ヨシの怒り
ローマのステージで長い旗を見事に靡かせて走り回った黄緑マーズ四人衆は、まだ邦和まで瞬移なんて無理だし、瞬着替えも出来ないので、忍装束のまま輝竜家に連れ帰ってもらった。
興奮冷めやらぬ四人衆を浄化して、
「先に軽く早朝ご飯ねっ♪
それから動物達のご飯で、お散歩ねっ♪」
彩桜はサーロンを連れて奥に行った。
「行こ♪」「うん♪」
メグルとサイトは追って走った。
「サスガだよな♪」「全然平気みたいだね♪」
「怜王と瑠惟、急ぐぞ」「食堂だよ♪」
「「はい!♪」」
食べているとメグルとサイトが来た。
着替えも終えている。
「「何してたんだ?」」
「短時間だけど落ち着けるのに瞑想」
「いつも走る前にしてるんだよ」
「「そうだったの!?」」
「空沢先輩と馬白先輩も来る前にしてますよね?」
「1時間前に起きて、準備してから瞑想」
「ギリギリまで瞑想して瞬移で来るよね」
「やらないと!」「そうだな!」
―◦―
準備を終えて玄関前。
渡音商・萱末バスケ部員達が自転車で次々と来ている。
「初日は自転車オンリーです。
走ろうなんて考えないでください」
悟が説明していると犬達を連れた彩桜とサーロンが勝手門から出て来た。
「無理なったら止まって二中前で待っててください」
「それじゃあ後ろで救護班するよ」
「ありがと青生兄♪ それじゃ出発~♪」
ザッ――。
舗装されているので、そうそう立たない砂埃が舞い、中学生達の背中は小さくなっていた。
「行かないのかな?」
驚いている場合ではないと必死でペダルを地面まで届けとばかりに強く踏み始めた。
「突き当たりが中学校の正門。
左に曲がってね」
左に曲がったが中学生達は見えない。
「次の突き当たりを右だよ。
でも無理なら待っていてね。
そう長く待たなくても戻って来るからね」
「突き当たりって……?」
「線路だよ。其処から東へ。
たぶんもう南に向かい始めただろうね。
だから中学校を大きく1周しない?」
「誰か、先導……」「俺が。二中卒だからな」
数台が前へ。
諦め気味だが、それでも全力で自転車を進めて西側の正門に向かう道に戻ると、北上する『犬橇』が迫っていた。
「速っ!」「あとちょいで~す♪」駆け抜けた。
犬、走者、自転車と続いて、正門前で西へと角を曲がった。
が、2人が引き返して来た。
その2人は上半分の和面を着けていて、面を止めている紐は橙と白だった。
昨日のリレー選手に似ていたが、リレー選手4人は走っていたので別人らしかった。
「最初は驚いている間に置き去りにされるのが普通です♪」
「ショートカット出来ますから、少しずつ距離を伸ばしていけば大丈夫です♪」
「そうだね。
体力も付いていくし、ペースも掴めてくるから中学生達は走れているんだ。
特別じゃないから続けてみてね。
じゃあ戻ろう」
にこにこ青生先生が先導する。
「お風呂と朝食もご自由にです♪」
「楽しむのがイチバンです♪」
「もしかしてマーズか?」
「お面、4人いたもんな」
「「はい、マーズです♪」」
「普段から お面?」
「「それは有り得ません♪」」
少々ご陽気な橙マーズと白マーズは、彩桜の分身だったりする。
―◦―
その程度では疲れない彩桜は、登校するとサーロンが隣に居るだけで嬉しくて嬉しくて~な状態で中間テストに突入した。
【サーロン大丈夫?】とっくに終わっている。
【もちろん♪】こっちも早々に終わっている。
【なぁ彩桜 サーロン】
【ん?】【悟も終わったですか?】
【とっくに。鳥忍のやり方、教えてくれよ。
羽は具現化できるんだけどな、飛べないんだ】
【俺と青生兄の羽、ホントに生えてるの~】
【は?】
【アレ、羽の形した神力の結晶なの。
神力の塊だから飛べるのかにゃ?】
【どんな修行したら生えるんだ?】
【何年も瞑想してたから?】
【自分の事だろ。ハテナって何だよ♪
サーロンも同じなのか?】
【ボクの羽は具現化です。
ボクは……ユーレイだから飛べるです♪】
【へ?】【そうなの!?】
竜騎も聞いていたらしい。
【気づいてなかったですか?】
【銀河ちゃんのも言われるまで気づかなかったよ。
人に神眼向けるって失礼な気がしてな】
【ありがとです♪】
【彩桜のはナゾ羽で、サーロンはユーレイかぁ】
【悟空、お社で相談しない?】
【だな。昼前に終わるから行こう】
【クーゴソン様は?】
【爆睡中。最近よく寝てるんだよな】
―◦―
国語と理科のテストを終えて、キツネの社。
彩桜とサーロンも一緒に来ている。
「ふむ。彼の翼は強大神力が凝縮したものだ。
其れを成そうとしておると知り、クーゴソン様は眠り修行に集中なさっておられるのだろう」
「キャンプー様もですか?」《呼んだ~?♪》
パステルピンクの小さな象が鼻先に水晶玉で現れた。
「あれれ? キャンプー様また水晶玉?」
『爆睡中だから~、消えないよ~に保護♪』
「クーゴソン様と同じだねっ♪
神力翼、成そぉとしてるみたい~♪」
『あ~、それで~♪
だったらボクも協力しちゃう~♪』
「つまり、成せるのですね?」
大変な事だと思っているオフォクスが軽~く話しているガネーシャに確かめた。
『大神い~っぱい寄って集って頑張ったら~、成せるかもね~♪』
「然うですか」
これは やはり大変な事になったと大溜め息。
『聞いたからには頑張っちゃう~♪』
ぽよん、ぱよん、ぽよよ~ん♪ で消えた。
「では暫く待ってくれるか?
修行し、神力を高めておいてくれ」
「「「「はい!♪」」」ん?
彩桜とサーロンは違うだろ!」
「修行は頑張るです♪」「うんうん♪」
「彩桜、サーロン。
理子を連れ帰ってくれ。目覚めておる」
「あ~~「はい」」元気急降下×2。
【あれれ?】【ヨシさん来てるね】
【様子見?】【そうみたいだよね】
【でもぉ~】【うん……不穏かな?】
【そぉ思う】【ボク、行ってみるよ】
【狐儀師匠にサーロンお願いする~】
【うん、お願いね】瞬移と同時に姿を戻した。
―◦―
目覚めた理子は、颯人の部屋で理人と話していた。
「お母さん、ちゃんと生きてね。
仕事と住むトコ、早く見つけないとね」
堂々巡りで嫌になっている理人。
「理人も来てくれるのよね?」
「行ってもいいけど~……やっぱりボク、お父さんがいい♪
お母さんは生きてる人と再婚して幸せになってね♪」
「理人ぉ」
「ボク、もう成長できないの。
子供のままなの。
ユーレイなの。
お父さんとは同じ世界で生きてるけど、お母さんは違うでしょ。
コッチに来たくないんでしょ。
だからバイバイね」
「そんなぁ、大人になってお母さんを養ってよぉ」
「オトナになれなくしたの、お母さんでしょ。
ボク、お父さんトコ行くね」
バイバイと手を振って消えた。
「理人ぉ~」
『知~らない。あ♪ お父さん♪』
颯人の声は聞こえないが、話しているらしく楽し気に笑う理人の声が遠ざかった。
「理人ぉ……」項垂れると床に涙が落ちた。
『それじゃあ追い出さないとね。
此処は颯人君の部屋なのだから』
【ヨシさん! ボクが連れて行きますから!】
【これは私の責任でもあるの。だから任せて】
【ヨシさん……】
理子が顔を上げると寿が仁王立ちしていた。
「イヤッ! 理人と一緒じゃなきゃイヤ!」
床にベッタリ伏せた。
「だったら彼の世に連れて行くわ。
どれだけ魂を浄化しても此の世の害にしかなれないのだから」
「ヒイッ!」浮き上がってジタバタ悪足掻き。
「ソラくん、部屋の浄化をお願いね」「はい!」
寿は今度こそ堪忍袋の緒が木っ端微塵らしく怒りも露に理子を連れ去った。
これまでの苦労って……?
そう思いつつ、ソラは部屋を浄化していたが、考えているうちに、こうしてはいられない、響に話さなければと急いで瞬移した。
――【響! ヨシさんを捜して!】
【どうしたの? バイトは?】
【ヨシさんが理子さんを連れて消えたんだ!
とっても怒ってたからっ! 早く!】
【どうやって捜せって?
私、物見じゃないのよ?】
【御札とか、共鳴とか、神様 通じてとか!】
【考えるから、ちょっと待って――って……これで理子叔母さんに怯えなくてもよくなるのよね?】
【そうかもだけど! ヨシさんが心配だから!
怒りも負の感情! 怨霊化したら大変だろ!】
【確かにね……こういう時はサイオンジよね!】
【行こう!】連れて瞬移!
――【サイオンジ! キンギョさん!】
向かい合って瞑想していた二人が向いた。
サイオンジの隣でトクも首を傾げる。
【そんな慌てて ど~したぁよ?】
【ヨシさんが怒り爆発でっ、理子さん連れて消えたんです!】
【あの馬鹿……】【捜すからよぉ】【私も!】
【ソラ、何の騒ぎだ?】空から。
【あっ理俱様! ヨシさんを捜してください!
ヨシさんが――】
【急ぎなんだろ。理由は後でいい。蛇眼走査!
……ん。見つけた。
纏めて連れてくから結界から出てくれ】
【はい!】【俺も行くのっ!】
狐儀サーロンを連れて来た彩桜も一緒に、手を繋いだ者達を連れてソラは上空へと瞬移した。
――落ちる前に理俱と狐儀が寿の居場所へと術移した。
何度も何度も摘出して浄化してを繰り返してきたのに相変わらずの理子。
とうとう祖母として寿の怒りが爆発してしまいました。
前話の魔女の声は誰も聞いていません。
寿を追っている誰もが知らないんです。




