平穏を噛み締める
一晩中キツネの隠し社での超難解パズルに奮闘した輝竜兄弟と妻達が休日の日常に戻った朝、輝竜家に泊まったオロチとネコと その家族親族は出掛ける支度をしていた。
「オロチさん、オヤジとオジキ知りませんか?」
キョロキョロ探していた節勇は廊下でオロチに会った。
「配達に出た。間も無く戻るだろう」
「そーですか♪ ありがとーございます♪
オロチさんて『ハマのオロチ』さん?」
「そうだ。もう終えた名だがな」
「俺、憧れて越前から出て尾張でヤマタノオロチて名乗ってたんです!♪
次は横浜にって考えてて!
忍者に捕まったのは越前に戻ってた時で――あ、そんなのどーでもか♪
捕まって良かった~♪
家族に会えて、オヤジとオジキに会えて、オロチさんにまで会えた~♪」
「そうか。叔父達が育てたのなら親戚だな」
父の従弟達だが面倒なので『叔父』にした。
「いいんですか!?♪」
オロチはフッと笑って頷いた。
「これから叔父達の両親の見舞いに行く。
一緒にどうだ?」
「ハイッ!♪ 家族もいいですか?」
「バスらしい。都合が良ければ一緒に」
「ハイッ!♪ ありがとーございます!♪」
―◦―
「彩桜、今日は?」「朝メシあるぞ♪」
この連休も祐斗達は彩桜の部屋に泊まる予定だ。
散歩の後、庭で犬達と遊んで戻ると朝食は共有スペースに運ばれていた。
「居間、昨日のヒト達いっぱいなの~♪
俺、今日は居るつもり~♪」
「そっか♪」
「ロシア、終わったんだよね?
あの黒いのは? 3年生のは?」
「鹿羽君、ウチに下宿するの~♪
双子だったの~♪
ユーレイ母ちゃんも一緒なの~♪」
「ええっ!?」大合唱。
「どれにビックリ?」
「下宿!」「双子!」「ユーレイ!」口々。
「じゃあ順番にね♪」
―◦―
金錦と牡丹、藤慈とリリスは隠し社に残っている。
黒瑯とリーロンはレストランで、姫達も持ち帰りスイーツ売場で準備中だ。
青生と瑠璃は動物病院で平常稼働。
紅火の運転で若菜がガイドな赤バスは三春家御一行様を送る為に出発した。
稲荷堂はソラに任されていて響も一緒に居た。
「そんじゃあ俺のバスも出発するから留守番ヨロシクなっ♪」
「「はい♪」」
外から話していた白久が戸を閉めようとして
「あ、いらっしゃい♪ どうぞ♪」
逆に大きく開けて去った。
「「今日のスイーツ何かしら~♪」」
「あ♪ ヨシさんとスザクインさん♪
いらっしゃい♪」
「今日はヒィちゃんも店員さん?♪」
「遊んでるだけ~♪
でもソラに道具の説明してもらってるよ♪」
「それってソラくんの邪魔じゃないの♪」
「そうかも~♪ ね、理子叔母さんは?」
また戻って来たので逃げて稲荷堂だったりする。
「とうとうスーパーに面接に行ったわ。
理人も憑き添ってね♪」
「そっか。でもまだ暫くはウチに居るよね」
「それがね♪ 合格したらの話だけれど、踏み出したお祝いにマーズタウンのお家を安く貸してくださるんですって♪」
「そんな甘やかしていいの?」
「私も そうは思うのだけれど……これが最後かしらね? うん、最後のチャンスね」
「最後ね……ヨシさん、最後はいいけど噴火しないでね?」
「もうしないわよ♪
魔女の丘も浄化してスッキリ清らかになっていたから♪」
「魔女の丘?」「やっぱり知ってたんですね」
ソラも来て紅茶とチーズタルトを並べた。
「魔女とされた罪人を風葬している禍々しさタップリの場所を知っていただけよ」
「よく怨霊化して騒がしい場所だったのよね。
南米も祓い屋が少ないから、ホンガンジとカミコウジによく呼ばれてたのよ~」
スザクインが補足。
「つまり、その魔女とされた人達の霊が出るから『魔女の丘』なんですか?」
「「その通りよ」他に何かあったの?」
「40億年と少し前に地星を滅ぼそうとした女神が居て『魔女』と呼ばれてたそうなんです。
その魔女神を封印した場所が『魔女の丘』だったんですよ」
「そうなの!?」「まさかルナール様情報?」
「ええっと、今回の魔女騒ぎで明らかになったんです。
ボク達に獣神様の欠片が入っているように理子さんにも魔女の欠片が入っていて……だからもう大丈夫だと思います!」
「そうなのね~」
「だからそもそも禍々しくて、そんな場所になったのね~」
「だと思います。
その魔女も神世に封印したそうです。
今度こそ出られない場所に」
「それなら安心しておくわ」「そうね♪」
「ねぇ、40億年前って、地星がドロドロに煮えたぎってた頃よね?」
「うん。だから出られないだろうって人世だったんだよ」
「そっか。でも冷えて固まったから出ちゃったのね~。
それで理子叔母さんにかぁ」
『あ~、やっと自由になれたわ~』
「「「「ん?」」」あっ、桔梗様!」
「修行スイーツ、いただけるかしら?」
奥から来て座敷に座った。
【ソラ、誰?】【キツネ様の奥様!】
ソラはせっせとお茶の準備中。
【魁さん家を引っ掻き回した鳳子さんも理子さんと同じ場所に行ってたんだ。
その身代わりをしてくださってたんだよ】
【あ! 狸頭の変な和装の方!】
【アタリ。鳳子さんは逮捕された後、警察病院に入院中だったんだ。
だから桔梗様は寝たきり演技してたんだよ】
【うわぁ~】
「桔梗様、和風スイーツ盛り合わせです」
桔梗好みの濃いめの緑茶添え。
「ありがとう♪ いただきます♪
それで魔女は本当に完結したのかしら?」
「はい♪ 彩桜がブルー様とチェリー様から魔女は終わりだと聞いたそうです♪」
「良かったわ。これで静かになるわね~」
「悪神は残ってて、まだ災厄が……でも、1つ完結で今日は平穏です♪」
「社の大騒ぎは?」
「超難解パズルなので何日か続くと思います。
交替で解いてますので、ボク達も夕方には また参加します」
「私も一緒に。よろしいかしら?」
「はい♪ もしかしてキツネ様とは、まだ?」
「眠らされていたのよ。
たぶん休まないから瑠璃さんにね♪」ふふ♪
「そうですか」くすっ♪
「そうなのよ♪ 今日のスイーツも最高ね♪
夕まで奥で ゆっくりさせていただくわね♪」
「はい♪」
「あちらのお嬢さん達にも同じものをね♪」
「あ……はいっ」
カウンターに背を向けていたので後ろからジト~ッと見られていた。
―・―*―・―
心咲と心愛は行きはジョーヌの背に乗って、帰りは歩いて奥ノ山の社からチーズ工房に着いたところだった。
「お社、キレイだったでしょ♪」ゴキゲン珊瑚。
「真っ白キラキラの方が本物なのよね?」
ずっと抱っこしている心愛。
「もっちろん♪ あ♪ お菓子~♪」
トレーを持ったジョーヌが戻ったのでジタバタ。
「うん。水分補給しないといけないから、お茶にしようね」
「うんっ♪」『珊瑚! 修行の時間!』
「今日はお休みなのっ」
ピョンッと飛び、奥へとターッと走って消えた。
「珊瑚!」戸口の紫苑も瞬移。
――社の中。「お休みなのっ!」
叫んで虚に飛び込んだ。
「もうっ!」追って入る。
「紫苑!?」
やっと追い付いたと思ったのに、な鮒丸。
「あの穴……何?」とことことこ。
そぉ~~っと覗き込む。
「どこに消えた?」「あっ! 兄様ダメ!」
「ダメも何も、ただの穴。
紫苑が消えたんだよ」
「そっか。まだ穴なんだ。
修行してトンネルになっても俺達は狐のままだと入っちゃダメなんです。
紫苑と珊瑚は狐神だから入っていいんですけど」
「わかったよ。力丸にはトンネルなの?」
「はい。一昨日やっとトンネルが見えました」
「そっか。だったら僕は修行するよ」
「一緒にしましょうよ」
「そうだね。戻ろう」「はい♪」
―・―*―・―
そのトンネルは瞬移も術移も出来なくされているので、紫苑は暴れたり方向転換する珊瑚に何度も蹴られていた。
「珊瑚いいかげんにして!」「お休みなのっ!」
「また甘えて!」「違うもん! おもてなし!」
とうとう珊瑚が出口へ。
「えいっ!」
襖を抜けて「お菓子~♪」ぱくっ♪
座卓に着地。
ガシッ!「んんっ!?」背と尾を鷲掴みされた。
「珊瑚ちゃん……」「おばーさま!?」
振り向きたくても全く動けなかった。
紫苑も到着。「おばあさまスミマセン!」
「紫苑くんは謝らなくてもよいのよ。
聞こえていましたもの。
珊瑚ちゃんは私に任せてね」紫苑に治癒を放つ。
「はいっ! 修行に戻ります!」ペコリ!
サッと押入れに逃げた。
「珊瑚ちゃん、よくも私の楽しみを食べたわね……」
「えっとぉ~、さっきのお菓子?」
「私は好きなものを最後にするのよ」
「ごめんなさい!」
「修行なさい! 私が指導します!」
珊瑚をプラ~ンとしたまま奥に行った。
「私達も修行しないとね~」「そうよね~」
ヨシとスザクインが立ち上がる。
「待って! 一緒に!」響がガシッ!
「ボクはお客様が来るまで座敷で瞑想するよ。
響も一緒に瞑想しない?」
「ヨシさんとスザクインさんも一緒に!」
「仕方ないわねぇ」「上がらせてもらうわね」
「どうぞ!」「座布団もね~♪」「うん」
響は両手が塞がっているので座卓を片付けるのも座布団を出すのもソラ。
カウンターを片付けるのも当然ソラ。
そして4人で向かい合って瞑想。
引き上げ合える形だ。
【では指導は任せてね】
うわ……【【【【お願い致します!】】】】
久しぶりに平穏な、それでもなんだか騒がしい――ええっと、にぎやかな日常を味わっている輝竜兄弟に関わる人達です。
とうとう捕まった珊瑚ですが……まだまだ当面はお転婆なんでしょうね。




