オロチとネコの結婚
オロチこと八頭 彪流とネコこと三春 音琴の結婚式は、輝竜家での二次会に移った。
鍋パ事故で運び込まれた若者達だけでなく、その後ミツケンやらに入社して中渡音に残っている若者達も集まり、輝竜家の広い居間を更に狐術拡張しても満員御礼な状態で皆が笑っていた。
それは廊下にも明るく響いていた。
「あの、こちらは?」「ジョーヌ博士の?」
「いいえ。黒瑯さんとリーロンさんのお家です♪」
「どうして私達が?」「何の集まりなんですか?」
「結婚式の二次会です♪
記憶、戻るかもです♪ どうぞ♪」
玄関に近いドアではなく、ぐるりと回って末席側のドアから そっと入った。
オロチが気付き、父親に何やら話している。
父親が向いて驚き顔に。
「どうやらアタリですね♪ ご親戚ですよ♪」
「「えっ……」」
「高砂席の新郎は八頭 彪流クンです」
「あっ……」「何か引っ掛かりが……」
この間にオロチの父親は、料理を運んで来たリーロンに案内を頼んで後方のドアから入り直した。
「文永君、弘安君、無事だったんだね。
彪流も家出して長く音信不通だったんだ。
それが結婚すると連絡をくれたのが4月で、今日めでたくだ。
来てくれて嬉しいよ。ありがとう」
ジョーヌは言葉を探している兄弟に大丈夫だと微笑み、その微笑みをオロチの父に向けた。
「八頭さん、お二人は記憶喪失なんです」
「そんな……」
「ですが無事です。元気です。
記憶も戻ると信じています。
そう思ってお連れしました」
「そうですか。私も信じますよ。
叔父と叔母も心配しています。
入院中ですから早く会わせてあげたい。
明日、彪流達と一緒に見舞いに行くんです。
先生、一緒に行けますか?」
「僕は医者ではありません。
今の仕事仲間なんです」
「仕事? 仕事は何を?」
「僕達が作ったチーズをレストランに運んでもらっています。
さっき案内を頼んだリーロンさんのレストランです」
「婚約式をしたノワールドラコ?」
「はい♪ チーズ工房は山奥なんです。
牧場は麓です。毎日とっても鍛えてます♪」
「身体は元気……それだけでも良かった……」
『あっ! オヤジとオジキ!
父さん来て来て! 早く!』
記憶は無いものの、察した文永と弘安が逃げようとしたが、如何せん満員御礼だ。
それに節勇が出入口を塞いでいる。
困っているうちに季勇と父が到着した。
「俺を育ててくれたオヤジとオジキだ♪
たぶんな、神隠し犯は途中で俺を捨てたんだよ。
拾って育ててくれたんだ♪」
「そうですか! ありがとうございます!」
「父さん、節勇、なんか場違いじゃない?」
「入ってください♪ 料理も沢山です♪」
ジョーヌにっこり♪
そこからは主役を高砂席のオロチとネコに返して若者達に任せたが、オロチの父は近い親戚を後ろに集めて文永と弘安と双子兄弟の父・武勇を巻き込んで呑んでいた。
少し離れて季勇と節勇はジョーヌと一緒に料理と葡萄ジュースを楽しんでいた。
「ジョーヌさん、オヤジとオジキ、マジで記憶スッカリなんですか?」
「子供の頃の記憶は断片的に戻りました。
でも……」
「ま、その方がいいよな……うん」
「って、つまりホントは……?」
季勇が節勇の顔を覗き込む。
「悪霊に乗っ取られてヤッたんだと。
けど……やっぱ神隠し犯は悪霊で、オヤジとオジキは俺を育ててくれたんだ。
まさか悪霊がガキ育てるとかナイだろ?」
「納得。そうだよね、優しそうだもんね」
「だから元気で良かった。
あ、どこ住んでるんですか?」
「稲荷山のチーズ工房です♪
そのチーズも僕達のチーズです♪」
オードブルを指した。
「コレ!? へぇ~♪」パクッ♪「ウマッ♪」
「このピザのも?」
「はい♪」『お~いチーズ博士~♪』
「「博士!?」」向くと戸口にリーロン。
「心咲チャンから電話だ♪」
【心話、閉じちまってたんだろ?♪】
「あっ、行きます!」慌てて行った。
「なぁオヤジ、博士って?」
「ジョーヌさんはヤマ大の教授――」
「「ええっ!?」」
「――うん、博士で教授ですよ」
「オヤジなぁ、その他人みたいなのヤメてくれよな。
父さんも慣れてくれたからオヤジも慣れてくれよ。
記憶なんてどーでもだから、もっとラクに――オヤジ!?」
俯いた頭を両手で強く挟んで小さく呻いていた。
「兄さん? 頭が痛――っぅ……」弘安も同じに。
あちこちから飛んで来た光が二人を包む。
季勇と節勇には、とても優しい光だと思えた。
その優しい光に任せておけばいいとも思えた。
「でも……他の人には見えてない?」「みたいだね」
待っていると文永が軽く頭を振りながら顔を上げ、弘安も続いて顔を上げた。
そして何度も頷く。
時々、兄弟で納得し合うように。
「少し……思い出せたよ」「そうだね」
「オヤジ? オジキ?」
「そう呼んでもらえる程の事はしていないよ」
「でも嬉しいよね」「そうだね「節勇」」
「ナンか~優しすぎてブキミ~♪」あはは♪
「節勇、あんまりだよ。でも嬉しいんだね」
「恥ずいからヤメロ季勇~」「やっぱり♪」
一緒に笑った。
「コッチいいから、アッチは?」高砂席を指す。
「あ……「彪流君だ……」」
ジョーヌから聞いたからではなく、確かに覚えていると確信しての言葉だった。
「思い出したな♪」「そうだね♪」
「後ろのオジサン達は?」
向く。「「逸流兄さん?」」
「思い出したんだね!」兄弟の間に座った。
「今日は目出度い! 嬉しい事だらけだ!」
―・―*―・―
「心咲ゴメン!」勢いよく開けて飛び込んだ。
「ちょっと心配しただけだから謝らないで」
「ジョーヌさんて、いいヒト~♪
ね、お姉ちゃん♪」
心咲と心愛はチーズ工房の宿舎でチーズ菓子いろいろを食べていた。
「チーズケーキは食べ放題だと思っていいけど、その服は?」
「と~っても美人な瑠璃先生が持ってきてくれて♪
ハイキングしたんです♪ 滝があって♪」
「小さな狐さん達が案内してくれたのよ♪」
「お礼 言わないとだから、白? 狐色?」
「こんがりキツネ色と~灰色?
灰色と茶色の間みたいな~♪」
「そうね。キツネ色のコが先導してたわね」
「狐色が力丸で鮒金色が鮒丸なんだよ。
お菓子が大好きだから少し貰うね」
「私達、行っちゃダメですかぁ?」
「じゃあ呼んでみるよ」
ジョーヌが出て行って暫し。
外が騒がしくなった。
バンッ!「お菓子ちょ~だい♪」
白い毛玉が飛んできた。
ぱふっ。「おいし~♪」『珊瑚!』
「あ~紫苑、もう乗っかって食ってるぞ」
「しゃべっていいのか? 普通の人だけど?」
ホールのチーズケーキの上には白い子狐。
戸口に狐色と鮒金色。
慌てて到着したのも白。「珊瑚っ!」
「紫苑君、いいよ。チーズケーキなら まだあるからね。
それに話しても大丈夫だよ」
「ジョーヌ様がそう仰るのでしたら……」
「紫苑君も力丸君も鮒丸君も好きなのを選んでね」
「「はいっ♪ ジョーヌ様♪」」
「ありがとうございます!」
「ねぇねぇジョーヌ様ぁ、いくついいの?」
ホールチーズケーキ上の珊瑚はクッキーやらを抱えている。
「珊瑚ってば! 恥ずかしいからヤメテ!」
「紫苑、どうして恥ずかしいの?」「もうっ!」
「珊瑚も何か呪われてるとか?」「あ~かもな」
「好きなだけいいよ」にこにこ。
「ジョーヌ様そんなこと言ったら――」
「ぜ~んぶ私の~♪」「「あ~あ……」」
「沢山あるし」あはは。
「売り物ですよね?」「だよなぁ」「うん」
「食べるのも修行だから気にしないでどうぞ」
奥に行って手招き。
「行こ~ぜ。紫苑も」「紫苑?」「……はい」
ついて行った。
「サンゴちゃん?」
「ん?」もぐもぐモグモグ♪
「ふかふか触っていい?」
コクン。ごっくん。「シッポ?」クルン。
「ぜ~んぶ♪」捕まえて むぎゅっ♪
「ぜ~んぶ食べていい?♪」
「いいよ~♪」すりすり♪
「それならいい~♪」「ありがと~♪」
珊瑚と心愛は気が合いそうだ。
ジョーヌと子狐達が戻った。
男の子狐達は頭に包みを乗せている。
「か~わ~い~い~♪」「わあっ!?」
鮒丸が捕まって、心愛は両手に子狐すりすり♪
「ジョーヌ様っ、これも修行ですかっ!?」
「そうかもね♪」
「わああっ! くすぐったっ! ヤメッ!」
あとは笑うだけの鮒丸。
「ね、ジョーヌ。
みんな忍獣ちゃんなの?」
「そうだよ。だから話せるんだ」
「ピクニックでは話さなかったけど……」
「話しても大丈夫って言われないと話さないんだよ。
大騒ぎになってしまうからね。
何かの研究所とかに捕まってしまうし」
「そっか。賢いのね♪」
「神だから話せてトーゼンなの♪」
「あ……可愛い♪」
隠し社は まだまだ大変な状況だが、久し振りに平穏だと実感したジョーヌだった。
―・―*―・―
「夕香ちゃん、そろそろ」「うん」
並んで勉強していた竜騎と夕香が片付け始めた。
「「どうしたの?」」「用事?」
勉強仲間達が顔を上げて傾げる。
「経営の勉強を始めるんだ。
船とか航路とかのも」
「竜騎は解るけど、なぁ?」
「堅太、今日は察しが悪いね」
「ナンだよ凌央? って、まさか!」
「竜騎はセレブなんだから、そういう事だよ」
「うわ……」
「彩桜は? お祝いの予定を立てないと」
『うんうん♪
竜騎と陽野さんの都合優先で♪
お祝いしよ~ねっ♪」
階段から声が聞こえて、ぴょんぴょん着席♪
手を繋いでいた紗を膝に乗せた。
「彩桜お帰り♪」一斉。
「紗ちゃん いらっしゃい♪」女子一斉。
「もしかして彩桜も?」「一緒に住むとか?」
「あ~、超セレブだもんなぁ」「そうだよね」
「ほえ? まだまだだよぉ。ね?」「うん……」
【絆だけは先に結んでもらお~ね♪】【うん♪】
鹿羽家と八頭兄弟の件は放置ではなくて、この日待ちで水面下では動いていたんです。
輝竜兄弟はオロチの本名を知っていますからね。
八頭兄弟と親しい黒瑯とリーロンとジョーヌが仕掛人だからこそのノワールドラコでの婚約式は、配達の仕事を始めたばかりの兄弟が運んだチーズをふんだんに使ったようです。
それも この二次会で互いに初めて知ったんです。
あ、婚約式と結婚式が続いたのはキャンセルがあったのと、もう1つ理由があって式を早くしてあげようと白久が動いたからなんですよ。
彪流も節勇も『ヤツガシラ』からの連想で『ヤマタノオロチ』だったんですね。
もちろん彪流は部首名だと知っていましたけどね。




