オロチの弟
節勇が見るなと叫んだのと、男が帽子を投げ捨てたのが同時だった。
「八頭 節勇! この目を見よ!」
「ヤ~ダね。バ~カ」
視線は外してトットッと軽やかにステップ。
「何故だ!? 何故 動ける!?」
「慣れっこなんだよ。バ~カ」
素早く足を出して低い位置で回し蹴り。
「ぐあっ!」ドッ!「うっ――」
尻餅を突いたところをひっくり返されて馬乗り&片腕を捻り上げられてしまった。
暴れて逃れようとしたが、もう片手も捻り上げられて、背中に押し付けられた。
「オヤジ! シーツくれ!」
剥がして丸めた白い塊が飛んで来た。
「ありがとな!」
口と足とでビヤッと一気に裂き、ロープ代わりにして縛り上げた。
残りは両脚一緒に巻き付けて足首で縛る。
「こんな器なんぞ要らぬ! 戻るのみだ!」
その叫びが終わらないうちに黒煙が吹き出した。
「ったく!」
跳び退いてモップバケツの水を掛けた。
「あ~アレか。煙じゃなかったんだな。
オヤジもよく吹いてたんだよな」「僕が?」
「ンなの思い出さなくていいからな。
このモクモク……うわっ天井で集まってら」
『戻るよりも……良い器だ』
塊になった不穏禍は節勇に向かって急降下!
避けきれないか! 「忍術 浄滅禍雷撃!」
モヤモヤ不穏禍は皆から最も遠い天井の隅にブッ飛ばされ、低い叫び声が轟く。
「銀マーズ参上だ♪
覚悟しやがれオーラマスクス!
闇呼玉銀華発動! 術光矢封乱悪牢!」
「強制具現化、オーラマスクス魂縛ねっ♪
くノ一マーズみかん参上よ♪」
【おお~い、名乗っていいのかぁ?】
【みかん色の『みかん』よ♪】私マンダリーヌ♪
全く動けなくなった不穏禍オーラマスクスは、光矢に連れられて銀マーズが掲げている闇呼玉へ。
「よ~し♪ もう安心だ♪
節勇、よく頑張ったな。ん?」
節勇の肩をポンとしようとして視界の隅で黒いものが動いた気がした。
「残ってやがったか!」
「元祖激天闇呼吸着♪」「「封乱悪牢!」」
「「滅禍浄破邪大っ輝雷!!」」「双璧!」
俯せな男に隠れていた黒塊が文永へと飛んだところに現れたマーズ達が回収して、ピッカン☆ビシバシな浄破邪でスッキリ。
「もぉ入っていいですよ~♪」
廊下に避難した武勇と季勇、食堂から戻って廊下で待たされていたオロチ達が入って来た。
「おい、コイツは?」「寝てるだけ~♪」
「じゃなくてっ!」「だ~いじょ~ぶ♪」
桜マーズが寄ってシーツぐるぐる巻きな若い男をコロンと仰向けにした。
「叡流!?」家族一斉。
「あ~そっか。オロチさんに似てたんだな。
な~んか引っ掛かってたんだよ。
もう悪霊退治が終わったんだからシバリいらねぇよな」
解き始めた。
「浄化で春風なの~♪」ふよよ~♪
「ドライヤーいらずかよ♪」「うんっ♪」
「桜マーズ、もう行くよ」「うんうん♪」
また一緒に行けると大喜びでピョンピョン♪
「待てよ。説明してくれよな」
節勇は解き終えたシーツ縄を丸めている。
「銀の兄貴、このヒト達ならいい?」
「いいだろう」【つか俺が聞きたいよ】
「ん」
銀からも貰って、2つの闇呼玉に手を翳す。
「悪霊の名はオーラマスクス。
ヒトに取り憑いて操って、世を滅ぼす寸前してから残った世の王したかったの。
救世主か神様みたく崇めてもらいたかったの。
オーラマスクス、分裂もするから伝染みたく仲間増やせるの。
最初に憑いたのが文永さん。次が弘安さん。
だから家出させたの悪霊オーラマスクスなの。
次世代として選んだのが、まだ幼かった叡流さん。
ホントは彪流さんがいい思ってたの。
でも警戒して逃げたから叡流さんなの。
でもね……叡流さんのが目覚めなくて、1年待ったけどダメだったから次を探したの。
それで節勇くん拐ったの。
小っちゃ節勇くんだったから文永さんと弘安さんに育てさせたの。
その間はオーラマスクス引っ込んでたの。
節勇くん10歳くらいなったから、そろそろてオーラマスクスがオモテ出て、文永さんにイジメて目覚めさせろ言ったの。
声、内からて思わなかった文永さんは弘安さん連れて大陸に逃げたの。
節勇くんから遠く離れたら大丈夫て思ったの。
オーラマスクス怒って文永さんと弘安さん乗っ取って大陸で仲間集めしたの。
だから その間の記憶ないの。なくていいの。
本体オーラマスクス気づいてなかったけど、叡流さんに憑けてたの、とっくに目覚めてたの。
でも中途半端で、叡流さんも訳わかんなくて身体 勝手に暴れるから家出しちゃったの。
居たら迷惑なるから。
今日のは偶然。
叡流さん清掃員してたのホントなの。
変な声聞こえるから精神科の患者さんなの。
リハビリ雇用なの。
文永さんと弘安さんと節勇くんの除霊、すっかり終わってるけど、叡流さん憑きのオーラマスクス、本体いたヒトて気づいたの。
だから活動再開したくて、もっかい取り憑こぉとしたの。
叡流さん、ぜんぜん悪くないのぉ」
「そっか。よく分かったよ。
で、黒い玉どーすんだ?」
「浄滅するの~」
「ムズい言葉だなぁ。季勇、何するって?」
「僕に聞かないでよ」
「キレイサッパリ浄めて成仏させるの♪」
「あ~なんとなく分かった」「うん、僕にも」
「じゃあ逃げたら大変なるから行くねっ♪」
「おう♪ ありがとなっ♪」
「まったね~♪「サラバ!」」一斉瞬移。
白久と みかんはバスへ。ソラは稲荷堂へ。
青生 瑠璃 彩桜は神世へ。
「全ては悪霊かぁ。
けど……」ぐるりと見回す。「悪くない♪」
「だよね。結果オーライ♪」「んっ……え?」
「目覚めたか、叡流」「兄ちゃん!?」
「叡流……叡流!」抱き締めっ!
「そんじゃあメシ行くか~♪」「だね♪」
双子は父を連れて食堂に向かった。
―・―*―・―
「ソラ~♪ 見てたよ~♪」
「響、ちゃんと瞑想しないと」
「空マーズ、可愛くてカッコいいよね♪」
「そんなの言うの?」ムッ。
「ヒィちゃんも くノ一マーズしましょうね♪」
「それがいいわね♪」「ええっ!?」
「そうだね。
響もそろそろ瞬着替えできると思うよ。
あれも神力なんだからね」まだムッとしている。
「アレってユーレイ着替えじゃないの!?」
「彩桜やお兄さん達はユーレイじゃないだろ。
偽装にも繋がるんだから鍛えるよ」
「ソラが怒ってるぅ~」
「さ♪ くノ一修行「始めましょ♪」」
「ヨシさん、スザクインさぁん」
「ヒィちゃんなら、くノ一マーズひまわり でどうかしら~♪」
「いいわね♪ ピッタリ♪」
『あら、一緒に くノ一してもらえるのね♪』
「え?」「「お帰りなさ~い♪」」
若菜はニコニコ留まっているが、紅火はスイッと奥に逃げた。
「お留守番ありがとうございます♪
衣装は腕輪に込めるわね♪
ひまわり色、すぐに用意するわね♪」
ニッコニコで紅火を追った。
「腕輪に衣装なんて入るの!?」
「ユーレイと神様は持ち歩いてないけど、彩桜の腕輪には20着以上入ってるよ」
女化呪騒ぎ以降そうしたようだ。
『響さ~ん、一度 着ないとセットできないから裏に来てくださいね~♪』
「えええっ!?」逃げ――「行くよ」連れて瞬移。
「ソラくん本気で怒ってる?」
心配少々興味津々で閉まっている襖を見ているスザクイン。
「そりゃあマーズは皆さん命懸け真剣に忍者しているのだから~♪」
「だから格好良いのよね~♪」
「そうなのよね~♪」
襖の向こうは響だけが騒がしい。
「ソラくん静かね」「怒ってるから?」
顔を見合せた後、薄目神眼で確かめた。
「ソラくんたら背中向けてるわ♪」
「夫婦なのにシャイね~♪」
響は桔梗に動きを封じられて若菜に着付けられていた。
「「次は私達も あの装束ねっ♪」」
楽しく真似る。
「片足は透明な結界で防護しているのね♪」
「腰周りのヒラヒラがミニスカートみたいね♪」
つまり右足は黒スパッツ、左足は素足かのような透明防護に帷子網タイツ。
ヒラヒラ裳は右後ろから左前へと半円布にギャザーを寄せて付けているのだった。
響の場合は、そのヒラヒラが向陽葵の花弁色メインで薄黄色の縁取りから付け根の褐色に向かってのグラデーションになっている。
女の子くノ一装束の上衣はミニスカート丈だが、大人くノ一の丈は裳の帯位置まで。
身体ピッタリな袖は左のみで、右手は左足と同じ帷子網なので、黒の領域が斜めに走るシャープなイメージになっていた。
「脚が細く長く見えるのね~♪」
「輝竜さんの奥様達、皆さんスタイルが良いからこそね♪」
「瑠璃先生も着るのかしら?」
「それがね、ずっと男装の紺マーズするのですって」
「あらぁ……「勿体な~い!」」
「あら♪ ツカサちゃんも いらっしゃい♪
トシは? 野放し?」
「お師匠様に神力具合を見て頂いているんです。
そろそろ神様に戻れそうなので」
「それは良かったわね♪ ね、ヨシちゃん♪」
「そう、ね……卒業するのね……」
「あら? 寂しいのかしら?」
「ヨシさん久々に気合い入ってたから、気が抜けちゃいました?」
「そうなのかも」
ソラに連れられた『くノ一マーズひまわり』が戻った。
「「「よく似合ってるわ♪」」」
「うわぁ……ヨシさんもスザクインさんも……」
「「くノ一するのよ♪」ほらほらツカサちゃんも♪」
「ええっ!?」「ほら早く♪」「……はい」
恥ずかしさMAXなトウゴウジも くノ一マーズに。
「若菜さんのデザイン?」
「ヒラヒラの色は決まっているの?」
青から紫へのグラデーションなヨシと、黄から深紅への炎みたいなグラデーションのスザクイン。
「みかんさんのデザインです♪
最初はビキニにショートパレオみたいな感じでしたけど夫達の猛反対で、半分は意見を受け入れて、全身帷子になったんです。
色は今のところ好きにしています」
クルンと瞬着替え。
緑グラデーションの裳を見せた。
「それなら……」
色に困って白いままにしていたトウゴウジがヨシの色を淡くしたような氷イメージのグラデーションに変えた。
「「ホウジョウ色ねっ♪」」「うっ……」
「さ、修行しましょ♪」
「ヒィちゃんも慣れないとね~♪」
「って この格好で!?」
「「トーゼンでしょ♪」」
笑っていると戸の音がしたのでユーレイ達は消え、若菜も普段着に戻した。
「えええっ!?」
まだ瞬着替え出来ない響が叫び終わらないうちにソラが連れて瞬移していた。
「いらっしゃいませ♪」平常稼働。
一時期の大騒ぎは去ったが、それでも稲荷堂は繁盛していた。
特に遠方から来る祓い屋が多い午後は忙しい。
それもあって若菜は急いで着替えさせたのだった。
あっという間にオーラマスクスを回収して、八頭家にとっては めでたし めでたしです。
一方、稲荷堂では……(苦笑)。
くノ一装束、実は防御力的には忍装束より高いんですよ。
だからこそソラは響にもと考えたんです。




