ペンタクス
「古の四獣神の御力を今 此処に!!」
【姿 戻してね~♪】
【僕よりラピスリ姉様の方がピッタリ?】
【どっちも青でしょ♪ 進めて進めて♪】
青よりは碧だと気にしつつ続けた。
「神力封破!!」
ナターダグラルが掲げている水晶から光を帯びた白赤黒の珠が西南北へと飛び、青は真下に降りた。
【ほら青って認めてもらえたでしょ♪】
宿ると同時に姿を変えた獣神達は素早く詠唱を始めた。
「――世に禍を招く悪神ザブダクルに!」
青龍がザブダクルの頭上に封珠を投じ――
「「「「封乱悪牢!!」」」」
――続けて放った光矢がザブダクルを貫くと弾けて包み、スッと封珠に引き込んだ。
「御力をありがとうございました!
神力解還!!」
四色の珠が水晶に戻った。
「私が遅れた為に……あのように……。
人世が混乱してしまいましたが、速やかに死魂の導きをお願いします」
深々と頭を下げ、姿を消した。
―・―*―・―
〈トリノクス様……だいじょ~ぶ……?〉
《封印が固く……開かず……青年をも死なせてしまった……》
〈力は……?〉
《どうにか……継げたが……内から開く事、叶う迄……眠っておれ……》
〈ん……タカシ~、スズちゃん泣いてるよ……無事、なんだ、よ、ね…………〉
二人が救出されているからなのか、自分達の意識が遠退いているからなのか、泣き叫ぶ紗と奏の声が遠ざかっていった。
―・―*―・―
悪神を神世に連行したと見せかけて、マディアだけでなく獣神達皆が姿を消して様子を見ていると、囲んでいた死司神達も職務に戻って行った。
ひと息ついたところにエーデラークが戻り、他の獣神達と同様に姿を消した。
それを合図にしたかのようにオフォクスがイーリスタを連れて離れ、ナターダグラルを龍達が囲んだ。
【お前……マディアか?】つんつん。
【オニキスは相変わらずだね♪】
【相変わらずって~。
ま、無事で良かったよ。
で、その姿は? あのイヤ~なヤツだろ?】
【うん。死司の最高司ナターダグラル♪】
【前に来た時に浴びた破邪で寝込んでたんだ】
ディルムが割り込んだ。
【だから僕が身代わりしてたんだ♪
エーデラークしてるの僕の奥さん♪】
【はじめまして。エーデリリィと申します】
【僕達の姉様だけど、大好きなんだ♪】
【【姉様!?♪】】
そう叫んだミルキィとチェリーにエーデリリィは頭を下げた。
【堕としてしまって ごめんなさい】
【迂闊に敵神の所に入っちゃった】
【私達が悪いのよね~】顔見合せ苦笑。
【【だから ありがとうございました♪】】
【もう龍に戻れたのね?】
【【ラピスリのおかげ~♪】】
少し離れていたラピスリを連れて来た。
【ありがとう、ラピスリ】
【いえ……】
【【ど~したの?】】
【アーマル兄様が掴めぬ。返事が無い】
【また寝てる?】【ショウは?】
【誰も返事をせぬ】【【ええっ!?】】
【トリノクスも返事をせぬ。
話すのならば社に来い】
イーリスタを掴んだままのオフォクスも戻っていた。
【オフォクス~♪ もっかい亀ねっ♪
瞬移ナシ競争だよっ♪】
【何故また亀に?】狐の眉間に怪訝皺。
【僕が兎だから~♪】ぴょん♪
【【【【兎と亀?】】】】【【【ああ~】】】
【そのと~り♪】【お~いリグーリ!】
ディルムが相棒を呼んだ。
【呼ぶなっ!】【大丈夫だから来いよ♪】
【何だよ?】爺様登場。マディア大笑い。
【皆の死神装束 預かってくれ♪
あの場所に行きたいんだ】下を指す。
【行くって……?】【悪神も入ったろ♪】
【教会に寄れよ?】【おぅよ♪】
【誰を封じたんだ?】【最高司様だよ♪】
【え"】【みんな~♪ 行っくよ~♪】
宙を爆走する兎と亀は直ぐに見えなくなった。
【見てる場合じゃねぇな。行こう】降下。
虎を先頭に降りて行く龍達を眺めた老神は、やれやれと溜め息をつくと教会へと瞬移した。
―◦―
【酷い有り様ね……】
【【禍の痕跡……?】】
【投げたのは禍だったのですか?】
【アイツ、死印を大量に投げたんだ】
【死印に禍を纏わせたんだよ。きっと】
「ショウ!!」
瑠璃は車の下に見える尾と足に向かって駆け寄ろうとしたが警官に止められた。
「私は獣医だ!」「しかし――」
「瑠璃! こっち!」
横転したトラックの向こうで立ち上がった青生が手招きした。
直ぐにトラックに手を掛け、持ち上げる。
「人! 引き出して!」
警官が渋々な表情で敬礼したので瑠璃は青生の元に駆け寄った。
【オレ達も!】【行こう!】
【死印が付いていなければ助かる!
上から治癒を当ててくれ!】
【そっか。人姿でもラピスリみたく止められちまうよな】
【治癒するよ!】上昇!
青生と瑠璃はトラックの運転手をレスキュー隊員に渡し、荷台の馬の治療に掛かった。
「青生は何故?」
「午後のお散歩タイムなペットも多いから呼ばれたんだ。
紗ちゃんは無事だよ。
ショウは……残念だけど……」
「そうか。護りきったのだな……」
記録している者達を追うように場所を移している青生と瑠璃は、話しながら次々と下敷きになっている人やペット達を出し、ドアを抉じ開けて運転手を出していった。
「あ、人も出しますけど処置は出来ませんので、お願いします。
獣医って力仕事なんですよね」
驚いているレスキュー隊員に青生が言った。
その横で瑠璃が歪んだ車のドアを開けるとドアが外れてしまった。
「重機要らず……」ボソッ。
「たまたまですよ。
ですが、次々開けて退かしますので後をお願いします。
応急処置をしたペット達も対応可能な動物病院に運んで頂けますか?」
―◦―
そうして普通のペット達は他の動物病院に運んでもらい、青生と瑠璃は処置中に治癒を当てた堕神達と、まだ泣いている紗を連れて自分達の院に戻った。
紗は泣くばかりで何も話さなかったと、澪には連絡が届いていなかった。
「治癒は俺に任せて、戌井さんに……でも、辛かったら逆でもいいよ?」
「いや。私が行く」
―・―*―・―
ラピスリを除く獣神達はキツネの社に集まっていた。
しかしオフォクスとイーリスタは戻っておらず、マディアとエーデリリィは死司神達を落ち着かせ、浄化域に昇った堕神達の事を頼みに行かなければならないからと、待ちきれずに神世に戻ってしまった。
「俺も ゆっくりしてられないんだがな。
フェネギは?」
香箱座りだった白虎がスンと身体を起こし、尾を身体に添わせて前に巻いた。
「欠片持ちのユーレイ祓い屋と一緒に九州だとよ。ナンか厄介事らしいぞ」
とぐろ巻きな尾に腰掛けているように見える座り方の黒龍が答える。
「直接 話したかったんだがなぁ……」
「オレ達には?」
「ティングレイスは敵だと思ってるか?」
「獣神狩りで会った王はアイツなんだろ?
本物は抜け殻王なんだろ?」
「ああ。今は抜け殻のフリしてる王だがな」
「って、支配が解けたのか!?
あっ!『これで目覚める』って声!」
「ん? そんなの聞いてたのか。
エーデリリィ様の同代が解いたらしい。
だから今、俺達がルロザムール使って同じ方法で解けるのか検証中だよ」
「どのくらいで判るんだ?」
「さぁな。それも含めての検証だ。
で、ティングレイスは操られていた。
王子達を作ったのはアイツだ。
ここまでは確定だ」
「フェネギは自分の目で確かめねぇと信じねぇだろ~なぁ」
「頑なだからなぁ」「僕の勝ち~♪」ぴょん♪
「あ……イーリスタ様……」
「オフォクス様は?」
「イーリスタ様、月に連れて行くのでは?」
亀の甲羅の上に犬。
「おや? その犬は――」
「ウィスタリアが見つけてくれたそうだな。
有り難う。弟のペンタクスだ」
「あ、いえ……」照れている。
「でも龍の感じするんですけど?」
「ペンタクスは狐、蛇、亀、牛、龍を持つ」
「そんなに!?」
「あ~、だから玄武様候補かぁ」
ディルムが合点したと尾の先で床をトンッ。
「そ~なんだよね~♪
見つかって良かったよ~♪
でも封印キツくて、名前なかなか受け入れてくれなかったんだよね~」
「そーいえば、アイツ封じた時のカッケーの何ですか?」
オニキスが身を乗り出す。
「彼奴は古の悪神ザブダクルだ。
禍を自在に操り、神世を滅ぼそうとしたザブダクルを封じたのが初代四獣神様方だ。
再び封じるには儂等では力不足。
故に御力を借りて封じたのだ」
「たぶんね~、ザブダクル専用に作った術だから器になる獣神はガチガチ方位固定で同色同族神でないとダメなんだよね~。
オフォクスとドラグーナとマリュースと僕が唱えても力不足だと思う~」
「それをマディアとディルムが?」
「僕もオフォクスも器になっただけ~♪
でもね、古の四獣神様に認めてもらえるくらいにマディアもディルムも鍛え上げてるんだよ♪」
「えええっ!?」「悪かったな」シャキン☆
「爪引っ込めろって!」「ふん」
オニキスはウィスタリアの隣に逃げた。
「マディアも? 小っこいままなのに?」
「お前達の代が職域に連れて行かれて以降、儂等の代わりに滝で戦っていたのはマディアとティングレイスだ」
「ええっ!?」「やはり……」
「ウィスタリア兄様?」
「遥かに強いと感じておりました」
「流石、術に長けたウィスタリアだな」
「マディア上手に隠してるのにね~♪」
見た目は白虎ですが、虎だけではないディルムは猫らしさも多分に持っています。
親は大型ネコ科総合神マリュースと猫神バステートですので。
爺様リグーリは社に来ていませんが後でオニキスかディルムが話すでしょう。
フェネギには?
これまでに、オニキスもリグーリも近い内容を話してみたんですけどね。
どうするんでしょ?
悪神が引き起こした多重事故現場では発火しなかった事だけが、この惨状での唯一の不幸中の幸いだと報道されましたが、勿論、獣神達が発火させなかったんです。
防げなかったから、せめてもと。




