敵神の目的
【トシ兄、結界から出たけど~】
【アイツら動かねぇな……】
【とりあえず、車の上を飛びますか?】
【だな】藤&黒 並んで浮かんで上昇。
【もしや……目的はウンディではない、というのか?】
【アーマル兄様、どーゆーコトだよ?
ウンディの他に何か目的になるようなモンあるのか?】
〈私……なのかも知れません〉
潜めた声が聞こえた。
〈モグラか?〉〈はい〉
《マリュースの記憶から獣神秘話法を探せ》
【見つけました。ありがとうございます。
彼奴こそが真の敵。
目的を確かめる為、姿を見せてみます】
【ヤバイと思ったらすぐ逃げろよ?】
【ありがとうございます】
【お前が捕まったら厄介だからな】
【心得ております】
【そんだけ強~~~い味方だって思ってるんだからなっ】
【味方、と……?】
【だよ。トーゼンだろ?
一緒に戦ってるんだから仲間だ♪
オレ個神的にはダチだと思ってる♪】
【……ありがとうございます】
【……イヤだったか?】
【いえ……あまりにも嬉しくて……】
【恥ずいだろーがよぉ。ヤメてくれよな。
それよか気ィ引き締めてかかれよ?
ソッコー逃げろよ?】
【はい。では――】
上空に黒コートの男が現れ、死司神達を蔑むように見下し、ニヤリと口元を歪めた。
周囲の死司神達が一斉に男に向かう。
偉そうで禍々しい死司神達も動いた。
【モグラ逃げろ!!】
モグラを取り囲んだ死司神達がザザッと横並びになった。モグラの盾として。
そしてユラリと三日月鎌を頭上に構え――
「うおおおおおーーーーっ!!」
――一斉に雄叫びを上げ、禍々しい死司神達に襲いかかった!
乱闘が始まったが、真の敵神の姿だけが消え、モグラの眼前に現れた。
【ヤバッ! モグラ早く逃げろ!!】
オニキスは思わずモグラの前に瞬移していた。
【逃げろって!!】
「ほう、龍か。
貴様等堕神がモグラを操っておるのだな?
よかろう。諸共この水晶に込めてやる」
掌に乗せた水晶玉を突き出した。
【クサぁぁいぃぃ~】【緊張感そぐなっ!】
〖モグラは何かに縛られている。
オニキス、連れて逃げよ!〗【はい!】
オニキスがモグラを掴み、瞬移――ワン!
【え?】〖逃げよ!!〗【はい!】瞬移!!
「ええい! 術が長過ぎる!
あと一歩と言うにっ!!」宙で地団駄!
「弟の背に禍を放ちましたね?
卑怯なお前に、破邪炎連撃!!」
ナターダグラルは破邪の豪火に包まれたが、耳障りな絶叫を残して消えた。
「沢山の獣神の力を盗み取っているのですね。
隠し持っている水晶を全て奪わねばなりませんね……」
【ウィスタリア兄様! 助けてくれっ!!
リグーリ! ディルム! エィム!
ウンディを頼む!!】
オニキスは……見つけました!
〈あのっ!〉【えっ?】
〈その話法は……〉
【はい。禁忌ではありませんので】
【そうですか。では私も。
貴方はドラグーナ様の御子ですか?】
【はい。ウィスタリアと申します】
【私はバステート】
【マリュース様の!?
ご無事だったのですね!】
【堕神とされておりましたが神に戻れたのです。
先程、貴方が炎を放った人神についてお教え頂けますか?】
【私も神に戻れたばかりですので、よくは存じません。
ですので、お話は後程、弟達と共に。
今はオニキスに呼ばれておりますので――】
【やはり先程の黒龍はオニキスでしたか。
では、オフォクス様のお社で】
【兄様早く!!】
【はい! 失礼致します!】瞬移!
――木々に囲まれた場所。
【此処は?】
【知らねぇよ! 近くの山だ!
それよか助けてくれ!
誰も返事しねぇんだよ!】
ぐったりしたショウを両掌に乗せている。
【これは……あの禍には呪が絡めてあったのですね。
このままでは魂が滅されてしまいます。
急ぎ解呪をしなければ!
其処に横たえてください!】唱え始めた。
【え? ナンで女神に?】ぱちくり。
答えるのは後だと視線で示し、唱え続けた。
そしてショウが紫炎に包まれた。【わっ!?】
【私では応急処置しか出来ません。
オフォクス様のお社に運びましょう】
【オフォクス様は留守なんだよ――です】
【いつ お戻りに?】
【知らねぇ……です】
【では……青生父様の病院に!】【おう!】
――誰も居ない処置室に瞬移し、オニキスとウィスタリアは犬になった。
【ラピスリ居ねぇな……】
【青生父様が居ります】ワン! ワン!
【そんじゃあオレも!】ワン! ワン!
ドアが開いた。
「あれ? ウィス? と、オニキス?」
ワン!×2。
「えっ? ショウ?
お腹に怪我? それと……」
掌を翳して調べ始めた。
ワン!
一瞬だけ青生がフラッとした。
ク~ン?
「うん、呪だね。
ウィスタリア、オニキス、大急ぎで俺を集めてもらえるかな?
その間にお腹を治しておくから」
【父様……なのですか?】
「うん。短時間しか保たないから
急いでお願いね。
あ、金錦だけは東京に着いたところだから俺が引き寄せるからね」
【【はい!】】輝竜家へと瞬移した。
【トリノクス、アーマル、あと少しだけ頑張ってね。
ショウと飛翔は眠らせるからね】
〖ドラグーナ……〗【ん?】
〖……無茶、するな……〗
【大丈夫だよ。彩桜に入っている力を他の俺が支えれば容易い事だからね。
トリノクスこそ、まだ欠片なんだから無茶してはならないよ。
とにかく今は静かに待っていてね?】
〖すまぬ……〗
【アルボネーア】【えっ!?】
【久しぶりだね】【あなた……?】
【うん。急いでいるんだ。
落ち着いて聞いてね?】【ええ】
【トリノクスが呪を受けたんだ。
金錦に入っている俺も必要だから少しの間だけ借りるよ。いいね?】
【私がお連れ致しますわ】
【そう? ありがとう】【【父様!】】
オニキスが黒瑯を、ウィスタリアが藤慈を、紅火が彩桜を抱えて現れた。
【行ったら眠っちまったんですけど……?】
「うん、眠らせたよ。
そっちの診察台に お願い。白久は?
ああ、外出しているんだね」
【マンダリーヌ】【ええっ!?】
【白久を青生の病院にお願い】
【は、はいっ!】
牡丹が金錦を、みかんが白久を、肩を貸している状態で連れて現れた。
オニキスと紅火が受け取り、診察台へ。
「白久さん、突然 寝ちゃうんだもの。
ビックリしたわよぉ。金錦様もなの?」
と、牡丹に。
「ドラグーナが眠らせただけですわ。
それで、どうなさいますの?」
「皆は治癒か破邪か浄化をお願い。
全力でね。
トリノクス、力を抜いてね。
誰の蛇神毒を盗んだのやらだけど、呪に込められた毒が君の蛇な部分に絡んでしまうから」
言いながら診察台へ。
〈紅火、まだ不十分だとは分かっているけど、いいね?〉
兄弟5人が ぎゅうぎゅうに並んでいる診察台を挟んで向かい合った紅火が頷いた。
紅火が目を閉じ……再び開いた眼差しは向かい合う青生と同じく紅い光を帯びたドラグーナのものとなっていた。
二人が同時に等しく気を高めていくにつれ、光を纏い、輝きに変わり、と次第に増して、とうとう神眼すらも閉じなければならない程の眩しさで部屋中が満たされた。
「うん。出来たね♪」
その声に皆が視線を向けると、診察台の上に七色の光を纏う金龍が浮かんでいた。
「あなた……」
「うん。現状の最善だけど、まだまだ本格的には目覚められないらしいね。
だからまた眠ってしまうよ。
解呪が終わったらまた運んでね?」
輝きは収束した筈だが、ドラグーナ自身の輝きで十二分に眩しい。
皆、目を細めたまま頷いた。
【父様、ちょっとは加減してくれよな】
「そうは言うけど、全力でないとバラバラになってしまうんだよ。
だから大急ぎで一発勝負だよ。
離れてね。いくよ!!」
診察台の上に浮かぶ龍が薄紅色に煌めき、炎が如くな光を噴いた。
【スッゲー!♪】【凄いですね……】
再び輝きが収束した。今度こそ普通に。
そしてドラグーナの姿は無く、青生と紅火は床に倒れていた。
《解呪は成功したよ。
でも毒だからね、回復には時を要するよ。
護ってあげて、ね…………》
「あなた……また眠ってしまわれたのね……」
「ってことは皆さん起きちゃうわ!
運ばないと!」
【うわわっ!】【急いで!】
大慌てで龍に戻ったオニキスの背に、ウィスタリアが黒瑯 紅火 藤慈 彩桜を乗せて一緒に消えた。
「私達も参りましょう」「そうね……」
複雑な思いの二人も夫を支えて瞬移した。
禍は、神の負の感情から生じます。
呪は術や神力で込めるものですが、禍も神力なので負の力が大きければ内に呪を生じさせ得るんです。
禍と呪。
どちらも単独でも厄介極まりない存在です。
敵神は、その両方を操るようです。
おそらく盗んだ力で、でしょうけど。
ドラグーナの妻アルボネーアは金錦の、アルボネーアの従妹で親友のマンダリーヌは白久の妻をしています。
金錦=牡丹 (アルボネーア)
白久=みかん(マンダリーヌ)
青生=瑠璃 (ラピスリ)
黒瑯=静香 (シャイフレラ)
紅火=若菜 (フレシャリス)
藤慈=リリス(リリシャルス)
輝竜兄弟の妻達も何処かで聞いた名ばかりでしょうが、この世界の龍の女神達です。