ひと安心かと思いきや
ジュールとアンリエッタの結婚式を終えた青生と彩桜は、オフォクスに預けていた封珠を運ぶラピスリの中でカーリザウラと すっかり仲良くなっていた。
《イマブルー様が先生がいいな~》
〈うん。もう少し欠片を見つけたら人世でも保てるだろうから、それからね。
それまでは神世にいらっしゃる俺達の大先生の所で修行してもらえるかな?〉
《人世って厳しい所なんだね?》
〈修練の場としては最高だよ〉〈うんうん♪〉
《イマチェリー楽しそう?》
〈修行だ~い好きだも~ん♪〉
《楽しいんだね♪
僕、大先生の所で修行するよ♪
でも……ここ、どこ?
真っ白? 本当に神世なの?》
〈神世だよ。
時の経過は自覚しているかな?〉
《ものすごく経った、くらいなら。
何度も長く眠った自覚ならあるし、何度も何度も人をしたよ。
いつもオーロに見張られてたから、あんまり外は見てないけど》
〈その通りで長い長い時を経たんだ。
今の神達は、この地を知らない。
そのくらい遥かな昔、此処にはカリュー王国が在ったんだよ〉
《まさか そんな……》
〈向こうに見える山の連なりはサミル王国との国境。見覚えあるよね?〉
《確かに……あの形、あの火山……いったい何があったのですか!?》
〈もう着くから、その長い話は大先生から聞いてね〉
《はい!》
〈大先生にお願いするから静かにね〉
〈おっはよ~ございま~す♪
俺達また来た~♪〉
《おやおや、また妙なのを連れて来たねぇ》
《その声! アミュラ先生!?》
《おやまぁ……起きてたのかい》
〈あれれ? アミュラ様、先生してたの?〉
《ったくまぁ、バレちまったよ。
預かるから出しな》
〈は~い♪〉出すのはラピスリ。
《アミュラ大先生! よろしくお願いします!》
結界壁の中に淡く浮かんだ少年がペコリ。
《おやおやまぁ、別神だねぇ》
《勉強させてください! 修行も!》
〈カーリ、オーロの欠片に縛られて怠け者なってたのぉ。
ホントは真面目な光神なのぉ。
それでね、コレ分離したオーロなのぉ〉
また出すのはラピスリだ。
《こりゃあ……》
驚き過ぎて言葉が続けられず、再確認。
《こんな子供の頃に魂片を込めるなんてのを覚えちまってたのかぃ……》
〈浄滅しなきゃダメ?〉
《いや……歳が様々だが、このオーロは どれもルサンティーナと繋がっちゃいないからねぇ。
あの神火じゃあ無理だよ。
眠らせたままアタシが預かるよ。
オーロの魂は強いんだ。
生来のものなんだろうねぇ。
だからこそカーリも、オーロが絡んでいた部分だけは生き残ったんだよ》
《そうなんだ……でも……それでも僕は……》
《感謝なんかしなくていいさね。
長く苦しめられたんだろ?》
言葉にはせずに、ただ頷いた。
《近くに居ると思うのも嫌みたいだねぇ。
出しゃしないから心配するんじゃないよ》
《はい! でも、どこに?》
《この壁の真下。地下に封じるよ》
《よかったぁ……あっ、ここで何があったのか聞きたいです!》
〈アミュラ様、お願いしますね〉〈うんうん〉
《アタシに丸投げかい?
ま、長~~~い話だからねぇ。
アンタ達は知ってる話なんだから帰りなよ?
凍えちまうからねぇ》
〈〈はい♪〉カーリまったね~♪〉《うん♪》
青生と彩桜はラピスリの背に出て、ラピスリが術移するまで手を振り続けた。
―・―*―・―
「ん? あれ? 俺……常務!?」
「よぉ社長。遅いお目覚めだな」
座卓で書き物をしていた白久がチラリと顔を上げたが、すぐに視線を戻した。
「社長!? 父さん居るの!?」
慌てて起き上がってキョロキョロッ!!
「居ない……?」
「坊っちゃんが昨日、社長宣言したんだろーがよ」
「え"……? アレ現実!?」
「週明け、明後日が入社式だ。
社長として立派なスピーチしろよ。
俺は新会社設立準備に掛かるからな。
元気ならサッサと帰ってくれ」
「へ? 新会社?
って常務 何書いてるんですか!?」
「辞表だよ。坊っちゃん社長宛にな」
「わああああっ!!」
奪ってビリビリにして丸めて握り締めた。
「何しやがるんだよ。
ま、1枚くらい いいけどな。
いっぱい書いたからな♪」想定内だ♪
白封筒を扇にしてヒラヒラ~♪
「だああああっ!!」
全部 奪って破った。
「ま、いっか。本社に郵送したし♪」
「えええええっ!?」
大慌てでスマホを探して指を走らせる。
「父さん! えっと、常務からの手紙!
本気にしないで!
俺が悪かったからっ!
サカモト土木で勉強するからっ!
まだまだ社長とかムリだからっ!
でも将来、常務に居てもらえる社長になれるように頑張るからっ!!」
『そ、そうか。
何があったのやらだが、頑張れ。
社長の前に竜ヶ見台支社長だと聞いている。
3年間、真面目に頑張れよ』
「はいっ!!」
小さく笑い声が聞こえて切れた。
「常務、辞めないでくださいよ?
俺、やっと夢から覚めた気分なんです。
真面目に土木と建築の勉強しますから」
「そっか。
今月末の資格試験に願書を出してるからな。
参考書は桐渓に預けてる。頑張れよ」
「キリタニ? 誰それ?」
「同室のヤツだよ。
つい最近までアタマして――」「ええっ!?」
「っせーよ。
アタマしてたから面倒見がいい。
歳下だが頼って大丈夫だ。
坊っちゃんが消えたと心配してたからな、真っ先に謝れよ?」
「……はい」
「グレたヤツにも色々と事情があるんだよ。
恵まれた環境で、なんとな~く大学を出た坊っちゃんより経験値が桁違いに上なんだからな。
桐渓の学力は高いぞ。
アイツなら間違いなく その資格も取る。
早く帰って勉強しやがれ」
「はい」
「やけに素直じゃねーか」
「本気でやらないと俺、今までダメダメだったなと思って。
常務に居てもらいたいのも本心だから。
3年間、待っててください」
「おう。ほら弁当だ。持ってけ」
「ありがとうございます。
キリタニの分も、ですよね?」
「当然だろ。仲良くしろよ。
あ~そうだ。
桐渓の名前、知っても姓で呼んでやってくれ。
名呼びが嫌いなんだよ」
「わかりました♪ あれ? 寮って……」どこ?
「いーかげん道覚えろ。
中学の南、会社は国道沿い。
寮は社屋の北だよ」
「そんな近く!?」
「だよ。早く帰れってぇ」
「はい!」嬉しそうに出て行った。
「ドタドタ走るな~」『はい♪』
「や~っとマトモになったかぁ」
琢矢を見送って笑みを浮かべ、座卓の下に置いていたスマホを手に取った。
「あ~、社長。
もう安心していいと思いますよ」
『ありがとう。流石、白久君だ。
中渡音支社も竜ヶ見台支社も、あの愚息も、これからも宜しくお願いします』
「そんな改まらないでくださいよぉ」
『心底 感服だよ。
3年後か……楽しみだ。
ああそれで、この、よく聞こえる箱は?
送り返したらいいのかな?』
「持っておいてください。
また坊っちゃんが遊びに来たら繋ぎますので♪」
『そうか。それも楽しみにしておくよ』
「それじゃあ また♪」
『今日は東京だったかね?』
「ええ。これから また落書き消しですよ」
―・―*―・―
カーリザウラとのお喋りが楽しかった彩桜の提案で、マディアにも息抜きお喋りタイムをと死司最高司の館に寄り道した『今○○』達は、ザブダクルにオーロザウラには双子の弟カーリザウラが居るとだけを話した。
「け、けっ、決して隠していたのではないっ。
全く知らなかったのだ!
そ、その叔父も、あの憎きオーロザウラと同じなのかっ!?」
恐怖と焦りとで声が裏返りまくり。
「そうですか。
今、知り得ているのは、弟は光神だという事だけ。
性格などは不明です。
オーロザウラは闇神ですから敵対している可能性もあります。
何にせよ警戒だけは続けた方が良いと思いますよ」
「闇神を敵視しておるのか?」恐る恐る。
「まだ何とも。ですので獣神の皆様と情報共有の為の臨時集会を開きたく、連絡をお願いします」
「そうだな。必要だ。
エーデ、緊急だと集めよ」「はい!」
こうして、そこそこ脅した青生はマディアを連れ出すのに成功したのだった。
いつものようにラピスリがマディアの魂を取り込み、その身体を永遠の樹に凭れかけさせている間に、次々と最高司補達が集まってきた。
【ラピスリ、ロークスは来れても遅くなるそうなの。
少し前にリグーリが連れて来た人魂に難儀しているみたいで……】
チャリルが着くなり言って、肩を竦めた。
【リグーリが連れて? そうか、あの男か。
少し離れる。好きに話していてくれ。
ハーリィ、マディア達を頼む】【ふむ】
【僕、邪魔?】【『達』って俺と青生兄も?】
楽しそうに喋っていたマディアと彩桜が不満気に小首を傾げた。
【ではなく、この集いはマディアの休み時間なのだからな。
面倒事には巻き込みたくない。
青生と彩桜も、父様を出してやってくれ】
【ありがと姉様♪】【そっか~♪】【行こう】
3つの魂が移動した。
【何か知っているのね?】
【自然死だが、私達が送り出した。
何を騒いでいるのかも想像がつく】
【それならお願いするわ】
【皆を頼む】苦笑を浮かべて術移した。
可愛い王子様はアミュラの意思に指導してもらえることになりました。
めでたし めでたしです。
琢矢もようやく目が覚めて踏み出しました。
こちらも、めでたし めでたしです。
問題は、まだ引きずるかなソテールです。
浄化域でまで騒いでいるなんて……です。




