子連れ魔女の襲撃
翌早朝、彩桜とサーロンがホテルの部屋に戻るとベッドには誰かが寝ていた。
【部屋、間違ったかにゃ?】
【この部屋で間違いないよ】
向いている角度と掛布団で顔は見えないが、寝ているのは大人で男性。――までは確定。
神力は感じないが、念の為そぉ~っと神眼で顔を確かめる。
【な~んだ。
トレービおじさんとジョージおじさんだ~♪】
それなら乗っかってOK♪
ぴょ~ん♪「ぐわあっ!?」隣も♪
ぴょ~ん♪「ぶおがっ!?」着地♪
「おじさん達おっはよ~♪」
「「何しやがるんだよ彩桜ぁ」」
こういう時は、どっちも英語。
「だって俺とサーロンの部屋なんだも~ん♪」
「金錦がいいと言ったんだよ」
「そもそもワケアリなんだからな」
「ナンで居るの?」漢中国♪
「「仕事に決まってるだろ」」
「行き当たりばったり?」
「「なワケあるかよ」」
起き上がった。
「ホテル側の手違いだよ」
「ブッキングだとよ。
だから楽団に相談しようと歩いてたら金錦と会ったんだよ」
「で、彩桜とサーロンの部屋が空いてるから泊まっていいと言ってくれたんだよ」
「3日間、泊まるからな」
「たった3日でいいの? リハとかしないの?」
「ブッキングしてるのが3日間なんだよ」
「続きは予約してたホテルに行くよ。
毎朝こんな起こされ方なんか耐えられるかよ」
「ふ~ん♪ 明日と明後日も起こしてあげる♪」
「「あのなぁ」」
【金錦兄、俺達の朝ご飯は?】
【宿泊者は変更したが食事券は得ている】
【ん♪】瞬移♪ 貰って戻った♪
「サーロンはい♪ ご飯 行こ~♪」「はい♪」
「うわっ!」「急げ! 食い物が無くなる!」
―◦―
「お~い、マジで後の客どーすんだよぉ?」
「朝イチに1人でスッカラカンにすんな~」
朝食後、部屋に戻る廊下で。
「ん?」ぴょ~んぴょ~ん♪
「どこ行くんだよ?」「この部屋だぞ」
「走り行く~♪」「行くです♪」
ぴょんぴょんぴょ~ん♪ で消えた。
「せっかく会えたのになぁ」
「な~んも話せないよなぁ」
「ま、仕事行く準備するか」
「ちょい遠くなったからな」
連れて行ってもらうのも諦めて部屋に入った。
―◦―
金錦達が約束した時間の少し前に漢中総科大学に行くと、龍教授は虎威教授一行に捕まっていた。
「あっ、輝竜教授、すみません。
案内は私がしますので今日のところは、お許しください!」
龍教授の息子で助手の昇陽が走って来た。
「同大学の者がご迷惑をお掛けしているのですから申し訳ないのは此方です。
虎威教授の話の方が今後の為になるでしょう。
地図さえ頂ければ私共は大丈夫です」
「いいえ!
私は輝竜教授のお話こそが今後の為に必要だと考えますので、どうかお供させてください!」
「ありがとうございます。
ではお願いします」
「最初の場所は車でしか行けません。
此方です♪」
金錦と話したいのは嘘ではなさそうだが、虎威教授から解放された嬉しさの方が大きいようだと、金錦の一行は苦笑を浮かべた。
【ねぇねぇ理俱師匠。今にゃにしてるのぉ?】
一緒に居るのは分身なので聞いてみた。
【魔女探しだよ。
夜中にオフォクス様と瑠璃が話してるのを聞かせてもらったんだ。
黒い悪霊は逃げたそうだ。
だがオフォクス様の光攻撃を複数回 受けてるから、滅されていなければ、の話なんだが動けなくなってる可能性が高い。
だが時間が経てば経つ程、復活する可能性も高くなる。
次々と仲間が減ってるのも感知してるかもしれん。
だから急いで探してるんだよ】
【俺達は? 探さなくていいの?】
【複数で動いたら警戒されるだろ。
おとなしく勉強しててくれ】
【はぁい】
―◦―
楽しく史跡や資料館を巡っての夜。
彩桜とサーロンはホテルには寄らずに翔家に戻った。
子供達と遊び、勉強を見て、就寝時間になったので二人でレストランを浄化した後、今度は杏華に治癒を当てに行った。
「こんばんは~♪」「今夜はボク達です♪」
彩桜は浄治癒を、サーロンは術治癒を当てる。
「ありがとう。
私、どのくらいで治るのかしら?」
「10日くらいで普通に生活できます。
でも悪いの、長く居座ってたから少しずつ消さないとなんです。
だから これからも夜に治癒しに来ます♪」
「遠いのに……忍者さんは平気なのね?」
「「はい♪」」
杏華が何か言おうとした時、彩桜とサーロンの方を向いている杏華の背後の壁が黒く揺らめいた。
彩桜が瞬移して揺らめく染みから杏華を背に庇う。
サーロンは立ち上がって彩桜とは反対を向き、杏華を背に庇った体勢で、黒い揺らめきの真向かいの壁に感じる不穏に対峙した。
杏華を挟んで背中合わせな形だ。
【兄貴達! 師匠達!
昇華光明煌輝、光反転治癒!!】「ぎゃっ――」
【サーロンそっちオーロ!】
【だったら滅禍浄破邪の極み!!】「がはっ――」
【此処に来やがったのか!!
俺が追うから杏華さんを頼む!!】
一瞬だけ慎也なリグーリが見えた。
これまた一瞬だけな慎介が更に追う。
青生 瑠璃 梅華が来た。
【他は子供部屋と主の部屋を護っている。
私とメイが居れば、奴は必ず此処に戻る】
【ん。魔女と悪神、一緒に居るよ。
魔女、弱ってて動き悪いの。
光反転治癒で苦しんでた】
【やはり反転治癒は効くのだな。
死後に出会ったか、同一人物に入っていたのか、だな】
【同じヒトなら、やっぱりヤミ再生神さんの仕業だよねぇ】
【なのだろうな。
オーラタム男爵の子孫が依頼したか、そのものがヤミ再生神なのか……】
【んとねぇ……悪神入りオーラタム様の子孫さんとぉ、子孫じゃないヒト、仲間かにゃ?
もっかい来たら見えるかも~】
【どんどん拾知が冴えてきていないか?】
【そぉかにゃ?】【また近くなってるぞ!】
理俱の声で緊張が走る。
【来るようだな】【うん!】【はい!】
感覚を研ぎ澄ませ【【昇華光明煌輝……】】
何処からかの不穏を感じた刹那
【【光反転治癒!!】】
青生と彩桜が天井に向けて放った。
【闇障暗化! 激天大闇呼吸着!!】
耳障りな混声二重唱が闇呼玉に吸い込まれる。
【西に浄破邪お願い!】【夢幻爆眠封縛!】
【【滅禍浄破邪!!】】
光が壁に達したのと黒い染みが浮かんだのとが同時で、男の叫び声が響いた。
【激天大闇呼吸着おかわりなのっ!!】
叫んだ男は2つ目の闇呼玉に吸い込まれた。
【爆眠お願いなのっ!】
闇呼玉を瑠璃に投げて瞬移。
青生は既に瞬移していた。
―・―*―・―
【【光反転治癒!!】】
白狐神達が戦っていた悪霊からは女の叫び声。
【激天大闇呼吸着お腹いっぱいなのっ!!】
金切り声ごと闇呼玉へ。
【夢幻爆眠封縛!!】【封印完了~♪】
やっと静寂。そして寒い。
青生が治癒で皆を包んだ。
【此処……またヒマラヤ?】
【ではなさそうだよ。北極圏かな?】
【はい。巨大な氷山の上です】
【悪霊、寒くないもんねぇ】
【理俱殿、此処を拠点にしていたんですか?】
【いや。だが漢中国よりは北。
ロシアに入ってすぐくらいに巣食っていたよ。
だからボンボ達を拐って支配した親玉も拠点にしてたんだろうな】
【そっか。集まってたんだ。
悪霊 逃げて此処なら、もちょっと様子見するよね?】
揃って頷いた。
【じゃあ夜食~♪】
消えて戻った両手に皿。おにぎり てんこ盛り。
【一瞬で?】
【黒瑯兄 リーロン作ってくれてた~♪
食べよ~♪】
―・―*―・―
杏華の部屋も次は来ず、静かなものだったが、緊張感は途切れていなかった。
【サーロン、落ち込んでいるのか?】
【いえ。彩桜はボクの目標ですから。
また高い所に昇ったな、くらいです。
ボクの力は彩桜とは違っていても、同じ高みを目指すのは出来ると思ってます。
だから諦めません】
【すっかり大人だな。
私は……どんどん高く昇り続ける青生を見ていると、確かに嬉しいのだが……どうしても悔しいと思ってしまう。
だが、同じ高みを目指すというサーロンの言葉を聞いて、確かに そうだと思った。だから私も諦めぬ】
【瑠璃先生は遥か高み側ですよ】
【そうでもないが……ありがとう】
―・―*―・―
浄化・魂生合同研究室の室員3神は、理子の魂を分離分析しつつ、理子を人魂の新材に移す作業を並行していた。
「進捗は如何です? 気付きはありますか?」
室長は書物調査の手を止めて作業場所に行った。
「室長、この魂の厳重さは やはり異常です」
「職神が成したものとは到底 考えられません」
「と言うか、こんな事が出来る人神が居るとは思えません」
「ですよね。
内の魂も強いと感じましたが、術者も とても強い筈です。
そんな人神が、古ならともかく今 存在しているなんて思えませんよ」
「普通の魂材保護ですと、どうしても厚みが出てしまうものです」
「その通常の保護の厚み未満で20層もの保護を掛けているのです。
ですから内が見えなかったのです」
「この状態で異常を発見なされた今ピュアリラ様と各最高司補方々は皆様、獣神様です。
よくぞ見つけられたと、褒め言葉すらも浮かばない程に感激しております!」
同意だと室長も大きく頷く。
「おそらくは獣神様方には全く内が見えぬようにと包んでいたのでしょう。
それで、封印ではなく保護なのですね?」
「「「はい! それは確かです!」」」
「では何者かが保護をし、人に込めるのをヤミ職神に依頼したと仮定しましょう。
その場合、ヤミ職神は獣神なのですか?」
「それが……」「込めたのも人神だとしか……」
「獣神の気を感じないのです」
頷き合う。
「内の廃棄魂材には僅かに獣神魂材が含まれておりますが、その他には全く。
呪かとも思える程に強い保護は全て、人神しか感じません」
「廃棄魂材中の獣神魂材は可能な限り除去したのではないかとも思えます。
偶然の比率かも知れませんが、最も多い筈の人世獣魂材すらも僅かなのです」
「そうですか。
包まれていた魂は獣神、特に初代の今ピュアリラ様を憎んでおりました。
その為に保護した者かヤミ職神かが除去した可能性もあるでしょう。
保護した者と込めた者とが同一であるとも考えられます。
何れにせよ人神だとして、先ずは術を調べてください」
「「「はい!」」」
漢中国には黒い悪霊魔女も居るようです。
その悪霊魔女なのかは不明ですが、息子連れで襲撃してきた悪霊魔女も現れました。
魔女だらけです。
理子の方も分析が進んでいました。
魔女を保護して人に込めたヤミ再生神も探さなければなりません。
大忙しです。




