タレント動物調教師達
マーズが囲むと、走っていた男は立ち止まった。
〈目的地は俺達でしょ〉【神力封じ♪】
男の真正面に桜と空。
他のマーズは男へと静かに距離を詰めていた。
〈気付いていたか……〉
〈どぉしてタクヤさんに?〉
〈知れた事。貴様等を誘き寄せる為の罠だ〉
〈ツクバさんで失敗したからねぇ。
失敗確定したから次トコ行ったんだ~。
でも俺達 行ったのに何してたの?
怖くなって逃げた?〉
彩桜が話している間に兄やら神やらは男の魂内を探っていた。
【闇禍は無い】【いつも通りに】【ふむ】
〈煩い。口数の多い奴――何をした!?〉
〈動けにゃいでしょ。
そのヒトから出すからね〉
【魂縛、堅固】【領域昇華!】【領域供与!】
【そんじゃ兄貴と黒瑯を双輪双璧維持だ!♪】
【【【【【広域術浄滅禍雷炎撃!!】】】】】
鳥忍達が飛ぶ。
【【昇華光明煌輝、滅禍浄破邪雷炎撃!!】】
【爆昇華闇障暗黒、激天大闇呼玉で吸着!!】
広域浄化の時点から叫び続けていた男から、桜マーズの頭上に浮かぶ闇呼玉に向かって禍呪やらの黒く蠢くモノが吸い込まれ、
〈他全てを目覚めさせた! 貴様等を――〉
最後に微小魂片が喚き罵りながら吸い込まれた。
【めーいっぱい【滅禍浄破邪大っ輝雷!!】】
トドメの浄破邪で残滓まで すっかり浄滅した。
【にゃんか言ってたねぇ】
【ンなモン【一網打尽にするだけだ♪】】
【うんっ♪】
【やっぱ一軍マーズは凄いな……】【うん……】
【そこの大神持ちな中忍2人。
修行あるのみ。それだけだ】
【【はい! 副長!】】
【ま、俺も単独じゃあ無力だから修行あるのみなんだがな♪】
【でもね、白久兄は敵のも真似っこ出来るから単独でも戦えるんだよ~ん♪】
まだ空と手を繋いで飛んでいる。
【あ~そっか♪
よーし双輪を三輪にアップしてやる!】
【三輪車?♪】宙でキコキコ漕ぐ真似っこ~♪
【コノッ! 降りて来い彩桜!】
【白久兄さん】後ろから肩チョンチョン。
【ど~したぁ青生?】
【これは双璧できませんか?】ふぁさっ。
【お♪ そ~か双璧♪】ぴよっ。【んんん?】
【翼の神力が大き過ぎるか、兄さんが消耗しているかですね♪
ですが双璧できますね♪】
【だなっ♪ よーし鍛えるぞ!】ぴよぴよ。
【白久兄ぴよぴよ~♪】【ウッセー!!】
【彩桜、そろそろ行くよ】
【神世? 行っていいの!?♪】
【行こうよ】【うんっ♪】
―・―*―・―
男が目覚めたのは夕方らしい茜色の柔らかい光の中だった。
「ここ……?」
「目覚めたんだ。
気分は? 記憶は? 名前は?」
「そんな いっぺんに……」
「気分は最悪、記憶は ぼんやりなのは知ってるから。名前は?
先に俺かな?
俺は若威 猛。職業は芸能事務所の職員。
マネージャーだと思ってもらっていい」
「ここ、芸能事務所?」
「そう見えないかもだけど芸能事務所だよ」
「俺……」
「もしかしてオーラマスクスに記憶を食われた?」
「そうだオーラマスクス!!」
「そこは思い出せるんだ。話せた?」
「突然、話しかけてきたんだ!
仲間が呼んでるから助けに行くとか何とか!
それで……そうだ後輩! 新人を見て、チカラを貰うとか……首を絞めてた!」
自分の両手を見詰める。
玄関チャイムの音が聞こえた。
「それは君が やったんじゃないから気にしなくていい」
「行かなくていいのか?」
「他の者が行くから心配しなくていい」
「オーラマスクスが来たとか?」
「有り得ない。続きは?」
「それしか思い出せ――あ!
犬に噛みつかれた!」
袖を捲ると噛み痕クッキリ。
「複数だな。しかも大型犬か?」
「たぶん……そうだ俺! トレーナーだ!
犬達は止めようとしてくれたんだ!
俺……」
ノック音。『若威~、入るぞ』「どうぞ」
「ほら来いよ」手招きしてリーロンは台所へ。
ヒョコッと男が顔を出す。
「居た! 馬ぬいが言った通りだ!♪
山辺先輩、無事で良かったです!♪」
「山辺……そうか。山辺だな、俺……」
「先輩? 大丈夫ですか?」
「取り憑かれてたから記憶が曖昧になっているだけ。心配しなくていい。
ところで谷辺は首を絞められたんだろ?
元気そうだけど」
「うわ、俺のコト覚えてたんだ。
馬ぬいが治してくれたんですよ。
先輩の居場所も教えてくれて。
病院に運ばれてたから来るのは遅くなりましたけど」
「そう。で、今は何してる?
転売ヤーからは足を洗ったんだな?」
「はい。もうヤメて、今はタレント動物の調教師を目指して勉強中なんです♪」
「いい仕事を見つけたな」
「はい♪ それも馬ぬい達がアレコレ提案してくれて♪
で、ちょうど募集してたトコ受けたんです♪」
「馬ぬい達とも仲良くやれてるなら何より。
それで彼は この状態だから、何があったのか教えてもらえる?」
「いつものように犬を調教してたんです。
そしたら急に低い声が聞こえて。
馬ぬいよりも反響がヒドくて聞き取りにくかったんですけど、
『私は大いなる神オーラマスクスだ』とかナンとか。
先輩の意識は飛んじゃってて、たぶん気絶してたと思うんです。
薄ぼんやりくらいは見えてたのかもですけど。
で、一気に迫って来て、
『お前のチカラもカテにしてやる』って首絞められて。
目が赤く光ったのがチラッと見えて。
そしたら馬ぬい達が現れて『見ちゃダメ!』って俺の頭に連続で体当たり。
だから首絞められたのより頭ガガガガーンで気絶したと思うんですよね」
「馬ぬい達、続きは?」
〈『出たなヒノカミ!』って消えちゃった~♪〉
〈うんうんヒノカミ言った~♪〉〈〈ね~♪〉〉
「他には?」
〈それだけ~〉〈瞬移しちゃったもん〉
〈ヒト来たから俺達も瞬移したの~♪〉
「ありがとう」
〈〈〈〈〈〈〈えへへ~♪〉〉〉〉〉〉〉
「谷辺も来てくれて ありがとう。
ああそうだ。はい」塊を押し付けた。
「へ?」
〈〈〈〈〈〈〈〈ヨロシク~♪〉〉〉〉〉〉〉〉
パッキングから勝手に出て谷辺にピトピト♪
「ええっ!?」
「ん? 15人になったのは知らなかった?」
「そうなのか!?」
「仲良くね」
〈〈〈〈〈〈〈〈は~い♪〉〉〉〉〉〉〉〉
〈〈〈〈〈〈〈お友達ね~♪〉〉〉〉〉〉〉
「谷辺は? アドバイザーが増えたんだけど?」
「だな……これからヨロシクな♪」
口々わいわい♪ 彩桜が15人状態だ。
谷辺も嬉しそうに撫でているので、もう すっかり大丈夫だなと若威も微笑んだ。
「ん?」
廊下に人の気配。『『若威先生~』』
「入っていいよ」『『はい♪』』
入った二人が立ち止まる。
「どれにビックリ? ま、全部だよね。
同類――仲間だから気にしないで。
今日は出掛けてたんだから少しだけね。
昨日のテーブルで始めよう」
「「はい!」」
「馬ぬいは帰りにね」
「「はい♪」」
テーブルの方を見ていた山辺が谷辺と目を合わせた。
「ええっと、その動く ぬいぐるみは?」
「忍者マーズの馬ぬいですよ♪
山辺先輩にも声聞こえます?」
「少しだけ……」
禍を纏って膨らんでいたオーラマスクスを抜いた分を獣神達が補填したので。
「かわイイから先輩も貰いましょうね♪
こんな見た目ですけど賢いんですよ♪
たぶんオーラマスクスの声聞いた後の記憶は、気絶してたんですから無くて当然だと思うんですよね。
その前が思い出せたら復活ですよ♪」
「谷辺って……」
「あ♪ 思い出しましたね♪
それじゃあ俺が何ヤラカシて、コイツらと仲良くなったかってイキサツを話しますね」
―・―*―・―
ずっと神眼で見ていた彩桜とサーロンが微笑み合った。
【もぉ大丈夫~♪】【そうだね♪】
【【せ~のっ♪】】ピッカン!×2。
【次だ】サッと結界で寺を保護した理俱が拐う。
――【うわぁ】【全面だね】飛ぶ~♪×2。
【【せ~のっ!】】大ピッカン!×2。
【降りて来~い】 【うん♪】【はい!】また移動。
こんな調子で、この日は関東全ての落書き物件を終わらせるマーズだった。
―・―*―・―
前日に落書きを消して保護した西京都では、警察やら所有者やら地元住民やらが巡回していた。
「あ、また寝てはるわ」「ほんまやなぁ」
結界が弾いたペンキを浴び、腹を立てて缶やらを投げたり破壊しようとして水薬を浴びて眠っている者が続出していた。
水薬は苦くて健康に良い薬草を浄破邪力の強い聖水に溶かしたものが主成分で、更に浄破邪と治癒眠も込めて改良したものだった。
「こちらはんは外国人ですやろか?」
「ペンキ浴びてしまへんなぁ」
「ナイフ持ってはるわ」
「彫ろうとしたんやあらしまへんか?」
「困ったもんやなぁ」
通報を受けて走り回る警察も大変だったりする。
―・―*―・―
「ん? また書き込みが沢山?」展開。
目を通す。
「根本的な解決を、か……。
邦和中を洗濯しないといけないのかな?
マーズは休む暇無しだな。
世界ツアーもあるのに……」
呟いた若威は握手&サイン配布会でのミニライブだけでなくフリューゲル&マーズの音楽を全国隅々にまで届けられれば『邦和を洗濯』出来るのではと考えを巡らせ始めた。
その横では谷辺が山辺に『馬ぬいバラバラ呪いの儀式事件』の話をしている。
若威と同じテーブル、ノートパソコンの向こうでは春希と正義が一生懸命、算数の問題を解いている。
皆、マーズに心を洗濯してもらったんだな。
だからこそ俺が考えないとな。
着信音。
「メーア、どうしたの? 急ぎ?」独語。
『あの地域に行けるぞ!』
「あの地域って?」
『紛争地域だよ♪』
「どうして そんな所に?」
『彩桜から聞いてないのか?』
「そんな話は全く……」
『俺達の歌で終結させるんだ♪』
「そうか……それが出来たなら!」
『ど~した?』
「俺も今、悩んでたんだよ!
全てが繋がる! もう少し考えさせて!
あっ、彩桜には伝えておくから!」
『おう♪ 詳細は送っとくから頼んだぞ♪』
「任せて!」
『猛も頑張れよ♪』切れた。
唐突なドイツ語に皆が驚いて見ているのには構わずに、若威は真剣な眼差しをパソコンに向けた。
落書き消しがメイン、イベントはオマケなのでサイン会はサイン配布会になりました。
輝竜兄弟的には想定外に人が集まりますので。
オーラマスクス持ちだった山辺は、その分を狐儀 理俱達の神力で補填してもらっていますので、これからは狐神力持ちです。
若威も春希も同様に置換してもらっていますから、いろいろあったのコミコミで『仲間』なんです。
地星唯一の紛争地域エルサムについては、マーズが行く時に説明します。




