拾知に蓋?
オヤツ後、彩桜は夜中の決戦の為に寝直そうと部屋に行った。
夕闇迫る頃、輝竜家の電話が鳴った。
「は~い、輝竜さん家で~す♪」
いつものようにマーズ学園の若者達が集り、素早く少年が取った。
「うわっ!」隣の少年に受話器を押し付けた。
「ナンだよ? はい? ゲッ」また隣に!
大騒ぎで受話器を押し付け合っていると
「ボク、出るです♪」
ニコニコ受話器を受け取った。
「彩桜サンお願いします!」大合唱!
サーロンが話し始めた。
「うわぁ~」「ペラペラだ~」「何語?」
「知るかよ」「英語じゃね?」「ふ~ん」
受話器を置く。
「お客さん来るです。
ボク、彩桜 違います。サーロンです。
リーロン、兄です♪」
ニッコリ。玄関から出て行った。
「リーロン、サン?」「よく台所に居るだろ」
「客?」「さっきの英語の?」「だろ~なぁ」
「って、つまり外国人が来る?」「逃げろ!」
話し掛けられたくない一心で勉強部屋に逃げた。
―◦―
3分後。
和語を話さない男2人と『荷物』が玄関から入って青生の部屋に向かった。
若者達は居間や大部屋に逃げ込んで息を潜めて勉強中なので、久し振りに輝竜家は静かだった。
「アイツら東京だって!?」
「ほらな。だから電話しようと言ったんだ」
「約束してたのに彩桜は!?」
「彩桜、寝てます」「荷物が歩いて喋った!?」
「ボク、持って歩いてます♪」「わあああっ!」
アトリエから居間に向かう途中だった琢矢が叫びながらアトリエに引き返した。
「面白いヤツが居るなっ♪」
「ギターかベースか持ってたぞ♪」
「スタジオで練習してるバンドのサポートメンバーです♪」
「「へぇ~♪」」
賑やかなので彩桜の部屋の襖が開いた。
「「お♪ 彩桜♪」」
「んにゅ? 喋るヒトデだ~」ふらふら~ん。
「彩桜、まだ寝ててください」
青生の部屋に荷物を置いて彩桜を部屋に戻した。
「起きてなかったらしいな」「だな」
サーロンが戻った。
「彩桜、大学から東京来い言われて、昨日 寝てないです。
だから寝させました」
「天才児、見つかっちまったんだな?」
「実験動物として、来いなのか?」
「既に特別研究生としての学生です。
講義とか研究助手とかレッスン講師とか、いろいろな学部から言われてます」
「行きたくなくて、かぁ」
「子供してたいんだろうよ。子供なんだから」
「だから保護者として教授達と話す為に、お兄さん達は東京です」
「そんなら明日は俺達も参戦するか?」
「だな。俺達も保護者代理だからな♪」
「ありがとうございます♪
朝、忍者移動で送りますね♪」
「「マッテマシタ。だ♪♪♪」」
『お~いオッサン達、早く食って寝てくれ~』
「黒瑯だな♪」「メシだな♪」
「ダイニング、行ってください♪」
「「おう♪」」
―・―*―・―
賑やかなマーズ学園の若者達も、彩桜の保護者代理なオジサン達も、皆すっかり寝静まった深夜。
彩桜はサーロンを連れて青生へと瞬移した。
――ラピスリの背。
高緯度なので、そうそう陽は沈まない。
なので また目立とうが騎龍マーズだ。
【明日オジサン達が俺の保護者代理してくれるの~♪】
【トレービさんとジョージさん?
来ているの?】
【来てるの~♪ 漢中国で会ったの~♪】
【あ、だから父さんが倒れたって話していたんだね?】
【そぉなの~。でも父ちゃん『思いきり飛んだらいいよ』って♪】
【そう。ロシアの件が終わったら皆揃って会いに行こう】
【うん♪ 夏の音楽修行は?
まだ決まってないの?】
【金錦兄さんが話を進めてくれているよ。
ほぼ決まったんじゃないかな?
父さんの家で暮らすのは確定だよ】
【ん♪ わくわく楽しみ~♪】【彩桜――】
【うん。来てるね。上からも】【確かにね】
【拠点が見つかり、追い出されたようだな】
【ロークス様とラナクス様が尾行しているね】
【先に魔女? ほぼ同時到着なるよ?】
【そうだね。金錦兄さん、どうしますか?】
【二手に分かれる。
青生 彩桜 サーロンは南西より飛来している魔女に。
他は浄化有効な上空よりの悪神憑きに】
【【【【【【はい!】】】】】】
【オレも加勢する!】【ワラワもじゃっ!】
【サーロンと神眼と供与は任せろ!♪】
【リーロン 虹香姫、頼む!】上5人。
【おうよ♪】【あいな♪】
【サーロン乗れ!】【はい!】
【私達は上に! ジョーヌは彩桜を乗せて!】
【【【はい!】】】
ウィスタリア ナスタチウム カンパニュラは上昇し、ジョーヌはラピスリに並んだ。
【彩桜君♪】【うん♪】ぴょ~ん♪
―◦―
ロシア大帝城の上空は龍だらけだ。
狐儀と理俱は皇帝に その光景を見せている。
「狐の神様、今度はドラゴンの襲撃ですか?」
「いいえ。西洋で言い伝えられているドラゴンではありません。
東洋の龍神です。龍神は私共の仲間です。
今、南西からはエレーニャに憑いていた魔女の片割れが迫っております。
再びエレーニャを操ろうとしているのです。
上空からは魔女に呼ばれた息子が加勢しようと来ております。
その両者に対し、龍神に乗ったマーズが向かっているのです」
「マーズ? エルサムの奇跡の?」
「はい。ロシアの件、感知できず後になりました事、申し訳ないばかりです」
「いえ……外に助けを求めるという考えが全くありませんでした。
私の不覚で御座います」
「今後は連絡して頂けますか?」
「はい。不可解と思うのは私が知らぬだけと学びましたので、お願い致します」
「ではアーティストとしてのマーズの事務所の方に」
名刺が皇帝の前に浮かんだ。
「ありがとうございます。
フリューゲル&マーズ……この週末にコンサートのある団体でしたか?」
「はい。平素はアーティストですので。
忍者も祓い屋も裏稼業です」
「ニンジャ、ハライヤ……そうですか」
「悪霊でも悪魔でも退治しますよ」
【兄様、別方向からも】【そうですね】
「新たに増えましたので結界を強めます」
【【輝天包囲強化!!】】【防禍闇呼膜!】
【彩桜様ありがとうございます】【うん♪】
―◦―
魔女の丘をラピスリ達が去ってから土中から出、ロシアに向かって飛んだ悪霊魔女を追って来た小さな黒い点が浮遊霊に入り、魔女の眼前に浮かんだ。
(オーガンディオーネよ。我が命に従え)
〈誰よっ!?〉
(我は闇禍の大神、ヒノカミことブルー。
従えば望みは叶えてやろう)
〈この世を統べる女王と成れるのね!〉
(その程度、容易き事。叶えてやろうぞ。
我を取り込め)
浮遊霊を捨てた。
〈闇禍様ではございませんか♪
どうぞお入りくださいませ♪
では何なりと ご指示を!〉
(そうか。先ずは――)魔女の魂に入り込んだ。
―◦―
【あれぇ? 逃げちゃったぁ】【そうだね】
【全方位最警戒で待つしかなさそうだな】
魔女が姿を眩まし、気すらも全く掴めなくなってしまった。
【罠っぽいけどねぇ】【罠で確定だよ】
【あれれ? コレって……】【うん……】
彩桜は掌握で青生に触れた。
(拾知、蓋されてる?)(そんな感じだね)
(また闇禍? 来てる?)(居そうだよね)
【どうした?】【彩桜? 青生先生?】
【待って……【下!!】】叫んでからも追尾。
オニキスも神眼で追う。【城の下に入った!】
【警戒お願い!】
彩桜はラピスリに移り、一緒に消えた。
【確かに、封じるなんて出来るのはアイツらだけだ。
けどワナかもしれねぇ。
オレ達は魔女の警戒だ!】
【囮に誘き寄せ集めて、その隙に別経路から入ろうという罠ですね!
ボク、頑張ります!】
【よーし! 神眼、鍛えてやっからな!】
【はい!】
【うむ♪ ワラワに任せよ♪】
【はいっ♪】【お~い姫ぇ】【姉様ってば~】
【ボク、お師匠様いっぱいで幸せです♪】
【良き弟じゃのぅ~♪】【姉様、僕は!?】
【ジョーヌも良き弟じゃぞ♪】【はい!♪】
【お~い、真面目にやろ~ぜ】
【【はい♪】】【ワラワは至極真面目じゃぞ♪】
―◦―
〖間に合った~♪ 神力封じて封珠にイン♪〗
ロシア上空。
騎龍5マーズと3龍神とロークス・ラナクスから浄破邪を浴びまくっていた不穏な人神夫婦は、現れたガネーシャの鼻先の封珠に吸い込まれた。
【ありがとうございます!】一斉。
〖もう1ペア、行っくよ~♪〗
【【えっ!?】】狐兄弟。
〖アッチからお年寄り~♪
でも動かしてるのは悪神だから~気をつけてね~♪
また、い~っぱい浴びせて浄めてね~♪〗
【向こうから目が赤いヤツらも来てるぞ!】
【ふむ。操られているのだな。
先に悪神の欠片持ちからだ!】
【【【【はい!】】】】
―◦―
【さっきの魔女もだけど、唐突に消えてしまうのは何だろうね? 術なのかな?】
【逆具現化だと気は掴めるもんねぇ。
瞬移でも追えるし~、隠蓑の術かにゃ?】
【ふむ。可能性は大いに有るな。
相手は古の人神だからな】
【でもアレ、闇禍だよ】【たぶん、だけどね】
【また来たのか?
それとも魔女が王妃の頃のものか?】
【まだ何とも言えないよ】【うんうん】
【ふむ……】拾知しないのか?
【それがね――】【青生様 彩桜様っ】
反射的に声へと瞬移!
――エレーニャの部屋。
【【【昇華光明煌輝、滅禍浄破邪!!】】】
充満していた禍の黒霧が晴れる。
【狐儀殿!!】【理俱師匠シッカリ!!】
倒れていた白狐達をラピスリが背に掬う。
【【【浄治癒の極み!!】】】
【皇帝、を……】【帝妃、も、頼む……】
【拐われたようだな】
【さっきの、禍でしょ。
闇禍と魔女と悪神、合体?】
【嫌な事を言うな。拾ったのか?】
【さっき魔女が近づいてからずっと、拾知は使えなくされているよ】
【封じられてるのか拒絶されてるのかも分かんにゃいのぉ】
【そんな大事な――】【瑠璃姉、塔の上!】
彩桜が言い終わる前に青生が皆を連れて瞬移していた。
拾知が使えない青生と彩桜――って、拾知ナシでも戦えそうですけどね。
本格的にロシアで大騒ぎになりました。




