事実無根報道
渡音フェス2日目の朝。
前夜から、ニュースやらはフリューゲル&マーズwithキリュウ兄弟とwith So-χのステージとCDの話題で持ちきりの大騒ぎだった。
繰り返し流れる映像は鳥忍が舞うシーンか昇龍シーン。
それを背景に楽曲が流れるのは構わない。問題は語られる内容だった。
メーアとカナデは恋仲か!? そうに違いない。そうでなければ無名の新人を持ち上げたりしないと真しやかに大騒ぎしていた。
So-χメンバーは報道の件もあって開場の2時間前には、もうフェス会場の控室に揃っていた。
今は朝食の買い出しの為に最寄りのコンビニに出掛けている。
留守番はショウだけ。
点けっぱなしのテレビからは『Fly on the tomorrow window』をBGMにもう聞き飽きた話題が繰り返されている。
〈奏は俺の婚約者だ!〉ヴ~~~。
〈お兄てばホントに人してたの?
こ~ゆ~の、話題にしたがるのがテレビでしょ〉
〈そうは言うが腹立つんだよ!〉
〈あ♪ 賢いショウとおバカお兄が居る♪〉
〈ヒビキ ソラお帰り~♪〉〈ただいま♪〉
〈響、そこは言わないであげてよ〉
〈ってソラも認めてるのよね♪〉
〈言わないけどね〉〈ナンだよコノッ!〉
〈お姉ちゃんを信じないなんて、おバカの極みでしょ。
いい加減にしてよね。
お兄はサッサと寝ちゃったけど、お姉ちゃんは この大騒ぎで眠れなかったんだからね!
少しは慰めるとか、寄り添うとかないの!〉
〈そうなのか!? 奏は!?〉
〈今日も歌わないといけないから彩桜クンに治癒をお願いしたの。
今は輝竜さんの控室よ〉
〈俺も行く!〉
〈でも今は待ちなさいよね。
そんなカッカしてる状態じゃダメ。
これ以上お姉ちゃんの気持ち乱さないでよね。
ショウ、お兄を眠らせて〉〈は~い♪〉
―◦―
「おい見田井!
他はカメラ向けるな! 訴えるぞ!
バカ報道してないのは東邦と西邦だけだからな。ちょっと来い」
メーアもカッカしていて白久が宥めながら通訳している。
「ウチのカメラは!?」走って来ている。
「東邦なら撮っていい」
「撮谷! 来てくれ!」ブンブン手招き。
「西邦は?」
「まだ来てないんですよねぇ。
珍しいから何かあったのかと話してたところなんですよ」
「後で映像を渡してやれ」控室へ。
カメラマンの撮谷が追いついてから入って本題へ。
「大至急、事実無根の報道を止めてくれ。頼む。
カナデが臥せっちまったんだ。
このままだと今日のライブは無理だ。
俺とカナデには何も無い。
2月に来た時に素晴らしい原石を見つけた。
声が気に入った。それだけだ。
カナデの婚約者は中渡音での多重事故で亡くなってるんだ。
今も その婚約者だけを想ってるからこその、あの歌なんだよ。
けど、それに触れるのも今のカナデにはツラ過ぎる。
だから上手く纏めて、とにかく勝手な報道を止めてもらいたいんだ」
「わかりました。
西邦にも連絡して大至急 止めますので」
「止めたところで心の傷が癒えるわけじゃないが……それでも俺には このくらいしか出来ないからな。
さっきの理由の所だけ消音でもして映像は使ってくれ」
邦和式 深々礼。
「メーアさん……行くぞ撮谷!」
―・―*―・―
西邦の西中縞も財閥御三家の総帥達から同じ話を聞いて動き始めたところだった。
「「お父様……」」
ホテルからフェス会場に向かおうとしていた西中縞を呼び止め、総帥達が揃うまでをロビーで繋いでいた清楓と彰子が不安そうに寄った。
「私達も動くから心配せず待っていてくれ」
「今日こそは聴きたいと思って此方に向かって来ていたのだからね」
「行きましょう。急ぐべきですからね」
如月が促してキリュウ・マーズファン御三家も動き始めた。
「八郎さん……」
「動いてくださり、ありがとうございました。
会場に戻りましょう。
私達に出来る事を全力でしましょう」
「そうね。私達も動かなければね。
行きましょ、彰子さん」
―・―*―・―
見田井が大急ぎで映像を編集しつつ、西中縞と連絡を取り、社とも連絡を取って、東西同時に緊急特番として流して、補足は中継で見田井が話すと決まった時、最初のシャトルバスが到着して開場となり、報道エリアに人が押し寄せた。
「撮谷! 始めるぞ! あの顔はマズい!」
前夜からの報道に怒ったファン達が始発シャトルに乗って抗議しに来たらしい。
その騒ぎを背景に放送が始まった。
『東邦テレビの見田井です。
メーア=ドンナーからの直接の依頼により、これから正しい情報を――わあっ』
『テレビなんか、もう見ないからな!』
『信じないぞ!』『嘘ばかり流すな!』
見田井から奪ったマイクが次々と渡っていく。
『お待ちください! これから真実を――』
新たなマイクも奪われた。
撮谷カメラを囲んで口々に訴える。
撮谷も動かないだけで精一杯だった。
『お待ちください!』『マーズ参上!』
現れた忍者達が見田井と撮谷を救出した。
背に庇い、改めて人々と対峙する。
『東邦テレビと西邦テレビは憶測報道をしていません。
昨日のライブだけを正直な感想と共に流してくださっています』
『今もメーアからの依頼で真実を広めようとしてくださっていたんです。
どうか彼らの行動を妨げず、見守ってくださいますようお願い致します』
マーズ揃ってピシッと礼。
「そんならマーズが信頼してるトコだけにしてくれよ」
「そうだ! 他を追い出してくれ!」
一旦は静まったのに、また騒ぎが膨らむ。
『そうですね。
今、各報道社に抗議文が届いたと思いますので、これからの東邦テレビの放送を見て行動を改めなければ、再びマーズの敵として相対します』
『見田井さん、進めてください。
皆さんは囲んで妨害から彼らを守ってくださいますか?』
次のシャトルバスも到着したらしく、また怒りも露な人々が走って来ていた。
『大至急、正しい報道をしてもらいたいんです。
情報の共有、説得もお願い致します』
『俺達、怒ってくれた皆さんを仲間だと思ってます♪ お願いします♪』
『お願いします!』子供マーズ一斉。
『ん? 赤、それは?』『鉢巻き』
『そうか♪ 臨時マーズスタッフだな♪
1本ずつ取って気合い込めて巻いてくれ♪』
マーズと同じ額当て付きの鉢巻きにはフリューゲル&マーズ・キリュウ兄弟・So-χのロゴマークが、巻けば両耳の上辺りに並ぶようになっていた。
朝イチから行動を起こしたのは ほぼ奏&響ファンなので、So-χロゴも並んでいると大喜び。
本当に気合いを入れて巻いて鬨の声を上げた。
その一部始終は撮谷が撮り続けていたので そのまま放送され、続けてメーアからのメッセージに見田井が補足をして、囲んでいる人々が納得して大きく頷くという特番が出来上がった。
その反響は大きく、事実無根報道をした各社は即座に訂正して謝罪した。
―◦―
「お姉ちゃん大丈夫?
テレビ、謝ってくれたよ」
「そうみたいね。でも……」
「お兄、連れて来ようか?」
「そうね……お願いしていい?」
「もっちろん。待っててね」
―◦―
「なぁ、俺が出て行けば火に油ってのは解っているんだが、他に何か出来ないか?」
「そうだなぁ……謝罪はいいが奏チャンは騒がれたくないんだよなぁ。
これはこれで大騒ぎだからなぁ……」
「このままだと今日のステージは無理だろ?」
「だな。魁と爽の所に行こう」
「俺もいいのか?」
「控室に忍者移動だから無問題だ」
「頼む!」
――白久は銀マーズとしてメーアを連れてSo-χ控室に行った。
「魁、今日の予定は16時からだったよな?」
この日のAステージは邦和ボーイズの合同ユニットが17時半からのラストになっている。
「そうです。奏さんは?」
「無理かもな。
メーアが代わりに、ってのも騒がれるだけだ。
やっぱり、と憶測がまた飛ぶだろう。
けどプロとしてステージに穴ってのは有り得ねぇ。
だから響チャンに歌ってもらうのは?
奏チャンに向けての歌、姉妹ならではの想いを伝える歌を今から作るんだ。
当然 協力する。キリュウもメーアもだ」
「それで「お願いします!」」
―◦―
フリューゲル&マーズ、キリュウ兄弟、So-χ(十九音楽事務所)連名の抗議文に、後押しを兼ねた抗議文を続けて出してくれた財閥御三家の総帥達と会っていた金錦も戻り、大急ぎでの曲作りが始まった。
作詞・作曲同時進行で、歌詞は当然ながら響がメイン。曲の方はメーア 青生 爽がメインになっていた。
今、馬頭雑技団は、お子様発表会になっているAステージに出演する馬頭少年団のサポートと、その次のプログラムになっている馬術ショーの為に出ている。
つまり輝竜兄弟とソラは分身フル稼動状態での曲作りをしているのだった。
「チョイ音出して調整だ。
爽、この曲だけはブッツケに近い。
だから伴奏には俺達サポートメンバーズも入る。いいな?」
「お願いします!」
「彩桜、高音コーラス頼むぞ」「まっかせて」
―◦―
〈なぁ奏。やっぱ歌手になりたいのか?
有名になりたいのか?〉
〈歌うのは楽しいの。
たくさんの方に支えてもらえるのも嬉しいわ。
だから立ち直れたの。
支えてもらえたから、歌でお返しできたら……そう思っているの。
でも、報道は……〉
〈怖くなったんだな?〉
〈そうね……〉
〈カナデ~。サクラ達も大変だったの越えて今だから大丈夫だよ~。
もう、こんなならないよ~にしてくれるよ〉
〈ショウ……ありがとう〉
魔女でも悪神でもないところで大騒ぎになってしまいました。
繊細で、一途にカケルを想っている奏にとっては耐え難い報道です。
打開しようと多くが動いています。
眠っていないメーアとマーズもです。




