紗の記憶を私の尾に写します】
瑠璃が紗の額に掌を当てた。
【ああ、それはいいね】【ふむ、頼む】
【紗は親友の娘、ランマーヤは私の愛弟子、彩桜は可愛い弟ですから】
瑠璃は父達に微笑むと紗の手も取り、光を纏うと目を閉じた。
続きましては、フィアラグーナ様の妻プラティーナ様と、紗の魂内神ランマーヤ様です。
なんだか ややこしい状態にされているランマーヤ様と紗ちゃん。無事に助け出せるのでしょうか?




