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暗愚姫と獅子王



 静香と虹香はカロリーナに『普通』を教える為に、また、何もせずとも食べられるのは幸せなのだと知ってもらおうと、カイロ会場のマーズショップに連れて行った。

「食べ物を得る方法には、己で育てるか猟や漁をするかの自給自足と」

「働き、金銭を得て買うといぅ方法がある。

 大まかな説明なのじゃがな」

「前者が無理なのは百も承知。

 故に後者を体験してもらう」

「この店で売り子をするのじゃ」


「うりこ?」


「買い物すらした事が無いのかの?」


「かいもの?」


「物の売買すら知らぬのか?」

「城にも商人が来るのじゃろ?」


「商人なら来るわ。

 だったら『かいもの』ってドレスとかアクセサリーとかを選ぶことなのね♪」


「金を見た事も無いのか?」


「かね?」


「物はタダでは手に入らぬ。

 金との交換なのじゃ」


「交換? したことないわ」


「ヌシでなく誰ぞが支払っておったのじゃっ」

「しかし此程までとはのぅ……物流の基礎から話さねばならぬのか」

「然様じゃな……」

姫達でも溜め息が溢れるのだった。


【お~い虹香。

 陽が暮れたら一気に気温が下がるからドラもどきパンケーキに切り替えだからな。

 今の最後尾とレジ横にカンバン頼む】


【あぃな驪龍(リーロン)♪】

虹香は立て看板ではなくプラカードを持って大喜びで瞬移した。


【姉様は放棄かの?】【此方も大事な仕事じゃ♪】


仕方なく静香だけで説明を始めた。



―・―*―・―



 アリオールの試験終了時間が間近になったので、皇帝は藤 緑マーズを伴って学習室に向かった。

帝子達は日常、個別授業は自室で受けているが、集まっての講義・講演を受ける場としての学習室も在るのだった。


その移動途上の廊下で皇帝を探していたらしい長男のミハエリクが駆けて来た。

「父様、お急ぎでしょうか?」マーズに礼。


「では学習室に共に」「はい♪」



 学習室のドアを開けると、アリオールは緊張を(よぎ)らせて兄に小さく頭を下げた。


「藤マーズ殿、緑マーズ殿。

 採点をお願いしてもよろしいかな?」


「「はい」」アリオールの前へ。



 父と長男(ミハエリク)は少し離れた席に並んで、斜に向かい合った。

「どうかしたのかね?」


「父様がマーズの何方かとお話し中だと伺い、このご指導をくださった方にお会いできるかと来てみたのです」

ノートを出して開いた。

「アリオールは もうご指導いただいているのですか?」


「邦和留学は試験に合格した者からと伝わっておるな?」


「はい。母様から伺いました」


「アリオールは試験を受けたのだ。

 その採点をマーズに頼んだ。それだけだよ」

「失礼致します。採点結果は合格です」

緑マーズが『98/100』点だと朱で添えた解答用紙を差し出した。


「ふむ。確かに合格だな」

「ではアリオールが先に留学するのですか!?」


「ミハエリクも今から受けるか?」


「まだ和語が……」


「ふむ。何時(いつ)でも構わぬよ」


「それもあっての、ご指導を賜りたく!」

「ああ、その朱書きは桜マーズですね」


「えっ? 彼は初等なのでは?」

「13歳だそうだ」「ええっ!?」←14歳。


「桜マーズと空マーズは中等生ですが、米国大学卒業資格試験に満点合格しておりますよ」

【狐松先生~喋り過ぎなのぉ~】

【事実です】ふふ♪

「だからこそ子供ながらに上忍なのです。

 忍者とは何事に於いても完璧を目指す者。

 中でも上忍とは自身の判断での単独行動が許される一人前の忍者(スペシャリスト)なのです」


「幼く見せているだけなのですね。

 まさかカロリーナだけが見抜いていたなんて……」


「どうやら見抜いたのではなく執着しておるようなのだがな」

父はアリオールをチラリと見た。



―・―*―・―



 大きく赤くなった陽が砂の地平へと沈むに連れ、気温の低下を肌で感じ始めた頃、プラカードを持った虹香が先頭になった。


 静香は説明を諦めて大溜め息をついた。

(かね)は初めて見るもので、隣接する国の多くが話すアラビア語は全く。

 計算も出来ぬし、これでは何もさせられぬ。

 何度 説明しても入らぬし……これでは、この程度を理解してもらうのですら数日を要しそぅじゃ。

 説明はヤメにして働いてもらうぞ。


 この棚の向こぅは調理場じゃ。

 棚に出来上がりが置かれたならば、トレーごと此方のお渡しカウンターに運ぶ。

 それだけじゃ」


「運ぶ、だけ?」


「これより簡単な仕事が無いのじゃ」

と言うか、運ぶ必要なんて全く無い構造なので居れば邪魔なだけなのだが、追い出す(野に放つ)訳にもいかず、今は城に戻すのも悪い方向にしか進まないと彩桜から連絡があった為に、それをさせるしかなかったのだった。

幼子(おさなご)でも出来よぅぞ。

 ささ、始めるのじゃ」

最初のトレーは手本として静香がお渡しカウンターに置いた。

それを外の虹香が番号札と引き換えに渡している。

「空トレーは此処に積むのじゃ。

 これならば出来るじゃろ?」

狭いので静香も外に出た。


 次のトレーが棚に置かれた。

「あら♪ とってもキレイで美味しそうね♪」

ワンハンドグルメなドラもどきパンケーキなので手に取り易い。

躊躇なくパクリ♪


カウンター前の客が指差して大騒ぎ!


「「何をしておるのじゃっ!!」」

【15002番、再度 大急ぎじゃっ!】

【あ~野良姫が食っちまったかぁ】


「とっても美味しいわ♪」次も手に取る。


【お~い静香】【虹香、どっか連れてってくれ】

【お渡しは私が】

くノ一なリリスが現れて、両手にドラもどきなカロリーナを外に出した。


【うむぅ~】

【彩桜が行っておった王墓に閉じ込めよぅぞ】

【じゃな♪】

両側から確保して瞬移した。



――彩桜とサーロンの大活躍で大収穫だった調査隊は既に帰っており、静まり返っているピラミッドの中。

「泥棒は投獄されるものじゃからの」

「店が終わる迄、大人しくしておれ」


「泥棒って!?」


「客の注文品を勝手に食べたであろぅ」

「盗み食いにも程がある愚かな行為ぞ」

この姫達に言われると救いようがない。


「だってお腹すいてたし、とっても美味しそうだったんですもの~」


「欲望の儘とな。理性も知性も無いのじゃな」

「兎に角、此処で反省しておれ」瞬移×2。


「おいてかないで! ねえっ!」


複雑な通路が在るとはカロリーナは知らないが、それらに反響する自分の声が遠ざかると、暗闇の空間は耳鳴りがしそうなくらいに静かだった。

「真っ暗だし……怖い……」

その場に座り込んだ。でも食べる。



「また盗賊かと来てみれば……迷子か」

結界の内に不穏を感じて来てみたラーライオに聞こえたのが(ロシア)語だったので合わせて話した。


カロリーナは背後からの男性の声にヨーシェかと嬉しさ爆発状態で振り返った。

「光ってる!?」


「暗闇が怖かったのだろう?」


「でも……」


「此処は私の墓だ」


「やっぱり幽霊なのね。

 出してもらえると思ったのに……」


【ラーライオ様ぁ、出さないでなのぉ】【ふむ】

「娘は皇帝(ツァーリ)の子なのだな?

 私は(ファラオ)であった。

 今の世で国を治める者として何を学び、目標としておるのかを話してみよ。

 その言葉次第で此処から出すか否かを決める」


「ええっと、ツァーリはお父様だと分かるわ。

 でもファラオって?」


「此処はエジプト。その古代の世で私はツァーリと同じ地位に居た」

【獅子陽眼、細密秘透】

ラーライオはカロリーナの魂に微かな違和感を捉えて探り始めた。


「何を学び、って……私、勉強は嫌いなの。

 お母様は女帝になる者だとしか教えてくれなかったわ。

 目標、ね……私、邦和に行って輝竜 彩桜様か桜マーズ様の妻になりたいの♪

 シィァン サーロン様でも空マーズ様でもよいのだけれど♪

 あと、マーズをみんなヨーシェとして仕えさせたいわ♪

 それと――」


【ふむ。閉じ込めておきたい理由は解った。

 この娘の魂は呪を受けておる。

 しかし私の知らぬ術だ。

 第2世期以前の古術を知る神を連れて来てもらいたい】


【どんな感じの呪なのぉ?】


【怠惰で暗愚にしかならぬよう縛られておる】


【ちっちゃオーロと同じかも~。

 女神様達と行く~】



 カロリーナは目標とは言えない願望を羅列し続けているが、その背後に一瞬だけ彩桜が見え、姿を消している女神達を残して逃げた。


【この呪……確かにオーロザウラから感じたものと同じです】

ステラシィリーヌの言葉にロゼリィシャインも頷いた。


【獣神秘話法を?】


【ええ。獣神の皆様から仲間の証として、欠片をいただきました】

【獣神様と人神が協力することで何ものにも負けない神力が生じるとも教えていただきましたの】


【確かに その通りです】

彩桜が連れて来た女神達は人神ばかりなので、警戒して身構えていたラーライオも ようやく笑みを浮かべた。


【この娘の母に憑いていた魔女オーガンディオーネは息子オーロザウラにも同じ呪を掛けていたのでしょう。

 オーロザウラは怠惰で暗愚。卑怯な悪神に育ちました。

 隣国の姫に執着し、子の妃として嫁がせておいて子を追放したそうなのです。

 子を滅しようと執拗に追い回しつつ呪った結果、その子は今の世を滅ぼし兼ねぬ存在となっているのです。

 人神の地が灼熱と化した原因もオーロザウラ。

 つまり、この娘も同じ道を辿り地星を滅ぼすよう、魂を縛られているのです】

【オーガンディオーネ自身が滅亡を望んでいたとは思えません。

 おそらくは彼女が呼び寄せた異界の闇禍が道筋を成したのでしょう。

 闇禍は滅亡させることを目的として異界から訪れるそうですので。

 解呪が叶うか否かは……神として全神力(ぜんりょく)を尽くすのみとしか申し上げようがございませんわ】


【そうですか。ではお願い致します。

 透過緋圓】

カロリーナの背後に紅光のレンズのような円盤が現れた。


【魂の状態が見易くなりました。

 ありがとうございます】

女神達が微笑を湛える。


【ラーの称号が持つ神力ですので】

お気になさらずと目礼。


こうなると、うんざりしようが時間稼ぎの為にカロリーナには好き放題に話し続けさせるしかなかった。



―・―*―・―



 フリューゲルのみの1曲目が もうすぐ終わる。

マーズは2曲目で登場なのでスタンバっていた。


【彩桜? 急に踞って、どうかしたの?】

桜と空は手を繋いで鳥忍登場なので一緒に居た。


【俺、地雷 踏んじゃったみたい~】


【地雷?】


【女神様達 連れてくのに近寄ったのもダメだったみたい~。

 暗ぁくてフォグってるステージ見えたのぉ。

 ステージに来ちゃうみたい~】


【確定、なんだね……でも、それまでのステージは全力でしなきゃだよ。

 頑張ろうよ】


【だよねぇ】立ち上がった。


【出なきゃだよ】【うんっ】







母親に魔女が憑いていたのですから、同じ呪というのもアリですよね。

つまり魔女はカロリーナ女帝を廃して自らが女帝になるつもりだったんでしょう。

古カリューでも同じ事を考えていましたよね。


彩桜が踏んでしまった地雷の結果は次話に、です。



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