結婚式の朝
翌朝、ソラが いつも通りに目を覚ますと紗桜家だった。
床に敷いていた布団を片付けつつ、ベッドで寝ている響の様子を窺う。
響……まだ、ぐっすりだね。
ボクの場所、メグル君の場所に
なったんだよね。
ん? 彩桜が遠い?
【彩桜? 何処に居るの?】
【ソラ兄おはよ~♪
関東ぐるぐるしてるの~。
落書きしよぉとしてたヒト達、回収しないとなの~】
【そっか】
【お散歩の後は北陸で落書き消しなの~。
結婚式、ちゃんと行くからねっ♪】
【ありがと彩桜♪】
「響、婚姻届、出しに行くよ」ゆさゆさ。
「ん……も、ちょっと……」くぅ……くぅ――
「出しておくからね?」
「ぅん……」くぅ……くぅ……――
階下へ。
「あら、翔君。早いのね」
華音だけは起きていて朝食を作っていた。
「おはようございます。
市役所に行ってきます」
「響は?」
「気持ち良さそうに寝てますので。
緊張して眠れなかったのかもですから」
ぺこりとして外に出た。
誰も見ていないのを確かめて稲荷堂へ瞬移。
彩桜の部屋に神眼を向けた。
あれ? ボクの場所のまま?
【サーロンいつでも帰って来てね♪】
【え? メグル君は?】
【サイトとメグルの部屋、八郎さんの隣♪
宮東先生 居たトコ~♪】
【じゃあボクの場所のまま?
彩桜は寂しくないの?】
【だから~いつでも、ねっ♪】
【うん! 嬉しいよ! ありがと♪】
【婚姻届は? 朝 出す言ってたよね?】
【行ってくるよ♪】瞬移。
――市役所の夜間窓口が見える広場の隅。
これを出したら響と夫婦なんだね。
『お義父さん』『お義母さん』『お義姉さん』。
うん、大丈夫。
ソラは最初にサインしただけで、後は響が茶畑探偵事務所に持って行って書いたので、知られたくないのだろうと神眼は向けていない。
その『婚姻届他在中』の分厚い封筒を窓口に差し出した。
「お願いします」
「代理の方?」
「いえ、本人です。結婚式が午前中なので妻は先に行ってるんです」
「わかりました。お預かりしますね」
無事、任務完了だ。
夜間窓口から離れたソラは振り返って市民ホールと市民体育館を見上げた。
あの賑わいは幻だったのだろうかと思いつつ。
次にライブする時は空マーズも
ステージに立つんだね。
アイドル? なのかな?
結婚しちゃったけど――あ、お兄さん達
結婚してるよね。いいんだよね♪
だから仮面?
仮面の理由、いろいろなんだ。
握手&サイン会も大変だったけど
楽しかったよね♪
彩桜と一緒だったからかな?
相棒……彩桜がいいな。
でもお兄とも約束したんだよね。
ショウとも楽しいし……どうしよう――
【み~んなでチームは?】
【彩桜……もしかして聞こえてるの?】
【ん~~~チラッと~。
呼ばれたかにゃ? って~♪】
【そっか。うん、呼んだかも♪
チームね。でもお兄が足引っ張るよ?】
【かも~♪ でも楽し~と思う~♪
あとね、力丸も増えるかも~♪
たぶんカケルさんと~いいコンビ♪】
【力丸?】
【今は狐で、狐儀師匠のお社で修行してる♪】
【うん♪ チームに入れよう♪ あれ?】
【どしたの?】
【また何か……チラッと。
ショウが複数? ショウの子供かな?】
【力丸、次は犬なるのかも~♪】
【え?】
【ホントは狐じゃないみたい~♪
修行の為の姿? なんかそんなの~♪】
【そうなんだ♪ 会うの楽しみだよ♪
あ、メグル君は?】
【メグルとサイト、相棒したいって♪
だから鍛えるねっ♪】
【そっか。お願いね♪】【ソラ!】【あ……】
【響お姉ちゃんは? 一緒じゃないの?】
【うん、寝てたから。
彩桜はボク見てないの?】
【うん。響お姉ちゃんと一緒だし~って♪】
【ソラってば!】【帰ってあげて~♪】
【そうするよ♪ また後でね♪】【ん♪】
【響、帰るからね】瞬移。
――紗桜家の庭。
【起きたら居ないんだからぁ!】
【約束した時間に起きて市役所に行っただけ。
ちゃんと響には言ったし、響も返事したよ】
【うわぁ……あ! 封筒の中身!】
【確認した方が良かった?】
【見てない?】
【うん。茶畑さんに見てもらったんだよね?】
【そう! そうなのっ!】
【ところで……その格好で行くの?
もう出発時間になるよ?】
【え?】何やら叫んで玄関へ走る!
その玄関が開いた。
「外に居たのか。その格好……」
「違うのっ!」家に入った。
「あれが本当に嫁に行くのか……?」
「お義父さん、改めまして宜しくお願いします」
「あ……」
「婚姻届を提出しました」ピシッと深々!
「響は あの格好で?」
「いえ――」「起きなかったそうよ」
サンドウィッチが入ったバスケットを持った華音と奏が出て来た。
「はい、翔君と響の分よ」
奏はバスケットをソラに渡すとショウの所へ。
「翔君、その……本当にいいのか?」
「はい♪」
「前は……嫁に出したくない、まだ早いと変に反対していたが……今は逆に申し訳なくて止めたい気分だよ。
見捨てないでもらえるかな?」
「見捨てるだなんて。
響さんを大切にします。幸せにします。
これから楽しく二人三脚させてください♪」
「ありがとう翔君」
―◦―
晃典の車には華音 奏 ショウと理子が乗り、克典一家の車が続いて、響の車と列を成して式場に向かった。
「そっか。お姉ちゃん、理子叔母さんとの間にショウを座らせたのね♪」
「助手席はダメだったの?」
「お父さんが目障りだって~。
事故りたくないから後ろに座ってくれって言ってたよ」
「だから助手席側の後ろ?」
「バックミラーに見えるのも嫌なのね~」
「あ……」
「どうしたの? 颯人叔父さんなら、お父さんの車の上よ?」
理人は理子の膝の上だ。
「じゃなくて何か……一瞬だけ過ぎて分からなかったけど、良い事な気がする。
ショウを連れて来て正解、みたいな……」
「でも気をつけてね?
お兄、乗っ取り得意だから」
「うん。気をつけるよ」
―◦―
式は順調に進んで、披露宴との間。
紗桜家控室で晃典は寿に捕まっていた。
「アキは まだ反対なの?」
式前に『それでもだ、響を渡すのは――』と言い掛けたのをチクチク言われている。
「じゃなくて! そりゃあ、これまで通りに言ってしまった僕が悪いとは思うが、違うんだよ。
今朝も響は寝坊して翔君だけで婚姻届を出しに行ったんだ。
響は出発直前だってのに、まだ高校の体操着だったんだよ。
だから翔君に申し訳なくてなぁ」
「『早く孫を』は?」
「母親になれば少しは落ち着くかと……」
「まだ学生するのだから、もう少し待ってあげなさいな」
「そうするしかないよなぁ」
「響ちゃんはソラくんに任せて、アキは奏ちゃんを穏やかに見守りなさいな」
「そうだな。
ああそれで翔君は?
1年経っただろ?」
「それね~。
アヤが落ち着いたから動かないとね~♪」
「またアイツの所為か……」溜め息。
「お~い兄さん!」
「どうした?」
「カツも娘2人なんだから、今から覚悟しておきなさいな~♪」
「まだ早――」「くないぞ」
「そうよね~♪ あっという間よ♪」
「それなぁ……いや、それより!
尭土のオジサンが酔い潰れて寝てるんだよ。
少し勢いつけるとかって飲んでたらしいんだ。
スピーチどうするんだ?」
「え? 婆さん何とかしてくれないか?」
「何とかって、私だって よく知らないのよ?」
寿にとっては従弟の子供だ。
「僕達は もっと知らないよ。
困ったな……カツ、スピーチ――」「無理!」
『だったら~俺達、演奏していい?♪』
振り返ると彩桜がニコニコしていた。
「「世界のキリュウ兄弟が!?」」
「世界のじゃなくてぇ、ただの友達なの~♪」
「「お願いします!!」」
「兄貴達と打ち合わせする~んるん♪」
ぴょんぴょん隣の控室へ。
「良かったぁ~~」
「オジサンどうする?」
「寝かせとけば? あら、青生先生♪」
「尭土さんは宿泊予定でしたので、お部屋にお連れしました。
一応医師な兄が様子を見ていますが、ただ酔っているだけでしたのでご安心を。
それで、何分間でしょう?」
「オジサンは5分だったっけ?」
「何分いけるか確かめる!」走った!
「あ……すみません。お世話になりっぱなしで」
「俺達が友人の結婚披露宴で演奏したいだけですので」
「15分! お願いします!」走って来ながら。
「スピーチは?」
「キャンドルサービスの後にっ」ぜ~は~。
「ありがとうございます。
では心を込めて演奏します」
にこやかに会釈すると同時に回復治癒。
本編は9月の初めから3月末に飛びましたが、その間に響にもソラにも盛り沢山に様々ありました。
響は叔母の件も解決してトラウマからも解放されて、晴れやか気分で挙式です。
もっと盛り沢山だったソラも、まだまだこれからだと決意も新たに響との二人三脚に踏み出しました。




