我儘姫と真面目皇子
彩桜とサーロンがピラミッド内部の探検を始めた頃、ロシア大帝城の懺悔室前にヨーシェがワゴンを押して来た。
「カロリーナ様は昼食を召し上がられておられませんので、少々早いのですが夕食をお持ちしました」
クローシュを開けて内容を見せた。
「本当に質素なのですね……」
「陛下のご指示ですので」
「どうぞ」扉を解錠した。
「失礼致します」「え? ヨーシェ!?」
「お食事で御座います」
机に並べて礼。踵を返す。
「まさか これだけ!?」
「必要最低限の栄養素とカロリーは御座います。
世には食物を得られない人も多く居ります。
苦もなく食物が得られる事に感謝してください」
ドア前で再び礼。
寝起きカロリーナが唖然としている間に出た。
「燻製チキンと……つぶしてるのは、ゆで卵?
ほとんどサラダよね?
スープとパン……だけだなんて……」
でも食べる。
「あら? このパンおいしい……この卵と一緒だと……おいしいわ♪ スープも♪
ん~~~♪ 初めてのドレッシングね♪
もっと食べたいから脱出しないとね!」
―◦―
【黒瑯兄様、すっかり元気になってしまいましたよ?
彩桜からは聞いていない分岐に入ったようですが……】
【もっと食べたいから反省しないと!
には ならねぇのかよ~】
【先読みでも隠れ分岐が存在すると聞いております】
【慎介君、何か策はありませんか?】
【あの姫様だけは……手強過ぎます】
【あ♪ 黒瑯兄様、静香姫様をお連れください】
【虹香姫様も漏れ無く来るぞ?】
【手強い姫様には手強い姫様です♪】
【やってみっか♪】瞬移♪
――輝竜家。
【あれ? お~い姫?】
【黒瑯か♪ カイロの会場じゃ♪
驪龍が来ぬと怒っておるぞ】
【あ~、行くから姫達は藤慈と慎介トコ行ってくれ】
【【あぃな♪】】
――【リーロン悪い! スマン!】
黒瑯はランチタイムの後はライブ会場の売店に入る予定だった。
【シロップが足りねぇ! 頼む!】
【おう! けど氷は?】
【さっき青生と瑠璃が来て冷凍庫ビッシリだ♪
スッゲー透明氷でキラッキラだぞ♪】
【またナンの術なんだろーな♪】【だよなっ♪】
【お~い神様だろ?】【神扱いヤメてくれぇ~】
一緒に居ると楽しくて仕方ないのは彩桜とサーロンだけではない。
―・―*―・―
カロリーナの真上に居る藤慈と慎介は虹香と静香に状況を説明していた。
【――ですから真下は懺悔室なのです。
カロリーナ姫の性格は――】『ああっ!!』
『カロリーナ様!? 如何なさいましたか!?』
『手が滑ってフォークがっ!!
医師をお願いします!!』
『直ちに!!』
【参りましょう】【これで出るのでしょうね】
溜め息と共にヨーシェに。一斉瞬移。
――廊下で姿を消して様子見。
【此方が何をしようともカイロに行くのは確定なのですから、彩桜様と接触しないようにだけ――】
衛兵が医師と皇帝を連れて来たので中断。
衛兵がドアを解錠して開け――フォークが飛んで来たのを避けた隙にカロリーナが弾丸脱出して逃げた。
【【魔女なのかの?】】神眼追尾じゃ♪×2。
【いいえ。何にも憑かれておりませんよ】
【【くノ一になれそぅじゃの♪】】
【確かに】苦笑。
【姫様の部屋は素通りしましたね】
【皇子達の部屋の方に向かっておりますね】
【アリオール様が危ないのでは!?】
【有り得ますね】ヨーシェ達は瞬移した。
【追うのじゃ♪】【いざいざっ♪】瞬移×2♪
―◦―
藤慈の予想通りカロリーナはアリオールの部屋のドアをこれでもかな勢いで開けた。
「アリオール! カクゴなさい!!」
「何を? 僕の邪魔をしないでと何度言ったら覚えるの?」
「私のジャマもしないでよね!
こんな水槽なんか割ってやる!」
駆け寄って台から落とそうとしたが微動だにしない。
「どうして!?」
「水は重いんだよ。
だから台も重厚で丈夫なんだ」
「それなら!!」
素早く窓際に走り、望遠鏡ごと三脚を掴んで水槽に向かって跳んだ。
勢いよく振りかぶり――「そこまでです」
「またヨーシェ!?」
――打ち付けようと思い切り振り下ろした瞬間、軽々と止められていた。
「水槽を割る理由は?
中には生き物が居るのですよ。
魚達がカロリーナ様に何をしたと仰るのですか?」
「アリオールが飼ってるからよ!」
「罪無き命を奪おうとする者は悪魔か鬼です。
覚悟せねばならないのは貴女ですよ」
「では懺悔室にお戻りください」
望遠鏡は二人目のヨーシェが元の位置に。
「ヨーシェも一緒に♪」「「お断りします」」
連れて行こうと――「待って。ひと言だけ」
「どうぞアリオール様」
「幼い頃に交わした言葉は既に無効なんだよね?
これだけ僕を憎んでいるのだから。
僕は父様の試験を受けて城から出るよ。
二度と会わないから安心して。
言いたいのは それだけだよ。さようなら」
「アリオール。一部始終 見させてもらった。
試験を用意する。付いて来なさい」
「はい、父様」
皇帝とアリオールはカロリーナの方は見ようともせずに部屋から出た。
「さ、参りましょう」
「待って!」
「幼い頃の言葉とやらを思い出すのは懺悔室で いくらでも出来ます」
もう有無を言わせないと連れて出た。
―◦―
「アリオール。そう急がずともカロリーナを追放するという方法もあるのだよ?」
「彼女は城の外では生きられませんよ。
それに僕は邦和に行きたいのです。
試験をお願いします」
「そうか……では、これを」
「はい!」
―◦―
カロリーナは脱出した部屋とは別の、監獄に近い懺悔室に入れられた。
「食事は壁の小窓から届きますので卓を動かせば落ちて食べられなくなりますよ。
それでは、これにて」
壁の穴を破壊しないようにとも釘を刺してヨーシェ達は瞬移した。
「ね……お母様は?」
答えは返って来ない。
「ヨーシェ? 居るのでしょう?」
「執事達は離れたぞ」
「ヌシの母は眠っておる。
長く魔女に蝕まれた魂じゃからの、暫く目覚めぬじゃろぅのぅ」
机の上に狐面の くノ一達が正座していた。
「会いたいの。ここから出してくださらない?」
「「今のままでは出せぬな」」
「どうすればいいの?」
「これまでの行いを省み」
「これからは善行に尽くす事じゃな」
「また難しい言葉だわ……」
「では、何故アリオール殿に突っ掛かるのじゃ?」
「それは……弟なのにナマイキだから?」
「然程も違わぬのじゃろ?」
「半年差、同い歳じゃと聞いたぞ」
「でも私の方が上なんだもん」
「ふむ。幼き頃の言葉は思い出したのか?」
「それが……ぜんぜんなのよね……」
「では先ずは思い出す事からじゃな」
「一歩ずつじゃな。では、これにてじゃ」
スッと消えた。
「ええっ!?」
―◦―
藤 緑マーズは皇帝からの相談を聞いていた。
「イザベレーネ自身がした事ではないとは理解している。
しかし魔を呼び込み、エレーニャを操り、多くの妃達の命を奪うに至らしめたのはイザベレーネだ。
マーズが来てくれねば地星は既に無い。
もうこのまま目覚めぬように計らってはもらえぬだろうか」
「眠らせておくのは可能ですが、憑き物を祓った後は真面目に生きようとする者が殆どなのです。
イザベレーネ妃も そうなる筈です。
カロリーナ姫の軌道修正の為にも必要な方だと思うのですが?」
「そのカロリーナも眠らせてもらいたい。
このままでは、いずれロシアを、やがては地星を滅亡に向かわせる者となる」
「それは――」「軌道修正できなかったら第二のオーロだよねぇ、緑マーズ師匠」
【彩桜様、近寄るなんぞ危険極まりありませんよ】
【ちょっと間だけ~。来たら逃げるからぁ】
「憑いてた魔女、神様だった昔々ね、王妃で息子いたの。オーロザウラ王子。
オーロ、と~っても怠け者で卑怯なったの。
異母弟を罪神にして処刑させて、父王様と兄王太子様の命奪って王様なったの。
最後は神世の半分を灼熱と風雪の地にして住めなくしちゃったの。
地星、滅亡寸前なったの。
そんなオーロの母魔女に育てられたから、カロリーナ姫様もオーロと同じかも。
でもね、ちゃんと思い出したら軌道修正できると思うの」
【彩桜様もしや】【うん。拾知した~。あ……】
【彩桜様?】【えっとねぇ……オマケ拾知なの】
「アリオールと言い交わした言葉か?」
「うん。
カロリーナ姫様、ちっちゃ可愛いアリオール様と結婚の約束してたの。
大好きだったの。
でも勉強で引き離されて、背も高くなって、もぉ届かない思っちゃったの。
それから反抗期。裏返しの反発なの。
ホントは今でも大好きなの。
でも自分でも蓋しちゃって否定してるの。
だから忘れちゃったの」
「アリオールの方は?」
「真面目だから約束守る決めてたの。
でも、さよなら言ったでしょ?
それに異母でも姉弟だから結婚ムリも解ってるから……キラキラな思い出に蓋しちゃったと思うの……」
「そうか……」
【彩桜、今のうちにカイロに連れて行くからの】
【カイロの地を踏んでおけばよいのじゃろ?】
【うん……今のトコは。
姫姉ちゃん達だいじょぶ?】
【【任せよ♪】】
「小さくて可愛い……だから桜マーズや空マーズに置き換えているのですね?」
「たぶんソレなの~。
俺のが歳上とか思ってないのぉ」
「ん? 何歳なのか聞いてもよいのかね?」
「俺も空も13歳で~す。
彩桜とサーロンも同じです」
「そうなのか……」
長男ミハエリクが14歳。次男アレクトイが12歳。
比べれば確かに4人は幼い子供に見える。
たったそれだけ。外見だけで大騒ぎなのかと、ついつい頭を抱える皇帝だった。
皇帝が黙り込んだので、彩桜はカロリーナに関してオマケ拾知した内容を狐儀に話し、カロリーナの母イザベレーネを目覚めさせて確かめてほしいと頼んだ。
【皇帝に話しても?】【ソレもお願いなのぉ】
彩桜が何をオマケ拾知したのかは後程。
とにかく、せっかく知ったのだから幸せ方向にと考えている彩桜なのでした。




