謎の龍神マスクマン
【ヨシさん! ヤメて!】【ヨシさんお願い!】
【嘉藤よぉ、止まれよぉ】【俺達の声を聞け!】
物凄い勢いで飛んでいる寿は周囲の音に聴力を向けておらず、視力も1点のみしか見ていなかったので魂に直接話し掛けたが、それすらも届いていないようだった。
【暴走が始まってらぁよ】【こうなれば――】
【キンギョよぉ、気が早ぇってモンだぁよぉ】
【何か策があるんですね!】
【臨機応変、瞬間的に最善を尽くすのみ――っ!】
初めて攻撃されたのを寸前で躱した。
【怨霊化は始まってる! 武器は浄化のみ!
狐儀殿と理俱殿は生き人を頼まぁよ!】
【【承知】だっ!】
狐儀は彩桜を、理俱は響を背に乗せて飛んでいる。
寿が纏う不穏が膨らむ。
目は怒りの炎の尾を引いている。
その状態にも上空なのにも気付いていないのか、手首を掴まれている理子は暴れ、喚き続けている。
【先ずは理子を黙らせる!
怒りの炎に注ぐ油を止めるぞぃ!
浄化に眠りを込めて理子に集中!】
【【【はい!】】】
【ヒビキチャンは嘉藤を説得してくれ!
こーゆー場合は身内がイチバンだからよぉ!】
【はい!】
サイオンジと手を繋いでいるトクが、夫とその相棒の手に破邪の剣を成す。
【彩桜!】【うん! 狐儀師匠、俺 飛ぶから!】
翼を出した彩桜はソラと組んで空中戦、しかも豪速で進みながらの浄破邪攻撃を始めた。
―・―*―・―
邦和は昼下がりだが欧州は朝。
スザクインは遠くの微かな異変に意識を向けて探り、掴むと集中した。
「ヨシちゃんたら……」
呟くと、寿が向かっている先へと瞬移した。
――邦和の反対側は真夜中。
【ホンガンジ! カミコウジ!】
【欧州総括【どうかしましたか?】】
【物凄く強い怨霊が此方に向かっているわ。
普通霊を避難させて。
何処に飛び火するか知れたものではないのだから!】
【【はい!】】
―・―*―・―
「んん?」天を仰ぐ。キョロキョロ。
〈またサボるのかしら?〉
〈じゃなくてな。
ナンだかなぁ……ヨシちゃん師匠は?〉
〈ヨシさんの拠点は隣街。
いつもいつも東合には居ないわよ〉
〈ナンかなぁ、スッゲー遠くで、スッゲー怒ってる? 戦ってる?
そんな感じなんだよなぁ〉
〈仕方ないわね。確かめるから瞑想してなさい〉
〈おう♪〉
【ホウジョウ、ヨシさん知らない?】
【お師匠様も奥方様も義父様も公園には居らぬ。
ソラも返事をしない】
【それじゃあ本当なのかしら……】
【ん?】
【トシが、ヨシさんが怒ってて戦ってるって】
【ふむ。ナンジョウにも伝える。
加勢せねばな】
【そうよね!】
―・―*―・―
「アヤは渡さない!
地星の裏側で生きたまま風葬するの!
もう、それしかないの!」
「ヨシさんヤメて!
確かに理子叔母さんは大嫌いだけど、それでも! そんなことしたらヨシさんが怨霊になっちゃうからっ!
ヨシさん大好きだからっ!
怨霊にならないで!!」
「こんな子に育ててしまった責任……私が取るしかないのよ!!」
「それは魂に入ってた悪神のせいだから!
怨霊にならないで!
いつもみたいに笑ってよ! ヨシさん!!」
「他の狸頭達は反省していたわ。
素直に罪を認めて更正に向けて踏み出したの。
でもアヤだけは……颯人君を拒絶して、理人を困らせて、我が儘ばかり!
他者の苦しみ、悲しみが分からないなら、生きていてはならないの!」
「だったら私がする!
生きてる私なら怨霊化しないから!
叔母さんを貸して!
全て私がやるから!」
辺りは夜。海が終わり、下が地面になった。
「ヨシちゃん。怒りは解るけど私も大切な友人を失いたくないの。
その困ったちゃんは生き人に任せてもらえないかしら?」
「スザクちゃん……でもね、私の責任なのよ。
私の孫なのだから。
私も一緒に終わりでいいの」
「終わりでいいなんて言わないで。
また一緒に遊びましょうよ。
龍神様のお店でスイーツ食べましょ♪」
「それは嬉しいけれど……でも……」
迷いが怒りを鎮め始めた。
纏う不穏が薄れ始める。
理子を眠らせ、浄化を続けている面々にも安堵が浮かぶ。
それでも決して眠りや浄化を緩めた訳ではない。
それなのに――
「終わるなんてイヤ!」
――理子が目覚めて暴れ、不穏が一気に濃くなっていった。
「やっぱり駄目。この子は私が――」
濃くなり続ける不穏に包まれて寿の言葉は途切れた。
【どぉして!?】
【この不穏、嘉藤のじゃあねぇなぁよ】
【不穏源は理子だ!】
【理子さんの不穏が止まらない!?】
【叔母さん、まだ神力が残ってるの!?】
【コイツぁ神力じゃねぇなぁ。
別の何か……それが判りゃあなぁ……】
【確かに神力ではありません】
【兄様、もしや!】
【可能性は有りますね。ですが……】
【俺、青生兄と瑠璃姉 連れて来――っ!!】
不穏の塊のような咆哮が轟いた。
【ヨシさん!!】【堪えて!!】
別の力強い咆哮が重なり迫る!
【ええっ!?】【アレ何!?】
【金色? じゃねぇなぁ銅色だぁなぁ】
【ドラグーナ様っ】【うん。息子だね】
【助けに来てくれたんだね♪】
【その力が今の あの子に有ればね】
【うわぁ……ムリかも~】【だよね……】
〈耐えろキャティーーーース!!〉
【お知り合い?】【そうみたいだね】
光点がグングン近付いている。
寿が豪速で飛んでいたのよりも遥かに速い。
何度も何度もキャティスと寿の名を呼んで、耐えろと吼える。
【えええっ!?】【ホントに何っ!?】
見えてきてビックリだ。
正体が判っている彩桜とドラグーナは苦笑している。
最初は正面に見えている顔で龍神だと、よく見る龍神の大きさだと思った。
今は遠さ故の小ささだろうと。
しかし、その背に乗っているらしい者達が顔を上げたので、その龍神は人サイズより少しだけ大きい程度だと判ったのだ。
【手?】【うん。男の人の手だよね】
【ほら足!】【男の人で確定だよね】
【じゃあ龍神マスクマン?】【かも】
ソラにも なんとなく分かって苦笑。
胴体がチラリと見えた。【着ぐるみ!?】
どうやら下は短パン・ビーサンで人らしく、上は服ではなく龍の着ぐるみを着ているとしか思えなかった。
〈師匠達! 降りてくれ!〉
背の者達が離れる。
変な龍神マスクマンは勢いそのままに、寿と理子を包んで膨らみ続ける濃い不穏に突っ込んだ。
【ソラ兄 続くよ!】【行こう!】
浄破邪シールドで防護して彩桜とソラも中へ。
【昇華闇障暗黒、激天大闇呼吸着!
そんでもって光化!【浄破邪の極み!!】】
〈ヨシちゃんシッカリ!!
コイツか! ヨシちゃんに こんなヒドい事しやがったのは!!〉ポイッ。
【あああっ!】瞬移して網キャッチ!
【俺、このまま青生兄トコ行く~】ぷら~ん。
【彩桜! ヨシさんも!】
【浄化しにゃいとだねぇ。
一緒に行こ~。せーのっ!】一斉瞬移!
――きりゅう動物病院。午後の休診中。
【彩桜、またなのか?】【またなの~】
【しかも此奴まで……】【そぉなの~】
【各々を封じる。【【封乱悪牢】】】
不穏が燻る寿、変な龍神マスクマン、まだ不穏を出している理子が、別々の封珠に吸い込まれた。
【社に】
瑠璃が封珠と青生 彩桜を連れて瞬移し、狐儀と理俱も追った。
【厄介だなぁよ】
【私達、行っただけになってしまいました】
【お師匠様、何事があったのです?】
【説明すらぁよぉ】【ソラ兄 来て!】
【ソラ、行ってやんな。
ヒビキチャンも一緒が良さそうだぁな】
【はい!】響と手を繋いで瞬移。
【そんじゃあ話すぞぃ】
―・―*―・―
【昇華光明煌輝、滅禍浄破邪!!
で夢幻爆眠!!
で昇華闇障暗黒、激天大闇呼吸着なのっ!!】
ブンブン飛び交っていた大量の真っ黒なピンポン玉のようなものが浄破邪を浴び、爆眠でボテボテと落ちて積もり、最後は闇呼玉に吸い込まれた。
【彩桜、さっきの……何?】
【ソラ兄、ソッチの封珠、浄化お願~い】
ふら~り、ぽてっ。
「暴れるヒトデが団体さ~ん……」むにゅん。
【ヒトデ?】
【彩桜の寝言。いつもヒトデなんだ】
【可愛いね♪ でも……強いね。とっても】
【うん。彩桜は強いよ。
キツネ様 狐儀様 理俱様に育てられたってだけじゃなくて、根底の強さがあると思うんだ】
【そっか。
あ、昨日のライブも狐儀様?】
So-χは竜ヶ見台ライブだった。
【うん。昨日も大変だったんだ。
夜中はローマでライブだったし。
だから彩桜は寝てなかったんだよ。
ボクと違って生身なのに……】
【そのまま学校に?】
【うん。今は中間テストだから。あ……】
浄化具合を確かめようと封珠を覗き込んでいる。
【どうかしたの?】
【理子さんから、さっきの黒玉が出てる。
これ、彩桜が封じ直したんだ】
瑠璃の封珠ではなく彩桜の闇呼玉だった。
【今度は何なの? もうっ】
【もう悪神も闇禍も居ない……神力でもない……あっ!】
【また何か見えたの?】
【一瞬だけ。
あれが……だとしたら、本当にヨシさんが言ったように生きているだけで災厄の元になるのかも……】
【ソラ、外洋の上に連れてって。
このまま叔母さんを沈めるから】
【そんな事したらダメだよ。
ボク達はユーレイ探偵団なんだから。
きちんと解決しないとね】
【そうは言うけど――】「ヒトデ探偵だ~ん♪」
ソラも響も思わず笑ってしまった。
「楽し笑顔は正義~♪」
【確かにね♪】【そうね♪】
キャティスの知り合いで寿の知り合いな龍神マスクマンはトウゴウジとホウジョウを乗せていました。
急に飛んだらしく、ナンジョウは間に合わなかったようです。
それにしても理子は……どうやら狐儀 理俱 ソラは何なのかが分かったようです。
そうなると魔女の他にも居るんでしょうか?




