マーズショップ開店イベント
夜に理子の魂内の『種』を摘出して封じ、各地で眠らされている不良達に奏でて聴かせた輝竜兄弟は今、馬頭雑技団としてスーパーいちい駅北マーズタウン店の馬頭ショップで演奏を始めたところだった。
場所が そう広くはないので打楽器や電子楽器は用意していない。
管楽器は馬頭の時は不可能――かと思いきや馬の口に当てているフルートとクラリネットから確かな美音が流れている。
客達は不思議そうに首を傾げつつも静かに笑みを浮かべていたり、忍法をよく見ようと背伸びしていたりと、注目しているのも楽しんでいるのも確かだと見てとれた。
【藤慈、彩桜。改善点は有るか?】
【吹き易いよ~♪ 延長口、楽し~い~♪】
【はい♪ 何も問題ありませんよ♪】
【ふむ。神力消耗は?】
【ほんのちょっと~♪】【はい♪ 少しです♪】
【ふむ。改善する】
【しにゃくても快適だってば~♪】
藤慈は楽し気に笑っている。
【改善より金管楽器のは?】
【間も無く完成する】フ。
【世界ツアーで試すの?】
【離島で試す】
【俺、試す~♪】
【私にも吹かせてくださいね♪】
【ふむ】
【おもしろ延長口、お名前つける~んるん♪】
【む?】
【えっとねぇ~♪ び――】【却下だ】
兄弟爆笑。上4人もシッカリ聞いていたらしい。
【まだ言ってにゃいのにぃ】
【紅火、言わせてあげてよ】
【……む】と~っても渋々。
【びよよ~んタコちゅ~♪】
【このっバカ彩桜っ!】【笑わすなっ!】
兄達、必死で笑い声を堪えている。
(そのくらいでは音は乱れないが)肩を揺らすのも。
【見たまんまなのにぃ。どして笑うのぉ?】
【そういうところ、彩桜らしいよね♪】
【青生兄も笑ってるぅ~】
心話では皆 笑っている。
楽しく演奏し続ける馬頭雑技団だった。
―◦―
演奏が終わって販売開始。
前日は無料配布のみだったのでドッと人が押し寄せた。
【入店制限した方がいいんじゃねぇか?】
レジの白久がバックヤードに行った青生に。
【待たせる場所で何かしますか?】
【だな。黒瑯は増産しに行ってくれ。
こりゃマジでヤバいからな】【おう】瞬移。
【藤慈も薬草サプリ増産ね】【はい♪】瞬移。
【紅火は?】
【とっくに帰って作っていますよ。
金錦兄さんが手伝っています】
【兄貴は逃げてたのか!?】
【手伝っているんですよ。彩桜も】
【静かだと思ったら!】
【白久さん、レジ交替するわね】
【みかん♪ 助かる♪
青生、場所確保しに出るぞ】【はい♪】
【いざ補充じゃ♪】【並べるのじゃ♪】
輝竜家の妻達が店内スタッフとして入った。
瞬移した白久と青生は店長室へ。
「市飯さん。入店整理したいんで、どっか場所ありませんかねぇ?」
「場所ねぇ……あ♪
試食マネキンしてもらえます?
そっちにお客様が集まると思いますので♪」
「うわ……けど、駐車場も店内もイッパイだからヤルっきゃねーか」
「やってみましょう」
「ウインナーだったら切って焼くだけ。
誰でも大丈夫だと思いますよ♪」
「そんじゃあソレで♪」
「道具一式、こちらです♪」
―◦―
「何してるんです?」コソッと。
「また来たのか魁。
見ての通りだよ」馬頭白久もコソッと。
「マーズショップに集まり過ぎるので分散させているんですよ」
馬頭青生がウインナーをカットしながら。
「うわ。速っ」
「忍者ですから♪」
「ほら、食ってアッチ行ってくれ」
焼いている馬頭白久がウインナーを刺した爪楊枝を渡した。
「手渡し?」ぱく。
「その方が喜ぶからだよ」次々と渡している。
「あ、手袋してたんだ」
「トーゼンだろ。忍手袋だ♪」焼きつつ。
「邪魔だからアッチ行けって」渡しつつ。
「ネコ掃除機の注文は?
頼みたくて来たら馬ぬいだけだったから」
「此処で言うなよなぁ。後でな」
周りが騒がしい中での小声なのに拾う者は居る。
ザワザワが拡がり、大騒ぎに。
「ったく~。どーしてくれるんだよ。
この責任とれよな」
と、顔を上げると魁は居なかった。
「うわ……」「俺、タコさんウインナー焼く~♪」
白久と青生の間に馬頭が増えて勝手にタコさんウインナーを量産し始めた。
「おいおい、数に限りがあるんだからな」
「ちっちゃウインナー買って来た~♪
ちっちゃタコさん作るの~♪」速い速い。
あっという間にホットプレートの半分がタコさんウインナーで埋まった。
「足トコしか焼けねぇだろ」
「上からも忍法で焼く~♪」火炎焼射♪
こんがり美味しイイ感じのタコさん達の出来上がり。
速過ぎて見えないが、上からプスプスではなく何故だか足側に爪楊枝なタコさん達を配っていく。
「ん? タコに座布団?」
「ちゃんと試食のも配るの~♪」るんるん♪
タコさんは輪切りウインナーに座っている形になっていた。
謎のネコ掃除機とやらは待っていれば発表なり発売なりあるだろうとでも考えたのか、その場は可愛いタコさんウインナーで落ち着いた。
【ありがとう彩桜】【ん♪】
―◦―
白久から逃げた魁が遠くから その様子を見ていると、後ろから肩ツンツン。
「怪しい者では――あ……」
「マネージャーさん何してるんです?
あれ、試食?
あんなことまでやってるのね~」
「響、邪魔になるから行こうよ」
「その袋……マーズショップ?」
「はい♪ 演奏の後、買い物したんです♪」
「大量のお菓子と」ゴソッ。「これです♪」
「うわ、大きな馬ぬい」
「はい♪ 肩車みたいに座らせて~、手が前で くっつくから鉢巻きみたいに止まるんです♪」
「軽いから馬手だけで落ちなくなるんですよ」
正面から見ると顔の上に馬の顔。
馬の顎が頭に触れているのすらも可愛い。
「馬ぬいリュックと馬乗りキャップも子供達に大人気でした」
「馬乗りキャップ?」
「キャップ帽の上に馬ぬいがペタッと乗ってるんです♪」
「クリップ付きのマスコットもあったよね」
「そうそう♪
クリップの角度が変えられるから、いろんな縁に座らせられるのよね♪」
ポケットから取り出すと、カチカチと角度を変えて手提げ紙袋の上端に座らせた。
「買ってたの?」
「ほら3つ♪」もう2つ出した。
「いつの間に? あれ?
白玉さんと小倉さんだ。
何かあったのかな?」
一緒に近付くと、馬ぬいを見て笑顔に。
「君は確か、稲荷堂の?」
「はい♪ アルバイトをしてました♪
……何かあったんですか?」
「いやいや。娘に せがまれましてね。
コイツは勝手に ついて来たんですよ」
「おい」 『アンコち~ん♪ 買えたよ~♪』
「ほらな。白玉の方がオマケだ♪」「おい!」
娘、到着。
話題の馬乗りキャップを被っている。
「アンコちん見て見て~♪」クルン♪
馬ぬいリュックも買っていた。
「希菜子、小倉だけは駄目だからな」
「どうして?」
「俺と同じオッサンだからだ」
「理由それだけ? だったら無問題♪
私、お父さんも大好きだもん♪」
父、真っ赤。怒っている訳ではない。
「希菜子ちゃん、試食に行かないか?」
「行く~♪ ほら、お父さんも。
皆さんも行きましょ♪」
なんだか成り行きでぞろぞろ。
【彩桜? 試食マネキンしてるの?】
【うんっ♪ タコさんウインナーなの~♪】
「はい、ど~ぞ♪」
「かわいいっ♪」希菜子、大喜びで跳ねる♪
「お父さん、ウインナー買って♪」
「すぐ帰るのか?」「あ~、そっか~」
『居たぞ♪』『こっちだったんだね』
声は人垣の向こうだが堅太と祐斗だ。
「あ!」「ソラさん!」
【響、無理なら逃げて】
【大丈夫よ♪ もう大丈夫♪】
【そう?】
と、話している間に中学生達に囲まれた。
「バンドの練習もあるから週末はコッチだよ」
「稲荷堂には?」「バイトは?」
「書庫にも行きたいし、まだ習いたいから行くよ。ジオラマ作りも、いいかな?」
「来てください♪」歴史研究部、一斉。
「ありがとう♪」
「奥さんも来てくださいね♪」
「え? いいの?」
「来てください♪」また一斉♪
「ありがと♪」
【なんだか……中学生やり直し?
ソラと一緒に中学生ね♪】
【そうだね♪ 一緒にね♪】【俺も一緒~♪】
【僕も中学生ですからっ】
【メグルくん♪ すっかり元気ね♪】
【正月カミングアウトからずっと元気だし!
あ、親友のサイト。一緒に居候中♪】
【よろしくお願いします!】
【あ~、あの時の~】【【あの時?】】
【なんでも! 気にしないでね~♪】
【【はい……?】】
響の車を自転車で追い掛けて廃教会まで来た時とは大違いだと、嬉しくて笑い続ける響だった。
【ほら、春休みすぐの家出騒ぎ♪
一緒に自転車で来たでしょ♪】
【【あ!】】やっと最初を思い出した。
いろいろ有り過ぎてブッ飛んでいたようだ。
『13時より、マーズショップ前で馬頭雑技団の演奏があります。
皆様どうぞお集まりくださいませ。
繰り返します――』
「また演奏するのね♪」
「最終は16時だから2回聴けるよ」「ん♪」
「ウインナー撤収なの?」
「置いときゃ食べてくれるだろ。行くぞ」
「俺も食べたいのぉ」
ゴソッと両手に爪楊枝タコさんウインナー。
「あとはご自由になの~♪」瞬移♪
「という事で失礼しますね」瞬移。
「そんじゃあまた後でな♪」瞬移!
刃物とホットプレートの電源コードも消えていた。
「流石、忍者ね♪」「そうだね♪」
兄弟揃ってのイベントは、この日だけですが、この先も休日には誰かが来て演奏したり店員したりを考えているようです。
馬ぬいだけでなく縫わないといけないし、どんどん忙しくなる輝竜兄弟です。




