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フィナーレ



 渡音フェスの大トリ、キリュウ兄弟のステージは、また仄かに明るさが残る夕闇から宵闇に移りゆく中で始まった。

星の瞬きが増えてゆく夜空に昇る、穏やかな弦楽七重奏の音色は(フェス)の終わりを告げているようで寂しさを誘っていた。



〈ソラ~♪ それな~に?〉見上げて首傾げ。


〈次に運ぶ楽器だよ。お兄は?〉


〈眠り解いても起きないんだよね~。

 このキレイな音楽、子守歌?〉ついてく~♪


〈違うよ。お兄を寝させようなんてしてないよ〉

ついつい笑ってしまう。


〈み~んな寂しそ~なのは?〉てってって♪


〈それはフェスが終わるからだよ〉


〈終わっちゃうんだ~。もっと聴きたいな~。

 み~んな、キレイなのに聴かないのかなぁ〉


〈きっと心が覚えてるよ。

 家に帰ってから良かったな~って思うんだよ〉


〈ふ~ん〉また首傾げ。


〈運ぶしボク達も加わるから聴いててね♪〉


〈うん♪〉キョロキョロ〈ここ♪〉座る~♪



 弦楽の余韻が星空に吸い込まれている間、兄弟は深く礼をしていた。

ステージ中央部に大きく円を成して外向きに立っている、シックな各名前色の王子コスチュームに身を包んだ兄弟が顔を上げると同時に、円の内側に様々な楽器が現れた。


円心に奏者が立つように並んだティンパニ。

その周りに様々な打楽器。

更に周りには管弦楽器。

サッと動いた兄弟が、まだ祭は終わらないとファンファーレを放った。


そこからは、お得意の『とっかえひっかえ』。

華やかに、高らかに、7人だけとは到底 思えない演奏を披露する。


賑やかさを増して佳境に入ると『王子様』が倍増した。

いや、正確には10人増えている。


歓声がオクターブ上がった。


王子コスチュームのマーズは馬頭ではなくマスカレードマスク。

マスクはマントの裏地と同色なので誰なのかが判別し易くなった。


彩桜と桜マーズはクルクルとパーカッションを楽しんでいる。

しかも時々その場や移動中に何かを吹いたりもする。


中央のティンパニを叩くには管弦楽器と打楽器を飛び越えなければならない。

マーズなら忍者移動で行けるが、それはせずにキリュウ兄弟が宙返りも交えて飛び越えては演奏し、また外側に跳んで戻っている。


一斉音を弾けさせて終えると、歓声と拍手が追い掛けて昇る。



 綺麗な円を成して礼をした後、マーズが消えてステージ転換。

7台のピアノが大きな円を成し、中央には円形の台座。

キリュウ兄弟はピアノに着き、マーズは管弦楽器を構える。


中央の台座にティアラ煌めくプリンセスドレスの奏と、奏者に比べれば濃色で重厚感のある、王子と言うよりは王なメーアを紫マーズが残して去った。



 オペラ(モドキ)の始まりだった。

オペラには馴染みの薄い邦和人に向けてなので内容は単純明快で、歌詞はフル和語だ。


メーアの役は兄王子。

敵国と和睦を結ぶ為に、妹に嫁いでくれと頼む。


しかし妹姫には想いを寄せる隣国の王子が居た。

その王子は今、敵国が雇った魔女の呪いで犬に変えられている。

姿を戻すには真実の愛が必要だから隣国に嫁がせてくれと懇願する。



 その攻防戦とも言える遣り取りが続いている中――

〈奏!? 何してるんだよ!?〉

――寝起きイキナリ乗っ取って走る!

〈あ~もうっ、寝ボケお兄だ~。

 サクラ~、ソラ~、た~す~け~てぇ~〉


彩桜もソラも突進して迫る大型犬に気付いたが、如何せん演奏中で、しかもクライマックスに向かっているので離れる訳にはいかなかった。


もう、なるようになれ状態。

広いステージを疾走した大型犬が二足立ちして愛しいプリンセスを背に庇う。

観客にとっては、よく仕込んだ犬の迫真の演技だ。


『渡さない~、行かせるものか~。

 姫は~私の~愛しい人だ~~~』

青マーズがテノールを響かせる。

もちろん即興(アドリブ)だ。


紫マーズがショウ(カケル)を回収すると同時にプリンセスの前に青マーズが立つ。

〈この後は!?〉〈歌詞を伝えるから安心して〉

叫んだのはメーアだけだったが、奏も大いに困っている。



 この後は、曲は変えずに青生が歌詞を伝え続けてエンディングへ。

隣国と同盟を結ぶ事で敵国を圧倒し、プリンセスは愛しの王子と結ばれた。

これぞ単純明快ハッピーエンドでオペラは幕を閉じた。


『もうクラシックはお腹いっぱいでしょうから、ここからは後夜祭的に楽しく騒ぎましょう。

 フリューゲル&マーズ、So-χの皆さん、フル参加でお願いします!』



―・―*―・―



 クラシックメインなのに大盛り上がりしたキリュウ兄弟のステージの後、最優秀屋台の発表があり、マーズカステラが表彰されて渡音フェスの全てのプログラムが終了した。


『バンザ~イ♪』と帰りたいところだが、フリューゲル&マーズはロンドンに向かった。




 So-χは楽器を輝竜家のバスに載せてもらい、輝竜家のマイクロバスで帰っていた。

「昨夜は どうなる事やらと思ったけど、沈静化したし、一気に有名になれたから……良しと出来る? 奏さん」

運転している魁が心配そうに尋ねた。


「そうですね……素敵で頼もしい兄を得たと思います」

真面目な声で答えた後、『ふふっ♪』と笑った。

そしてクスクスと続けながら、また眠らされてしまったショウを撫でる。


「お姉ちゃん、元気になってた~♪」


「今朝は本当に もう歌えない、ステージに立つなんて無理だと思っていたの。

 でも……響がイジメられたのも同じなのかも、出る杭なのかも、って思えて。

 そうしたら、屈したくないに変わって。

 それでステージに……」


「来てくれたの、ホント嬉しかった~♪」


「ありがとう。響が歌っていたのは?」


「みんなでソッコー作ったの♪

 フリューゲル&マーズwith with♪

 すっごいメンバー作詞作曲だよ♪


 短絡おバカな報道に物申したかったの。

 だからお姉ちゃんに向けての歌だけど、どんな仲良しにも当てはまるように仕上げてもらったの。

 恋人同士とか夫婦とかだけじゃなくて、兄弟姉妹(きょうだい)、家族、友達とか、関係なんでも仲良しの歌なの」


「そうね。

 最終的に背中を押してくれた歌だったわ」


「お兄は? ちゃんと慰めてくれた?」


「少し話したけど……すぐに眠ってしまって……」


「あ~また役立たずだ~」「なぁ響、奏さん」


「「え?」」


「やっぱ、その犬がカケルさんの生まれ変わりなのか?」

爽がショウを見ている。


「ええっとぉ、ショウは本当に犬で~。

 お兄はショウに重なってるユーレイで~」


「って憑依か? 犬に?」


「お兄てば、おっちょこちょいだから~♪」

「ちょっと響。普通の人に、そんな話は!」

とうとうソラが止めた。


「あ~、まぁ、信じるよ。

 忍者達と一緒に居ると、なんだかなぁ、信じてしまうよなぁ」

ワタルとヤスも苦笑しつつ頷いている。


「つー事は、あの走ってったのはカケルさんか?」


「そうで~す♪

 勘違い暴走したから眠らされたんですよね~」


「マーズに?」


「はい♪」「もう響ってば」クイクイ。


「ステキね♪ ヤスくんも何かに憑依して私の傍に居てね♪」

「お~い、縁起でもないこと言うなよなぁ」


「お~いソコ2人「ノロケるな~」」

彼女すら居ない爽とワタル。


「でねっ♪ そのうち独立復活する予定ですから、店長、ライブハウスのスタッフとして雇ってくださいね♪」


「幽霊が復活!?」「ゾンビか?」


「もう火葬されてますからゾンビにはなれません。

 マーズに忍法をお願いしときました♪」


「それならいいわよ」「忍法なら納得だな♪」

「あ!」


「ど~したワタル?」


「俺、ボーナス貰ったら退職するんでスタッフにしてください!

 マジでバンドしたいんです!

 決めたんです!」


「スタッフ、そんなに良い給料じゃないわよ?」


「いいんです! バンドでマジ稼ぎますから!」


「そう?」

「だったら俺の秘書なんてどうかな?

 一緒に行動できるから仕事もバンドも両立できると思うけど?」


「魁さんの……お願いします!♪」


「それじゃあ採用試験を受けて合格してね」


「うわ……でも、はい!♪」



 ふと話題が途切れると、どうしても明日からを考えてしまう。

博多に帰ってしまったらヤスとは暫く会えないだろうと寂しさが(よぎ)る。ヤスの方も本当に卒業してしまったんだとヒシヒシと重さが募る。


「何を考えて黙ったのか、よく解ってるよ。

 博多のライブハウス、いくつかと連絡を取っている。

 近い内に博多で一緒に。どうかな?」


魁の言葉で皆が笑顔に。


「タクヤ君の事も考えているからね。

 白久さんからのGOが出たら呼ぼうと思ってる。

 マルチ夫妻が何を担当するのかは、その時その時とか曲毎とか改めて考えよう」


「はい♪」一斉♪


「魁さんて賢くて行動力ありますね♪」


「全ては白久さんから学んでいるんだよ。

 これからも吸収し続けるつもり」


「私も輝竜さんから吸収しよ~♪」



―・―*―・―



「ぐあっくしょい!」


「風邪なんか引かないでくださいね」治癒。

「薬を調合しましょうか?」


「くしゃみしただけだろ~がよぉ」

「ヒトデのクシャミ汚にゃ~い!」

「「また寝てやがるのかっ!?」」


「彩桜、もうすぐステージだよ」反転治癒眠。


「ん? 白久兄てば鼻水~」汚にゃ~いのぉ。


「うわ。ティッシュ!」「浄化~♪」

「……彩桜ありがとな」「うんっ♪」


「そろそろ行きませんか?」


「だなっ♪

 さぁて! もう1ステージ、ヤルぞ!」

ムンッと立ち上がる。


「鼻水白久兄~♪」ぴょんぴょんぴょん♪


「彩桜コノッ!」追う!


「パルクール♪」逃~げる~♪



「先に行こう」「「「「はい!」♪」」」


「俺も行く~♪」


「待てコノッ! 置いてくな!」


7人兄弟、仲良しこよし。







ひと騒ぎ起きましたが、魔女と悪神には妨害されずに渡音フェスは終わりました。

あ……馬頭少年団のは描けなかったなぁ。



桜「いいの~♪ 来年も出るから~♪

  来年は悟と竜騎も一緒なの~♪」


凜「て、来年なんて書かないよ?」


桜「ええ~っ!」ぶぅ。


凜「本編は次の夏の話で完結なんだからね」


桜「外伝は? 俺、4年生から始まったから

  高校卒業するくらいまで書くよねっ♪」


凜「長っ! 書かないからっ!」


桜「ええ~っ!」ぷんぷんっ。


凜「怒ってもねぇ……あ、別世界の話が

  完結したら考えてもいいかな~」


桜「ん♪『サクラん坊ず探検譚』ねっ♪」


凜「へ?」(・・;)



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