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ふたりで一緒に



 まだ歩けそうにも飛べそうにもないナターダグラルだけを客間に残してエーデラークとその妻は去り、少ししてエーデラークだけが戻った。


「ナターダグラル様、どうぞ温まってください」


 ナターダグラルの上体を起こして背凭れを当てると、運んで来たスープカップを手渡した。


「すまぬな……ふむ。美味い……」ほぅ。



「何事があったのです?」


「人世の集落に死司を拒む結界が成されておるのを知っていたのであろう?」


「はい。存じております」


「そうか……ルロザムールが言った通り、エーデまでもが私に隠しておったのか……」


「神世の為に心血を注がねばならないナターダグラル様に、人世の些細な事で御心を煩わせるなど、あってはならぬ事で御座います。

 たかが堕神の結界。

 されど複数の堕神が幾重にも強化をしておりますので、滅するには私では力不足で御座いました。

 故に己を戒め、この休日を利用して、神力を共有する妻と共に修行を致しておりました。

 大事な時に不在でした事、どうかお許しください」


「そうか……ルロザムールとは違うのだな。

 やはり私の補佐はエーデだけでよい」


「その御言葉、有り難き幸せで御座います。

 それで……もしや結界に触れたので御座いますか?」


「いや……しかし堕神の毒気に当たってしまったのだ。


 エーデは姿をも変えられる。

 以前も不在とする際に頼んだが、また頼めようか?

 此度は少々長くかかるやも知れぬが……」


「畏まりました。

 力を尽くし、務めさせて頂きます。

 ですがお早く回復なさいますよう、御指示は明日に。どうかお休みください」

治癒で包み、微笑んだ。



 飲み終えたスープカップを受け取る際に手を掴まれそうになったが、素知らぬ顔でスルリと躱して(うやうや)しく一礼すると、颯爽と廊下に出て深々と礼。


「エ――」「お休みなさいませ」パタン。



 そして、客間の扉を結界で封じた。


〈マディア、鱗は?〉


〈ぜ~んぜん騒がないよ♪〉


〈その結界は?〉


〈閉じ込めちゃった♪ 軽~く腹癒(はらい)せ♪

 僕のエーデラークどうだった?♪〉


〈完璧よ。私よりずっとエーデラークだわ〉


〈ん♪♪♪ これから交替でしようねっ♪

 ね♪ アイツ、破邪が毒気だって~♪〉


〈流石、毒神よね〉


〈だよね~♪

 破邪の残気から兄弟を感じたよ♪

 人世で戦ってる兄弟が居るんだよ♪

 だから月の門とマヌルの里を繋ぐ道、頑張って作ろうねっ♪〉


〈そうね。頑張りましょう♪

 でも……どうして水晶が無い事に気づかないのかしら?〉


〈まだ それどころじゃないのかも。

 気づいてても、予備なんてゴロゴロあるだろうから気にしてないのかもね。


 エーデ、いい?

 エーデラークは水晶玉なんて見てない。

 持ってるなんて知らないんだからね?

 きっとアイツ、人世から逃げる時に落っことしたんでしょ♪


 さ~て♪

 明日から暫く、清く正しい神中の神ナターダグラル様だよ♪

 朝にはアイツ、最高司の居室に閉じ込めちゃうからね♪

 僕達でナターダグラルとエーデラークしようねっ♪〉


〈あ……そうね♪ それがいいわね♪〉



―・―*―・―



 そんな大きな動きがあった翌日、人世では――


 瑠璃は小夜子を連れて病院に行き、夕方やっとアパートに戻った。

瑠璃に支えられて どうにか歩いていた小夜子は、部屋に入っても俯いたままひと言も発せず、崩れ落ちるようにぺたんと座った。



 既に勝手知ったる状態の瑠璃が台所から温かい紅茶を運んで来た。


「温かい飲み物は心も温かくする」


「うん……ありがとう……」


「ひと口でいい。飲んでみろ」


小夜子は気力すらも底を尽きたとでも言わんばかりに、のろのろと口に運んだ。


「あ……甘さがホッとする……」


「生きていると感じるだろう?」


「そうね……まだ私……生きているのよね……」


「そうだ。生きている」


「……でも、もう……」


「高度医療を受けるか?」


「無理よ、そんなの。

 それすらもイチかバチかなんだし……。

 こんなにも速く進む病気だったのね……」


「人各々(それぞれ)だ」


「そう……私の行いが悪かったのね……」


「確かに、病院に行かなかったのだからな。

 しかし――」


炬燵の天板に涙が落ちた。


「泣かずともよい。私が治す」


「え? 治す、って……?

 瑠璃は人のお医者さんじゃないでしょ?

 動物のお医者さんでしょ?」


「通常医療ではお手上げだ。

 だから別の力を使う」


「力って……まさか高度医療のお金を出す、とか言わないでよね?」


「金銭的な事には口を出さぬと言った筈だ。

 もう病院に行けとも言わぬ。

 信じられぬだろうが私に任せろ」


「任せろ、って……?」


「それを飲んだら治療を始める。

 先に説明しても無駄だからな」


そう言うと、これまた勝手知ったるで布団を敷き始めた。


「冷める前に飲んで身体を温めろ」


「分かったわよぉ」



―・―*―・―



 瑠璃達の上空にリグーリが、東の街の上空にはディルムが浮いていた。


【で、どーやって解くんだ?】


【それが分かれば困っていないだろう?】


【そーだけどなぁ……】


【ハーリィの為にもルロザムールを元に戻してやりたいのだが……】


2神は港町の上に浮かんでいるルロザムールをチラリと見た。


【今日はモグラ来ねぇかなぁ】


【消滅してなければいいんだが……】


【姿が見えないと言えばアーマルは?】


【家に居るのかもだが、街の結界が強化されて見え辛いんだよ】


【コッチも見えねぇよ。

 堕神の結界には違いねぇだろーが……誰なんだろ~な?】


【猫の女神? なんかそんな気がする】


【猫なぁ……多過ぎて見当もつかねぇよ】


【しかも この結界じゃあ――おい】後ろ。


【うわっ! コッチ来てやがる!?】


【頑張れよ~】【おい! リグーリ!?】


【儂はエィムを指導せねばのぅ~♪】


【逃げるな! 消えるな! おいっ!】

叫びつつもダンディ保つ。


リグーリが笑いながら消えた。【おいっ!!】


 ったく~。うわ~、笑顔が怖過ぎっ!



「ディルム……昨日は、その……兎に角だ、ありがとう」


「いえ、当然で御座いますので。

 気付くのが遅くなり申し訳ございません」


「本当に助かった。だから……だ。

 エーデラーク様に付いたらどうだ?

 私には最早、先が無いと――」


「いいえ。

 次代の最高司様はエーデラーク様かも知れません。

 ですが次々代はルロザムール様だと信じておりますので」


「そうか……敵わぬエーデラーク様と張り合わず、エーデラーク様の下に付けばよいのだな?」


「そうまでは申しておりませんが……それも一手かも知れませんね」


「ふむ……共に……エーデラーク様の下に付いてくれるのか?」


「それは当然の事で御座います」礼。


 って! マジかよ俺っ!?

 コイツと一緒に得体の知れねぇ

 エーデラークの下だと!?

 とんでもねぇよ!!



―・―*―・―



「瑠璃の手……光るのね……」


 一度 死んだと思って何でも受け入れろと言われて諦めた小夜子は、瑠璃の治癒を受けていた。


「そうだ。この光が私の力だ。

 胃の痛みは?」


「うん。とても痛かったのに、すっかり消えたわ。凄いわね」


「食欲は?」


「うん……」くぅぅ~。「あ……恥ずかしい」


「恥ずかしがる必要は無い。

 昨日も今朝も殆ど食べず、昼までも抜いたのだからな。当然だ。

 当面、食事は私が作る。

 食は健康の基盤だからな」


「健康って……」


「だから治すと言ったろう?

 生きて完済し、家に戻れ」


「え……」


「家族が待っている。捜している」


「そんな……期待させないでよ」


「事実だ。だから生きろ」


「……ありがとう。

 瑠璃って……女神様よね」


「ん? どういう意味だ?」


「優しくて、頼りになるし、凄いし……」


「そういう意味か……ただの獣医だ」


「その話し方も神様っぽいわよね」ふふっ♪


「笑えるようになったか。

 ならば女神も受け入れよう」


「どこまでも瑠璃よね♪」あははっ♪


「変え方を知らぬのでな。

 もう暫く安静に寝ていろ。

 それも治療の一環だ。


 治癒光を当てるのは毎日少しずつだ。

 新たな仕事から帰宅した頃に来るからな」

立ち上がった。


「どこへ?」


「夕食を作る」

振り返って微笑み、台所に向かった。







高校時代は澪を介して会う事はあっても話すなんて有り得ないくらいの距離があった瑠璃と小夜子ですが、とても良い友達になったようです。


マディアの方も、瑠璃の方も順調そうですが……これからは?


小夜子に関しては本編を思い出していただければ……です。

m(_ _)m



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