ベルリンの不良少年達
世界ツアー初日のライブを終えて、紅火はホールから出たばかりの啓志と淳の前に姿を見せた。
「素晴らしかったぞ!♪」
「淳、声が大きいよ」
「和語なんぞ解るものか!♪」
「そうか。確かにね」「だろ!♪」
「でも紅火君が話せないよ」「そうか!」
「紅火君、本当に素晴らしかったよ。
今回はチケットを取って、旅行も計画してドイツに来たんだ。
観光もするんだよ」
「明日のライブも来るぞ♪」
「うん。ロスのも取れたよ」
「そうか。
邪魔だろうがホテルまで送る。
和人は狙われる。
夜歩きは危険過ぎるからな」
歩き始めた。
「言ってくれれば……」
「うん。紅火君なら そう言ってくれると思ってたけど、そもそも全部なんて無理だし、取れた所だけって決めたんだ。
でも、ありがとう」
「ふむ。ならば都度、ホテルまで送るのだけは約束する。
邦和は全ドームの予定だ。
その分は確保すると決めている。
受け取ってもらいたい」
「「ありがとう!♪」やはり良い人だ!♪」
「ふむ……」
「沙南さん連れて来た~♪」忍者移動で♪
「ええっ!? 淳!?」
「久しぶりだな高築♪
見かけなかったが何をしているのだ?」
「取材と記事の掲載をお願いするのに出ている方が多くて。
あとは部屋に籠って記事を纏めているの」
「世界ツアーは取材で同行か?」
「ええ。寄付先も外国だから」
「この大ツアーも寄付するのか!?」
「必要最低限の諸経費を除いてね」
「またノーギャラなのだな。ん?」見回す。
男達は後方、少し離れていた。
「邪魔をしないように離れてくれたのね」
「なのだろうな♪」『来い』「何をする!」
と叫び終わる前に大男達は崩れ落ちた。
「触れられたか?」
「全くだ♪ 大声を出すべきと思ったまでだ♪」
「ふむ」気絶男達を重ねて肩に担いだ。
「どうする気?」彩桜に止められていた啓志。
「魂を浄める」「うんうん♪」
そして無事にホテル前まで送っての楽屋。
大柄な男3人の弱禍を浄滅してから魂縛を解いた。
「忍者!?」
「その通りだ。
俺達のファンに何をしようと?」
「ファンだと?」「お前ら何者だ!」「ん?」
柔らかな音色が流れていた。
「これは……?」「静かにしろ」もう1人も頷く。
話していた忍者が立ち上がると、紫の腰帯が靡いた。
その男もフルートを重ねる。
曲が終わると男達の目には涙が浮かんでいた。
「橙 白 黄、離してやれ」「「「はい♪」」」
黒と灰が料理を運んで来た。
「腹拵えだな♪」「ほら食えよ♪」
「どうして?」「いいのか?」「あ!」
もう2人を青と桜が連れて来た。
「お財布ぜ~んぶ返して来た~♪」
「2人には隣の部屋で聞いてもらいましたよ」
3人と並べた椅子へ。
「悪い。全部 渡しちまったよ」
「もうヤメよーぜ。なあ?」
「ああ。心が洗われちまったみたいだ」
「それよか待たせてるんじゃねぇか?」
「腹が鳴る~!」
「だから食えよ♪」
「早く取らねぇと無くなるぞ?」
「食~べる~♪」「まだだよ桜!」
「オニーサン達、早くぅ~」
賑やかな夜食パーティーが始まった。
ひとしきり食べた後、銀と赤が男達の前に立った。
「誰かに雇われていたのか?」
「いや。
だが若い女はギャングに渡せば金になる」
「つい最近そうなったんだ」
「俺達は金さえ稼げればいい自由団だ」
「他に仲間は?」
「俺達は5人だが、他にも似たようなグループは居る」
「数なんて分からんくらいに居るよ」
「他の国にもな。他からも来るから」
「そうか。
とりあえず、お前らは明日のライブのスタッフをしろ」
「は?」「ライブ?」「スタッフ?」
「ちゃんと賃金は払う。
働くのなら握手だ」「俺と握手~♪」
まだモグモグしている桜が滑り込んだ。
「ヤルか?」「俺ヤルぞ!」「「「俺も!」」」
順に握手。
「そんじゃあ決まりなっ♪」
【彩桜、情報は?】【バッチリ~♪】
「お~いメーア、5名様ご案内だ♪」
「ったく城を何だと思ってるんだよ?」
薄笑いを浮かべて入って来た。
「「「「「メーア=ドンナー!?」」」」」
「全く知らないらしい♪」「そうらしいな♪」
―◦―
メーアが運転するスタッフバスにはフリューゲルメンバーも乗っていた。
本物のフリューゲルだと分かって以降、縮こまっている5人にフルスは年始の悪霊騒ぎを面白おかしく話して聞かせた。
全てはレコーディング期間中に彩桜から聞いた話なのだが。
「で、さっきのがフリューゲル城の門だ♪
ここから私有地だが、暫くは葡萄畑だ。
年末までは荒れ放題だった。
マジで悪霊が巣食ってたんだ。
その悪霊を退治したのは忍者達。
ここいらを浄めてくれたのも忍者達だ。
だから葡萄はスクスク育ってるんだ♪」
「葡萄って、あんな速さで育つモンなのか?」
ラントが首を傾げる。
「忍者から貰った種だからだろ♪
本格ワインとワインもどきにするらしいぞ♪」
「ワインもどき?」
「ノンアルコールだがシッカリ酔えるらしい♪
アルコール依存症の薬だと聞いたぞ♪」
「お前らの為の薬だな♪」「「おいベルク!」」
「ワイン……」
「「「どーした?」」」
「俺ん家、小さなワイナリーしてたんだ。
破産したけどな。
だから街に出て仕送りしてたんだ。
でも……ロクな仕事がなくて……」
「家族総出でウチ来るか?」
メーアがルームミラー越しにチラリと見た。
「マーズは何か考えてそうだが、俺の方も葡萄畑の世話する者を雇ったばっかだ。
ワインやらを造る者までは雇ってない。
これもエニシだ。来たらいい」
「……ナンだよ……こんな優しくされたのなんか初めてだよ……」
「けど優しいばかりじゃない。
さっきの料理で分かっただろうが、忍者達の舌は厳しいぞ。
それに監修はフリューゲル&マーズだ。
柔軟に、かつ的確に、求める味を出して、更に極めてくれよな」
「うわ、いっぱい言った。
けど、ヤルっきゃねぇよな。
家に電話させてくれ!」
「夜中だから朝な。
他のヤツも家族ごと来てもいいからな。
ほら着いたから降りろ」
「家族ごとって……」「ワイナリーしてないし」
「とにかく広いからな。雑用ならワンサカだ。
ただし早い者勝ちだからな。
これからお前らみたいな生き迷ってるヤツらが集まるだろうから、自分に合ったのを早く見つけろよ。
おい、閉めるぞ」
慌てて降りる。
「どうして そんな……」「慈善事業?」
「そう見えるだろうが、ちょいと違う。
フリューゲル単独なら稼ぎもするが、マーズと組んだなら全て寄付するからな。
余裕あっての事じゃないんだ。
だから改心したら自立してもらう。
全ての人に笑顔を、なんて普通なら理想で空論だと鼻で笑うような事をマーズは真剣に目指してるんだ。
俺達も賛同したからには全力で立ち向かう。
そういう事だ」
重厚な扉を開けた。
「お帰りなさいませ、城主様」
「遅くまで悪いな。客間に頼む」
「かしこまりました」「お兄ちゃん♪」
妹メーアがスイ~ッと飛んで来てピトッ♪
「お客様?」
「今夜だけは客だな。
働いてもらうつもりだ」「はじめまして♪」
「あ、ども」「妹?」「飛んでたよな?」
「俺の家族は全て病死した。
妹もユーレイだ♪
曾祖父母まで全て住んでるぞ♪」
「うわ……」「マジかよ」他は絶句。
「あら、新しいお友達?」母、ほんわり登場。
「ま、ダチかな?
あ~、フリーズしやがった。
ベルク フルス ラント、笑ってないで運んでくれ。
ザッハさんも1人な」
「かしこまりました」
「おい、動けよな」「歩け~」「ったく~」
わららっと家族勢揃い。
「わああああ!」「逃げろ!!」
押したり引いたりされていたのに走って行った。
「どこまで行く気なんだかな♪
部屋に入れたら俺も寝るからな♪
総出で ありがとな♪」
笑顔で追い掛けた。
―・―*―・―
マーズの方は忍者そのものな活動をしていた。
これまでに悪い目的で街に出ていた若者や、溜まり場に居た同類達を封じ、来ていた祓い屋達に弱禍浄滅の為だと話して連行してもらった。
今、ベルリンの繁華街 南東部に残っているのは兄弟と紺と緑だけだった。
中忍と空は若者達を運んだ場所で見張りを兼ねて浄化をしている。
【マフィアも何もかも、ひっくるめてギャングでいいよな?
ベルリンには大きいのが3つ居る。
最大のが此処だ。
すぐ近く、もう少し南にイタリーから出張ってるのが居る。
ラスト1つは ずっと北西だ】
【捕まえて警察にと考えて偵察すると、警察とは永遠の蜜月を誓い合っているような状態でした】
【だからガツンと浄化したの~♪
お偉いさん捕まって大変なったの~♪】
【つまり上層部が総倒れしたんだな?】
【はい】【そぉなの~♪】
【正義感で動いている方々も居ましたので協力して頂きましたが、現状は混乱状態です】
【だからオッテンバッハさんに閉じ込めとくトコお願いしたの~♪】
【もちろん警察公認ですよ】
【瑠璃さんと3人、消えたままだと思ってたらンな事してたのかぁ。
そんじゃあ捕まえてオッテンバッハさんが指定する場所に閉じ込めといて、最終的にサツに引き渡すんだな?】
【はい】【うんうん♪】
【では、3箇所同時に。
北西とイタリーは弱禍だが、此処は違う。
此処は青生 彩桜 瑠璃殿。
北西は狐儀殿 藤慈 白久。
イタリーを私 黒瑯 紅火。
間も無く邦和は夜明けを迎える。
速やかに】
【はい!】一斉に瞬移した。
不良少年達から拾知した情報をキッカケとして、マーズは悪い団体を掃除するようです。
今度はオッテンバッハさんに預けるので、狐儀も安心して参加します。




