困ったちゃんな鮒丸
「おーいタクヤ! タクヤだろ!」
夕闇の中、遠くに見えている人物にワタルは声を張った。
声に気付いて立ち止まった男が嬉しそうに走って来た。
「ワタルさん!♪」
「ギターか? どこ行こうとしてたんだ?」
「ワタルさんこそ。
俺、白久さんにギター習ってるんです♪」
「そうか♪ 俺も頼みに来たトコだ♪」
「じゃあ入りましょう♪」
輝竜家の玄関前だったので呼び鈴を押す。
『誰ですか~♪』
「光威 琢矢です。白久さんは?」
『帰ってま~す♪』玄関が開いた。「ど~ぞ♪」
「お邪魔します♪」「ハイハ~イ♪」
アトリエに向かう。
「さっきのは?」
「マーズ学園の生徒らしいです。
なんかイッパイいるんですよ。イイヤツが♪」
「マーズ学園?」
「準中学らしいです、輝竜さん家。
マーズ学園は通称で、百合谷東 準中学校だそうです」
「へぇ~」
「あれです。入ったことあります?」
「うん。ゴールデンウィーク中スタジオを借りてたよ。だから来たんだ。
タクヤ。随分 雰囲気が変わったな」
「白久さんに目を覚まさせてもらいました。
いっぱい迷惑かけて……それなのにギター教えてくれるって……。
もうホント、感謝しかありませんよ」
「そうか。良かったな」
『だったら早く入れよな。渋滞してるだろ』
アトリエの扉前で話していた二人が振り向くと白久がニヤリ。
その後ろでは彩桜がニコニコしていた。
更に後ろには困り顔の高夢が覗いている。
「あっ、輝竜さん!
ドラムを鍛えてください!」
「いいから入れってぇ。
仕事優先で いつでも来いよ。
誰か居るだろーからな♪」
「はい♪」
ようやく入ってスタジオに向かう。
彩桜と高夢は2階に上がった。
それなら白久が二人共を教えてくれるのだろうと入ると紅火が居た。
「俺のドラム!? ――じゃない!
同じ色の最上位モデルだ!」
「紅火、ベストに調整してくれたんだろ?」
頷く。
「動木、確かめろ」「はいっ!」
「坊っちゃん始めるぞ~」「はいっ♪」
反対側の壁近くに陣取った。
「凄っ。位置ピッタリだし♪」
様々な角度で手を伸ばして確かめる。
「む」スティックを差し出した。
「手に馴染む……♪」試しに叩く。「わ……」
「位置は? 不備は?」
「最っっ高です!♪」
「気に入ったのなら、このセットをメインにすればいい」
「え……?」
「本気でプロになるのならばな。
踏み出す祝いだ」
「ありがとうございます!
本気で……仕事とか将来の事とかも真剣に考えます!」
「ならば、このセットは動木のものだ。
では始める」
「はい!♪」
―◦―
1時間後、ソラと響も来ていてメーアが歌っていた。
「ドラム、随分と良くなったな♪
そっちのギター、自信持てよな♪
そうしたら、まだまだ伸びるぞ♪」
メーアは今日も元気に上機嫌だ。
「だから! サッサと和語を覚えやがれ!」
急いで訳す!
「まだまだなんだよな~♪」「ご飯だよ~♪」
彩桜が呼びに来た。
「桐渓も来たかぁ?」
「うん♪ 残業してたって~」
「来たんならいい♪ メシ行くぞ~♪」
―◦―
居間に行くと桐渓を囲んだ萱末軍団が嬉しそうに賑やかだった。
「あっ! 白久サン!」バッと整列!
「押忍!」一斉。
「ヤメロってぇ。笑うな彩桜!」
「生きてる伝説~♪」
「シーラカンス?」「ソレ生きてる化石だろ」
「ったく。伝説も化石も生きちゃいねぇからな。
大勢なんだからサッサと席に着け」
「押忍!」一斉に素早く着席。
「面白~い♪ あれれ?
牧場お兄さん達、元気ないねぇ」
「ま~な。バスケ部、5人集まらないんだよ」
「渡音商が練習試合してくれるんだけどなぁ」
「角圭は入ってくれたけど4人なんだよなぁ」
「俺、助っ人じゃダメ?」
「そうか! 運動部じゃない中学生いた!」
「ほえ?」
「助っ人、入れるんならって条件だよ」
「運動部じゃない小中学生ならOKだと」
「彩桜は運動部じゃないんだよな?」
「歴史研究部♪」「お、角圭。遅かったな」
「配達のバイトでな。
白久サン、これからでも習えますか?」
「おう♪ 先にメシ食えよな♪」「はい!」
「角圭、とうとう練習試合だ♪」
「出てくれるよな?」「土曜だ」
「待て! 先週入ったばっかだし!
初心者だし! 牧場は!?」
「牧場バイトは休み貰ってるよ」
「前は合同練習だったが同じだ」
「今度ので3回目なんだよな♪」
「けど牧丘さんに迷惑だろーがよ!」
「部活なら頑張れと言ってくれたよ」
「青春最優先てな」「言ってたな♪」
「入って1週間だし、ルールもロクに覚えてない。
渡音商にバカにされてるんだろ?
俺が出るのは間違いだ。
俺は牧場に行くからな。
お前らの分も頑張るから試合は頑張ってくれ」
「だから人数!」「彩桜でやっと5人!」
「角圭ヌキだと、また合同練習になるだろーが」
「んと~。副部長、一緒に行っていい?」
「「「歴史研究部のか?」」」
「うん♪ 角圭さん、マネージャー役ね♪
見るのも大事だと思うの~」
「マネージャーか。そんならいいけどな」
「祐斗に土曜の予定 聞いてくる~♪」走る♪
狐松が寄った。
「歴史研究部の顧問として引率しますね。
部活動証明書も必要ですか?」
「あ、そっか。運動部じゃないってヤツか」
「あったら嬉しいです」「お願いします!」
「はい。では今週末、土曜日に渡音商業高校ですね?」
「「「朝8時半に体育館です♪」」」
「たっだいま~♪」「また来ました!」
「狐松先生、祐斗もバスケしま~す♪」
「はい。では引率しますね」
「「ありがとうございます!」♪」
「祐斗~、せっかく来たんだからデザート食ってけ~」
「はい♪」「俺も~♪」
「彩桜は何回目だぁ?」
「数えてにゃ~い♪
お兄さん達、食べたら庭でバスケする?
3on3♪ 先生もやろ~♪」
「いいですよ」
「先にウォーミングアップだ♪」「「押忍!」」
〈紅火兄、コートのライトお願~い♪〉〈む〉
―・―*―・―
そんな楽しい時間を過ごしたが、彩桜が青生 瑠璃と共に夜中に教室に行くと、また鮒丸は水槽から追い出されていた。
マーズで来ているが、逆具現化して姿を消して水槽内を確かめ、鮒丸に寄った。
【彩桜、水槽に蓋をしていないのは、追い出される前提なんだよね?】
【うん。ベニとシロに教育してもらってるの。
ぜ~んぜん解ってもらえないけどぉ】
【そうみたいだね。
兄弟でも力丸やショウとは違うみたいだね。
何も混ざっていないと、こうなのかな?】
【そういう考え方もあるのか。ふむ】
【ピュアな分らず屋さん?】
【そこに加えられた学習の成果だろうけどね。
神世では学校の勉強は0だったらしいけど、経験も勉強だから。
こうやって生きていくのが彼にとって最善だったんだろうね】
【ふぅん】
【常に監視され番号で呼ばれる、王子とは名ばかりの集団生活。
成果を上げねば叱責されるが故に大人や兄達に対しては極めて良い子。
同等の仲間に対しても外面は印象良く、内面は虎視眈々。
その鬱憤を晴らす対象は弟達だった。という事なのだろう】
【可哀想……でも、ちょっとだけ。
俺、兄貴いっぱいで幸せだもん。
も~っと いっぱいなのに協力しないって、兄貴の顔色伺いながら弟イジメるって、間違ってるもん】
青生は何も言わずに彩桜を抱き締めて頭を撫でた。
【うん。そゆの知ってもらわないとだよね。
青生兄ありがと♪】
【高夢君は結局どの部活動にしたの?】
【歴史研究部♪ 陸上部も悩んでたけど、陸上やりたいんじゃなくて悟と竜騎の近くに居たいだけだから、犬の散歩と勉強会でいいんだって♪
……ちっちゃペット欲しかったの、きっと自分は広夢君とは違う。弱いものイジメしないって気持ちからだと思うんだよね】
【俺も そう思うよ】
【うん♪
あ、そろそろ水に戻してあげないとね】
【追い出され、気絶寸前になる度に若干だが修行に似た効果が得られている。
しかし彩桜が大変だな。
何か混ぜるという方向で考えておく。
心話の方は、そもそもが初級程度だ。
軽く封じて上級者ならば拾える程度にしておく】
鮒丸に翳して調べていた手から光が降った。
【ありがと瑠璃姉♪
でも授業中もウルサイのぉ】
【勉強の邪魔だな……ふむ】
違う色の光が降った。続いて彩桜にも。
【何したの?】
【彩桜が聞きたくないと思えば消音される。
しかし神耳を閉ざすのとは違い、後で再生も可能だ。
授業中に聞きたくはないだろうが、内容は知りたいだろうからな】
【ありがと♪
消してるテレビの録画してるみたい~♪】
【そう思えばいい】【ん♪】
どうにもこうにも輝竜兄弟の周りには常に困ったちゃんが居ます。
騒がしい鮒丸には困ったものです。
とうとう消音されてしまいましたが、気づいていないでしょうね。
坊っちゃんこと琢矢はイイヤツになりました。
仕事も音楽も全力です。
近いうちにSo-χのタクヤに戻れるでしょう。
ワタルも本気で音楽の道に進むと決めました。
すっかりイイヤツな萱末バスケ部3人組と角圭は牧場バイトも部活も勉強会も頑張っています。
なので彩桜は練習試合のお手伝いです。
ですが試合日は週末。まだ先なので、他のお話が挟まります。




