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命の欠片の楔



 翌日、会議の後――


 ナターダグラルをしているマディアとその側近達は小部屋に入り王を待った。


【スッゲー結界だな……】


【この部屋は『助言の間』。

 アイツがグレイさんを虐める為の部屋で、結界は龍の力で保たれてるんだ。

 だから獣神の神眼でも中は見えないよ】


【虐めるって?】


【マリュース様の支配の力で従えたグレイさんはアイツの言いなりだった。

 いろいろ命じて嘲笑ってたんだ。

 アイツ、とんでもなく幼稚なんだよ】


【父様の力を……】拳が悔し気に震えた。


【さんざん玩んだ後、更に支配を込める。

 すると数日はアイツが取り憑いたみたいになってしまうんだ】


【それで二重神格(にじゅうじんかく)みたいな王の出来上がりか?】


【うん。でも時々アイツも王してたんだよ。

 エーデにナターダグラルさせてね。

 重要な事は、そうして決めてたんだ】


 王が入室した。

下座に座っている者達を見て首を傾げ、

「今日は……こっち?」玉座を指す。


「王妃様もお呼びくださいませ」


「ん~♪」

出て行き、手を繋いで戻った。


【ええええっ!?】


【うん♪ グレイさんとユーチャ姉様は結婚したんだよ♪


 グレイさん♪

 こっちの人神だけはアイツに操られてるけど、こっち分かる?】

視線で示しながら話している。


【白虎神様のディルム様だよね?】


【さっ、様とかっ、ナシでっ!】

【僕の同代だし、仲間だから♪】


【そう? 仲間って嬉しいな♪

 あ、進めないといけないね】

「ん~と……だぁれ?」


「初めて議場に連れて参りましたので、お見知り置き頂きたく」


「ふぅん」


「最高司補の次席ルロザムールと、その補佐のディルムで御座います」


「がんばってね~」


「はいっ!」立ち上がって勢いよく礼っ!

ディルムは静かに恭しく礼をした。



「では、いつものようにお話しを――」


 当たり障りのない助言をしつつ、マディアはティングレイスとルロザムールの内を見比べていた。


その間ディルムはティングレイス、ユーチャリスと楽しく心話(しんわ)していた。


【うん。十分観察できたよ。

 だからそろそろルロザムールは眠らせるねっ】

言い終わる前にルロザムールは椅子から滑り落ちた。


サッと動いたマディアとエーデリリィがルロザムールを横たえた。


【それじゃあ始めるよ。

 エーデにも見えた?】【ええ】


【何するんだよ?】


【縛られてる魂に、僕達の命の欠片を(くさび)として撃ち込むんだ。

 エーデの同代の兄様姉様が、そうやってグレイさんを目覚めさせたんだよ】


【あ……だから この話法が出来るんだな?】


【そ♪ 始めるよ】龍に。エーデリリィも。


【私も!】【そんじゃ俺も!】

ユーチャリスとディルムも加わり、3龍と虎がルロザムールを囲んだ。


【ここだよ】ルロザムールの胸元が光る。


その光を差すように各々が人差し指を突き出した。


指先に光が宿る。


【せーのっ!】


同時に勢いよく滑り落ちた光は合わさってルロザムールの胸元に入った。


【完了~♪】


【で、すぐに目覚めるのか?】


【う~ん……グレイさんは半年くらい?

 縛りがソックリだから少なくとも そのくらいは掛かると思うよ】


【半年も!?】


【もっとかも~】


【下に行ってマディアは無事だって話したいんだがなぁ……】


【ん?】


【コッチに留まって支えてくれって昨日から何度も何度も言われてるんだよ】


【目覚めた後も支えないといけないよ?】


【え"・・・えええっ!?】


【アイツが支配で縛る為には神力を抜き取らないといけないんだ。

 だから今グレイさんは修行してるんだよ。

 抜き取られた力は、取り戻せないように三千もの王子達に分配されてしまってるからね。


 ルロザムールの神力は、どこかに封じられてるかもだけど、きっと修行した方が早いと思うんだよね。

 だから支えてあげてね♪

 とってもいい人神様だからこそ、こんな縛りを受けてるんだから】


【僕からもお願いします。

 僕にはエーデ姉様とマディアとユーチャが護ってくれて、助けてくれてるけど、ルロザムールさんには結婚の絆も見えないし、人神は皆さん支配されてしまっているから】


【俺しか……だよなぁ……】ガックリ。


【僕達も協力するから。ね?】



―・―*―・―



 キツネの社では――


「サイが近くまで戻って来ておる。

 狐儀、その子を連れて行ってくれるか?」


「畏まりました」

眠ったままの男の子ユーレイを連れて消えた。



―◦―



〈サイ様、お帰りなさいませ〉


〈狐儀殿どうかし――まぁた、公園の外で寝とったのかぁよ?〉

受け取って、おぶった。


〈はい。ひと晩お預かりさせて頂きました。

 主様より、間も無く確かに目覚めるであろう、との事で御座います〉


〈そうかぁ。まぁ、寝てるのも修行だぁ。

 どちらでもええだぁよ。

 で、次はどの辺りが急いでるんだぁ?〉


〈主様は大陸に堕ちた者を集めますとか……。

 ですので国内南方をお願い致します〉


〈キツネ殿も大変だなぁよ。

 そんならオイラは九州旅行するだぁよ♪〉


〈留守居はお任せくださいませ〉


〈すまんなぁ。

 この子なら、いずれ この街を護れるようになるからよぉ、それまで頼むなぁよ〉


〈そのような御遠慮は――〉

《サイ、水臭い事を言うな。

 その子――ソラは確かに強い。

 置いて離れるのが心配ならば、狐儀を呼び預けよ》


〈そんなら遠出の時は甘えるだぁよ♪

 そぉかぁ、ボウズはソラかぁ。

 思い出すまでは呼べねぇがなぁ〉



―・―*―・―



 その上空では、リグーリとオニキスが姿を消して浮かんでおり、話していた。


【ディルム来ねぇなぁ……】

ぼやいたオニキスが上を向いた。


【離れられない事も往々にしてあるが……連絡にすらも来ないのは珍しいな】


【いつもは?】


【声が届く所まで降りて伝えてくれる。

 大概、ルロザムールに絡まれてるんだがな】


【あ~、あのオッサンか】


【ハーリィの相棒だったそうだ】


【変なのが趣味なんだな♪】


【操られて、本来のルロザムールじゃない。

 ……らしい】


【らしいってぇ。で、本来は?】


【獣神を理解している賢神だそうだ】


【賢神かぁ。元に戻って記憶があったら落ち込むだろ~なぁ】


【ティングレイスも、だろうな。

 同じように操られているとは思わんか?】


【あ……そっか。

 ティングレイスもルロザムールも同じか……】


【フェネギが言うようにグルなのかもだが、そうではなくルロザムールのように操られて王をしているとしたら……】


【間違いなく操られてるよ。

 こんなの……早く終わらせねぇとな】


【そうだな】【あ、エィム達】


少し下に現れ、チャムがエィムの周りをピョコピョコくるくるしている。


【チャムも操られてるのか?】


【ん? どういう意味だ?】


【オフォクス様から生まれたとは思えねぇ】


【確かにな。

 だが確かにオフォクス様の子で、ありのままのチャムだよ】


【オフォクス様の どっかに、あ~ゆ~面があるってコトだよなぁ?】


【そう言われると……】言葉に詰まった。


【カワイイよなっ♪】あはははっ♪


【オフォクス様の一面……】ぷっ♪ ははは♪


エィムがプイッと消え、チャムが慌てて追う。


【でもま、仲良さそうだよなっ♪】


【だな。

 エィムは瞬移した先が分かるようにしているからな。鍛えているのだろう】


すぐ近くを再生神が降りて行った。


【真っ直ぐ下向いてるのにナンで斜め?

 流れてるのか? 流されてる?

 あ、何かに引き寄せられてるのか?】


【連れている魂が堕神か、大きな欠片持ちなんだろうな。

 詳しくは知らんが、オフォクス様が引き寄せているらしい。


 引き寄せられている再生神は操られている人神だ。だから気付けもしない。

 指示通り仕事をしたと、何ら疑いもせず帰るんだ。


 これが出来るからこそドラグーナ様は兄弟として生まれられたんだ。

 それに、この国は祓い屋だらけになる。

 私達にとっては仲間を集め易いという事になるな】


【オフォクス様って……スッゲーな……】


【ああ。遥か高みだな】


【なのにチャム?】


【そこは……お考えがあるんだろうよ】苦笑。


【あ、戻って来たぞ。

 おい爺様、エィムが困ってるぞ♪】


【仕方ないのぅ】やれやれ。


リグーリは溜め息を残して降下した。







第一部 第4章の最終話でした。



エィムとチャムは仲良しです。

エィムは認めていませんけどね。


その証拠に、なんだかんだってチャムの変な格好に付き合っているエィムだったりするんですから♪



そういえば力丸は?


少し前にチラッと登場しましたが、相変わらずで元気ですよ。

修行は頑張っているんですけどね、その成果がなかなか……(苦笑)。


これからもチラチラと登場します。



エィムとチャムもチラチラとですが第二部の本編の裏話では活躍しそうです。



次章は、とうとう黒幕登場です。


え? ダグラナタンは?


これまでの話って何?



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