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新たに見えたもの



【おお~いソラ、チョイ手伝ってくれ】


【あっ、はい兄さん】瞬移。


「ソラ!?」『な~んだ喧嘩中か?』


「あら理俱さん。いらしたのなら響さんの指導をお願いしますね」


「はい」紅火と遊ぼうと思って来たのに、だ。


「全く落ち着いていないのよ。

 話し相手もお願いしますね」


「はい」【で? マジ喧嘩なのか?】


【空マーズ、可愛くてカッコいいって言ったら怒って……】


【で、その格好か?

 最初に揶揄うなと言っただろうが】


【……でしたね】


【穏やかで落ち着いてるとは言えソラはユーレイなんだからな。

 怒らせて怨霊化なんかしたら手に負えないとだけは何があろうが忘れるな】


【神様にも手に負えないんですか?】


【ソラは神バリに強い。

 内包している大神は俺の爺様なんだからな。

 内包していた神を抜かれてたモグラなんか可愛いくらいにイカツイ怨霊になっちまうよ】


【そうなのね……】


【ソラの方はリーロンが宥めている。

 真面目に修行して、二度と喧嘩なんかするな。

 ソラが急いで響を仕上げたいと思っている もう1つの理由は、修行の成果が見えたら教えてやる。

 頑張って今日中に自力で服が戻せるようになるんだな】


【はい】


 他にも理由があったのかと、知りたいのも手伝って真剣に瞑想を始めると、肩に優しい布が ふわりと乗った。

【あれ?】


【寒くはないだろうが、その方が落ち着くだろ】


【ブランケット? ありがとうございます】



―・―*―・―



「宮東院長、そんじゃあ1週間後に退院でお願いしますね♪」


「それはいいけど、僕からも白久に頼みたいんだ」


「脳外科を開くのは無理ですからね」


「先に言わないでくれよ。

 その要望が多いんだ。

 声は掛けているんだが脳外は何処も待遇がいいんだろうな。NOばかりなんだよ。

 非常勤とか週1、月2でもいいから頼むよ」


「その草鞋(ワラジ)はデカ過ぎますってぇ。

 それより最初の話――」緊急電話が鳴った。


走って来た看護師が取る。

「院長先生、総合病院からです」転送。


「そう」

卓上の電話が短く鳴り、宮東は白久にも聞かせようとスピーカーをオンにした。

『患者は49歳 男性。脳内出血で一刻を争います。

 受け入れて頂けませんか』


宮東の視線に負けた。

「すぐ行きますよ」

【青生、総合病院に頼む】【はい】

【みかん、バス頼む】【わかったわ】

「マジすぐなんで、オペ室に運んでください」

立ち上がりつつ忍者移動。


「あ……あの、本当に もう院内に居ると思います」

『えっ? あ!』『輝竜先生です!』遠くから。

「はい。当院の輝竜医師です。では」

通話を終えた。


「さてと、八頭さんに日程の説明をしないとな」

宮東は療養病棟に向かった。

「非常時には此処も避難所に、か……」



―・―*―・―



 ソラは戻らず台所でサーロンとしてリーロンを手伝っていた。


【お~い、道具作りさせてくれぇ】


【響はリグーリ様の方が落ち着いてますから夕方までお願いします】


【まだ怒ってるのか?】


【怒っていませんよ。

 ですが早く仕上げたいのは本当ですから】


【解ったよ。夕方迄な】【はい♪】


『失礼いたします。

 慎也様はこちらだと伺ったのですが』

  【うわ】沙織さんが何故!?

「居りますよ。どうぞお入りなさいな」

  【ソラ! 響を頼む!】

『はい、ありがとうございます』

  【はい? あ~、はい。行きます】


「理俱さん、どちらに?」「いや、その……」

更に奥の作業部屋に逃げようとしていた。


店側の襖が静かに開き、

「その装束は……」

響の姿に驚きフリーズ。


「沙織さんの装束に変更はありませんのでっ。

 こっ、これは成人くノ一の装束なのです!」


「……そうなのですね。

 では、この状況は……?」


「理俱さんは指導者なのよ」ほほほ♪

「ですが、もうよろしいでしょう。

 デートなさいな♪」「はいっ!」

慎也(リグ)は沙織を連れて逃げた。



 襖のパタンッと同時にソラが戻った。


【ソラ、ごめんなさい!】


【もういいよ。一緒に瞑想しよう】


【うん♪】



―・―*―・―



 そして夕方。

フランス、リヨンでのライブを夜に控えたマーズはキツネの社に集まった。


【朝の情報以降、新たなものは?】

金錦の問いに皆の視線が青生 彩桜 ソラ(サーロン)に集まった。


【明け方に見て以降、何も見えていません】

【俺も~】【はい、ボクもです】


【欧州時間の明日、午前中に兄貴と俺はオッテンバッハ社長と会う約束をしたからな。

 新たなのが見えたら逐一教えてくれ】


【【はい】!】【うん!】


【では作業に取り掛かる】【はい!】一斉。



 各々がパートナーを連れて来ているのでペアで超難解パズルに取り掛かる。

キメラ魂頭部(たまかしら)はハーリィと一緒に落ちてきた分もあって手が足りないので、悟と銀河(さらら)、竜騎と夕香もガネーシャとキャンプーの指導で加わった。

ジョーヌはジュールと組んでケイロンも一緒に解いている。

 もちろん音神達は演奏もしているし、領域発動できる昇華・供与・治癒・浄化もキープしている。


【響だけは聞いていなかったから話すね】

ソラも浄化をキープしていて、音色天使なので分身が演奏もしている。


【え? 今いいの?】


【この後はライブだし、ライブの間も響には修行してもらいたいから。

 でも睡眠時間は削らないでね】


【肌荒れなんて治癒するからぁ】


【体調万全でないとダメだから。

 生き人なんだから無理しないでね】


【はぁい】


【少しは話したけど、大きな災害が起こるのは確定なんだ。

 それも近いうちに。たぶん、この夏に】


【1ヶ月くらいしかないじゃない!】


【うん。1ヶ月ないかもなんだ。

 だから急いでるんだよ。

 響も大きな戦力だから】


【……私も?】


【そうだよ。響の神力は大きいんだからね。

 これまで見えてたのは崩れた建物の間を半袖の人達が逃げているらしいのが一瞬だけだったんだ。

 暗くてフォグってて、何処の国なのかも判別できなかったんだよ。

 この暗くてフォグるのは逃げるのも防ぐのも出来ない、確定だってことなんだ。


 今朝、夜明け前に新たに見えたのが、瞬間的に千枚くらいの写真を一気に見せられた感じで、たぶん世界中の崩壊した街とかだったんだよ。

 似たようなのを青生先生も彩桜もキツネ様も見ていたんだ】

当然ながら先読みの神シヴァも、拾知の神アフェアンも、両方を少しずつ持つケイロンも見ていた。

【だからもう時間が無い。

 起こるのは確定だから備えないといけない。

 世界中で起こるなら逃げ場は何処にも無いからね】


【ちょっと待って。

 それって地星が崩壊するってこと?

 もう何もかも……おしまいなの?】


【そうはならない。させないよ。

 その為に備えるんだからね。

 でも何月何日の何時に起こるなんて分からないんだ。

 だから起こった時に動ける力がある人にしか話せないんだよ。

 オッテンバッハさんや財閥御三家の皆さんは輝竜さんの言葉なら信じてもらえる。

 他にも『もしも』な話で協力を呼び掛ける程度なら大丈夫な人達も居るんだ。


 だから白久お兄さんは今日、横浜と竜ヶ見台と中渡音の総合病院と南陽病院に、緊急時に避難所に出来る設備を加えさせてもらいたいって話しに行ったんだって。

 費用も工事もミツケンが全て担うからって。

 他の大きな病院にも頼みに行くんだって。


 彩桜は悟と竜騎に話さないといけないし、他の友達にも『もしも』で話したいからって勉強会に参加したんだ。

 昨日やっと魔女退治が終わって、今日は休んでたかったと思うのに】


【でも出動したのね? だから怒ったのね?】


【怒ってなんかないよ。

 でも響にもマーズしてもらいたいからチャンスだと思ったんだ。

 装束は……女の子達のと同じだと思ってたんだよ】

視線をチラリと銀河と夕香に。


【あ~、あれなら私もOKだな~】


【でも……似合ってるよ】また真っ赤に。


【ん♪ 動き易さ重視だと思うし、もう慣れちゃった♪】


動き易さだけでなく帷子(かたびら)結界は短時間であれば禍に包まれても身を護れるようになっており、炎や雷等の神術攻撃も弾き返せる程に頑丈なものだ。

纏っている者の神力が高ければ神剣(しんけん)であろうが刃の方が粉微塵になるだろう。


【それならいいけど】でも真っ赤っか。


 もう集中しようと気合いを入れ直したソラの横をシヴァが通った。

また何かが見えたのだろうかと皆が顔を上げる。

『いえ、そうではありません。

 彩桜様、結婚の絆を結びませんか?』


「ほえ? ランちゃん もぉいいの?

 ランマーヤ様 目覚めたばかりだよ?」

しかも ほぼ眠っている。


『彩桜様が大神ですので結べますよ』


「だったらお願いします♪

 ランちゃん行こ♪」「うん♪」

兄達も妻を連れて追った。



【結婚の絆?】


【神様の結婚で強化なんだ。

 神力を合わせるんだよ。

 たぶん、これも備える為だと思う。

 彩桜は人だけど大神様だと認められてるから】


【お兄さん達も?】


【うん。金錦お兄さんは最後にって決めてるみたいだから彩桜の後に結んでもらうんだと思う。

 他のお兄さん達は結んでもらってるよ】


【私達は? あ!

 だから私が修行しないとなのね!

 頑張るから待っててね♪】


【うん。ボクも天使から神になれるように頑張るよ】


【ソラ、天使なの!?】


【神様を補佐する人や人魂を天使と呼ぶそうだよ。

 メーアさんは歌声天使なんだって】


【ソラは?】


【音色天使。こういうのは称号といって、これも強化なんだ。

 輝竜さん達は音神の称号を持つ大神様なんだよ】


【へぇ~♪】【【ソラも色神だろーがよ】】


【あ……】【色紙?】


リグーリとオニキスが大笑いしている。


【色の神様。

 マーズは自分色の称号を貰ったんだよ】


【じゃあ空色の神様なのね♪】


【そう、だね……】どんどん真っ赤っか。


【どうしても空マーズって恥ずかしいの?

 カッコいいと思うんだけどな~】


【……ありがと】


 響の前では大人でありたいソラだった。

精神的にもサーロンがピッタリだと自覚しているからこそ、夫として背伸びしなければと自分を追い詰めているのかもしれない。







新たに見えたもの。

それは逃げ場が無いという内容でした。

そうはさせないと、備えるべく動き始めたマーズなのでした。


ソラも怒ってなかったんですね~。



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