理子、帰る
輝竜兄弟が帰宅するのを待つ間に晃典と克典は、冴翔の両親に この家の住人を含めての輝竜家の素晴らしさと、年末年始の騒動やらを語っていた。
ただし、個人情報的な事には触れられないからと、かなり曖昧に。
「紗桜さん、お電話ですよ。
あ、えっと、お兄さんの方に」
「ありがとう。誰だろう?」
言いつつリーロンに付いて居間を出た。
「実は警察からなんです」
受話器を渡して保留を解除した。
―◦―
その電話でメグル達が居間に呼ばれるのが早まった。
「輝竜さんを待ちたかったが急ぎの用が出来てしまったんだよ。
だから先に理由だけ話してもらえるかな?」
〈私達は味方だからね、頑張ってね〉
〈〈はい!〉〉
「お父さん、お母さん。
何も言わずに来てしまって ごめんなさい。
僕もメグル君と一緒に輝竜さんから学びたいんです。
それを1秒でも早く輝竜さんにお願いしたかったんです。
メグル君と一緒がいいんです!」
「おじさん、おばさん、お願いします!」
と言いきったところに勉強会をしていた中学生達が夕食の為に来た。
「「僕達、歴史研究部に入りたいです!」」
「え? 新1年生?」「「はい!♪」」
「大歓迎だ♪ 来い来い♪」
副部長の祐斗より前に堅太が出た。
「君達は?」冴翔の父。
「僕は歴史研究部 副部長の久世 祐斗です。
集まっているのは歴史研究部だけじゃありませんが勉強会仲間です。
僕達は毎日、輝竜さん家の離れで勉強しているんです」
「アトリエは俺達の部室でもあるからな♪」
「個人宅が部室?」
「はい。正式な部活動の場です。
新学期からは2階の書庫も文芸部の部室になるそうです」
「はい。私が両部の顧問、社会科教諭の狐松です。
輝竜家に住まわせて頂いております」
「先生、お帰りなさい♪」一斉。
「先生、文芸部の部室って……?」
「純玲ちゃん今は――」クイクイ。
「正式に決まりましたので構いませんよ。
新学期からは私が顧問で、部室は輝竜家の2階書庫と離れ――洋館の方です。
部活動の日も勉強会は開いて構いませんよ。
どちらも静かに活動できますからね」
「はい♪」また一斉。
「良かったね。
これで文芸部も正式な部活動だよ」
「正式な……先生、ありがとうございます」
「はい。では皆さんは夕食の時間です。
食事も学びには大切な時間ですよ」
「はい♪」いつもの席へ。
彩桜も既に集団に加わっていた。
「ああ、割り込んでしまいましたね。
どうぞお続けください」
「あの、先生。彩桜君が居るという事は、もうお戻りに?」
「はい。私も同行しておりましたので。
間も無く此方に集まると思いますよ」
「そうですか。
翔君だけでなく、冴翔君も――」
「二中で勉強させてください!」
「では手続き等、急がなければなりませんね。
ご家族のお許しは?」
「お父さん お母さん お願い!」
「制服は? もう仕上がったんだが?」
『県内公立の男子制服なら校章の刺繍を変えるだけですよね? 狐松先生♪』
戸口でニカッと頭に豆チワワ。
「はい、その通りですよ」
「ど~も、輝竜家次男の白久です。
長男は少々取り込んでおりますので、家長代理を務めさせて頂きます。
我が家には全く問題ありませんので、後はご家族で、よ~く話し合ってください」
「あ、来客中だったのか……」
「先輩、ど~ぞ奥へ♪
家西も、殿南も♪」『先生達コッチ~♪』
「先生?」また?
「あ~、学校のじゃなくて医者なんですよ。
明日には引っ越しますから部屋は空きます。
ですのでご遠慮なく、です」
「引っ越し?
まさか医者が団体で住んでいたとか?」
「はい、住んでいましたよ」
『白久兄と同じ学部だから~♪』
「黙れ彩桜!」
『ホントだも~ん♪』
「あ~」コホン。
「先輩達は南渡音に開業するんです。
その病院の土地の基礎を紗桜さんにお願いしたんですよ。
私は現在、医者ではなくて建設業でして、病院を建てる間、先輩達には此方に住んでもらっていたんです」
『白久! 難しい手術の時は来てくれよ!♪』
「宮東先輩!? 殿南も家西も笑うなっ!」
「兄さん、脱線しまくりですか?」くすくす♪
「夕食、並べますね~♪」
青生とは別のドアから入った黒瑯とリーロンが素早く、しかし丁寧に並べていった。
〈青生、若威の方は?〉
〈元を絶たなければなりませんよね〉
〈兄貴は?〉
〈まだ話していますよ。
ですので此方は分身なんです〉狐松をチラリ。
〈そんじゃあソッチは任せっか〉
「美味い……」「プロのシェフの味ですから♪」
シッカリ ガッツリ胃袋を鷲掴みにされた親の負けは確定だった。
〈紅火と藤慈は作業部屋で何してるんだぁ?〉
〈落書きを消した場所を保護する細工ですよ〉
〈見張りが足りねぇからなぁ〉
〈だけではありませんけどね〉
〈あの二人が組んでるならソレは確定だな♪〉
「それで、そろそろ出掛けないと」
〈理子さんの件です。
中渡音署に移されたそうです〉
〈そっか。けど食後だな〉〈ですね〉
「紗桜部長、食後に。同行しますので」
理解した晃典が頷いた。
「ま、何にせよ今夜はお泊まりください」
―◦―
夕食が終わり、中学生達はメグルと冴翔を連れて風呂に行った。
白久は冴翔の両親を青生に任せて、紗桜兄弟を連れて中渡音署へ。
車を降りると颯人と理人が頭を下げた。
「ご無沙汰しています」
「アキおじさん カツおじさん、こんばんは♪」
「颯人君まで呼び出されたのか……」
「おとうさんもユーレイだから、よばれてないけど来たんだよ♪」
「「え? あっ!」」思い出した!
「ですがユーレイだからこそ理人と会えましたので悪いばかりではありません。
太木さんも手続きを終えて帰りましたので、もう連れて帰れるそうです」
「おかあさん、シュンてなってるから、もうワルサしないよ。
ボクたちもイッショするから、アキおじさん おねがいします」
「兄さんヨロシク」ポンポン。
「カツ、お前なぁ」ムッ。
そうして、すっかり大人しくなった理子を連れて紗桜家へ。
白久は皆が降りると帰って行った。
「ほら早く入れよ」「おかあさん?」
「理子さん、どうぞ」出迎えた華音が微笑む。
「え、ええ……」
家の中は静かなものだった。
戻っていた奏はショウを連れて輝竜家に逃げ、響も戻らないと電話してきたと華音が晃典に耳打ちした。
「これからを考えるのは明日にしよう。
明後日のもな」
「明後日?」
「さっさと風呂に入ってくれ」
理子を風呂に追いやった直後、ソラが来た。
寿も現れて、皆でリビングのテーブルを囲んだ。
「今度こそ浄化は完璧よ。
昨日から ずっと私が見張ってたんだから、これは確かよ」
「婆さん、何がどうなって理子は警察に?
まず そこから分からないんだが?」
「狸頭の悪党を忍者が退治したのは知らないの?」
「その大騒ぎならニュースでもやってたよ」
「その狸頭の中にアヤが居たのよ。
パニックにならないように撮影だって事にしていたけれど、本当の捕物だったの。
アヤはソラくんと奏ちゃん響ちゃんを追い掛けていたの。
だから退治されて、警察に連行されたのよ」
「どこかに封印されてたって話は?」
「脱走したのよ。
封印を破壊した報いで異形になっていたの。
退治された時に、これでもかな浄化を浴びて元に戻ったけれど、そうなるとアヤはストーカーだったから、騒ぎと両方で逮捕されちゃったのよ。
太木さんが訴えないと仰って、あとは身内の事だからと釈放されたけれどね」
「どこまでも困った奴だな。
それじゃあ明後日のもアヤ抜きだな」
「いえ、これを理子さんに」
ソラが招待状を晃典に渡した。
「颯人さんと理人クンの席も頼んでいます。
料理も並びますので霊体をどうぞ。
残った分は彩桜が全て胃袋に片付けますので♪」
「響も納得したのか?」
「はい。今夜は様子見したいと話していましたが、明日は帰宅したいそうです」
「今夜の見張りも任せてね♪」
「お師匠様お願い致します」「ええ♪」
「しかし……本当にいいのか?」
「はい♪」
「僕と理人がシッカリ憑いていますので」
「うん♪ だからコッチにいていいって♪」
『ひぃ……』ドッ。
「アヤったらお風呂上がりなのに廊下に座り込んじゃって~♪」
「おかあさん立って」「理人ぉ~」
「浮かせるからね」「ヒィィィィ」
ジタバタしても運ばれる。
「廊下も綺麗ですが浄化♪」「ぎゃああ!」
そして光に包まれた。
なんだかキラキラだ。
「暴れてないで座りなさい」兄達が睨む。
克典の妻と娘達は家に居る。
華音は台所に逃げたので、他は笑顔だが皆ユーレイだ。
ユーレイが判別できるようになったらしい理子が泣き出した。
「いい加減に慣れなさい。
祓い屋の孫なんだから見えて当然なの。
アキとカツは平然としているでしょっ」
「だだだだだってぇ~」ソラを指している。
祖母、理子が何を言っているのかピンときた。
「まだ引っ掻き回すつもりなの?
それなら生きている事すら許さないから」
今その話をするのなら息の根を止めると睨む。
「婆さん、もう連れて行ってくれ」
「そうだよ。改心してないじゃないか」
「わかりましたっ! わかったからっ!」
「おかあさん♪」背中にピトッ。
〈話したらホントにトリツクからね♪〉
「ちゃんとカイシンしてね~♪」
「改心したからっ!」
「ん♪」
「ほら、翔君から招待状だ。
明後日だからな。
ちゃんと叔母として出席してくれよ?」
「結婚式……? えええええっ!?」
「まだ邪魔する気なのか?」
苦笑しているソラを除く視線が突き刺さった。
「しません! ジャマなんてゼッタイ!!」
「本当に、邪魔するなよ」
「しない しないっ しないからっ!」
「おかあさん♪
そろそろ おやすみなさいね♪」
「おおおおおやおやおやすみなさいっ!!」
理人を背中に くっつけたまま逃げた。
【響?】笑い声が聞こえたけど?
【うん、見てた♪
それとね、ヤスさん。
輝竜さんが来て光で包んだら目覚めたって。
治癒だから青生先生ね♪
店長達、明日 戻るって♪】
【良かった……あ、そろそろボクも戻るね♪】
【うん♪】
ややこしい時に理子が紗桜家に戻りました。
紗桜家にとっては冴翔の件だけでも頭が痛い状態なのに、です。
全ては響が結婚してからにしてくれぇ、と晃典は思ってそうですよね。
いろいろ並行で落ち着いて落書き消しできない輝竜兄弟とソラです。
紅火と藤慈が何やら作っているのは文屋から連絡があった件のようです。




