器
《人神を侮るな》
《今の人神しか知らねぇから仕方ねぇよ》
《今は、この器の男神で最高なんだよねぇ?》
《じゃが素材としては悪くない。
ザブダクルが引き上げてしまうじゃろうの》
「人神には爪も牙も角も嘴もないけどね~、知恵があるんだよ~。
ソレが武器なんだ。
僕には悪知恵としか思えないんだけどね~。
獣神には思いつかないよ~なトンデモナイコトするんだよね~」
《然様じゃな。
故に一個神の総力は同じじゃよ》
《禍使いのザブダクルと、闇使いの玄武は似てるよねぇ。
1対1だと相討ちかなぁ?》
《滅するつもりならば確かにな》
《封じるのは無理だろうなっ》
《身体の無い今は、身体を得た彼奴に負けるじゃろうのぅ》
「「そんなにっ!?」」
《だからディルムは残れよなっ》「うっ……」
《おもいっきり鍛えてやるぞ♪》「……はい」
「ルロザムールの事は僕に任せて♪」
「あ、そっか。お守りしなくていいんだ。
だったら……修行の方が断然いい!♪」
《よ~し決まりだ♪》「はいっ♪」
《僕も鍛えたいなぁ》「お連れしま――あ」
オフォクスが消え、蒼銀の双子龍を連れて戻った。
キョロキョロ――「「ゲ……」」
《鍛えてあげるねぇ~♪》
揃ってポテッと落ちた。
「それじゃあ僕は裏側に戻らないとね~♪
でも僕も修行したいから~♪
シルバーンとコバルディが戻ったら、また来ますねっ♪」
《イーリスタも修行したいの? う~ん……。
マディアの兄弟って多いんだよねぇ?》
「千いるらしいです。
でも大勢 水晶に封じられてるんです」
《青い子は? いるよねぇ?
もちろん強い子でね》
「ラピスリ姉様なら青龍様そっくりな色だし強いけど……たぶん人世から動かないと思います。父を護ってますから」
《ドラグーナなら文句無しなんだけどねぇ》
双子龍をチラリ。
《そのドラグーナを護ってる、かぁ……あ。
封じた時に近くに居た?》
「居ました!」
《知ってる気を感じたんだよねぇ。
きっとそのラピスリは、あの時の――》
《ソレ、言っていいのか?》《あ……》
「ラピスリ姉様がどうかしたんですか?」
《ほら~》
《あ~~、一度、ドラグーナが連れて来たんだ。それだけだよぉ》
「へぇ~♪」
《ラピスリなら嬉しいんだけどねぇ……》
《兎に角だなっ、青龍ってヤツは普段はボンヤリほわわ~んとしてやがるが、修行だの戦闘だのって時ゃあ別神みたくイカツイからなっ。
耐えられるヤツ連れて来いよなっ》
「滝の兄姉に聞いてみます」う~ん……。
「マディア、行こっ♪」「あ、はい」
揃ってオフォクスを見る。
「ど~して玉 睨んでるの?」
揃って首傾げ。
オフォクスは封珠を睨んでいた。
「何やら違和感が……根の如きモノが伸びようとしておった様に見えたのですが、儂の視線を感じたのか隠れおったのです」
古神達が騒めく。
「根っこねぇ……台座の中を?」つんつん。
「はい」まだ睨んでいる。
《オフォクスは人神も入っておるのかの?》
「父から聞いてはおりませんが、
『全て』は人神をも含んでおるのやも知れません」
《ふむ。
人神にしか使えぬ術の中には、人神にしか見えぬモノを生じるものがあるんじゃよ。
その可能性があるのぅ》
《我等では見えぬ。
オフォクスも居ってくれぬか?》
「人世の無自覚堕神達を導き、易々と浄化されぬようせねばなりませんが……確かに此も又、放置出来ぬ事……」
「人神なら誰でも見えますか?」
「み~んな操られてるでしょ?」
「そうですけど、特命と言えば喜んで来そうな――」
「マディア! まさか――」
「うん。ルロザムール」「イヤだぁぁあ!」
「落ち着いてよ。
あの中年男姿にならなきゃいいよね?」
「あ、そっか」「でも操られてるでしょ?」
「解けると信じてるんですけど、半年はかかるでしょうし、まだまだ操られたままですね」
「なのにダグラナタンの観察?」
「無理でしょうか……?」古神達を見る。
《その人神自身は眠らせて、誰か入る?
朱雀、イーリスタが戻るまで暇だよねぇ?》
《おい》《その通りだろ♪》《む"……》
「暫く然うして頂けませぬか?
弟子や友と話し、継げたならば参ります」
考え込んでいたオフォクスが頭を下げた。
―・―*―・―
月で そんな話をされているとは知らない瑠璃は、事故に遭った堕神達に治癒を当て、様子を見ていた。
「おはよう。そろそろ交替するよ」
「東京には行かぬのか?
夜明け前に出なければ間に合わぬだろう?」
「論文は提出したからね、もう休みみたいなものだよ。
それに教授も俺が開業医だって御存知だからね、提出後は復帰するだろうと思っていたそうだよ」
電話で話したとジェスチャー。
「そうか」
「まぁ、こんな事にならなければ、もう少し向こうに居たんだけどね。
今日も戌井さんに付いていてあげてよ。
だから少しは眠ってね?」
「そうだな……甘えるとするか」
「うん。甘えてね」
―◦―
【ラピスリ、起きておるのだな?】
【はい。如何なさいましたか?】
仮眠室のベッドに腰掛けた時、オフォクスの遠慮がちな声が聞こえた。
【堕神達は?】
【順調に回復しております。
御覧になられても構いませぬが?】
【いや…………ラピスリは月に行った事があるのか?】
【それは……ラピスラズリの記憶ですが、御座います。
だからこそ今、私は存在しているのです】
【然うか。救って頂いたのだな?】
【そのようです。
昼間、月の気を感じました際に思い出し、未だ途上ですので詳しくは明らかになっておりませぬが、ラピスラズリの力や記憶を保ったまま生きておりますのは、古の四獣神様の御力とだけは確かで御座います】
【ふむ。その、古の四獣神様の元に行く気は無いか?】
【月に、で御座いますか? それは……】
【昼間、封じた事で終わったと思うておるのか?】
【いえ……ですので父の元を離れる訳には参らないので御座います】
【然うか……では、儂が月に行く。
故に全てを継いでくれぬか?】
【人世の事、全てを、で御座いますか?
バステート様もいらっしゃいますのに?
それにフェネギ様の方が――】
【確かにカツェリスもフェネギも強いが、頑固過ぎる。
加えて、統率力と冷静さはラピスリが勝る。
ドラグーナが目覚めれば継げばよい。
其の為にもラピスリに任せたい】
【ですが未熟者の私なんぞには荷が勝ち過ぎます】
【ラピスラズリとしては如何に?】
【それは……】
【ラピスラズリは確かにドラグーナの子だが、両四獣神全ての欠片を込めた子であった。
次代として月に預けるつもりであったのだ。
だから先に同代からは離し、マヌルヌヌ様に預けておったのだ。
前に見させて貰うたのは、里に居った頃の記憶であった。
今思えば、ではあるが……旅の途上であったらしい人神の父子を助けた事から全てが始まったのやも知れぬ。
里の警護中に禍を感知したのであったな。
その父子は既に禍に触れておった。
子を護った父は消滅寸前。
ラピスラズリはマヌルヌヌ様とカウベルル様を呼び、子二神は命拾いした。
然うであるな?
小さな欠片でしか残せなかった父をマヌルヌヌ様は三等分して二子に持たせ、残るひとつを兄弟が会えなかった時の為に水晶に込めておられた。
後に再び人神を助け、禍に包まれたラピスラズリを保つ為に、その欠片を使うたとドラグーナから聞いておる。
両四獣神だけでなく人神の力を継いでおるラピスリならば人とされておる獣神を救い、護るに最も適しておる筈だ。
どうか人世と堕神達を頼む】
オフォクスが話している間の相槌すらも打てずに思案していた瑠璃は、そのまま暫く黙り込んでいたが――
【オフォクス様……ひとつ、お願いが御座います】
――遮光カーテンの隙間からオレンジ色の陽光が射したのを見つつ、そう言った。
【ふむ。
儂に出来る事ならば何でも叶えよう】
【父を目覚めさせてください。
……青生だけでも】
【しかし――】
【アーマルと飛翔との関係と同様だと考えております。
私にとりましてドラグーナは、やはり父。
夫として愛しているのは青生なのです。
もしも父が目覚め、青生を失うのならばこのようなお願いは致しません。
青生は父を、己が内に存在する『欠片の神』だと認識しております。
ですので問題は起こらないでしょう。
父の力が必要で御座います。
どうかお願い致します】
【ふむ。古の四獣神様に頼むとしよう。
邪魔をしたな。休んでくれ】
【有り難う御座います】
我が儘を言ってしまった。
私が月に行くのが最善だとは
解っているのだが……。
人世に繋がりを作り過ぎてしまったか――
《我が儘なんぞでは無い。
私よりも慎重なのだな》
えっ?
《思うが儘でよい。躊躇えば過つ。
少なくとも後悔は必至だ》
ラピスラズリ、兄様?
《ほんの僅かに意識が残っているらしい。
ラピスリが迷えば出られるのであろうか?
私は人神を助けた事を後悔しておらぬ。
ラピスリも後悔せぬよう生きよ。
私の事は……あまり気にするな……》
兄様! 消えないでください!
もっとお教えください!
ラピスラズリ兄様!
さて、古って? ですよね?
人が『十年一昔』と言うのと同じ感覚が、神の場合『千年一昔』ですので、古ともなると億年単位です。
今は、それだけにさせていただきます。
m(_ _)m
初代四獣神の朱雀・青龍・白虎・玄武は称号的な呼び名です。
個神名は ちゃんとあります。
他の古の神が登場したら名呼びされるかもしれませんが、当面は呼び名です。




