特別任務
〈エーデ、こっちはどう?〉
マディアが月から戻ると、エーデリリィは真新しい最高死司服を着てフードをすっぽり被り、昇ったばかりの朝陽を背に受けて執務をしていた。
〈お帰りなさいマディア。
もう皆さん落ち着いたわ。
でも1つだけ。ルロザムールが起きないのだけれど?〉
〈そろそろ起きるよ♪
ディルムを連れて行くのに延長しただけだから♪〉
〈ディルムさんを何処に?〉
〈月で修行~♪〉〈えっ?〉
〈まだ終わってないんだ。
だから僕も頑張らないとね。
でも今は僕の修行じゃなくてグレイさんをもっと上げないとね〉
〈月にも行くの?〉
〈行ったり来たりかな?
たぶん、これからが本番だよ。
その為にもルロザムールは月に行かせるべきだって思うんだ。
ただの勘だけどね〉
〈ルロザムールを月に……でもマディアがそう思うのなら正解よね。
死司域は私に任せて。
神王殿での会議だけは戻ってもらわないといけないけれど、他は私だけで両方するわ〉
〈無理しないでね?
僕、出来る限り神世に居るから〉
〈ナターダグラルもルロザムールも居ないのだから無理なんてしようがないわ♪〉
〈あ……そっか。
それじゃあ僕は、これから浄化域に行くね。
その後は神王殿。ナターダグラルで♪〉
〈解ったわ。エーデラークはお留守番ね♪〉
立ち上がって姿を変え、机の横に控えて最高死司服を渡した。
〈あれ? 最高司の服、新調したの?〉
〈ルロザムールからの貢ぎ物よ。
ついさっき届いたから着てみたの。
これだと姿変えなくても、窓から見たらナターダグラルの後ろ姿でしょ?〉
〈それにアイツの臭いしないから、でしょ〉
〈どれだけ浄化しても禍隷臭が漂うんですもの。
だからルロザムールに感謝ね♪〉
〈あ、そのルロザムールを起こして月に連れて行かないとだった〉
ナターダグラルになって扉へと――
〈〈騒がしい?〉〉神眼を向ける。
ルロザムールが倒けつ転びつ来ている。
マディアは肩を竦め、苦笑しつつ扉を開けた。
「騒がしいですよ? 如何しましたか?」
「ささささ最高司様っ!」「何ですか?」
「けっ、獣神のっ、ちちちち力を使ってもっ、よよよよろよろよろしかったのでっ、ごっ、御座いますかっ!?
おっ、御咎めがっ、あるのではっ!?」
「落ち着きなさい。
廊下で騒がず入りなさい」引き込んだ。
「もももも申し訳御座いませんっ!!」
「エーデラーク」視線で隣室へと示す。
〈聞いてていいよ~♪〉
エーデラークは恭しく一礼して自室に向かった。
「少しは落ち着きましたか?
先ず私は、獣神と対立するのは間違っていると考えております。
陛下にも再三そう進言致しているのです。
此度は他に手立てが無いと陛下も御理解くださいましたのです。
御咎めなんぞ、あろう筈も御座いません」
マディアは、マヌルの里でルロザムールを見つけた時に込めた記憶を確かめつつ話を進めていた。
ちゃんとアレンジも有効だし
しっかり信じてるね♪
でも……これも『支配』の効果だとしたら
ホントに近づけていいのかなぁ?
って悩んでても僕の勘は
『神世に居させちゃダメ』って
言ってるんだよね……。
「御咎めどころか、陛下よりの御達しなのですが、極秘であり重要ですので、私と致しましては貴方こそが相応しいと考えているのです。
内容をお話する前に尋ねなければなりませんが……受けて頂けますか?」
「エーデラーク様でなく私を……?」
「任の内容、重要さ等から貴方が最適と考えたのです。
本件に関しましてはエーデラークは次候補。
如何ですか?」
「はっ、はいっ!
何なりと畏まりまして御座いますです!
はいっ!!」
「昨日、私は古の四獣神様の御力を込めた神力珠と、悪神を封じる為の封珠を神王殿の宝物庫から御借りしました。
術を調べ、許しを得、としているうちに人世では惨事となってしまいましたが……。
それでも悪神を封じられた事は陛下よりお誉め頂いたのです。
そして陛下は、今後の為、神力珠と封珠の本来の持ち主達と友となれと仰ったのです。
ですので封珠の持ち主である獣神が住む里にはディルムを向かわせました。
ルロザムール、貴方には神力珠の持ち主である獣神が住む月に行って頂きたいのです」
「つつつつ月ィ!?」目を白黒っ!
「はい。月です。
月までは私が同行します。
では参りましょう」
「今すぐで御座いますかっ!?」
「貴方の補佐の皆には、後程 私からお話し致しましょう。
他に何か?」
「あ……いえ……何も……はい」
―・―*―・―
結局、眠れないままに起き上がった瑠璃は青生に診察を頼むと、戌井家に向かった。
ん? 玄関が開いている?
ほんの少し隙間が開いており、中では3人の女の子が泣きそうな顔で立っていた。
ショウの事を知って来たのか?
しかし こんな早朝からとは……。
神眼で家の中を確かめると、掛け布団を中で掴んで、出ない会いたくないと泣いている紗が見えた。
〈瑠璃姉、ちょっとコッチ来て〉
見回すと塀の穴から彩桜が手招きしていた。
〈どうした? 学校は?〉
〈行く途中。
あのね、昨日あの子達、紗ちゃんとケンカしたんだ。
俺が通りかかった時、紗ちゃんはショウを引っ張って走ってったんだよ。
それを3人が追いかけてたんだ。
でも追いつけなくて、1人 泣いちゃって。
だから公園のブランコで話 聞いたらケンカしたって。
紗ちゃんがショウの中でパパは生きてるって言ったのを、泣いた子がウソだって言ったんだって。で、言い争い。
それで怒って帰っちゃったんだって。
子供って……解ってないから残酷なコト平気で言うでしょ?
俺も言われてたから……紗ちゃんの気持ち解るんだよね。
それに……連れ出したショウが……。
だから紗ちゃんは会いたくないだろうし、女の子達はまた泣いちゃうと思うけど……。
瑠璃姉、どっちも助けてあけてよ〉
〈彩桜は紗を慰めないのか?〉
〈俺は……まだムリだよ。
俺、まだ友達でも何でもないし……。
それに……俺の親、ちゃんと生きてるし!〉
駆けだした。
〈俺、捨てられてなんかない!
あの家はお化け屋敷なんかじゃない!
こんなコトでも傷つくんだからねっ!〉
それで青生の鞄に入って東京に、か……。
物や動物と話せると信じてもらえず、
そんな事までも言われていたのだな。
信じてもらえず、か……。
―・―*―・―
ナターダグラルが扉を開け、月に出ると――
「神殿までお連れしますよ」
テトラクスが現れ、連れて術移した。
神殿の外では龍虎亀が弟子達を鍛えていた。
「中にどうぞ」
「ありがとうございます。
お世話になります」
先導する狐に続いてナターダグラルが入る。
「ルロザムール?」「ああっ! はいっ!」
獣神達を呆然と見ていたルロザムールは慌てて追った。
入ってすぐの広間の中央には台座に乗せた封珠が置かれており、古の四獣神の水晶は封珠の四方を囲む形に配置し直されていた。
其処で朱雀に挨拶し、神殿を抜けて奥の建物へ。
「貴方が滞在する為に建てて頂いたのです。
此方に住まい、親交を深めてください。
ひとつ……気をつけて頂きたいのは神殿中央の封珠です。
あの封珠には悪神を封じております。
悪神の言葉に耳を傾けてはなりません。
嘘しか言わぬのですから。
騙されぬよう、心を強くお持ちなさい。
では、お願いしますね」
「はい……」
《眠らせてよいのか?》
【はい♪ 後で記憶は込めますので♪】
《ふむ。では借りるぞ》
ルロザムールが気づかぬうちに赤い光が入った。
「ふむ。悪くない。
が、神力が弱過ぎる」
「操る為に抜かれてるんですよ。
僕達の楔、見えますか?」
「ふむ。支配を断とうとしておるのだな?」
「はい。
神力を高めれば早く効くと思います」
「ならば鍛えておこう」
「ありがとうございます!♪」
―◦―
そして再びテトラクスに連れられて月の裏側の護りの拠点へ。
「カーマイン兄様♪ 滝に戻りませんか?」
「む……」目を閉じた。
「此処で修行したくなった、とか?」
「そうだ。滝はゴルシャインに任せたい。
補佐はシルバスノーが適しているだろう」
「じゃあ、そう伝えますね♪」
「それと……」
「はい?」
「……プレリーフを連れて来てくれぬか?」
紅龍の頬が赤い。
「あ……奥様ですか?」
「いや、相棒……妹、だ」ふいっと外方向いた。
「はい♪ お連れしますねっ♪」
ダグラナタンに操られているルロザムールは愚神ですが、本来のルロザムールって?
獣神を理解している賢神だったと相棒だったハーリィは話していましたが、そのうち解けますのでお待ちくださいね。
彩桜はイジメられっ子です。
なので通学も近所の子達が通る道を避けています。
戌井家、そこそこ遠回りなんです。
でも遠回りしていたからこそショウと友達になれ、紗を見つけられたと彩桜は喜んでいるんです。




