ロシア大帝城ライブ
【で?】
【はぁ? ナンだよメーア】
【姫には何かあったのか?】
【ああソレかぁ。
カロリーナ姫が昨日ずっと護衛していた執事のヨーシェに求婚しただけだよ】
【誰だソレ?】
【空マーズだよ。困ってたから皆で交替にヨーシェしてたとしたけどな】
【つまりサーロンじゃなくソラしてたのか?】
【白人化ソラだな♪】
【そんならソーカイも呼ぶか?♪】
【おいおい。姫様が御札攻撃 受けちまうだろ。
ロシアにだけは呼べねぇよ】
【そりゃそーだな♪
けどキリュウは呼んでくれ。
コッチには皇帝だけが来てな、クラシック色を強めてくれだとよ】
【ふ~ん。ま、了解だ。
もしかしてライブが1日だけにされたのも、&マーズに渋ってたのも、ソイツが理由かぁ?】
【そうらしい。
ロックの良さを理解してないんだよなぁ。
で、これからは外からの情報も積極的に取り込むと前置きして謝ってくれたんだが、世界芸術賞のも知らなかったんだと。
ま、申請した時は勿論だが、&マーズにと変更を出した時も受賞前だったんだけどな。
で、エルサムのもアメリカで やっと全貌を理解したそーだ♪】
【だから仲良くなって大統領も一緒に来たんだな?】
【互いの恥を晒したそーだ♪
ま、巨大国2つが仲良くなりゃ世界中が平和だ♪】
【だよなっ♪
あ、黒と灰が料理と一緒に戻って来たから食ったらwithキリュウ兄弟でスタンバっとくよ】
【おう♪ こっちにも黒と灰が置いてったからメンバー大喜びだ♪
じゃあ後でな♪】
―◦―
椅子やテーブルの準備中な大広間に入り、幕が下りているステージに要塞3点セットを組み上げ、隣の控室に他の楽器を全て並べると暇になったので、皆 好きに神眼を巡らせていた。
〈アメリカから来ているのは大統領夫妻だけじゃないんだね〉
大広間を挟んで反対側の控室を眺めている青生が、誰にという訳でもなく言った。
〈だな。そんなに暇なのかってくらい来てるよな。
うわ、オレとリーロンが作った料理だ……〉
ステージと向かい合う壁に沿って長テーブルが一文字にセットされ、執事とコックコート達が料理や取り皿やらを並べ始めた。
〈真ん中ですね♪ メイン扱いなのでは?〉
〈まかないをと頼まれたんだが……〉〈なぁ〉
〈綺麗に盛りつけているから間違われたとか?〉
〈〈〈〈うわっ!〉〉〉〉
黒 灰 黒瑯 リーロンが大広間へ走った。
帝妃数人と その子供達が様子見なのか入って、おそらくは初めて見る『まかない』に吸い寄せられるように集まったからだった。
〈今 行ったりしたら……〉
〈うん。説明を求められてしまったね〉
〈試食会かぁ?〉〈〈ふむ〉〉
〈金錦兄! ちょっと間オレ達抜きでやっててくれ!〉
〈ふむ。存分にな〉〈〈〈〈おう!〉〉〉〉
〈そうなって当然だよね〉〈ですよね♪〉
〈彩桜 サーロン、何見てるんだ?〉
〈深刻そうだよね?〉
橙と白が頭を寄せ合っている桜 空 彩桜 サーロンに寄った。
〈カロリーナ姫様が子供マーズの誰かをお婿さんするって騒いでるのぉ〉
〈キリュウ兄弟も調べて、彩桜とボクが見つかってしまいました〉
あまりに騒がしいので控室から逃げ出した帝妃と子供達が大広間に来たようだ。
〈そういやリーロンさんとサーロンは、どうして来てるんだ?〉
〈演奏するの?〉
〈リーロンは黒瑯兄が俺達のお昼作るのに呼んでたの。
マーズもキリュウ兄弟もリハ予定なってたから。
でも、なんでか4人でガッツリ作ってたのぉ〉
〈ボクは兄さんに呼ばれたです。
留守番なんかさせていないで連れてこいと言われたようです〉
〈だから、ほら。姉ちゃん達も呼ばれたの~〉
ドレスに着替えて控室に入って来た。
その中に中学生くらいの女の子が2人。
【響? その姿……】
【何があるか分からないからって瑠璃先生が。
ソラの七変化と同じだって】
【確かにね。じゃあ紗ちゃんも?】
【そうなの。
それでね、私はサーロンくんの婚約者ってことで漢語で話さないといけないのよ。ロシア語でもいいらしいけど】
【え? どうしてサーロンの?】
【忍者な空マーズの、とは言えないんだって】
【そっか。確かにね。
じゃあお姉さん達もキリュウ兄弟の奥さんの方なんだね?】
【うん。ね、実際のとこ、サーロンくんて彼女いるの?】
【ええっと~、彩桜から聞いた話では、漢中国に婚約者が居るんだったかな?】
【そっか。そのコの姿なのね……】
【残念? 嫌?】
【じゃなくて、来れなくて可哀想だと思って】
【そっか。
でもサーロンは手伝いに来てるだけでステージには立たないから。
別で会えるからいいんだと思うよ】
【そっか】
【なんだか恥ずかしいけど……楽しんでね】
【うん♪】
ソラと響が話している間に輝竜兄弟は妻の所に行っていた。
彩桜も成長した姿の紗と楽しそうに話している。
サーロンは椅子を並べていて、その途中で狐儀の分身に入れ換わっていた。
【響、名前は聞いてる?】
【うん。響 芙蘭だって。
合ってる?】
【うん。じゃあバレない程度にサーロンと話しててね】
―◦―
大広間のステージ側は観覧メインらしく、ゆったりとした豪華な椅子が並んでいる。
料理側は食事メインらしくテーブル席が並んでいる。
テーブル席は観覧席越しでもステージがよく見えるように離れていて、高くなっていた。
ステージは普段から楽団を呼んでいるらしく広い。
しかし地位ある人々が聴くだけはあって、ステージと言ってもフロアとの境界線を示す程度に数cm高くなっているだけなので、上がるのはドレスであっても容易だ。
【彩桜、拐われないように気をつけろよな♪】
【白久兄てば面白がらにゃいでぇ】
【席から跳んで抱き着かれるかもな♪】
【やぁん】
台座の有る観覧席の方が高いので、背の低い彩桜は立っていても見下ろされそうだ。
なので白久の言葉は有り得るとゾッとする彩桜だった。
皇帝と大統領夫妻が入り、席に着くとテーブルには料理が運ばれた。
米国陣が続く。
以降はセルフサービスらしいが執事が丁重に案内している。
帝妃達、帝子達と続き――
『お料理を観覧席に運んでもよろしいの?』
――カロリーナの声が神眼に聞こえた。
まだステージに出ていないのに彩桜は控室の隅に逃げて小さく身を縮めた。
【ねぇねぇ、あの姫。魔女 残ってるのぉ?】
【彩桜がイチバン分かるんじゃねぇのかぁ?】
【んもぉ白久兄は黙ってて!】
それでも演奏が始まれば彩桜も立派な奏者だ。
第一部は食事中の者が多いのでキリュウ兄弟&10マーズでの管弦楽にした。
弦楽器と木管楽器が中心の穏やかで心安らぐ春の午後をテーマとした音色が大広間に満ちる。
【あ~そ~か。またマスカレードなんだな】
黒瑯達が控室に戻った。
【うん。パフォーマーはフリューゲルと一緒に休憩してもらっているよ。
リーロンは観覧席の虹香姫様の隣ね】
【【おう】】【【2曲目から加わるからな♪】】
その2曲目は夏の爽やかな朝をテーマとしていた。
その曲が終わるとカロリーナは皇帝の所へと、清楚さをアピールしつつも軽やかに移動した。
次の秋の夕暮れをテーマとした曲の間中カロリーナは皇帝と話していた。
【世界の宝をBGM? 理解してるの?】
不満気な響からコントラバスの空マーズへ。
【表情に出さないでね。
他にも談笑してるからBGMでいいんだよ】
【何話してるのか聞いてるの?】
【うん……聞こえてしまうんだよね】
【ソラ、『テーマ冬』が終わったら入れ換わりましょう】
【はい、狐儀様】【ソラ?】
【うん。『冬』が終わったらサーロンするよ】
【え? まだ演奏あるよね?】
【あるんだけどね。とにかくボクに任せて】
【うん……】???
次の曲との間にカロリーナは観覧席に戻ったが、後列の輝竜家の妻達の近くだった。
【【なんかイヤーーーッ!】】
【響も彩桜も、そんな言わないの】苦笑。
テーマが冬とは言え、陽射しが柔らかな小春日和の曲なので優しい。
そろそろ食事を終えている人の方が多くなっており、そのままテーブル席で心地好さ気に目を閉じて曲に身を委ねている者や観覧席で聴き入っている者も増えていた。
この曲が終われば小休止の後、第二部のフリューゲル&マーズwithキリュウ兄弟に移る予定だ。
何事も起こるなと祈るような思いで最後の和音の余韻が消えるのを待ち、立ち上がって礼をしようと姿勢を正すと――
「追加を頼んでもよいだろうか?」
――満面の笑顔な皇帝からだった。
「はい。何なりと」と言うしかない。
「舞踏曲を頼みたい。
2人ずつならば抜けても支障無いか?」
「はい。問題ありません」
「では折角パートナーが居るのだから踊ってもらいたい」
「畏まりました」
金錦と白久がステージを降りた。
「では始めてもらいたい」
「マーズも踊れますわよね?」
立ち上がったカロリーナは何故だか勝ち誇っている。
「当然で御座います」それが何か?
「奥様はいらしてませんわよね?」
「いえ、警護として城内に居りますので問題は御座いません。
お心遣い、感謝致します」恭しく礼。
舌打ちが聞こえそうな程の明らかに誤算だったと言わんばかりの表情で座った。
曲が流れ始め、観覧席とテーブル席との間で金錦と牡丹、白久と みかんの舞踏が始まった。
【俺と空マーズは?】
【彩桜は心配せず紗と打ち合わせろ】瑠璃が返事。
【じゃあ俺のパートナーは瑠璃姉?】カン。
【不満か?】
【青生兄、怒らにゃい?】
【有り得ぬ】【怒らないよ】くすくす♪
【空マーズは狐儀師匠のまま?】
【だからメイを呼んだ】
【そっか~♪】
急遽でも何でも対応できる輝竜兄弟だからこそのライブです。
こういう舞踏なんて、いつの間に練習しているんでしょうね?
それにしてもカロリーナ姫様は、あれやこれやとよく思いついてくれますよね。




