古カリュー王族の秘密
ドラグーナの話が終わる頃には夜中になっていた。
しかし禍の滝は神世の東の最果て。
青生と彩桜も目覚め、魔女に取り込まれていた女神達も動かせられる状態になったので人世に戻ると、邦和はまだ雲の隙間に茜色が見える夏至間近の陽が落ちたばかりの時間だった。
王妃と大将軍達は魂片女神達への保護と回復を強化する為に隠し社に行った。
青生と彩桜も万全ではない為に瑠璃が連れて部屋に入ったので、他の兄弟は稲荷の部屋でドラグーナから続きを聞く事にした。
【カリューの過去とか、魔女と悪神が取り込んだ神様達を盾にしたとか、今まで隠してたんですかぁ?】
【白久兄、イキナリだぞ。
隠し事じゃねぇってオレが話したろ】
【ありがとう黒瑯。
新たな情報は全部、今日の戦いの中で青生と彩桜が拾知したんだよ。
詳しくは見ていられないからと真上の俺の尾に丸投げしてきたんだ。
保護大器を開けた時と、魔女大器を開けた時に一気に入ってきたらしくてね。
拾知は予知と情報収集の万能神力じゃない。
青生と彩桜は使い熟していて自由自在に必要な情報を集めているように思えるだろうけど、好きな時に望む情報が得られるものじゃないんだよ。
様々な思念と一緒に届くし、タイミングが悪い方が多いのかもね。
今日のも、的確に速攻しないといけない時に妨害かという程に大量の情報が飛び込んできたから、突然の洪水に巻き込まれたみたいな状態で二人は必死に戦っていたんだよ。
表面上は周りが焦ったり困惑しないように普段通りだと伝えていたけどね】
【だから倒れた?】
【それも、になるかな?
術が重いのも確かだからね】
【けど、そんなら保護大器の方は後でよかったんじゃ?】
【力尽きてたら開けられねぇだろーがよ。
白久兄ちったぁ冷静になれよな。
ここんとこ変だぞ? 焦ってんのか?】
【そうか……焦り、なのかもな……】
【オレもピヨピヨシッポだったのは正直ショックだったけどな、間に合わねぇかもだけど気合い入れ直して頑張るっきゃねぇだろーがよ】
【だな。黒瑯の言う通りだ。
青生が時間無いつった時、頭に破砕鉄球 喰らったみたいな気分だったんだよ。
一気に焦ったんだろーな。悔しかった。
ナンで俺が最後だったんだよ、ってな。
今日のも差を見せつけられた気分だった。
けど間違ってたと解ったよ。
遅れてる俺も連れてってもらえたんだからな。
ありがとな黒瑯。
皆にも心配かけちまった。すまねぇ】
【もう謝らず前を向いてもらいたい】
【おう。兄貴、ありがとな】
【それじゃあ青生と彩桜の最近の修行方法を教えるよ。
今は取り込み中の隠し社だから明日になるけどね】
【【あの二人、特別な修行してるのか?】】
【オフォクスの手伝いをしているだけだよ。
人神魂だから出来るってね。
手伝いながら作業方法を改善して、オフォクスが休憩できるようにしたんだよ】
【ずっとロシアだったのに?】【いつの間に?】
【その前からなんだけどね、ちょっとでも時間があれば瞬移して来ていたんだよ。
その積み重ねがあったからこそ呪われても逃げ込んで耐えられたんだ。
強い呪だったから並みの神だと一瞬で乗っ取られて、何も出来ないままに喰われていただろうね】
【ドラグーナ様が一緒でも?】
【俺なんて並み以下だよ】
【【いやいやいや】】兄弟皆、気持ちは同じ。
【部屋の気が良くなったから進めるね。
古カリューの情報の中で王妃様方に話していなかったのは、支配や操禍の出所なんだ。
支配はカリュー王家が代々持っていた。
神らしく悪い事には使っていなかったけど、理不尽な反対勢力を黙らせたりはしていたみたいだね。
その神力を魔女は欲したんだ。
でも簡単に貰えるものじゃないから、先ずは息子にと考えた。
将来は王母から女王になるのに息子ごと取り込もうと企んでね。
でもオッドカリュー王は持っていなかった。
弟で宰相のローレカリュー様と正妃シャナカリュー様は持っていたんだ。
だから魔女はカリカルパ様に濡れ衣を着せ、養父ローレカリュー様は共謀者だと追放したんだ。
そのずっと後に、やっぱり危険な賢神だと、手足にしていたロゼリィシャイン様に術で滅させたんだ。
ローレカリュー様を追放した後、シャナカリュー様を取り込んで第二の真核とする事で支配の神力を得、後に正妃の座も得た。
魔女は真核が2つに見えたけど、片方はシャナカリュー様だったんだよ。
そうして得た支配を子オーロザウラにも王位を得させる為に分け与えたんだ。
だから母子共に支配を持っているんだよ。
魔女の場合はシャナカリュー様を核としている側だけなんだけどね。
操禍は幼いオーロザウラが魔女の指示で真っ先に取り込んだ大臣から。
そんなに強くなかったんだけど呪を重ねられているうちに凶暴化してしまったんだ。
生来の神力じゃないから呪を重ねられているうちに生じたとアミュラ様もお考えだったけど、そういう流れだったんだよ。
最終的には支配も操禍も呪を重ねられて使えなくされてしまうんだけど、その頃には魔女は居なかったから自分で判断して子ザブダクルには操禍、シャルダクル様には支配を込めて、各々の神力が変化するか呪から逃れるのを待ったんだ。
魔女と同じく子を取り込むつもりでね。
魔女が持っていた光耐性は、オーロザウラには効力の一部しか与えなかった。
何かあって滅されても困るけど、最終的には取り込むつもりだったからね。
だからオーロザウラには浄化光が普通に効く。
浄魂には耐えられるみたいだけどね。
オーロザウラはルサンティーナ様の神火にも太刀打ち出来なくて浄滅されそうになった。
アミュラ様も居たから見つからないようにしなければと、取り込んだ神様達の魂核でカモフラージュして気付かれないように逃げたんだよ。
神火が直接 触れないように盾にもしてね。
だから望み薄なんだけど、カーリザウラ様の真核は持ったまま逃げていたから、他にも重要な神力だからと まだ保持している可能性は残っていると思うんだ】
【つまり、まだ悪神が居るんだな?】
【そう思うよ。いつ現れるのか、災厄の原因になるのかどうかなんて全く分からないんだけどね】
【現れたならば即座に対処するのみです。
オッドカリュー王様が子に『カリュー』を付けなかったのには理由があったのですか?】
【金錦は心の内で それをずっと気にしていたね。
そもそも国名は人で言えば王族名とか王朝名に当たるんだ。神には姓が無いからね。
だから『オーロザウラ』は幼名と言えるかな?
シャナカリュー様からの情報だとカリュー王国では成神した時か即位した時に『カリュー』が付いた名に変えるみたいだね。
オッドカリュー王はオーロザウラにだけは『カリュー』を与えたくなかったんだ。
だから愚神オーロザウラが気付かないように、クールサウラ王太子にも成神した時には与えずに、即位した時にと考えていたみたいだね。
もちろん魔女にも王族しか知らない そんな話なんてしていない。
気付かないままだったし、王族を全て滅したり取り込んだりして王になったから、『名付け』という神力強化をしてくれる者が居なかったんだ。
そんな訳でオーロザウラもザブダクルも『カリュー』を得ていないんだよ】
【にゃんかスッキリ~♪】
【【【【彩桜、寝言か?】】】】【兄様……】苦笑。
【違うもん。聞いてたんだもん】現れた。
【お邪魔虫だから来たんだもん】藤慈にピトッ。
【もう大丈夫なのですか?】よしよし。
【うん♪ 元気なった~♪】にこにこ♪
【黒瑯兄のピッパルト様と藤慈兄のカリカルパ様は? また寝ちゃった?
他の魂材様は起きなかったの?】
【ピッパルト様は古カリューの話 聞いて号泣してたんだけどな、
『こうしてはいられません!』て爆睡修行中だよ】
【カリカルパ様も眠り修行中ですよ】
【ん♪ ね、ドラグーナ様。
どぉして急に目覚めたの?
シャナカリュー様効果?】
【それはありそうだよね。
あとは神力だらけだったのと、神世だからかな?
やっぱり人世と神世は違うからね。
神世の気に触れたのも良かったんだと思うよ】
言われて見ればドラグーナも神世では確かな身体があったが、今はユーレイみたいな半透明だ。
【そっか~♪
フレブラン様は分割なってるからダメ?
でもスヴァット様、シッカリ起きてるよねぇ】
『おう♪ おい黒瑯、人で言うなら病人用の粥みたいなのの神用を作るぞ。
レストランにでも家にでも移動してくれ』
「そんじゃあオレは帰るからな♪
フレブラン様のは白久兄で頑張ってくれ♪」
返事は待たずに瞬移した。
【あ♪ アフェアン師匠とサマルータ師匠が集めた神様が起きたらフレブラン様も起きるかにゃ?】
【見えたのかぁ?】
【んとねぇ、なんとな~く♪】
【つまり確定なのですね?♪】
【うん♪ 藤慈兄アタリ~♪】
【そんなら焦らず待つかぁ♪
で、兄貴のは?】
【リュニヴェ様、時代が違うみたい~。
たぶん2国対立期なの~】
【私もお待ちするのみだ】
【ん♪】
【そ~やって拾ってるのをただ見てると楽勝で使ってるとしか思えねぇが、水面下は ど~なってるんだぁ?】
【水面下?】
【丸投げを貰って思ったのは、入ってくる時も拾いにいく時も膨大で雑多なノイズだらけだって事。
目当ての情報をキャッチするのは、砂浜で砂粒と同じ大きさの宝石を探すようなものだよ】
【ドラグーナ様、そんな感じに見えたのぉ?】
【うん。砂漠から発掘しながら話したからね】
【ふぅん。俺、そんな苦労してにゃいよ?】
【そうなの?
拾知持ちとしては、どんな感じなの?
彩桜の場合は闇持ちな方が強いのかな?】
【闇て何でも引き寄せちゃう?
青生兄にも言われたけどぉ、闇呼吸着、不穏ナイと無理だよ?
でも情報はスイッて来るねぇ。
やっぱり引き寄せてるのかにゃ~ん?】
【彩桜の場合は食べ物も胃袋に吸着してるだろーがよ♪】
【してるかも~♪ お腹空いた~♪】
【【ほらよ♪ 彩桜の分だ♪】】
戻った黒瑯と一緒に運んで来たリーロンが言いつつ彩桜に大皿を渡し、兄弟にも皿を手渡していった。
【腹感覚は夜食だろーがコッチ時間だとバッチリ夕食だからなっ♪】
【ま、ナンにしろ腹減ってるだろ♪】
両手に特大オカモチを持った二人は隠し社に向かった。
【いっただっきま~す♪ 美味し~♪】
【なぁ彩桜。
今日のデカ術連発攻撃も俺が双璧で加われてたら倒れなかったのかぁ?】
【ん~~とねぇ……白久兄もコッチだったら俺と青生兄 楽なったかもだけどねぇ、結界強化も大事だからぁ、ソッチ減ってたら逃げられてたかも~】
【考え考え思いやりフォローありがとな。
そんなら俺は双輪双璧して守りも抜け無く、参戦も出来るよーにバッチリガツンと修行すっからなっ!】
【白久兄メラメラ? どして?】
【シッポが親指サイズのピヨピヨだったからだよ!
ヤルっきゃねーだろーがよ!】
【ん♪ 一緒にガンバル~♪】
【差が縮まらねぇだろーがよぉ】
【もっと拡げる~♪】【コノッ!】
【彩桜、青生兄様は? 大丈夫なのですか?】
【瑠璃姉と仲良しさんしてる~♪
一緒にご飯食べてる~♪】
【安心しました♪】【うんっ♪】
【で、相変わらず連動しちまうのかぁ?】
【一緒に起きたの~。
瑠璃姉『同時に目を開けたな』言ったの~】
兄達は『やはり』と顔を見合わせた。
【あんまり心配しにゃいでぇ。
だから倒れたりしないよぉにイッパイ修行してるからぁ】
【二人を信用している。
が、無理の無いようにな】
【うんっ♪】
秘密と言うか、魔女に対して隠していた事、くらいですけど長いので~。
そんなこんなでオーロザウラには『カリュー』が付いていなくて、ザブダクルにもナシという流れになったようです。
悪事三昧で浄魂されなくて増殖する母子……。
お~い私。どう終わらせるつもりだ?




