襲われたハーリィ
桜華はキツネの里の長を継いでくれた同代妹で双子の月華と星華に緊急だと呼ばれて大陸に渡っていた。
【珊瑚、皆様に迷惑を掛けないよう、修行していてね?】
【里の中なら遊んでもいい?】
【騒がしくしなければ遊んでもかまわないわ。
紫苑、よく見ていてね?】
【はい♪】【私が姉なのにぃ~】
桜華は笑って妹達へと術移した。
――【やっと来たぁ】【待ってたんだからぁ】
【ごめんなさいね。珊瑚が来るって聞かなくて行ったり来たりしてしまったのよ】
【【珊瑚ちゃんは?】】
【里に。紫苑に見てもらっているわ。
それで何があったの? 此処は……ロシア?】
【そうよ。ロシアに入ってるわ】
【あの不穏を纏っている魂頭部みたいなのを巡視していて見つけたのよ。
私達じゃ無理っぽいから桜華に判断してもらって、出来れば父様に知らせてもらいたくて呼んだの】
【あれは……此処にも落ちていたのね……】
【【知ってるの?】】
【今朝方、理俱様が樺太で見つけたと、父様のお社に運び込んだの。
昼には5つになっていて、キメラ魂頭部だとか話していたわ。
珊瑚に振り回されていたから、その後どうなったのやらだけど】
【【あ!】】【また落ちたわね】
姉妹が天を見上げた。
【此処だと真上は職域の外だと思うのだけど……?】【【ああっ!?】】
【行くわよ!!】【【うん!】】術移!
――人世の空、上端。黒い塊が落ちて来ていた。
しかしまだまだ遠い。
【これ以上は危険よ。神道ではないのだから。
浄禍網を張って待ちましょう】
【そうね】【かなり上だもんね】
―・―*―・―
【オフォクス様、青生先生達は此方ですか?】
【ジョーヌか。隠し社の奥だが、梅華では手に負えぬ急患か?】
【いえ、そうではありませんが――】
【彩桜また倒れるようなことしてませんか?】
【あのっ、僕達ではお手伝いできませんか?】
ジョーヌは悟と竜騎に頼み込まれたらしい。
【ふむ。奥に案内しよう】
【【【ありがとうございます!】】】
―◦―
案内すると言ったオフォクスだったが、悟と竜騎の神力を確かめた後クーゴソンと話し、キャンプー(当然ながらガネーシャ付き)とも話してから隠し社の奥に連れて行った。
【あ♪ 浄化お願い~♪ 部屋中ね~♪】
【何やってるんだ?】
【超難解パズルなの~。失敗ダメなの~】
【神様の魂頭部が複雑に絡み合ってるです】
【ふ~ん。そのチッコい手、何だ?】
【掌握♪】【神力で成しているです】
【神力なら俺達も出せるようになるんだな?】
【なるなる~♪】【でも今は浄化が嬉しいです】
彩桜とサーロンは分身で演奏しながら浄化と治癒もしながら掌握も操作しているので。
【浄化なら任せろ♪】【得意だもんね♪】
【あれ? ジョーヌさんは?】【あっち】
【金錦兄トコお手伝いに決まったみたい~】
【白竜、始めようぜ】【うん♪】
【あ……】【どしたのサーロン?】
【マーズ、揃ってる】【うんっ♪】ホントだ~♪
―・―*―・―
【あの禍……】【【誰か中に居る!!】】
危険を承知の上で神世側に飛ぼうとした その時、上に現れた龍神が浄化光で鱗を煌めかせて急降下し、禍ごと背に掬った。
【早く此方に!】【【浄禍網に早く!】】
一気に神力網を拡げた。
【はい! ありがとうございます!】
《ケモノ共めが! 目障り極まりない!
諸共に禍で滅してやる!!》
男女の声が混ざって反響するので聞き取り難かったが、そう言ったとしか思えなかった。
禍々しさからも敵なのは間違いないと、桜華は攻撃体勢に。
【月 星は助けるのを優先!】
上へと術移すると、即座に戦闘が始まった。
【包むから!】【瞬移して!】
必死な表情が見えるくらいに近くなった赤紫鱗の龍神は、頷いて神力を振り絞り、瞬移して浄禍網に収まった。
【急いで父様の所に!】
【桜華! 無理せず逃げてね!】大術移!
――キツネの社。【【父様っ!!】】
【今度は月華と星華か】現れ【奥に!】
纏めて連れて行った。
【先に頼む! ハーリィとプラムだ!】
―・―*―・―
《どこまでも忌々しい!!
こうなったら私とオーロちゃんを集めてケモノなんぞ根絶やしにしてやる!!》
禍を一気に巨大化させて放ち、逃げ消えた。
「あんなものが人世に落ちたら――」
桜華は己が命も顧みず、全神力で大禍を追いつつ浄滅禍し始めた。
―・―*―・―
【【お稲荷様! 桜華様を助けないと!】】
青生と彩桜の声で目を開けたオフォクスだったが、今は術の途中だと悔し気な目で語り、詠唱を続けた。
【ドラグーナ様……】
【うん。5人居てくれたら俺は保てるよ】
禍に溶かされてしまったプラムの鱗を、ラピスリの透化鱗を種として再生詠唱中のドラグーナが微笑み、藤慈に頷いた。
【彩桜、闇呼玉をください】
【私共が参ります】
【藤慈兄、狐松先生お願い。はいコレ】
治癒と浄化を維持している者も動けないので彩桜も悔しそうだ。
【俺達も行くぞ、紅火】【む】コク。
狐神兄弟が紅火と藤慈を連れて術移した。
――【桜華! 無茶するな!】
着くなり理俱が桜華を禍から引き離した。
【【闇呼玉発動!】堅固防壁】【強浄聖水!】
紅火と藤慈は掲げた闇呼玉のみを外に出して成した球状防壁を聖水で満たした。
巨大だろうが強大だろうが凶大だろうが、禍は あっという間に闇呼玉に吸い込まれ、夜明けが近い清々しい空に戻った。
【無事か?】【触れたか掠めたのでしょう?】
桜華は左手を隠すように身体を捻っていた。
【大したことでは……それより逃げられてしまって……】
【また現れますよ】【いずれは倒せる】
【仰る通りですよ】【早く社に戻ろう】
背に親友を乗せている狐神兄弟は桜華を連れて術移した。
―・―*―・―
そして朝を迎え――
〖ハイハ~イ♪ マーズは日常してね~♪〗
【ガネーちゃ師匠ってばぁ】
――鼻先で背を押されて社の外へと追い出された。
〖ほらほら早く行かないと遅刻するよ~♪
ボク達は大神なんだから~♪
先にシッカリ休ませてもらったから~♪
と~っても元気なんだよ~ん♪〗
【でもぉ――】〖神を信じなさ~い♪〗
そんなこんなで大神達と交替したマーズは、ドッカン暴風的な浄治癒を浴びて日常に戻った。
授業が始まった。
中学校に居られるのは嬉しい彩桜だったが、心配事だらけで落ち着いてはいられなかった。
「お~い輝竜、解いてくれるかぁ?」
木曜日の1時間目は数学なので、なんだか楽し気な算木が教壇に居る。
「はい――って全部?」3問なのに俺だけ?
「楽勝だよな~?」
「いいけどぉ~」前に出て書き始めた。
が、片神眼は社に向けていて、もう片神眼は青生を見たりソラを見たりしていた。
ん?
何かが過った気がして神眼キョロキョロ。
悟と竜騎も違和感の元を探している。
【青生兄 ソラ兄。ナンか通らなかった?】
【俺も微かな不穏を感じたんだ】【ボクもです】
【警戒を怠らず、神眼は全方位に】長から。
【はい!】全マーズ。
―・―*―・―
微かな不穏は一度きりで、以降は何事もなく夕刻を迎えた。
アトリエでの勉強会に参加したかったが、彩桜は悟と竜騎と巨大プリン2つを連れてキツネの社に行った。
――サーロンも同時到着。
巨大プリンをオフォクスの部屋に置いて、子供マーズは揃って隠し社に入った。
大神達が疲労困憊だが嬉しそうな笑顔を一斉に向けた。
【来てくれたのだな】ツクヨミが飛んで来た。
【朝の大神師匠達は?】
【昼に交替した。かなりな神力を要するのでな】
【そっか。
あのね、朝、9時過ぎだったかにゃ?
微かな不穏、来なかった?】
【不穏だと?】【私は感じたわ】
アマテラスも来てツクヨミと並んだ。
【照月が本浄神社に行っていた間よ】
【ふむ。ならば納得だ】
【それっきり?】
【そうね。一度きりよ。
ガネーシャちゃんが魔女と悪神を混ぜたような臭いだと騒いでいたわね】
【やっぱり……まだ残ってて一緒に居るんだ……】
【彩桜、それは警戒しておくしかないよ。
交替しないと】【だよねっ♪】
【カラ元気だよね? 無理しなくていいよ】
【でもねぇ、不穏には陽気でしょ♪
朝の不穏は偵察でメンバー確認。
マーズ揃ったら来るから――あ……】
【拾知?】【かも~】あ~あ~あぁ……。
―・―*―・―
ラピスリは再生最高司にハーリィが禍で攻撃されたと報告し、代わりの最高司補として職域に居た。
【瑠璃、職域の北東に行ってみない?】
今ブルーも再生最高司次補になったので居る。
再生最高司は最高司補にと言ってくれたのだが、今ピュアリラを補佐したいからと次補を望み、その通りになったので大喜びだ。
【そうだな。樺太の真上周辺を調べるべきだな】
【それ、俺には無理なの?】机上を指す。
【青生の方が得意だとは思うが……】
【職神様の事情は教えてもらえないのかな?】
【半獣半人神扱いされているのだったな】
手を差し出した。
【ありがと♪】握手。情報を貰った。
【じゃあ半分貰うね♪】
さっさと書類の山を持ってソファに戻った。
【青生兄~】
【どうしたの彩桜?】
【神世?】
【うん。瑠璃がハーリィ様の代わりをしているんだよ】
【そっか。じゃあ待つ~】
【何かあったんだね。話して?】
【んとねぇ……たぶん魔女と悪神が一緒してて、お社の真上に居るのぉ。
マーズ揃うの待ってるのぉ~】
【俺達の他は?】
【揃ってる~】
【なら中断して行くよ。
そもそも夜には人神様は眠るからね】
【ん。待ってるのぉ~】
共鳴連動する上に拾知持ちな青生と彩桜だからこそ神世と人世であろうが話せるのであって、普通は神であろうが無理も甚だしい事だった。
青生は敵に察知されないよう終わった書類を運ぶだけな振りをして近寄り、瑠璃の肩に触れて彩桜の話を伝えた。
息子を取り込んだのか従えているのかな魔女に禍攻撃されたハーリィと、夫を助けに行ったプラムへの治癒は暫く続きます。
邪魔者マーズのメンバーを確認した魔女は何を企んでいるのでしょう。




