漢中国へ翔家へ
祭典の後の月曜日。その昼下がり。
煌麗山大学で数学の講義を受けた彩桜は、サーロンと一緒に空の旅を楽しんでいた。
瞬移で行かなかったのは、金錦と同じ歴史学教授の虎威が研究室 丸ごと連れて付いて来てしまったからだ。
今回の主役である筈の金錦の方は記録係として慎也、ホテルに残っての連絡や事務処理の為に木口、オマケの彩桜とサーロンだけ。
こんな事なら学生達にもパスポートを取らせておけば良かったと後悔していた。
〈でも金錦兄は龍教授 招待してるから学生さん勉強なると思うの~〉
〈ありがとう彩桜。
学生達の卒論研究の参考になるものを選び、可能な限り多くの史跡を巡ろうと考えている〉
〈うんうん♪
俺達は白儀社長にも史跡巡り頼むの~♪〉
〈それは良いな〉フ♪
〈でしょ♪
サーロンも狐儀師匠に頼んで来たの?〉
〈うん。分身をお願いしたよ。
今回は響にも話して来たよ〉
〈じゃあ楽しも~ねっ♪ ソラ兄♪〉
〈あ……ここからはサーロンね?〉
〈うんっ♪〉
「彩桜 サーロン。
学生証を出してもらいたい。交換だ」
「ほえ?」「はい」何故? と思いつつ出した。
交換して確かめる。「「増えた!?」」
「同行の為に申請した。
今後も助手として来てもらいたい」
古い方は木口に預けた。
「歴史学 特別研究生……」「兼、特別助手……」
顔を見合わせる彩桜とサーロンだった。
―・―*―・―
金錦の研究室での昼食の後、キリュウ事務所からの連絡やらの音楽関係のメールを確かめた青生は、金錦にも伝えてから動物病院に戻った。
【瑠璃、ただいま】
【お帰り。早速だが、休診時間の内に神世に行かぬか?】
【いいけど、何かあったの?】
【悪い事ではない。
保護区域経由の道が出来上がったとエィムが知らせに来た。
確かめに行きたい】
【行こう♪】
―・―*―・―
北長安空港に着いた一行は、漢中総科大学とホテルの場所を確かめると、以降は自由行動として解散した。
金錦 彩桜 サーロンは、お世辞にも良い空気とは言えない都会を瞬移で離れた。
〈彩桜、何処に行くの?〉此処も何処?
〈翔さん家♪ 里帰り♪〉〈えっ!?〉
〈お~いコッチだ♪〉〈兄さん!?〉
リーロンと梅華がニコニコ手招きしていた。
〈オレも初めてなんだよな♪〉
〈里帰りは私だけですね。
引き取っていただいて、育てていただいたお家です〉
〈でも突然 行ったりして大丈夫ですか?〉
〈トーゼン連絡してるよ♪〉〈うんうん♪〉
〈ま、行ってのお楽しみだ♪
つっても此処だけどな♪〉〈お寺!?〉
サーロンとしては外国に長期出張なんて話が出るくらいだからサラリーマンだと思っていたので驚いてしまった。
〈おや。まだ外だったのですね〉現れた。
〈狐儀師匠? 狐松先生?〉
〈どちらでもよいのですが、梅華の夫として挨拶に参りました。
ま、邦和で結婚したと説明しますので、狐松の方にしましょう〉
〈邦和名が梅華姉ちゃんなんだね♪〉
〈そうなりますね〉
質素だが大きな門をくぐると、屋外で掃除をしていた子供達が梅華に駆け寄った。
「梅華姉ちゃんだ♪」「お帰りなさい♪」
「コッチの人達は?」「新しく入る子?」
「短期間だけ居た驪龍さんと颯龍くんの兄弟よ。
ご親戚が見つかって、すぐに出てしまったの。
その頃、颯龍くんは赤ちゃんだったから、ここの記憶はないと思うわ。
二人のご親戚、従兄弟の輝竜 金錦さんと彩桜くん。
こちらもご兄弟で邦和の方よ」
「そっか~♪」「こっちのお兄さんは?」
「私、邦和で結婚したの」
「はじめまして。梅華の夫、狐松 慎介です」
とっても高い歓声と祝う言葉が口々に。
「父ちゃん早く早く!」
最年長らしい男の子が初老の男性の手を引いて来た。
「父ちゃん、梅華姉ちゃん結婚したって♪」
「まだ掃除しなきゃダメ?」「入ろうよ~」
「お話しした~い!」「掃除は明日。ね?」
〈やっちゃお~♪〉〈彩桜、本気?〉
〈忍法で♪〉〈それならいいかな?〉
〈せ~――〉〈待って彩桜!〉〈――のっ♪〉
「忍法「ピッカピカ!」♪」
爽やかな光が舞い、ゴミも汚れも連れ去って、剪定も修繕も完了させた。
「忍者!?」「新品!?」
「こんな色だったの!?」
服の汚れやらもピッカピカだ。
「俺達、忍者~♪」「わわっ」
サーロン巻き添えで ぴょんぴょんぴょん♪
「それじゃあ入ろうか」
『父ちゃん』は子供達に囲まれて先導した。
〈忍者は世界共通で何でもアリらしいな♪〉
〈うんうん♪〉〈みたいですね〉苦笑。
〈にしても……此処は孤児院なんだな。
すんなりオレ達兄弟を受け入れてくれたのが不思議だったけど、孤児院なら納得だ〉
〈そうですね……〉
中に入ると、先に入った子供達が駆け回っていた。
口々に『ピッカピカ♪』と言っている。
〈中まで浄化したのか?〉〈した~♪〉
〈梅華様、あの縁台みたいなのは何ですか?〉
〈ベッド……とは言えないわよね。でも寝台よ〉
〈あれが!?〉〈そうなのよ〉
〈俺、紅火兄に頼む!〉瞬移。
慌ててサーロンが分身を出した。
どうやら居間らしいと思える部屋に入った。
「座って待ってもらえるかな。
茶くらいは用意するからね」
「そんならオレが。場所だけお願いします。
オレ、料理人なんですよ♪」
リーロンが付いて行った。
子供達は彩桜とサーロンに興味津々だが、チラチラ見つつ梅華と慎介の周りに集まった。
「ね、母さんは?」
梅華が幼い頃から病気がちで、此処を出て桃華の所に行った時には既に臥せっていたので心配で聞いてみた。
「母ちゃん、ずっと寝てるよ」「動けないの」
「だからご飯も父ちゃんなんだ」
「あんまり美味しくないけど仕方ないよね」
「さっき料理人て言った?」
「そうよ。驪龍さんは料理人よ。
だから今日は美味しいものが食べられるわ」
「楽しみ♪」「ずっと居る?」
「それは……」
彩桜が戻ったのでサーロンは分身を消した。
〈紅火お兄さんは?〉
〈フェスの片付けしてた~。
黒瑯兄と藤慈兄も。
小雨だったから巨大タープテントしてたよ♪
ん? 一瞬だけ来た?〉
〈確かめに来たんじゃない?
此処のお母さんが臥せってるみたい。
行ってみない?〉〈行こっ〉
スルッと部屋を出て、廊下の奥の部屋へ。
扉に手を当てて探る。
〈これって……〉〈もう危ないよ!〉
【青生兄 瑠璃姉!
青生兄!? 瑠璃姉てば!!】
〈う~ん……閉じてる? 神世? 両方かにゃ?
届かないのぉ〉
〈ボク達で命を繋ごうよ!〉〈うん!〉
部屋に入って容態を確かめる。
【何か入ってる? 浴びた?
とにかく不穏いるからサーロンは浄化ね!
めーいっぱい人用治癒の極み!】
【人用浄化の極み!】
頑張っていると狐姿な理俱が来た。
【この気……俺も浄禍に加わるからな】
【理俱師匠、不穏 感じた?】
【兄様に呼ばれたんだよ。
今は子供達を近付けたくないからとな】
【ね……この感じ、この神力みたいで神力じゃない感じ。
理子さんの芯なってた魔女に似てない?】
【そう感じたよ。
この禍は、かなり古い。だから薄い。
人だからなぁ、何年前ってのが推定し難いが、35年から40年くらい前に禍を浴びたらしい。
浴びた、つーよか掠めた、かな?
ま、さておきだ。
その頃、理子はまだ子供だ。
漢中国まで来れたとは考えられない。
だとすれば――】【も1人いる?】【――としか考えられんな】
【もしかして……人として生まれた梅華様が拐われて来たんじゃ……】
【有り得るな。
生みの親も亡くなっている。
梅華様を拾った夫婦も亡くなったらしい。
だから孤児院に預けられた。
諦めていなかった魔女が此処にも来た。
そう考えれば全てが繋がりそうだな】
【みんな禍 浴びちゃった?】
【だろうよ】
【ナンでメイ姉?】
【そこは魔女を捕まえるしかなかろうよ。
俺は先に魂内の神を目覚めさせる】
【神様 入ってるの?】
【全く見えんが、これだけ長く耐えられたんだ。
間違いなく隠れてるよ】
【ん。治癒ガンバル】【浄破邪に変えます!】
【頼む】蛇眼走査!
―・―*―・―
青生を背に乗せているラピスリは、エィムの案内で絶滅種保護区域を飛んでいた。
【恐竜が沢山だね。
彩桜を連れて来てあげたいな】
【そうだな。また来よう。
このルートならサーロンも連れて来られるな】
【姉様、イーラスタ様です】
遠くに朱色の鳳凰神が見えた。
【挨拶せねばな】向かって飛ぶ。
【はい♪】
追って並び、イーラスタに声を掛けた。
―・―*―・―
【ね、理俱師匠。ちっちゃ女神様は?】
【女神確定かよ】絶賛走査中だよ!
【うん。これも拾知?】
【俺に聞くなよなぁ】
【あ、右手♪】
【へ? うわ。マジかよ……】見つけた。
【この感じ……知ってる~♪
トクさんのアリティア様~♪】
【ったくマジかよ】苦笑。
【共鳴するかも~♪】瞬移♪
トク(漏れなくサイオンジ付き)と兎達を連れて来た。
【アリティア様♪ 起っきて~♪】
〖この小ささでは無理かもしれません。
私もまだ引き寄せられませんね。
ですが共鳴を利用して彼女の生を支えます〗
〖〖姉様、僕達も〗〗〖ありがとう〗
〖起きろドラグーナ。後押しだ〗
いつもながらの強引親父にサイオンジ苦笑。
【あ、そうですね……】ぼんやりドラグーナ。
【ドラグーナ様、寝起き悪い?】
【修行に集中していたから状況が分からなかっただけだよ。
彩桜から伝わったから、支えるよ】
【お願いしま~す♪
杏華さん頑張って~♪】
【おい、また拾知かよ】
【ん? そぉかも~♪】
せっかくの漢中国なので史跡巡りの前に里帰りをと翔家に行ったら、イキナリ禍が絡んでしまいました。
しかも魔女絡み。楽しい漢中国旅行なのにぃです。
今は連絡が取れない青生と瑠璃ですが、休診時間デートなので すぐに戻るでしょう。




