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思い出したくもない思出話①



 ディルムとマディアが話していたのと同じ頃、人世では――


〈ただの人神避けではなくなったのだね。

 久し振りに兄弟として話せそうだね〉


――リグーリに呼び出されて廃教会に来たフェネギが、その日の昼間にラピスリが強化した結界を確かめて恐悦至極と言わんばかりの笑みを(リグーリ)に向けた。


〈ま、外からの神眼を封じようが窓からだけは普通に見えてしまうから、姿だけは老神のままにしておくがな〉

リグーリは神眼だけで窓の方をチラリと見た。


〈エィムとチャムは街の上かな?

 それで、此処に呼び出したのは?〉


〈1つ、確かめておきたかったんだ。

 フェネギはアッチコッチ飛び回ってなかなか話せないからな。


 幼い頃――まだ神世の最果ての滝近くで修行していた頃の話だ。

 あの嫌な人神が再び来た時の事だが、覚えているか?〉


〈忘れられるものか。

 あの人神に遭遇したならば直ぐに判るよう、この傷痕だけは残しているのだからね〉

額の真ん中に微かに残る傷痕に触れた。



―・―・―*―・―*―・―・―



 滝の四獣神の子供達は、いつものように住処(すみか)の大木を囲んで瞑想していた。


〈ユーチャリス姉様、何者かが此方に〉


逸早く気づいたアーマルが、指導をしている2代上のユーチャリスだけでなく皆に伝えた。


〈そうね。また来たのね……こんなにも早く〉


他の子龍より ひと回り大きな純白の子龍ユーチャリスが悲し気に瞳を伏せた後、決意の眼差しでぐるりと見回した。


〈父様達の御手を煩わせてはならないわ。

 森に喰わせてもいけないわ。

 だから私達だけで、あの人神を足止めしなければならない。

 でも人神には手出ししては駄目よ。

 術も爪も牙も、何も使ってはならない。

 それだけは忘れないで〉


〈はいっ!〉一斉。



 父親達(四獣神)に治してもらったとは言え、地に叩きつけられ大怪我をした記憶がまだまだ生々しく残っている子神達だが、森に背を向け、限界ラインから余裕のある位置に横並びになった。



 人神が現れた。〈へぇ……〉ニヤリ。


現れたと言っても神眼でしか見えないように姿を消していた。

獣神相手では無意味でしかないのだが。


怖気(おぞけ)が走るような冷たい笑顔で人神は真っ直ぐ森へと進んだ。



「森の領域に踏み込めば命は御座いません。

 どうか王都にお帰りください」


人神はユーチャリスの言葉を無視して進み続けた。


子神達が前を塞ごうと寄り集まる。



 人神が無言で手を伸ばし、掴んだ龍の子は最も小さい末のマディアだった。


〈邪魔するのならコイツの鱗を()ぐぞ〉

髪を掴んで ぶら下げ揺さぶる。


〈みんな! 通しちゃダメ!

 鱗くらい剥がされたって大丈夫。

 父様が治してくれるから。

 僕なら平気だから。動いちゃダメだよ〉


この人神の神力なら伝わらないだろうとマディアは軽度の獣神話法を使った。

皆も そうしようと神眼で頷き合った。


〈でも――〉〈ユーチャリス姉様、耐えて〉


〈ならば私が――放せアーマル!〉

前に出ようとしたラピスリの尾をアーマルが掴んで止めた。


〈ラピスリ姉様もダメ!

 僕なら耐えられるから。

 時間稼ぎくらいさせてよ〉


〈ふ~ん。どかないのか。

 それなら通してくれるまでコイツの鱗を剥いでやろう〉


ツツッと背を逆撫でした指を止めた。


〈誰も動かないとは。

 見捨てられたぞ、お前〉


1枚、また1枚と、高くなりつつある朝陽に煌めきながら碧色の鱗が落ちていく。

しかし誰ひとりとして その場を動かず、震えていても目を逸らすことはなかった。


〈そうまでも通したくないのは、やはり禁忌で戦っているという事なんだろ?

 子を盾にするとは……酷い親だな〉


〈みんな、堪えてね。

 人神に手を出したらオシマイだから。

 思ったほど痛くないよ。

 僕、大丈夫だから〉


〈しかしっ、これ以上は――〉

〈だったら俺が代わる!〉


 ウンディが人神の前に浮いた。

「それ以上 ()いたら死んでしまう。

 小さくても、獣でも、神だからな。

 神殺しになる前に交代させろ」


「望み通りにしてやろう」

掴んでいるマディアの髪を手に巻き付けて地に叩きつけ、ウンディの髪を掴んだ。


「そうか。

 お前ら、声を出さないと話せないのか。

 獣のガキだから仕方ないか」


〈マディア!!〉

ユーチャリスが飛んで寄った。


〈大丈夫……だってば……〉


〈アーマル! ラピスリを此方に!

 治癒を手伝って!〉


動けなくなったマディアを抱き締め、治癒を当て始めたユーチャリスだが、己の治癒では無理だと判断して治癒が強いラピスリを呼んだ。


〈ッてーなっ!!

 マディア♪ お前スッゲーなっ♪

 よく我慢したなっ♪〉あはははっ♪


〈ウンディ、何故そこで笑うのだ?〉

ラピスリがマディアに治癒を当てつつ首を傾げる。


〈いや、ナンかなぁ、痛過ぎてなぁ♪

 もう笑うしかねぇよ♪〉わははっ♪


「おい、そこ。何をしている?」


「治癒も知らねぇのか?

 お前が神殺しにならねぇように当ててやってるんだよ。

 ほらほら♪ 手が止まってるぞ♪」


「獣のクセに生意気だな。

 おい、そこの青いの。交代だ」


「おいっ、もう終わりかぁ?」


(うるさ)い」

髪を手に巻き付け、子神達の並びに向かってブン投げた。


「ブチブチなったろーがっ!!

 禿げちまうじゃねぇかよっ!!」


「黙らせろ」「で、私ではないのか?」

ラピスリが浮いていた。


「女、なのか?」


「どちらでも構わぬだろう?」


「その話し方……生意気だな。

 前にも そんな青い奴が居た。

 奴への仕返しも込めてやろう」手を伸ばす。


白いものがラピスリの前に現れた。


「狐なんぞに用は無い。邪魔だ。どけ」


白狐(フェネギ)は無言で睨み返した。


「言葉が解らないのか? どけよ」


両手を広げ、ラピスリを護ると示した。


「騎士道の真似事か? 鬱陶しい奴だな」


〈フェネギ、列に戻れ。

 私なら大丈夫だ〉


〈此れも時間稼ぎになりましょう?

 ほんの僅かであっても……〉


〈しかし狐は術使い。

 人神に対しては無力となる。

 頼むから並びに戻れ〉


〈間も無く父様達の戦闘が終わります。

 それまで――〉


対峙する人神の苛立ちが膨れ上がったその時、森の向こうに新たな禍が現れたと感じ取った。


〈凶悪だ。長引くと確定した。

 だから――〉〈しかし――〉


抜かず、鞘ごとの剣が振り下ろされ、フェネギは真下に叩きつけられた。


「鬱陶しい。先に皮を剥いでやる。

 青い女、そこを動くなよ」

フェネギの頭を鷲掴みにして ぶら下げ、剣を振って鞘を外すと切っ先を額に当てた。



―・―・―*―・―*―・―・―



〈あの時フェネギは気絶したろ?〉


〈意識がラピスリ様に向いていた不意打ちだったからね。

 どうしようもなかったよ〉


〈どうしてラピスリだけ今も『様』付きなんだ?

 まだ諦めていないのか?〉


〈煩いね。

 その想いは……とうの昔に棄てたよ〉


〈ま、相手がドラグーナ様だと尾を巻くしかないよなぁ。

 おいおい、無言で睨むなよなぁ〉


〈私が気を失った後を教えてくれるのでは?〉


〈そうだよ。ここからが重要なんだ〉



―・―・―*―・―*―・―・―



「ヤメロ!! その子から手を離せっ!!」


少し離れた場所にティングレイスが現れ、青龍(ラピスリ)の前に瞬移して、子狐(フェネギ)に剣を突きつけている人神の腕を掴んだ。


「チッ。見えているのか……」

人神は乱暴に振り解きつつ、掴んでいたフェネギを投げた。


フェネギが地に激突する寸前にティングレイスが瞬移して受け止めた。

「大丈夫? 治癒、回復」


思わず飛んで寄ったユーチャリスに治癒光で包んだフェネギを渡した。

「みんなで逃げて。僕に任せてね」


〈聞こえたわね? あの木に!〉

ティングレイスの言葉を流し伝えたユーチャリスが頷き、子神達は一斉に近くの高木へと瞬移した。







『おさらい ~その2~』の前半です。

次話に続きます。


内容としては、第一部 第2章で書いたものをリグーリ目線にしたものです。


この時ユーチャリスはティングレイスに恋してしまうのですが、想いに気付くのはずっと後、マヌルの里に落ち着いてからです。

まぁその話は無事に結婚できたので、めでたしめでたしというだけに。



リグーリやオニキスは ほぼ街に居るので、どうやら敵はティングレイスではなさそうだと確信しつつありますが、この島国と大陸の結界強化に奔走しているフェネギはナターダグラルも見ていないし、話にも加わっていないので、蚊帳の外的な状態になっているんです。


なのでリグーリはフェネギを呼び出したんです。


ディルムやマディアとも話せるといいんですけどね。



ダグラナタンは以前にもラピスリと同じ口調の青い龍と会っているような口振りでしたが……?


マディアの破邪を受けて改心したら話してくれるのでしょうね。



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