動く雲間だらけ
【彩桜、そろそろ封じに行くよ。起きて】
【あ……青生兄だ~♪ おっはよ~♪】
ゆさゆさしていた腕にピトッ♪
【うん、おはよう】治癒と浄化で彩桜を包んだ。
【ありがと~♪ んと、何時?】
【邦和は朝の7時くらいかな?】【学校!】
【うん。そうなんだけど封じるには彩桜が必要だからお願いね?】
【ん♪ あのね、此処の記憶みたいなの夢で見ちゃった。
この雲間、滝に固定したのマリュース様。
ワルしてたダグさんに捕まるの想定して禍の保管庫にしたの】
【その時の覚悟とかを拾ったんだね?】
【そぉみたい~】
最後の魂頭部を保護し終えた瑠璃が来た。
【【行こう】】【うん♪】
集中しているガネーシャは残して禍の滝へ。
―・―*―・―
その頃サーロンは狐松と共に登校して、プールの浄化具合を確かめていた。
【これでしたら今日から再開できますね。
念の為に浄化を重ねておきましょう】
【はい♪】一緒に全神力強浄化です♪
前日の5、6時間目の体育は雨天と同様に体育館での授業に変更となり、サーロン達の2年1組はバスケットボールだった。
それはそれで分身とは違う動きをする練習になったと満足しているサーロンだった。
【体育教師の皆さんが確認しようと此方に いらしていますね】
強浄化を維持している狐松は緑マーズに。
【あっ】
狐儀を真似た強浄化に集中していて気が回っていなかったサーロンも急いで空マーズになった。
「あっ!」「マーズ!?」
昨日、黒く染まった水を見た瑞田を先頭に体育教師達が走って来た。
「もう使用しても構いません。
では我々はこれにて」「サラバです♪」
一緒に上に跳びつつ瞬移した。
「確かめに来てくれたのか?」
「きっと そうですよ♪
近くでマーズ見ちゃった~♪」
「ですよね♪」「生マーズ~♪」
女性達は大喜びで声だけでなく弾んでいる。
「マーズが使っていいと言うのなら今日は水泳だな」
瑞田は元気に同意を求めた。
「そうですね。
それにしても、さっきの声……聞き覚えありませんか?」
元気の方が若いのでベテラン瑞田には敬語。
「正体を暴いたら大事になるぞ。
職員室に戻ろう」
「って、つまり――あっ!
瑞田先生、待ってくださいよ!」
さっさと行った瑞田を追って走った。
―◦―
和室に瞬移した狐松とサーロンは神眼で その様子を眺めていた。
【瑞田先生でしたら気付いているでしょう。
ですが彩桜様を護ろうとなさっておられます。
マーズスタッフに加えるのも良いでしょうね。
その災厄が起こった際にも協力して頂けるでしょうから】
【それも、備えるという事なんですね】
【そうなりますね。
人世全域だとすれば、良くも悪くも災害に慣れている邦和は、マーズとしては後回しにせざるを得ませんからね。
自立し、自主的に、協力し合って復旧に向かえるのは邦和のみでしょうから】
【神様は、どうするんですか?】
【人世のお手伝いをする余裕は無いのかも知れません。
地星が粉微塵にならぬよう保たなければなりませんし、神世にも行かなければならないでしょう。
神世が人世に落ちぬように。また、人神達がパニックを起こさぬように、です。
神がパニックを起こせば災厄が連鎖してしまいますので】
【人世は人の力で。当然ですよね。
ボクも精一杯 頑張ります。
修行も、響を引き上げるのも。
神様にお目覚め頂くのも】
【ありがとうございます。
では、そろそろ教室に参りましょう。
今日も彩桜様の代わりをしますか?】
【はい♪ これも修行ですから♪】分身♪
―・―*―・―
闇障大器を滝の地下に戻すと、彩桜は踞り、地面に両掌を当てて目を閉じた。
【青生、彩桜は何をしている?】
【マリュース様の残気と話しているのかもね。
俺も手伝うよ】
青生も寄って屈み、彩桜の肩に手を当てた。
【時間が掛かりそうだな?】
【そうだね。目的の記憶を探している最中だよ】
【ならば私は急ぎの執務を済ませに行く】
【浄滅にも行くんだね? ひとりで?】
【当然だ。逃げられる訳にはゆかぬ】
【でも――うん、お願いね。
ドラグーナ様も気になるみたいだから】
【任せろ】
苦笑混じりに笑うと森に向かった。
―・―*―・―
「「おっはよ~♪」です♪」
「またサーロン2人なんだな?」
チャイムが鳴ったのと、狐松と一緒に教室に来たのとで、サーロンは堅太達に苦笑を返しただけで席に着いた。
「鷹前君、席に着いてくださいね。
朝の連絡は2点。
1つ目は、プールの使用が再開されました。
今日は体育の授業が無い日ですが、以降は水泳となりますので準備をして登校してくださいね。
2つ目は、昨日もお話ししましたが、2時間目の音楽と5時間目の数学が入れ換わります。
5時間目は輝竜君のお宅のホールにて、ロシアのヤーコフ=アリアナビッチ氏とキリュウ兄弟との合奏を鑑賞しますので、2年生は4時間目が短くなり、クラス毎に整列して向かいます。
昼食も輝竜君のお宅です。
数を連絡しなければなりませんので、お弁当を用意していない方は挙手してください」
一斉に手が挙がる。昨日も話していたので誰も持って来ていないようだ。
「お弁当を持って来ている方は?」
誰も挙げない。
「わかりました。
2年1組は全員必要と連絡しておきますね。
朝の連絡は以上です」
1年生が4時間目に鑑賞して昼食後に学校に戻る予定で、3年生は6時間目に鑑賞し、おやつ後に直帰で下校予定だ。
【狐儀様、青生先生と彩桜が戻らない場合は?】
【ご兄弟皆様、分身も偽装も出来ますので問題は無いでしょう。
サーロンも準備の為に帰宅するのですよ。
忘れず、分身と共に行動してくださいね】
【はい♪】
―◦―
「ヤーコフ、此処が燻銀の家だ♪」
「仕事として皇帝様から許可を得てやったんだから感謝しろよ♪」
「どの建物だ?」
「「黒くて古いの全部だよ♪」」
「貴族なのか?」
「邦和の貴族は絶滅したよ」
「忍者は健在だがなっ♪」
「そうなのか」
「食事も最高だ♪」「邦和式の風呂もな♪」
「オンセンというヤツか?」
「「確かにオンセンだなっ♪」」
「それも見たいと思っていたんだ。
楽しみだよ」
「お~いオッサン達、玄関前で騒いでないで入ってくれよな」
玄関を開けた黒瑯が笑っている。
「珍しく黒瑯が居るじゃねぇか♪」
「レストランは? もう潰れたのか?」
「来るっつーから準備してるんだよ!
ランチタイムは留守にすっからな!
演奏で行ったり来たりだけどなっ!
ったく! いつもいつもナンで急なんだよ!」
「「急に黒瑯のメシが恋しくなるからだ♪」」
「そーかよ! 早く入れってぇ♪」
―・―*―・―
【ねぇねぇ青生兄、コレ……俺、違うの拾っちゃったぁ】
【滝下の雲間が別の雲間を掠めた時の記憶みたいだね。
何処かに獣神様が封じられていて、四獣神様方のお身体が保管されている――と言うか閉じ込められているようだね】
【したの悪ダグさんだと思うのぉ。
獣神様、見つけちゃって口封じされた思うのぉ】
【雲地全てを調べないといけないね。
でも今日は戻らないといけないよ】
【オジサン達もぉ来てるよねぇ】
目覚めたばかりのハーリィと瑠璃が話していた間に黒瑯から聞いた。
【瑠璃が迎えに来るまでは探ろうね】
【ん♪】
―・―*―・―
「父ちゃんだ~♪」ぱふっ♪
青生と彩桜が戻り、無事に兄弟が揃って準備をしていると、トレービ達とは別便で到着した燻銀がホールに姿を見せた。
「父ちゃ~ん♪」ぱふっ♪「母ちゃんは?」
「単独での仕事が入っていてね。
残念ながら今日は無理だけど明後日にはオフになるからね」
「ん♪ じゃあ父ちゃんも演奏だね♪
ピアノも出す~♪」
ステージ奥のピアノへと走った。
今度は兄達が父を囲む。
言葉を発すれば申し訳なさと感慨深さが過ぎて涙までもが出てしまいそうなので、互いに無言で順に軽くハグをしただけで息子達は準備に戻った。
「キリュウ兄弟の純クラシックだ!♪」
「淳、声が大きいよ」
入口に啓志と淳が居た。
「兄からの依頼で記録画像を撮りに来ました」
ペコリとして上の席に淳を引っ張って行った。
【順志のヤツ~】
【まぁまぁ白久兄さん、落ち着いて】
【そうですよ。感謝するべきだと思いますよ】
【ま、これも仕事なんだから記録は必要だよな♪】
【白久兄、イライラは消えたのか?】
【もう焦っても仕方ねぇからなっ♪
陽の気だ♪】
【だよなっ♪】【よく悟ったな】【む】
【ま~な♪ 青生 彩桜、もう安心してくれ♪】
【でしたら夜に】【うんうん。話したいの~】
【【またナンだよっ!?】】
【過去のだから~】
【参考までに聞いてくださいね】
【【おう♪】】
話しながら楽器を用意し、チューニングをしていた兄弟だった。
「準備でっきた~♪」
―◦―
【サーロン?】
【え? あっ、はい! 案内しますねっ】
【近づいてるが、まだだよ。
もしかして親が恋しくなったか?】
【もう想いの欠片ですし、恋しいとかは思っていません。
彩桜は普段そういうのも隠しているんだなと考えてただけです】
【確かになぁ。
でもま、一緒に仕事できるよ~になったから今は幸せなんじゃねぇか?】
【そうですよね。そう信じます。
あっ、玄関前に整列しましたね。
行きますねっ!】
リーロン サーロンは台所に居た。
嘘を言ったのではないが、何故だか誤魔化したような気分になってしまったので、逃げるように玄関に走ったサーロンだった。
はい。案の定と言うか何と言うかですが、狐松先生の話とは少し違って、輝竜家を訪れたのはヤーコフだけではありませんでした。
雲間を悪用していたのは魔女と悪神だけでなくダグラナタンも、だったようです。
職神でも普通は知らない雲間の知識をどうやって得たのやらですよね。




