ハーリィと月の女神
いくら吸着の都度、青生から回復治癒を浴びていても闇神力は消耗が激し過ぎるので、彩桜に疲れが見え始めた。
【彩桜、休憩だよ。午後もあるんだからね】
青生の治癒眠に包まれた彩桜は
【青生兄 寝ちゃわにゃいのぉ?】
寝言で聞いていた。
彩桜を抱き止めた青生は
【流石に自分の治癒眠では眠らないよ】
と微笑んで頭を撫で、
【サーロン、彩桜をお願いね】
サーロンには回復治癒を当てた。
【はい♪ ありがとうございます♪】
彩桜を連れて部屋へと瞬移した。
―・―*―・―
まだまだ昼には早い。
優生家では1時間前からの夫婦喧嘩に一応の終結が見えてきたところだった。
「分かった。
翔子が言う通り、先に奏さんのお宅に行こう。
でも、その後で病院に行こうな?」
「いいわよ。
私はどこもおかしくないって証明してもらわないとね!」
一旦は夫が運転する車で出掛けたのだが、行き先が紗桜家でないと気付いた翔子が信号で止まった時に降りて帰宅してからの喧嘩だった。
そして今度は歩いて紗桜家へ。
行くと、晃典は外で車を洗っていた。
「おや? お久し振りですね。
奏、優生さんがお見えだよ」
庭でショウを撫でていた奏が立ち上がって綺麗な礼をし、ショウを連れて門扉を開けた。
「ご無沙汰して申し訳ありません。どうぞ」
奏は居間に案内しようとしたのだが、翔子がリードなしなショウの首輪を掴んで心話環も掴んだ。
「あなた。この輪を掴んで。
翔、話してあげて」
「いきなりだろ。すみませんね」
困り顔な父が晃典と奏に頭を下げつつ恐る恐る心話環に触れた。
〈ったく。どっちもイキナリだろ。
来るなら来ると電話くらいしたらどうだよ〉
「うわ……」「ほらね。私はマトモでしょ?」
〈あ~、その険悪。ケンカしたんだろ。
母さんも、こんなのフツー信じられないってくらい考えてくれよな。
父さんフリーズしたじゃないか〉
「そうなんだけど聞いてよ翔。
この人ったら私を病院に連れて行こうとしたのよ? 精神科に!」
〈ま、そうなるよなぁ。
お~い父さん、シッカリしてくれ~〉
「……本当に翔なのか?」
〈そうです。父さんと母さんの息子ですよ。
今は犬の中に居るけど、そのうち脱出して帰りますから、またヨロシク〉
「そ、そうか……」
〈今度こそ奏と結婚しますので〉
「待ってるわね♪」「そう、だな……」
【ソラ~♪】
【ショウ?】彩桜の部屋で休憩中。
【うん♪ 今ね、お兄がパパさんママさんと話してるの~♪】
【え? 来てるの!?】
【昨日、サクラとスズちゃんと お散歩してたらお兄ママさんに会ったんだ♪
で、サクラとスズちゃんはマカロン貰ったんだよ♪
サクラとしてマカロンのお礼 言いに来ない?
今ならお庭だから~♪】
【じゃあ通りがかりって事でね?
ボクも彩桜からマカロン貰ったから】
【うん♪】
いつもの路地に瞬移して彩桜に。
サーロンだったので雰囲気を変えるだけなのだが。
「こんにちは♪
マカロンありがとございます♪
美味しかったで~す♪」
「あら、今日は紗ちゃんは?」
「兄貴のお店の配達の帰りなんです♪」
(おいショウ、あれソラだろ?)
(様子見に来てくれたの~♪
ソラは東京だからサクラの真似っこ~♪)
(そっか。って!? 東京から来たのか!?)
(ユーレイだから~♪)
(あ、そっか。つい忘れちまうよ)
(生き人するの上手だよね~♪)
(だよなぁ)
――と、ショウとカケルが話しているうちに彩桜も一緒に居間へ。
奏を中心に『これから』を話し始めたので、華音から紅茶とマドレーヌを貰った彩桜はショウを連れて少し離れた。
〈なぁソラ。今日ナンかあったのか?
朝から電話よく鳴るし、奏の親父さん休んでるし〉
〈お兄に話すの長くなるから夜にね〉
〈また来てくれるのか?〉
〈そのくらいなら平気だから〉
〈じゃあ頼む〉
昼だからと帰るまでカケルと話したソラだった。
―・―*―・―
その上空では――
【やっと会えたかぁ】
リグーリは離れてはいるが同じ高さに並んだハーリィに神眼だけを向けた。
【一応、最高司補なのでな。
話とは月の女神の件か?】
【だよ。話途中で そのまんまになってるから、進まないんだよ】
【彼女との恋仲が、か?】
【じゃなくて! 月の女神探しだよ!】
【私が知る月の女神ではない可能性も高い。
気にせず探したらどうだ?】
【蛇の勘が同一だと言ってるんだよ】
【ならば話すが、大した情報ではないぞ?】
【いいから話してくれよ。
聞かないと進まないんだ】
【ふむ。同代皆との基礎修行を終えた後、マヌルの里を出た私は最果ての岩壁の上で修行していた。
マディアを捜しつつ、な】
【末っ子同士、仲いいもんな】
【それでもマディアは私に何も言わず、行方を眩ませた。
その悲しみから、私は独りで最果てに行ったのだ。
そしてラナクスに会う迄の間に、数神に出会った。
その中に『月の女神』の称号を持つ方が居た。それだけだ】
【何か話したんだろ?】
【暫く、その女神様の弟子となっていた】
【うわ。『だけ』じゃないだろ!】
【私の師アステローペ様は『月の大女神』アルテメィア様のお弟子様で白孔雀神。
姉妹神様が多く、プレイアデス姉妹と呼ばれていたそうだ。
その姉妹神様の何方かに迫られた強引な求婚から逃れようと月へ。
そして姉妹揃って弟子入りという経緯だったそうだ。
長くアルテメィア様の使徒をなさっておられたアステローペ様だったが、アルテメィア様が月の四獣神を引退なさった際に神世へ。
その後、アルテメィア様が行方知れずとなったが為に、捜しつつ最果てで修行を重ねていたそうだ】
【姉妹神様は?】
【同じく使徒をなさっておられた方も、他のお弟子様と共に後に神世に降りた方も、全て行方知れずだと仰った。
認めたくはないが堕神とされたのだろうと、アステローペ様は人世に降り、師弟関係も終わりを告げた。
あまり多くを語らない御方だった。
だから詳しくは知らない】
【十分だよ。ありがとな。
白孔雀か……たぶん当たりだな】
【それも勘か?】
【いや、一番の候補な女神様に鳥を感じたんだ】
【そうか。私の名を出してもらっていい。
進展を願っている。では、また】
【ああ。ありがとな】
各々の目的地へと瞬移した。
――本浄神社。
「あっ」
境内を掃いていた沙織が気付き、互いに駆け寄った。
「候補が絞れました。
いつ向かいますか?」
「では明日……よろしいですか?」
「ええ勿論。では明朝お迎えに上がります」
「よろしくお願いいたします」
礼を交わして離れたのをトモヱと鈴本が見ていたなんて沙織は気付いていなかった。
慎也の方は気付いて小さく会釈して去った。
「幸与様でしたら如何にご覧になられます?」
「穏やかに良い雰囲気と存じますよ」ほほ♪
「沙織は己の心に気づいていないのです」
「踏まえた上で慎也様は受け入れておりますね。
ゆるりと見守ってはいかがでございましょ?」
「狐松様とはお親しいのですか?」
「清楓お嬢様と彰子お嬢様が輝竜様のお宅にお住まいですので。
慎也様は近々、准教授になられますとか。
お仕事の内容はお変わりないとのことですが」
「変わらず? では東京には?」
「講義は持たず、全国を資料収集のために旅をなさるとか。
これまでと同様でございますよ」
「それなら安心……」
―・―*―・―
ふと思い出したリグーリは再び空に昇った。
【お~いハーリィ!】
【どうした?】声だけ。
【取り込み中か?】
【先に内容を言ってくれ】
【前に話し途中になった時、気になるとか言ってなかったか?】
【……思い出したのか。仕方無い】現れた。
【で?】
【ふむ。……アステローペ様は姉妹何方かかのように話しておられたが、結婚を迫られていたのはアステローペ様ご自身ではないかと感じていた。
そして迫っていた男神様は――いや、私の勝手な憶測で御名を出してはならぬな。
それだけだ】
【余計に気になるだろっ!
憶測でも何でもだ! 話してくれ!】
【他言するなよ?】
【しないから!】
【別な話の際に、馬と龍が怖いと仰った。
また別な話の際に、酒が大嫌いだとも。
神が酒を嫌うのは珍しい。
余程なのだろうと思っていた。
過去に何かあったのだろうと】
【合わせて考えて、結婚を迫られていたのはアステローペ様で、馬か龍の酒好きな男神が その忌々しい相手か?】
【と、勝手に考えた】
【待てよ……そうなると、その相手はキャンプー様か!?】
【と、私も考えていた。
馬で龍で、現状は酒禁。
しかし勝手な憶測だ】
【チラリと兄様から、女神のビンタを喰らって酒禁になったとか聞いたぞ!】
【そうか。呪か……】
【だとしたらコッチに来てくれる見込みなんか皆無じゃねぇかよぉ……】
【だから話せなかった。すまぬ】
【ありがとな。
とりあえず会って話してみるよ】
唯一闇呼吸着できる彩桜が疲れたので目覚めているけど活動未満なオーロ魂片の回収は休憩に入りました。
午後は浪花でイベントなので、その間にリグーリはハーリィと話したんです。
オマケ話としてカケルの父もカケルと話し、晃典と奏とも将来に向けて話し合ったというのを付け加えました。




