鼠の里の人神達
彩桜達は人世に居るついでにとキツネの社に寄った。
「オーラタム様~♪ マナライティア様~♪」
瑠璃の部屋へと駆けて行く。
『今チェリー様、此方です。
部屋を作って頂いたのです』
近くの新しい戸をノック。開ける。
「お邪魔しま~す♪
あのね、オーラタム様の子孫さん家で鼠の神様 見つけたの。
でも眠らされてるのぉ」
両掌に乗せて差し出した。
手を翳す。
「確かに。解呪しますね」
「待ってる間、お稲荷様お手伝い~♪」
青生と瑠璃を追って別の部屋に入った。
オフォクスを手伝い、悪神の欠片を抜いたオーラタムの子孫達を浄治癒していると、オーラタムが来た。
「あとは自然に目覚めるのを待つのみです。
これは……皆、私の子孫なのですね?」
「ありがと~♪」受け取って離れた。
「オーロザウラの魂片は抜いております。
染み込んだ不穏を浄化すると同時に、治癒を施しております」
瑠璃が答え、青生と彩桜も微笑んだ。
「私が取り憑かれたばかりに……」
「オーロザウラが悪どいだけですので、オーラタム様には落ち度も何も御座いません」
「それでも己を責めたくなるのは理解します。
ですからお手伝いをお願いしたいのですが、まずはオーラタム様ご自身の回復と修行を優先してください」
夫婦で成した治癒でオーラタムを包んだ。
「ありがとうございます。
では早速、修行に励みます」
その背中を見送り、浄治癒作業に戻る。
【オーラタム様は武には長けていないようだな】
【うん。オーロザウラの方向転換は、その点なんだよ。
それまでは全てに秀でている人神様を狙っていたけど悉く阻止されてしまったから、武の面は捨てて、術や知識のみに長けている人神様を探してオーラタム様に行き着いたんだ。
男神様で、その方向のみって少ないと思うんだけどね】
【確かに希少だな。
私のような女神の方が余程 多い】
【瑠璃は両方。全てに秀でている女神様だよ】
【またそのような】【目覚めた~♪】
【行こう】【ふむ】
「俺、今チェリー♪
此処は人世で、狐神様の拠点♪」
「あ……滝のオフォクス様だ……」
「知り合い? 俺達の育ての親なの~♪」
「有名神様だから知ってるだけ。
僕はロポロ。
都から逃げてた人神の一家を匿って、嫁いだ娘が地下の修行場に閉じ込められてると聞いて潜入したんだ。
そしたら人世の鼠魂や蝙蝠魂を集めてる部屋を見つけて……後ろから何か浴びたのかな?
そこから記憶がないんだよ。
あれから どれくらい経ったんだろ。
人神達、無事なんだろうか……」
「その娘さんて?」
「ああ。こんな女神。名前は長かったな。
嫁いで長くなったんだとか。
オーミクスリンティアだったかな?」
彩桜の掌の上なので手を当てて姿を流した。
「ん~~~見っけ♪」飛んで「でしょ♪」
「あ~、だな。寝てるだけか?」
「うん♪」【青生兄 瑠璃姉、神世 行こ~♪】
―◦―
そして神世の鼠の里近く。
【この辺りなんだけどなぁ……】【あれは?】
【あ♪ お~いラパロ~♪】
隠れ家は少し場所を移して造り直したらしく、世話をしている鼠神が出て里へと走ろうとしていたが止まった。
【ロポロ!? 無事だったのか♪】
【助け出してもらったんだ♪ ルプロは?】
【元気だよ♪ 龍の嬢ちゃんと……人神?
ま、なんでもいいか♪
歓迎するから来てくれ♪】
降下するとロポロが跳んでラパロと抱き合った。
【兄弟なんだ♪
ラパロが上でルプロが真ん中、で僕♪】
【三つ子なんだから どーでもだろ♪
えっ? まさかドラグーナ様?】
【うん。久し振りだね】
青生と彩桜から出て合わさった。
【こりゃあマジで大歓迎しなきゃな♪】
【だから不思議な気だったのか~。
とにかく入って♪】
最果ての岩壁に穿って造った里に入ると、鼠神達が飛んだり走ったりの大騒ぎで集まった。
「ドラグーナ様っ!?」「よくぞご無事で!」
口々にだが、そんな似たり寄ったりが聞こえる。
「無事と言えば無事なんだけど、今は堕神で、この2人を含む兄弟の中に7分割で入っているんだよ。
で、俺の娘。今ピュアリラをしているんだよ」
大喜びで人姿のラピスリを囲むと、祈りの神力を捧げている。
「父様が拝まれてください」困っている。
それを聞いて今度はドラグーナを囲んで拝む。
「ドラグーナ様、人気者~♪」
「と言ったのが今チェリー。
隣で笑っているのが今ブルーだよ」
「まさか異界の御神様の……」
「里長、それ誰です?」「イカイ?」
「ピュアリラ様をお助けなされ、地星をお救いくださったと密かに言い伝えられておる、遥か彼方からいらした鳥翼の龍神様じゃよ。
奥様と弟様も いらしておられたとか」
「うん♪ だからコレ~♪」
背中を向けて翼を広げ、龍尾をフリフリ~♪
「チェリー様、ブルー様の弟神様なの~♪」
今度は青生と彩桜が囲まれた。
「拝むの、ドラグーナ様だけでいいのぉ~」
「今ピュアリラ、こっちに来てよ」「嫌だ」
「おおそうじゃ。鏡の欠片を渡さねばのぅ」
瞬移して、戻った里長は水晶玉を差し出した。
「『ピュアリラ様の想いの欠片』と呼ばれとる鏡の欠片じゃ。
今ブルー様こそが持つべき物じゃ」
「里の宝なのではありませんか?」
「よいよい。集めてくれ。
小動物神の里長達が持っとるからのぅ」
「それじゃあ巡らないとね」
ドラグーナは楽しそうだ。
「その前に向こうの人神様に娘神様の無事を伝えたいんですけど」
「そーだった! 僕も行くよ!」
「だったら俺が案内するから♪」
「ラパロとロポロが行くなら僕も!」
「ドラグーナ様、あの距離だと大丈夫ですよね」
「大丈夫だよ。神世だしね」
「それなら歓迎されてくださいね」
「俺が飲んで今チェリーは大丈夫なのかな?」
「俺は酔えない体質なんですよ。
だったら今チェリーも同じです」
「ドラグーナ様が酔っても?」
「ドラグーナ様も酔わないよ」
「どして?」
「浄化が強過ぎるからとお稲荷様から聞いたよ」
「そぉなんだ~♪」
「では行って参ります」「じゃあね~♪」
―◦―
ラパロが見えない扉を開け、隠れ家に入ると鼠の里に似た村が在った。
人神達が何事だろうと家の扉を少しだけ開けて様子を窺っている。
「ラパロだ。安心して開けてくれ♪
ロポロが帰ったんだよ♪」
バババッと扉が開いて人神達が集まった。
「リンティアは!?」
「無事だったよ♪ 眠ってたけどな♪
僕も含めて助けてくれたのは今ピュアリラ様と――」「ええっ!?」
一斉に動いて囲んで跪拝!
【またか……】【まただねぇ♪】
「うん。今ピュアリラ様なんだよ♪
で、第9伯爵家は皆 無事だ」
今度はギョッと恐怖で目を見開く。
「けど、もう逃げなくていいんだ♪
取り憑いてた悪い禍神は祓ってくれてる。
目覚めたら揃って今ピュアリラ様を拝むだろーよ♪」
ほぅ~~~っと安堵。また拝む。感謝を込めて。
「えっとぉ、オーエツクミント様。
オーイタカラント様は?
ご家族揃って居ないよね?」
「はい。
逃げる途中で王子達に見つかり、話すからと、兄は家族を連れて離れたのです」
「どのくらい前なの?」
「ドラグーナ様が捕らえられたと信奉者の間で大騒ぎした直後でしたから50年程前ですね」
「ピュアリラ信奉者さん達がドラグーナ様で大騒ぎ? どして?」
「ピュアリラ様を信奉している者の多くが四獣神様も信奉しているのです。
特にピュアリラ様と同じ龍神様のドラグーナ様と、狐神様のオフォクス様は四獣神様の中でも信奉者が多いのです」
「トリノクス様は?」
「オフォクス様の弟神様ですので、その次となりますね」
「マリュース様、ダメ?」
「ピュアリラ様の信奉者の間で、ですので。
そうでない方々には格好良いと、信奉と申しますよりはファンが多く居りましたね」
「だったらいい~♪」
「あのぅ……」視線は鼠神達に。
「ほえ?」「あ~コイツが誰か? だよな♪」
「私の夫と その弟。
堕神とされた父ドラグーナの器であり、人として育ったが人神。
今ブルーと今チェリーと呼んでもらいたい」
「とにかく凄い大神様の神力を継承してるんだ。
チビッ子神だが立派な大神だ♪
どうやら50年近くも眠らされてたらしい僕は、コイツの掌で目覚めたんだよ♪
で、黒くて不気味だった人神達は、すっかり清らかになって眠ってたんだ♪」
「そうですか」
今度は青生と彩桜を拝む。
【またまただねぇ】にゃはは~。
「俺なんか拝むよりオーイタカラント様と別れた場所、教えてもらいたいの~。
たぶん閉じ込められてるから早く捜したいの~」
―◦―
どうにかこうにかドラグーナも今○○達も解放してもらえたのは、陽が傾いて夕へと向かう頃だった。
王都真北の亀の里と 北西の兎の里の間に在る鼠の里が夕に近いのなら、邦和は既に夜だろう。
【オヤツは?】
【預かっているよ】保護珠を渡した。
【いろいろ入ってる~♪】プリン飲む~♪
【身体は保護珠の中だから、お腹は空かないよね?】
【コッチの身体も空くのぉ】美味し~♪
【彩桜だけ?】【闇を使うからだろう】
【瑠璃姉も闇使ったら空く?】チーズケーキ♪
【空かぬ。私は そもそもが神だからな】
【神様、食べたのどぉなるの?
お腹から消えちゃうだけ?】フルーツサンド♪
【ただ消えるのではなく、無駄無く全て神力に変わる】
【だったら食べてもいいんだね♪】マカロン♪
【ん?】【黒瑯とリーロンの将来かな?】
【うん。ず~っと人世でレストランなんてムリでしょ?
ずっと先だけど、俺達み~んな姉ちゃん達と一緒に神世でしょ?
俺ね、黒瑯兄とリーロンのレストランで兄貴達と音楽してたいの♪
だから神様 食べないは一大事なのぉ】
【レストランで演奏会。いいと思うよ。
瑠璃、俺達は神世でも生きていけるかな?】
【演奏会だけでも十二分に生きてゆける。
食も神力増強だと神王から宣伝してもらおう】
【ん♪ 王様いいヒトだもんね~♪
あ♪ 見~つけた♪ 拾知で辿ってこ~♪】
ロポロとオーエツクミントから貰った情報に合致する景色と、地から拾知したオーイタカラントの気と、ショウや力丸よりは鮒丸に近い複数の気で確信した青生と彩桜は、拾知全開で辿り始めた。
どちらもが、神にとっての50年という感覚の短さに驚き、自分達にとっては遥か先にも思える50年先に想いを馳せながら――。
オーナントカさんだらけですが、大野さん大江さん大井さんみたいに思っていただければと……スミマセン!m(_ _)m(汗っ)




