ドラグーナとラピスラズリ
紗が星香と仲直りした翌日、動物霊園でショウの葬儀を行った。
更に10日後、3月に入ったばかりの夜、サイオンジと共に九州に行っていた狐儀がキツネの社に帰って来た。
「珍しく梃摺ってたんだな」
オニキスも街から戻ったばかりで、犬から龍に戻した。
「ええ。どうやら大きな欠片を堕神同様に人の魂で封じるのは常套化されてしまったようですね。
作る人神の限界なのか、無理矢理に作った魂らしく不安定で、神力を使い熟せなければ怨霊化し易いようなのです。
ですので今後は更に幼い内に見つけ出し、導かねばなりません」
「サイとかソラみたいなヤツらが怨霊化なんてしたらエライコッチャじゃすまねぇな」
「はい……そうですね。
此方も何かあったのですか?
父に その事を伝えようと思ったのですが、ショウが見当たらないのです」
「ああ、ソレな。
あったよ。大きな事が。
ショウは死んだんだ」
「えっ――」バンッ!「えええっ!?」
「――力丸……」
「お前なぁ、盗み聞きすんなよな」
「だってショウが死んだって!!」
「その扉の前ででも修行してたのか?」
「うっ……違いますけどぉ」
「聞けるくらいに修行したのは褒めてやる。
だがな、社の中は聞くな見るな。いいな?」
「……はい」
「オレのダチ。
堕神犬のショウが死んだんだよ」
「ショウフルルじゃなく?」
「知らねぇよ、んなヤツ。
仮にだ。仮に、だぞ?
力丸のショウが死んだとしてだ。
神が人世で、人世の生き物として死んでも問題ねぇだろ?
ある意味、神に戻る近道だろーがよ」
「あ……そっか……」
「納得したなら修行に戻れよな。
ずっと狐でいたいのか?」
「修行しますっ!」たたたた、たっ!
「閉めてけ!」「うわっ! はいっ!」とたたたっ! バタン!
「静かに閉めやがれっ!」「はいっ!」
「ったく~、躾のなってねぇ王子様だな」
【んじゃあ、この話し方で続けるか】
【そうですね。ですが先に。
力丸を丸め込んでくれて、ありがとう】
【んん?】
【ショウの事ですよ】
【丸め込むも何も、ショウフルルなんかじゃなく犬のショウだからな】
【その、犬のショウがショウフルルなのです。
ダイナストラの弟の】
【マジかよ……】
【街で暮らしている、としか伝えていないのです。
犬だとも、彩桜様と友だとも】
【そっか。
彩桜父様は各々とダチなのか……】
【彩桜様に、各々には知らせぬよう口止めしたのも私なのです】
【それも修行の為なのか?】
【互いを知れば、互いだけを頼ってしまうでしょう。
獣神ばかりの人世なのですから。
私は……ラピスリ様もきっと、ですが、他者からの愛情を知ってほしいのです。
その上で、神としても成長してほしいのです】
【で、懐いたらティングレイスに立ち向かわせるつもりなのか?】
【それは……ダイナストラに委せます。
愛情の欠片も無く生み出したのですから、敵対しても自業自得というもの。
ですが……それでも王に付くと言うのなら神世に帰しますよ】
【ふ~ん。
フェネギが居ない間に判ったコトがある。
王子達を生んだのはティングレイスじゃねぇよ。
お前の皮を剥ごうとしたダグラナタンだ。
ダグラナタンはナターダグラルって名にして、姿も変えて、死司の最高司をしてたんだ。
人神皆を操り、玉座を奪ったのはヤツだ。
操る為にティングレイスの神力を全て奪い、取り返されねぇように三千もに分けて王子達を作ったのもヤツなんだよ】
【その証拠は?】
【疑いタップリなキツ~い目で見るなよなぁ。
エーデラークって知ってるか?】
【弟から聞いております。
死司最高司の側近の男神でしょう?】
【だよ。そのエーデラークをしてるのがマディアと奥さんなんだよ。
アイツ、イッチバン危ねぇトコに潜入してたんだ】
【無事だったのですね?
来ていたのですね?】
【無事だったよ。
相変わらず子供みたく小っこくて可愛かったが、イカツク強くなってたよ。
奥さんのエーデリリィ様はオレ達の姉様で、やっぱスンゲー強いんだ。
で、ナンで来たのか、何があったのかを話すけどな、その前に何か食わねぇか?
犬すると腹減るんだよなぁ。
甘~い匂い漂ってるからガマン限界だよ】
【彩桜様が いらしていたのでしょう。
パンケーキのようですね】くすっ♪
―・―*―・―
この日の診察を終えた青生と瑠璃は、入院動物達の様子を確かめた後、事務室に入り、各々の席に着いた。
「青生、少し……よいか?」
「うん。ずっと何か話したそうだったよね。
何でも言ってよ」
「気付いていたのか?」
「なんとなくね。
俺も治癒を強めたいと思っていたんだ。
今回みたいに重傷動物が同時入院すると瑠璃の負担が大きくなってしまうから。
何か良い方法があるの?」
「そこまで……」流石、父様だな。
「何にせよ、瑠璃に頼るしかなくて申し訳ないんだけどね」
「私の『欠片の神様』が、青生の神様を目覚めさせるべきだと仰ったのだ」
「瑠璃は話せるんだね。
なんか……羨ましいな」
「好きに話せる訳ではないが、迷うなと仰った。迷えば過つ、と。
だから、これから開きに行かぬか?」
「うん。お願い。
お稲荷様の社に行くの?」
「先ずは其処だな」【呼んだか?】現れた。
「今日は狐の姿なんですね」にこにこ♪
【此方が本来の姿なのでな。
では、儂の背に掴まれ】
「はい」「宜しくお願いします」
そして、目まぐるしく景色が変わって月へ。
「此処は……?」
「月だ」
「え? 息……出来ている?」
「儂が居るからな」神だから、なのだが。
「あれは……本物の龍神様?」
「然うだ」赤も緑も、お前の子だ。
「お稲荷様も……」
「儂の弟達だ」術移。
――神殿前に。
「あ、また龍神様」
「然うだな」お前の兄達だ。
気付いたらしい蒼銀龍達が来ようとしていたが、青龍が先に青生達の前に現れたので慌てた様子で引き返した。
《やぁ、ドラグーナ。久しぶりだねぇ。
もしかしてラピスラズリ?》
「ドラグーナ? ラピスラズリ?」
「青龍様、其の名では……」
「欠片の神様の御名前だ。
私の方がラピスラズリ様だ」
首を傾げる青生に瑠璃が耳打ち。
《そうだったねぇ。つい、うっかりね。
『力』を開くんだったよねぇ?》
「お願い致します」深く礼。
背から降りた青生と瑠璃も礼。
《それじゃあ始め――》【オフォクス~♪】
「今度は鳳凰の神様……?」
「置いてくなんてヒドい~」
降下して来た真紅の鳳凰は、青生の頭上で白兎に変わり、スポッと青生の胸元に収まった。
「ドラグーナ♪ 久しぶり~♪」
「だから其の名は――」「初めまして……」
「ん♪
ねぇねぇ青龍様~、この封印スッゴク強いよ~? 身体、必要じゃない?」
【そ~でしょ? 古の四獸神様~♪】
呼ばれた朱雀、玄武、白虎も現れて青生を囲む。
《ふむ……》《確かにのぅ》
《こりゃあキツいなっ》
《やっぱり?》
《力任せに無茶苦茶しおったんじゃろ》
《大勢が寄って集って、であろうな》
《絡み具合が酷ぇよなっ》
《それじゃあ……》
《しかないじゃろぅな》朱雀と白虎も頷く。
青生の胸元でスリスリしていた兎は、ぴょんと跳ねると鳳凰になった。
《借りるぞ》【は~い♪】
朱雀が重なる。
それを見上げていた青生が視線を戻すと稲荷の姿が見えなくなっており、キョロキョロしていると、地べたに苦虫百万匹みたいな渋~い顔の大亀が居た。
「でも……頭と尾は蛇?」
《蛇亀なんじゃよ》
笑いながら玄武が入った。
遠くから白虎の神が全力で宙を駆けて来た。
【御呼びで御座いますかっ!】
《また借りるぞ♪》
【はいっ!
えっ!? ドラグーナ様っ!?】
《だよ♪》入った。
《ラピスラズリ、いいかなぁ?》
【はい……】
〖僕が姿を変えたって事にすればいいよ~〗
【はい。では――】龍に。
「瑠璃の……欠片の神様……綺麗……」
《ドラグーナも綺麗なんだよ~》重なった。
宿り、宙に浮いた古の四獸神が青生を囲んだ。
足元に光を感じた青生が確かめると、赤青白の光と闇で描かれた魔法円が在った。
詠唱が始まる――
この章の主役は瑠璃とその前生であるラピスラズリです。
さて……既にユーレイ探偵団本編を越えるくらい長くなっていますが、実は序の口なんです。
第二部は本編より少し短いのですが、第三部は本編主役達も加わって……と~っても長くなっています。