乗っ取られ長官
緊張感漂うロシア大帝城の廊下で、緑 紫 赤 藤マーズは背中合わせで神眼を巡らせていた。
もちろん理俱は蛇眼走査だ。
【闇禍は器を求めて飛び回ってるな。
城内の者は全て兄様の分身だから無駄なんだがな】
【皇帝とアリオール皇子は紅火様とソラの強い浄破邪結界の内。
誰にも憑けませんよ】
【ですが城外の何方かに憑いて襲撃する可能性もありますよ?】
【外に出た】城すっぽり堅固で感知。
【どうやら軍に向かってるな】
【魔女と共にでなければ地星滅亡しかありませんからね。
もう帝位とかは どうでもよいのでしょう】
【らしいな。全発射で一瞬にして人世は恐怖に包まれる。
そろそろ行こう】【ですね】【はい!】【む】
【ソラ、他にも来るかもだから護衛継続な。
俺達を追った神眼情報を伝えてやれ】
【はい!】
【この母娘の浄化と治癒も頼む】
【あ……ヨーシェで、ですか?】
【好きにしていいぞ♪】一斉瞬移。
「マーズは何処へ?」
「悪魔が軍に向かいましたので追いました。
ボクはイザベレーネ様とカロリーナ様を浄化しなければなりません。
一緒に医務室にお願いします。
軍でのマーズの動きはお伝えしますので」
結界は皇帝を中心としているので、皇帝が動けば一緒に動く。
歩調を合わせて妃と姫に近付いた空マーズは具現化ストレッチャーを母娘の下から せり上がるように成し、医務室に向かった。
―・―*―・―
ドラマの打ち合わせなんて とっくに終わっている金 銀マーズは、高嶺の自宅を夜通し警護して夜明けを迎えた。
【【今日の仕事は?】】神眼視線が交わった。
【俺は順志に任せるよ。
闇禍が来てるってのに仕事なんかしてたら世が終わっちまうからな】
【私も此方を優先としよう。
ダラジャ博士達は今日を休日としたのでな】
【そっか。明日はカイロに移動だったな。
けど通訳は? 街に出るにしても必要だろ?】
【中渡音に泊まっているので若威殿に英語でと頼んでいる】
【アイツ、何かと使えるよな♪】
【金錦兄 白久兄、ソッチは?】声だけ。
【いいとこに黒瑯♪ チョイ来てくれ】
【おう♪】黒瑯だけが現れた。
【リーロンは?】
【仕込み。ウケモチ様と黒蛇に引き継いだら来る】
【ん。そんじゃあチョイと此処を頼む。
順志の机に置き手紙しとかねぇとな】瞬移。
【金錦兄は? 休んでたのか?】
【ダラジャ博士達の案内として昨日も今日も休講にしていた】
【響チャンの昼メシは?】
【今日も私抜きで、いつも通り頼む】
【おう♪ で、コッチは何事も?
ウチには妖怪サクラモチが来てたぞ。
サクラモチ目掛けて闇禍もな。
で、闇禍は封じて、サクラモチはメシ食わせて話聞いて成仏に導いてもらったよ】
【対処をありがとう。
橙と白は休んでいたか?】
【ああ。八郎の部屋でグッスリな。
そろそろ来ると思うぞ】
【【おはようございます!】】来た。
【今日も元気だな♪】【【はいっ!】】
【そりゃいいが学校は?】
【狐儀様に彩桜と同じにとお願いしました】
【あの……ダメですか?】
【あの狐儀がOKしたんだろ? だったらいい♪
後でシッカリ勉強しろよな♪】
【【はい!♪】】
【今は非常時。已むを得ないと私も思う。
この先も非常時となればお願いする】
【【はい!♪】】【遅くなりました!】
【ジョーヌ、龍のままだぞ】【あっ!】人に。
【巡視か?】【はい。広く浅くですが】
【居たか?】【はい! お願いします!】
【あ、忘れるトコだった。
金錦兄、コレ紅火から。
世界中グルグルしてる途中で寄ってくれたんだ。
闇禍入り餡こ玉 入れる箱だって。
オレとリーロンのは入れた。
上に乗っけたら入るんだ】
【世界中を?
ふむ、そうか。ありがとう】
【お♪ 増えてるなっ♪】
【【【おはようございます!】】】
【黒瑯、行くぞ♪】【おう♪】
オニキスに乗って白久が戻ったので、金錦と白久を残して出発した。
【白久、闇呼玉専用箱、紅火からだ。
私達の闇呼玉も入れておこう】
【おう♪ 兄貴の2コと俺の1コだな。
どーすりゃいいんだ?】
【箱の上に乗せるだけらしい】
【お♪ 吸い込まれたぞ♪
にしても凝った彫刻してるよなぁ】
【紅火の事だ。その模様にも意味と力があるのだろう】
【あ~、だろーなっ♪】
―・―*―・―
空マーズはイザベレーネとカロリーナに浄化と術治癒を当てていた。
「悪魔が動き始めましたのでボクの肩に手を当ててください」
皇帝とアリオールが言われた通りにすると、鮮明な映像が脳に直接 届いた。
「目を閉じた方が見易いと思います」
「これは……基地か? 軍務本部の」
「はい。全て発射させるつもりなのでしょう。
どのくらいお持ちなのですか?」
「直ちに阻止してくれ!
全てなんぞ地星が粉微塵になってしまう!」
「そんなにも……何故 必要なのです?」
「抑止力だ。使う気なんぞ有りはしない!
長官を止めてくれ!」
「どんなにセキュリティを厳重にしても、それなりの上官が悪魔に乗っ取られてしまえば容易くスイッチに辿り着けます」
皇帝が長官と呼んだ男は、基地内の様々なロックを難無く解除してズンズン進み、計器やモニターが並ぶ前に座っていたオペレーターらしい者達を無言かつ強引に押し退け、操作し始めた。
下士官達は敬礼して見守るしか出来ないらしい。
「わかったから早く! 行ったマーズは!?」
「基地に戻りましたから止めますよ」
現れた4マーズが長官を囲み、腕を掴んで動きを止めた。
乱闘になるかと思いきや、長官はカクンと膝から崩れた。
背後に居た藤マーズが水銃を背に突き着けて聖水を注入したようだ。
闇禍は脇腹に闇呼玉を当てていた紫マーズが回収したらしく巾着袋に封じている。
『そのオフになっているモニターをオンにしてください。
皇帝は発射命令なんぞ出しておりません。
この者は偽者です』
『あっ!』
この場の誰かがオフっていたのではないモニターを慌ててオンにしたオペレーターが驚いて声を上げ、皆が集まる。
通路に倒れていた長官を現れたマーズが支えて起こし、光を当てると意識を取り戻したのが映し出されていた。
『怪我は打ち身程度。先程の光で治しました』
その声でオペレーター達がマーズの方を向くと、マーズは減っており、偽者も消えていた。
『犯人は極秘で国際指名手配されており、マーズが追っていた者ですので連行させて頂きました』
『そうですか』『あ! それ勝手に――!』
『途中まで進めていたコマンドを解除しただけだ』フン。
『それだけですのでご安心を』
この間に長官の入れ換えも完了していて医務室に到着したところだった。
『念の為に本日は安静に。
では私共は これにて』一斉瞬移。
―・―*―・―
【転送口完成~♪】【突入!】
ラピスリが全員を背に掬い、揺らめく穴に突入した。
―・―*―・―
ロシア軍務本部基地に行っていたマーズが大帝城の医務室に集まった。
「すぐに戻らなかったのは見回りでもしていたのか? 長官の偽者は?」
「偽者なんぞ居りはしません。
通路で倒れていたのは人形です。
長官の名誉の為の方便ですよ。
真実を正直にお話ししても信じては頂けませんからね」
「遅くなったのは主要大国巡りをしていたからですよ。
同様の事が起こり得ると各国トップに見せていましたのでね」
狐儀と理俱は白狐の姿に。
そんな勝手な事を、と言わせない為だ。
「そ……ぅでしたか……」
「此処からは神の領域ですが、人にも示して頂きたい事があります。
蓄えている危険物を何時何時発動するやら知れない状況下での、小さな諍いの絶えない今の人世を滅し、新たな世をと考えた神が悪魔を呼びました。
人は正しき道に進む事が可能な筈。
悪魔を呼んだ事は間違いであると、その神に示してください」
「先ずは話し合う事からだと思う。
あの悪魔は異界から来た。
ま、宇宙人だと思ってくれたらいい。
地星人同士で争っている場合じゃないんだ。
よく考えて、手を取り合ってくれ」
皇帝は祈りの姿勢で項垂れ、涙を流していた。
「父様、動きましょう。
きっとまだ終わっていません。
神様が壊そうとしているのなら、早くしないと他の国でスイッチを押されてしまいますよ」
「そう、だな……アリオール、私の補佐を頼む」
「はい!」
立ち上がり、顔を上げた皇帝は頼りになる程に成長した息子を伴って執務室に向かった。
―・―*―・―
【気づいてにゃい?】
【そんな筈が無かろう。
気付いているからこそ必死で祈っているのだろうよ】
【そっか~。
あの姿、魔女自身じゃにゃいよねぇ】
【そうだね。取り憑いたまま閉じ込められてしまったようだね。
黒く染まっているけどステラシィリーヌ様だと思うよ】
【姿までもを拾知しているのか?】
【大事だと思わない?】
【ターゲットにゃんだからぁ】
【ふむ。確かにな】
話していると『それは誰だ?』な視線が兄弟に集まっていた。
【オーガンディオーネに正妃の座を奪われ、オーガンディオーネを浄魂刑に処した王妃。
そうロゼリィシャイン様から伺った】
サマルータが代わりに答えた。
皆が納得したので青生と彩桜は拾知に集中した。
アミュラ様の話では、ステラシィリーヌ様はルサンティーナ様と一緒に冬眠中だったような?
魔女に見つかってしまったのか、見つけて戦いに行ったのか、でしょうか。
どうやら新カリュー女王の姿として利用されてしまったようです。
闇禍=宇宙人……ま、そうですよね。




