魔女オーガンディオーネ
瑠璃がキツネの社から動物病院に戻ると、青生は診察中で、事務室の机には神世物質の真新しい本があった。
手を翳す。
【青生、紅火殿が製本した この神世本は青生が書いたのか?】
【うん。内容を確かめてもらえる?
これまでに聞いた事や拾知した事を纏めたんだ。
合っていたら、理子さんの魂を分析している神様にも読んでもらいたいんだよ。
必要な知識だと思うから】
【ふむ。……私の知る限りは網羅されている。
青生の拾知は凄まじいな】
【そうかな?】
【纏めるに至ったのにも訳があるのだろう?】
【敵神も悪神も古い人神だからね。
広く知っておくべきだと考えただけだよ】
【では複製して、職神の仲間とオフォクス父様にも渡しておく。
ありがとう青生】
【礼なんて。それより配達お願いね】
―・―*―・―
神世の職域、浄化・魂生合同研究室では分析の前作業として、早朝から理子の魂を取り出して獣神魂材で保護する作業を慎重に進めていた。
「身体との繋がりを切らないように気をつけてくださいね」
作業を任せて事務処理をしていた室長が進み具合を確かめに来た。
「はい。それにしても、この魂……」
「こんなのを人世に運ぶなんて、再生神は気がつかなかったのでしょうか?」
「最早、故意に込めたとしか思えません」
「その辺りを調べるのです。
今ピュアリラ様直々のご依頼なのですから、速やかに、丁寧に、正確に分析してくださいね」
「「「それはもう!」」」
「では私も書類を届けましたら加わります。
少し離れますが、お願いしますね」
「「「はい!」」」
室長を見送り、作業に戻る。
「今ピュアリラ様、お美しかったよなぁ」
「そうですね。女王になっていただきたい」
「全てを今ピュアリラ様に捧げたい……」
「「そうですね……」」
ついつい跪拝し始める。
《今ピュアリラだと?
高貴な私を封じおった忌々しいケモノではないか!
人神でありながらケモノなんぞを拝するとは!
その神力を私のものにしてさしあげましょう!
私にこそ平伏しなさい!》
微動だに出来ず、心声すらも出せないままに3神はフッと消えた。
―◦―
ラピスリは各最高司補に青生の本を配っている最中に、浄化最高司の館の廊下で合同研究室長と観測最高司補ルルメスクスが話しているのを見掛けて近寄った。
「「今ピュアリラ様っ!」」跪拝!
「廊下で そのような。おやめください」苦笑。
「ルルメスクス様は珍しい所にいらっしゃるのですね」
ルルメスクスが顔を上げた。
「昨夜から観測者達が不穏だ不穏だと口々に申すのです。
浄化域に怨霊よりも悪い何かが運ばれたのではないかと。
たった今も、その話をしていたのでございます」
「理子か……」
今度は室長が顔を上げる。
「おそらくは。
その魂に封じられ、隠されている何かから強い悪気を感じますので」
「やはり何者かが潜んでいるのですね?」
「こればかりは獣神様には感知できないものと考えております」
申し訳なさそうに顔を伏せる。
「そう思ったからこそ託したのです。
頼りにしております。
引き続きお願い致します」
「ありがたきお言葉でございます」
「この本は今ブルーが古の神世に関して現在における知る限りを纏めたものです。
実務の長である最高司補様方に配っております。
各域、必要箇所を纏めて最高司様に報告して頂いております。
室長様にも目を通して頂きたいのです」
1冊ずつ渡した。
「早速、頼――」連れて瞬移!
――合同研究室。
「私の可愛いオーロちゃんを苦しめるのはお前か!」
【昇華光明煌輝、浄破邪不通防壁!】
「オーロザウラの母、オーガンディオーネだな」
「なんてこと!
穢らわしいケモノの口から高貴な私とオーロちゃんの名が出るなんて!
此度は私が封じてさしあげますから覚悟なさい!」
【滅禍浄破邪雷撃!!】
稲妻が胸を貫いた。が――
「あ~ら涼やかなこと♪」ほーほっほほ♪
【昇華闇障暗黒、光闇双力吸着!!】
グラリとした。しかし――
「何かしら? 弱くていらっしゃるのね♪
では後ろの方々も私の神力に加えてさしあげますわ♪」
青生の神力を借りるのも
彩桜の真似事をするのも
私では弱過ぎるのか!
2神を庇いつつ次の攻撃を考えていると――
【瑠璃お待たせ。昇華光明煌輝、夢幻浄治癒!】
【昇華闇障暗黒、光輝反転爆進術縛で真っ暗!】
現れた龍尾の天使達が光を放ち、闇に変え、と繰り出して着地した。
「ぎゃああ――」【【相殺消音!】】ピタリ。
【激天大闇呼吸着♪】しゅぽっ♪
「おっしま~い♪」
「大丈夫? 遅くなって ごめんね」
「ありがとう。しかし、どうやって此処に?」
「ハーリィ様が詳しく聞きたいといらしていてね。
だから診察は梅華様にお願いして話していたんだ。
で、発動を感じて――」「俺もなの~」
「――取り込んで頂いて、理俱殿に運んでもらったんだ」
術移でブッ飛べるのは狐神だけ。
「そうか。助かった」
「当然だからね」「うんうん俺も~♪」
わらっと最高司補達が現れた。
「「もしかして終わった?」」
チャリルとタオファが首を傾げて微笑む。
「光神と闇神が瞬時に終わらせた」苦笑。
「見~つけた♪ 出しちゃう~♪」
皆がハッとして向くと、彩桜が闇呼玉から研究員達を出した。
「そうか。既に取り込まれていたのか」治癒。
「だから変に強かったのもあるんだけど、オーガンディオーネは浄化に耐性があるんだ。
此処に来て拾知したんだけどね」
「うんうん。だからオーロザウラも浄魂に強いの~」
「他には? もっと拾っているのだろう?」
「うん。オーガンディオーネを封じたのは随分前の今ピュアリラ様。
たぶんアミュラ様の孫娘神様。
初代の今ピュアリラ様かな?
でも浄魂では無に帰らないから封じるしかなかったみたいだね。
だから獣神様の魂材で包んで神力を吸い取らせてから封珠に。
その封珠を割ったのはオーラタム。
共鳴するからザブダクルが入っていると思って割ったら出てきたのは獣神魂材だったんだ。
しかも人神神力を吸い込もうとする攻撃的な封術が込められていたから探るなんて出来なかったんだよ。
それで母親が入っているとは気づかずに廃棄魂材の保管場所に捨てたんだ。
当時の浄化神様は、まだ使える獣神魂材を見つけて勿体無いと切り取って使用可能な魂材の方に運んだんだ。
でも包んでいた全てではなかったから封術は残っていて、オーガンディオーネは、今度は周りにあった廃棄魂材に包まれてしまった。
ハーリィ様。
隠れ再生神みたいな方にお心当たりはありませんか?
以前は上位で、今は行方不明な人神様でもいいんですけど」
「それは、どういう?」
「再生神様か経験者でなければ、この異常な魂塊を内のものが見えなくなるようなカモフラージュをしてまで人に込めるなんて出来ませんよね?
人に込められた王子の魂も同様です。
オーガンディオーネもパトラマイト王子も白衣の再生神様が込めたのではないんです。
紫の高貴そうな衣の男神様が背後に居る黒いドレスの女神様なんです。
依頼した者までは見えませんでした。
ですが貴族とか、裏を知る方が居る筈なんです」
「ハーリィ、大至急 調べよう」
「そうね。こんなのを許してはいけないわ」
最高司補達の視線がハーリィに集まる。
「そうだな。歴代最高司補を調べれば該当者が浮かび上がるだろう」
頷き合って最高司補達は瞬移した。
「研究室長様、この廃棄予定だった魂材にも何かが潜んでいそうです。
このまま分析をお願いします」
「はいっ」
「オーガンディオーネの残気は全て除去しますが、魂材に伝染ってしまった封術は強く残ってしまいますので取り扱いには十分お気をつけくださいね」
「闇呼吸着♪」魂材から黒霧が闇呼玉へ。
「そ、その封術とは?」
「人神様の神力 見つけたらパクリしちゃうヤツ~♪」
大きく口を開けてパクッ♪
「うん。だからオーロザウラも腹を立てて棄てたんだよね」
「俺達も狙われてるの~。
でもアミュラ様 感じて『あれれ?』なってるの~♪」
「アミュラ様を? 何故?」
「この翼~♪」「アミュラ様の神力だからね」
「そうか。ふむ」
「今ピュアリラ、原本を出してもらえる?」
「ふむ」
渡そうとしたが、青生は手を翳しただけだった。
「何をした?」
「改訂だよ。原本に書けば複製にも伝わるようにしてもらったんだ。
改訂があれば複製は光って知らせるようにもね」
「紅火殿にか?」
「うん。ただの製本なら俺も彩桜も出来るんだよ。
でも、こういうのは紅火でないとね」
「うんうん♪
でねっ♪ さっきのヤミ~さんが見つかったら古の人神様の術も いっぱい知ってると思うの~♪」
「そうか! 獣神に感知されぬ術とは……そういう事か!」
「うんうん♪」「ところで彩桜、テストは?」
「全部 書いてから分身 置いて来た~♪」
「素早くて助かった」よしよし。
「ん♪」るんっ♪
「では室長様、そろそろ皆様お目覚めになると思いますので調査の続きをお願い致します。
ルルメスクス様にも他の最高司補達と行動を共にして頂きたい」
【ルロザムール様、此方にお願い致します】
即座にルロザムールが現れた。
「死司最高司補のルロザムール様です。
敵は獣神には感知 出来ぬような術を使う。
協力をお願い致します。
ルロザムール様、他の最高司補達が居る場所にルルメスクス様と共に」
話しながら複製本を手渡した。
「はい。では参りましょう」
ルロザムールは感激うるうるなルルメスクスを連れて瞬移した。
「私達も帰ろう」「そうだね」「うん♪」
ピロン♪
「またザブさん?」「演奏かな?」
「そうらしい。仕方無い、行くぞ」纏めて瞬移。
とうとう現れました。
魔女ことオーガンディオーネは悪神オーロザウラの母です。
つまり悪神と似たり寄ったりの女神です。
理子に入っていた魔女――というか魔女を厳重に隠していた魂が理子に込められたようですが――は彩桜が吸着しましたが、似たり寄ったり母子ですから自分の魂片をバラ撒いているのではないかと青生と彩桜は考えています。
敵神、悪神に加えて魔女。
しかも魔女には浄化が効かないようです。
長い戦いになりそうです。




