多重事故
紗とショウは小夜子が住むアパートの前を通った。
〈また隠れちゃった~〉
〈何が?〉
〈ユーレイさん? 窓トコいつも隠れるの~〉
〈祓い屋なのかな?〉
〈ど~だろね~。
ね、タカシ、クサくない?〉
〈確かに……〉
〈僕達が気をつければいい?〉
〈そうだね……〉
〈うん♪〉てってって――
―・―*―・―
マディアが現世の門に戻ると、死司装束のイーリスタが楽し気に跳ねていた。
【ブッカブカ~♪】ぴょんぴょんぴょん♪
【人姿用なんですけど?】
【楽しいからこのまま~♪】ぴょんくるん♪
【鎌は?】
【ジャマだから小っちゃくしたよ♪
それじゃ行こっ♪】
―・―*―・―
ふむ。確かに堕神だらけなのだな。
ならば結界の内で死印を神力へと放てば
誰も邪魔出来ず、一網打尽だな。
あれは? 地に死印か?
何等かの術なのか?
ただの間違い――!?!
気配も無く背後から飛来した縄状の光が巻き付き、結界の外へと引き上げられた。
小賢しい獣神めがっ!
まさか神力封じか!?
下を向いたまま動けないザブダクルに、上方から更に3本の光縄が巻き付き、続いて飛来した光縄は先端が網状に開いた。
【【破邪炎連撃!!】】【風神翔竜牙!!】
【【光輝龍神雷!!】】【風神輝竜牙!!】
ウィスタリアとラピスリの破邪をオニキスが竜巻で後押しし、続くミルキィとチェリーの浄化雷光もオニキスが竜光風で押した。
【もう1発!! 全力で――】〈させぬ!!〉
ナターダグラルの姿から嗄れた低い声が聞こえたと同時に、網目から勢いよく禍が蛇の如く何本も抜け出、絡み合って大きな塊となった。
【【どうして!?】】【【破邪炎連撃!!】】
ものともせず禍は膨張を続ける。
【魂浄破邪、解輝破呪!!】
〈ウグッ――〉
現れたオフォクスが放った破邪はザブダクルを射って包み、破呪は禍を包んで滅した。
〈忌々しい獣神共めがっ!!〉
再び禍蛇が網目という網目から出、今度はザブダクル自身を包んだ。
【何する気よ!?】【何かの間違い!?】
【禍魂浄破邪!!】【【破邪炎連撃!!】】
―・―*―・―
〈あ♪ トリノクス様の欠片のオニーサン♪〉
〈そうだね。デートみたいだね〉
〈仲良しさんだね~♪〉
《私の……大きな欠片……》
〈〈トリノクス様?〉〉
《此処に集まっておる分より大きな欠片だ。
どうやら堕神と同様に人魂で封じておるようだな》
〈彼の欠片を引き込むより、トリノクス様が彼の内に入った方が良いのですか?〉
《何れが良かろうな……向こうが大きいが、封じられ、眠っておるからな》
〈合わせたら復活するの?〉
《可能であろうな》
青年が立ち止まったので近くなり、声が聞こえるようになった。
「あれ? 落としたのかな?」
首周りを探っている。
「何を?」
「お守り。ほら、響がくれたヤツ」
また歩き始めた。
「それって、もしかして死神避けの?」
「それそれ♪ 鎖が切れたのかな?」
「なんて暢気に言ってる場合じゃないわ。
響はバイトに行ったわよね……それなら、落ちていないか捜しながら翔の家の前まで戻って、見つからなかったら響のバイト先に行きましょう?」
「映画は?」
「また今度でいいわよ。
翔に何かあったらなんて考えたくもないわ。
ね? 引き返しましょう?」
「奏は心配性だなぁ」
「心配して当然でしょう?
翔、お願い。戻りましょう」
《そうか。
死印を無効にするものを得ていたのか。
響とやら、余程 神力が強いのだな》
〈ヒビキって祓い屋オネーサンだよね♪
御札ヒュンッ! ってカッコイイの~♪〉
―・―*―・―
【マジで消えた!?】【【出た!】】
破邪が達する寸前で姿を眩ませた敵神を龍達が散開して探っていたが掴めず、オニキスが声を上げた刹那、少し離れた宙――まだ万全ではないミルキィとチェリーの真上に姿を見せた。
【網と縄が無い!?】
【消す為の禍だったようだな】
【【また結界に向かって来る!?】】
【何か投げました!】【ミルチェリ逃げろ!】
【【うん!】】【モグラ!?】【ええっ!?】
―・―*―・―
〈タカシ~、コレなぁに?
あのオニーサンも2つになっちゃった~〉
〈咄嗟に動いてしまったんだ。
紗に向かって来たから……〉
引き返し始めたばかりの二人の背中を見る。
〈彼も……彼女の分だろうね〉
〈取れなぁい~〉尻尾ブンブン!
「ショウ? さっきから なにしてるの?
ムシおっかけてるの?」
〈背中とお尻に何か くっついて気持ち悪いのっ!〉
〈たぶん取れないよ〉
〈コレ何っ!?〉《死印だ》
〈ソレなぁに?〉《止まれ!!》
―・―*―・―
オフォクスに続いて結界の中に入った龍達は、神力封じや破邪を放ち続けていたが、ザブダクルは素早く躱しつつ、再び何かを投じようと身構えた。
【モグラ、戻れ。
お前も狙われておるのだ】
【お離しください。
私しか奴を止められません】
【ふむ……止めたならば戻れ】
【はい】
その間にモグラを捕まえたオフォクスだったが、互いの手首を念綱で繋ぎ、手を離した。
【ありがとうございます】
一礼するとザブダクルの眼前に瞬移し、血赤に鈍く光る目を合わせると、ザブダクルは投じようとした格好のまま固まった。
【十分だ】念綱を引く。
【ご心配、感謝致します】
【社から動くなよ?
未だ万全ではないのだからな】
念綱を解いた。
【畏まりました】礼をしたまま消えた。
―・―*―・―
〈スズちゃん動いちゃダメッ!!〉
〈紗!!〉《耐えよショウ!》〈うんっ!〉
「奏っ!!」突き飛ばした。
複数の急ブレーキ音とクラクションが鳴り響く。
そして連続する衝撃音――
「来るな奏!!」犬と少女に向かう!
《恐らく此の身体は死ぬ。
向こうの欠片と融合し、私が皆を護る。
目覚めよアーマル!
ショウの内に己と飛翔を封じよ!》
〈はい!!〉
弾かれた車が向かって来た。
《青年を護る為にも急ぎ力を継がねばならぬ。
故に移動する!》
もう1台、街路樹に当たって角度が変わり、横転しつつ真っ直ぐショウへと――
―・―*―・―
オフォクスとモグラが話している間に龍達はザブダクルを網で捕え、結界の外に出していた。
【すっご~い♪ 捕まえちゃってる~♪】
驚いた龍達の視線がルロザムールに集まった。
【オフォクス~♪】きゃっほ~♪
【イーリスタ、、様? 何故?】
【玄武様して~♪】
嬉しそうに手を振っている。
周りから見ればルロザムールが、だ。
龍達を見て怯えている大勢の死司神達が驚きで見開いた眼で遠巻きに見詰める中、ナターダグラルが水晶を掲げた。
「死司の最高司として生死を混乱させる悪神を許してはおけません!
手段を選べぬ事態が起こりましたので、古の四獣神様の御力を借り、封じます!」
エーデラークがナターダグラルに並び、
「彼の者は最高司様の御姿をした偽者です!
結界の内に入れた事こそ、その証拠!
皆は死司神としてお働きなさい!」
周囲の死司神達に指示し、先頭きって降下した。
それに従い半数以上が降下した。
【みんな~♪
死神風の人姿になってね~♪】
狐と龍達、慌てて従う。
「先程の獣神の姿も、神世から逃走した偽者を捕える為に借りたもの。
怯える必要はありません。
さ、偽者を此処に」
成り行きを確かめる為か、いざとなれば助けに向かうつもりなのか、留まり見ている者達から安堵が伝わる。
東にナターダグラル、西にダンディ男神、南にルロザムール、北に狐だった男神が位置し、その中央に網に包まれたまま暴れてはいるが半ばモグラの支配が残っているらしい偽ナターダグラルをエーデラークが置いた。
「古の四獣神様の御力を今 此処に!!」
2月半ば過ぎ、バレンタイン直後の休日です。
こうしてカケルとショウは魂が重なったユーレイになったんです。
今更ながらな説明ですが、余白が大きいので『はじめに』のおさらいです。
この物語はハイファンタジーです。
現実世界に極めて近い異世界なんです。
太陽ではなくて陽(陽輝星)。
地球じゃなくて地(地星)。
月は月なんですけどね。
日本ぽい、この島国は邦和国です。
現首都の東京都は略称が東京ですが、近代以降、交互に首都になっている西京都の略称は京都だったりします。