青生のドラグーナ
古の四獸神の詠唱を心地好く聞いていた青生だったが、強い光に包まれて直ぐに気を失ってしまった。
光が収束する――
「ありがとうございます」
魔法円の上には瑠璃鱗の龍神が浮いており、古の四獸神各々に ぐるりと礼をした。
《今度こそドラグーナだよねぇ?》
古の四獸神は器達から離れた。
「はい」にこっ。
《一先ず成功じゃろぅのぅ》
《しかし長くは保てまい?》
「そう感じます。
ですが表には出られなくても、内から青生を支えるくらいは出来そうです」
《常に神力を浴びておれば早ぅ解けるのじゃろぅが……》
《人世でソレってムズくねぇか?》
《それに、他の6欠片も同様に開かないとなかなかねぇ》
《では順次、開かねばならぬな》
《いつでも連れて来いよなっ♪》
「「ありがとうございます」」
ラピスリもドラグーナと並んで礼をした。
そんな父娘の様子を見て、狐に戻ったオフォクスがフッと笑う。
「オフォクス、世話になってしまうね」
「何を言う。遠慮なんぞ無用だ」
《ああそうだ。
『浴びる』には程遠いけど、絆を結んだらどうかなぁ?》
「結婚の絆は既に結んでいるのですが……」
《他にも絆は結べるからねぇ。
すっかり廃れてしまったみたいだけど、真祐とか虹紲とかねぇ》
《ふむ。結婚よりは弱いが多く結べば足しには成るであろうな》
《オフォクスと真祐、ラピスラズリと虹紲でどうじゃ?》
《虹紲って結婚に近いんだろ?
だったら『ラピスリ』で唱えねぇとな♪》
「あっ、あのっ――」ラピスリ大慌て。
《じゃあ『青生』と『瑠璃』で唱えるか♪》
《他の6欠片も そうしてあげようねぇ》
《ふむふむ、そうじゃな♪》
―・―*―・―
山の社では、腹を満たしたオニキスが留守をしていた狐儀に近況を話していた。
【――で、古の悪神はダグラナタンごと封じられたんだ。
悪神がバラ撒いた禍憑きの死印のせいで大勢の無自覚堕神や欠片持ち達が上に運ばれちまったけどな、
マディアとエーデリリィ姉様が浄化域のロークスとリリムに頼んでくれたから、次は自覚堕神になるだろーよ】
【魂を神世には留められない?
つまり神世は未だ危険なのだね?】
【らしい。
オフォクス様も『未だ終わっておらぬ』つってたよ。
神力射も動いてるから神世に行くなとも言われたよ】
【そうですか……】
コンコンコン。『お師匠様ぁ~』
【力丸また来たな】
【もう終わる時間ですね】ふふっ。
『バステート様が終わっていいって~』
「入りなさい。
今日はパンケーキですよ」『はいっ♪』
大喜びな力丸が弾むように駆け込んで来て戸棚に まっしぐら♪
五段重ねパンケーキの皿を頭に乗せて来、慎重にオニキスと狐儀の間に座った。
「温め直してやるよ」温風でなっ♪
立ち上がった狐儀が、戸棚から小さな壺が並んだ盆を持って来た。
「好きなのを掛けなさい」
「はい♪ ハチミツとチョコソースと生クリームと……イチゴのソースだ~♪」
「ミックスベリーと書いてありますよ」
木の蓋を見ている。
「コッチはチョコで~♪ コッチはベリー♪
真ん中にタップリほわほわホイップで~♪
そんでもって全部かけ~♪ うんまっ♪」
「幸せそーだよなっ♪」
「んっんんんんん~♪」もぐもぐもぐもぐ♪
「な~に言ってんだよ♪」
ごっくん♪「と~っても幸せ~♪」
―・―*―・―
「あれれ? 閉まってる?」
〈青生兄~、瑠璃姉~、いないのぉ?〉
きりゅう動物病院は非常灯しか点いておらず、静けさが漂っていた。
〈動物さ~ん、お医者さんは?〉
〈大きな狐の背に乗って出掛けましたよ〉
〈ありがと~♪〉
「そっかぁ、お稲荷様トコか~。
ショウのトコ……俺だけで行っちゃお♪」
彩桜は独り言ちて、駆けて行った。
―・―*―・―
ドラグーナはオフォクスと真祐の絆を、ラピスリと虹紲の絆を、半ば以上 面白がっている古神達に結んでもらった。
《これで、神としても夫婦だと言っていいからねぇ。お幸せにね~》
「「ありがとうございます」」
ドラグーナはにこにこだがラピスリは真っ赤だ。
《オフォクス、月と人世、半々でどうだ?
ドラグーナが目覚めたのだから、それならば来ても構わぬであろう?》
「はい。可能な限り此方に」
「それで俺を、だったんだね?
ラピスリと協力するから人世は任せてね」
「すまぬ。無理はさせたくないのだが……」
「まぁ、順次 開いてもらえたら、もっと自由に動けるだろうからね。
世話になった分くらいは返させてよ」
「それでも無理はするな」
「うん」にこにこ。
「聞かぬ気だな?」
《ドラグーナよ。
その楔と成っておる欠片は、ヌシの子のものじゃろ?
込めたのはオフォクスじゃな?
双方に、よ~う礼を言うんじゃぞ》
「それじゃあ、その分もね」にっこにこ♪
「心配が尽きぬ……。
ラピスリ、手綱を握っておいてくれ」
「えっ? あ……はい」
「如何した? 珍しく呆けておるな」
「照れてるか~、幸せに浸ってるんでしょ♪
ねっ♪ ラピスリ♪」ぴょんぴょん♪
「それじゃあ俺は引っ込まないとね。
青生は眠っているけど……連れて帰ってもらおうかな♪」
「ふむ。
では、今日の処は人世に戻ります。
明日から数日は此方に」礼。
―・―*―・―
ん? なんだろ?
とっても小っちゃいの走ったよね♪
すぐ目の前を横切る路地を駆け抜けた白っぽい小動物を確かめようと、彩桜は角を曲がった。
見~つけた♪ ハムスター?
すっごく走ってるね~♪
アッチって……稲荷山?
お稲荷様トコに行くのかな?
だったら話せる?
〈ハムちゃん待って~♪〉〈えっ!?〉
驚きのあまり止まったハムスターは凍りついたかのように固まってしまった。
〈待ってくれて、ありがと~♪〉掌に♪
〈犬用だけどクッキー食べる?〉はい♪
差し出して待っていると、かなりお腹が減っていたらしく動いたと思ったら無言で噛り始めた。
――が、ハタと止まり……そろそろと見上げてジーーーーッ。ピクン!
〈共鳴? まさか父様!?〉
〈ほえ? 俺まだ小学生なんだけど~?
あ♪ もぉすぐ卒業だけどねっ♪
そんなの ど~でもかなっ♪
お稲荷様トコ行くの? 近道しない?〉
〈『お稲荷様』はオフォクス様ですか!?
トリノクス様ですかっ!?〉
〈お名前……そぉいえば知~らな~い。
でも狐の神様だよ♪〉
〈ああ~……よかったぁ……〉コテッ。
〈えええっ!? 大丈夫!?〉つんつん。
「ええっとぉ、あ! 治癒!」
両掌上下に包んだハムスターに光を当てて家に向かって全力疾走!
―・―*―・―
青生と瑠璃を背に乗せたオフォクスはキツネの社に戻った。
【ラピスリ、此れを持っておけ】
【これは……?】ふさふさ? この色――
【ショウの毛から作った。
神力射を無効とする物だ】
【門の前の……あれが神力射……。
オニキスが射られたものですね?】
【然うだ。彼の神力射はティングレイスの神力で動いておる。
同じ神力を持つが故に、子であるショウは射られぬ。
職神達の『証』にもティングレイスの神力が僅かに込められておった。
神が身に着けておらねば無効と成る程に極めて僅かなのだがな】
【それは……全てをティングレイスの仕業と思わせる為ですか?】
【然うであろうな。
もっと作れれば良かったのだが、トリノクスとアーマルが鍛えたショウでも五つしか作れなかった。
力丸では未だ作れぬ】
【それを私に?
当面、神世に戻る気は御座いませんが?】
【青龍様の器として呼ばれる可能性は高い。
青生が持つドラグーナであろうが、ラピスリであろうが器と成れるのだからな】
【解りました。
では青生を連れて帰――】〈お稲荷様っ!〉
「彩桜、どうかしたのか?」「助けてっ!」
社を貫く大木の虚から飛び出して来た彩桜が両手を突き出した。
「このコ助けてっ!!」
「「ラピスリ助けて!」」
続けて現れた猫達が叫んだ。
「今度はミルキィとチェリーか」
「言ってる場合じゃないのっ!」
「来て! リグーリ助けてっ!」
「「兎に角、治癒が必要なのだな?」」
キツネは彩桜に言い、瑠璃は猫達に言った後、彩桜をチラリと見た。
「「「そぉ!」」」
彩桜と一緒に返事したものの、待っていられないとばかりに猫達は瑠璃に飛びついて一緒に消えた。
「ん? ラピスリ?」
「瑠璃の内に居る『欠片の神』の名だ」
「そっか~♪」
「寒さと疲れで眠っておるだけだ」
治癒光で包んだハムスターを彩桜に返した。
「そっか~♪ 良かったぁ♪」なでなで♪
「……月に行く」
彩桜の襟首を咥えて背に投げた。「わ♪」
彩桜の目の前に『ふさふさ』が浮かぶ。
「ハムスターと共に懐に入れておけ。
確と掴まっておれ」
「はいっ♪ あ♪ ショウの匂いする~♪」
動物と話せる彩桜は、猫と瑠璃が話していても何とも思っていません。
彩桜にとっては普通ですので。
彩桜が拾ったハムスターは堕神にされたドラグーナの子です。
キツネには、どの子なのかまで見えたようで、青生に続いて彩桜も月に行くことになりました。
この、どんどん増える登場人(神)物達が本編に戻った時に出てくるのか?
と言うと~、、出てきてもチョイ役、MAX半分くらいなんですよね。
本編はユーレイ探偵団が主役ですので。
m(_ _)m




