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古の悪神ザブダクル



 月が変わり、半ばを過ぎた。

順調に回復したショウは、ちらちらと降る雪の中に漂う微かな春を感じながら昼寝をしていた。


〈ん? ん~~~?〉


〈ショウ? どうかした?〉


〈一瞬だけクサかったんだけど~?

 タカシ、クサくなかった?〉


〈僕は気づかなかったけど……〉


《ショウは鼻が利く。

 予知やも知れぬ。

 警戒すべきだ》


〈そうですね。アーマル様と交替します〉


《飛翔はアーマルと力を共有しておる。

 まだ眠らせておけばよい》


〈はい〉〈あ♪ ママとアスカ~♪〉


〈そうだね。買い物に行くのかな?〉


〈あ~、お散歩じゃないんだ~。

 行っちゃった~〉


〈首輪を外してはいけないよ。

 心配かけてしまうからね〉


〈うん。仕方ないよね~〉



―・―*―・―



 神世では、まだ起き上がれないナターダグラルも窓の外をぼんやりと眺めていた。



 神世を支配するとか、獣神に復讐とか、

 どうでもよくなってきたな……。


 エーデの治癒も苦しくなくなってきたし、

 毎日が穏やかで、幸せだよなぁ……。


 もう、このまま――《許さぬぞ》「えっ?」


《儂を封じたつもりでおったのか?》


「ま、まさか玉牢(ぎょくろう)の中に居た――」


《玉牢だと? 愚かな。

 封珠(ふうじゅ)と玉牢の区別もつかず混ぜてしまうとは、人神の落ちぶれ様も大概なものだな。

 それに比べれば、儂の封印を解き、取り込んだ時のお前は大したものだと黙って眺めておったのだ。

 儂を封じおった獣神(ケモノ)なんぞ許せるものか。

 復讐を続けよ。

 さもなくば儂がお前を封じるぞ》


「しかし私はまだ動けず――」


《毎日々々破邪なんぞを浴びておるからだ》


「破邪!?」


《儂の禍を生む力を得たのだからな。

 破邪で苦しむは当然至極だ。

 解っていて彼奴は当てておったのだ。

 獣神(ケモノ)なんぞに騙されおって。愚かな》


「獣神!? まさかエーデが!?」


執務室の扉が閉まる音が聞こえた。


《騒ぐな。龍の小童(こわっぱ)が戻りおったな。

 化けの皮を剥ぐのも一興か》


「待――」


ナターダグラルを黙らせ、動けなくした古の悪神はエーデラークを呼んだ。



―・―*―・―



〈あ♪ スズちゃんだ~♪〉


〈帰りが早いけど、どうかしたのかな?〉


〈あれれ? 泣いてる?〉


〈そうだね。お友達と喧嘩したのかな?〉


〈玄関 開かないね~〉


〈澪が戻るまで入れないね……〉


〈窓も開かないね~〉


〈勝手口も開かないだろうね〉


〈コッチ来た~♪〉


〈また犬小屋で寝るのかな?〉


「ショウ、おさんぽ行こっ♪」


〈ええっ!?〉〈困ったね……〉



―・―*―・―



〈また呼んでるわね〉〈僕が行こうか?〉

〈いいわよ。また破邪で静かにさせるわ〉


エーデラーク(エーデリリィ)が扉を開けた。


【待ってエーデ! 禍だよ!

 それに……ダグラナタンじゃない!】


「エーデ……此方に……」


【逃げよう!!】手を掴んで瞬移した。



 ディルムも危ないと感じたマディアは、一緒に居たルロザムールを掴んで眠らせると、マヌルの里へと瞬移した。


【マヌルヌヌ様!

 古の悪神の倒し方をお教えください!】


【ふむ……封印が解けたようじゃな。

 神世に四獣神が居らぬ今、(すべ)は此れしか無かろう。

 悪神を封じた古の四獣神様の御力じゃ】


マディアの前に2つの水晶玉が浮かんだ。


【ひとつは力。ひとつは封珠。

 力を宿し、封じるのじゃ。

 故に龍、虎、鳳凰、蛇亀の身体が必要じゃ。

 封じる際の術を流す。

 悪神の名はザブダクル】


【ザブダクル……術の最後に必要なんですね。

 龍は僕、虎はディルム、鳳凰と蛇亀って?】


【鳳凰は月に居るじゃろ。

 耐え得る若い蛇亀……のぅ……】


【ディルム、聞いといて!

 ルロザムールも預けといて!】消えた。


【って、何処に!?】【月!】【ええっ!?】


【オフォクスは来れぬし……あとは……】


【婆様っ、早く!】



―◦―



 マディアは里と反対側の最果て、禍の滝に行った。


【カーマイン兄様! 来て!】掴んで大瞬移!


――を繰り返し、月の門へ。


――通路でも瞬移を繰り返し、月へ。


【イーリスタ様!!!】


【この話し方って久しぶり~♪】


【古の悪神が出たんです!!!】


【ん!】現れた。


「え? 瞬移は危険なんじゃ――」


「言ってる場合じゃないでしょ。

 キミが僕の身代わりだね?

 急ごう!」


〈兎野郎!!〉〈消えるな!!〉


「カーマイン兄様すみません。

 伯父様達、お願いします!」


目の前に白銀の狐が現れた。

「待って。聞こえてしまったんだ。

 蛇で亀が必要なんだよね?

 弟のペンタクスが持ってるから捜して」


【ありがとうございます!!】

兎に連れられて消えた。



―◦―



【マヌルヌヌ様! ペンタクス様は!?】


【行方不明じゃよ。神世には居らぬ】


【他に蛇亀は!?】


【此の里には居らぬ。亀の里にものぅ。

 老神では耐えられぬからのぅ】


【悪神が動いたわ!】

エーデリリィの声にマディア達も神眼を向けた。



―・―*―・―



 龍の小童には逃げられたが、

 人世は獣神だらけであったな。

 其処で肩慣らしといくか。

 さて、何処が良かろうな――



―・―*―・―



〈スズちゃん、川にしよ~よぉ〉


 紗は犬小屋の中に置いていたリードを見つけて、どうにかこうにか繋ぎ換え、門を出た所でショウと綱引き状態になっていた。


「ショウ! おさんぽコッチでしょっ!」


〈たぶん川に向かう道は、お友達の家の前を通るから嫌なんだよ〉


〈でも大通りは危険だよねぇ?〉


〈僕達が気をつければ大丈夫だよ。

 本気で引っ張れば紗は動けないよ〉


〈じゃあ いつものコース?〉く~ん。


「ねっ、コッチでしょ♪」

ゆっくりショウの力が緩んだので歩きだした。


〈あ……カナちゃんとリコちゃんと、もひとり来てるよ?〉


〈うん。仲直りしに来たのかな?〉


紗は駆けだした。


〈ちょっと待ってスズちゃん!?〉


 ん? またクサい?



―・―*―・―



 死司神とは……面白い力を持っておるな。

 ならば堕神を回収し、

 跡形もなく浄魂してやろうぞ。


 ん? 獣神の結界か? 小賢しい。


 ふむ。死司神のみを拒絶しておるのだな。

 ならば死司の証を捨てるのみ。


 やはり入れたな。では――



―・―*―・―



【キツネ様……?】


【やっと目覚めたか、モグラよ。

 此処は儂の社だ】


【私は……?】


【呪と矢に因り、長く眠っておったのだ。

 未だ安静にしておれ】


【どちらに?】


【禍々しい輩が降りて来おった。

 お前は動くな】

念を押して睨んでから消えた。



―・―*―・―



【どーして僕だけっ!?】急降下!


 悪神が人世に行ったので、オフォクスかペンタクスを捜すのも兼ねて行くと決めたマディア達は、現世の門を抜けたとたん、イーリスタだけが神力射の矢に追いかけ回されてしまった。


【コレ何っ!?

 術も吸い込んじゃうんだけどっ!?】

見えなくなっていたが急上昇して戻った。

【術移しても付いてくるぅ!】

いろいろ試したらしい。



【そーいや職神は大丈夫だな】

【もしかして、この中に鍵がある?】

【そうとしか思えないわね……】

死司装束なディルムとマディアとエーデリリィはイーリスタを目で追いながら話していた。


イーリスタは流石 両四獣神の長だけあって見事に躱し続けている。


【だったら試しに】獣姿に。


とたんに神力射がマディアを狙う!


【ヤバッ! 着てなきゃダメみたいっ!?

 エーデお願い! 一旦 神世に戻って――】


服やら鎌やら一式を渡して消えた。


【――ルロザムールの借りるから!】







2月半ばになりました。


ダグラナタンは無茶苦茶な悪事を働きましたが、その背後には古の悪神ザブダクルが憑いていたようです。



ザブダクルが憑いてしまったのは罪神として封じられた時。


つまりマディアの鱗を(むし)ったのはダグラナタン本神(ほんにん)です。


小悪党に、類友な悪神が加わっての王位簒奪やら獣神狩りだったようです。



古って、いつ?


ザブダクルは何をして、誰に封じられたの?


本章以降、その辺りをゆっくりと語ります。

m(_ _)m



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