次から次へと
「居た! 姉ちゃん!
あっ魁さんまでスミマセン!」
爽は響がソラを呼ばないのは自分と二人きりという状況がマズ過ぎるからだと思って姉に連絡したのだった。
「勝手に来たんだから謝らないで。
それよりお友達は? まだ?」
「それがサッパリで……」『リーダー助けて!』
「「居た!!」」
ヤスが必死で走って来ていた。
どう見ても疲労困憊。
恐怖心に突き動かされているが、それでも走れているのは奇跡的だと誰もが思った。
「ここから離れるから車に乗って!」
魁にもヤスに迫っている黒くて濃いモヤモヤを纏う人型らしいオバケが見えたので、走り寄って支えた。
爽も来て、二人でヤスを魁の車に乗せた。
「とりあえず離れるから!」発車!
「リーダー隠れて!」
響は不穏禍に狙いを定めて御札を構えた。
この感じ……理子叔母さんに似てて怖い。
でも私しか止められないからっ!
―・―*―・―
寺社や城などを合わせた数は、西京都(京都)が全国トップではないが、それでも古くから都を置いていた場所だけあって、落書き被害に遭っている歴史的建造物は多い。
金マーズ班と銀マーズ班は徐々にペースを上げ、時間当たり100件の速さで巡っていた。
「「ん?」」
浄化しようと構えた桜マーズと空マーズが止まって顔を見合わせた。
【どうかしたのか?】
【ん~と、響お姉ちゃんかな?
ソラ兄 行って。
俺が分身で空マーズするから】
【でも――】
【行くべきだ。此方は任せてもらおう】
【――ありがとうございます!】
ソラが瞬移すると同時に彩桜の分身が空マーズする。
カメラにも捉えられない速さだ。
「「いっくよ!」」ピッカン!
紫マーズが金 桜 空3人を拐うように瞬移!
―・―*―・―
【響!】前に立つ。【浄破邪の極み!!】
迫っていた黒い人型塊に放って、破邪の剣で袈裟懸けに。
黒く蠢く煙を圧縮したような不穏禍が破邪光に呑まれて消え、芯になっていた者が膝から崩れて、俯せに倒れた。
「タクヤ君!?」「響まだダメ!」
【離れて破邪札をお願い!】【うん!】
背中からムクムクと圧縮黒煙状の不穏禍が湧き出、再び身体を覆い尽くそうと這い拡がっている。
響の御札が琢矢を覆い尽くす程に飛来した。
それでも不穏禍は僅かな隙間から出ようと蠢く。
前のとは違うけどオーロザウラなのは確か。
一度 憑かれると憑かれ易くなるのかな?
それよりも……呼ぶしかないよね。
【俺達参上~♪】【彩桜!?♪】
【一斉休憩~♪】【ありがと!】
【ソラ兄、これからの戦い方だよ♪
せ~のっ【滅禍浄破邪大っ輝雷!!】】
ほんのり桜色な白輝一色の中、紅火が禍の動きを固め、青生と瑠璃が魂片を素早く摘出した。
【今回は私だけで行く】【【うん】】
【不満そうだが落書き消しに戻れ】術移。
「え、ええっと~忍者さん?」
「響、マーズを知らないの?」
「マーズ?」「ああ、忘れておりました」
狐儀が響の額をチョン。
「下手に調べぬよう縛っていたのです。
神力が漏れ消えては惜しいどころではありませんからね。
もうすっかり大丈夫ですので、知っても構いませんよ」
「大丈夫、なんですか?」本当に?
「ご友人を助けようと、あの方と一緒に遠方までいらしたのですから大丈夫ですよ」
緑マーズが視線を向けた先では、紫マーズが気絶させたらしい爽を支えていた。
「見られてなくて良かった……あ!
それでタクヤさんは?」
「以前とは違う欠片を込められておりました。
以前のものは理子からのオーザンクロスティ。
今回はオーラマスクスでした。
ですので落書き消しをしつつ元を探しますよ」
「一度 憑かれると憑かれ易くなりますか?」
「可能性は否定できませんね。
合わせて調べますね」
「ボクも頑張ります! ん? 響?」とんとん。
「ねぇソラ……親しそうだけど、忍者さん達、誰なの?
そのお面、神眼封じよね?」
「ボクと話してるのは狐儀様だよ」「ええっ!?」
「リーダーを支えてるのは理俱様」「えええっ!?」
「タクヤさんに治癒を当てているのは青生先生だよ」
「どーして忍者!?」コスプレ趣味!?
「帰ったら動画を見せるから今は受け入れて」
「響お姉ちゃん♪」
「まさか……彩桜くん?」
「うんっ♪ これから俺も時々東京行くから戦うトキ 一緒お願い。
響お姉ちゃんが御札で固めて、ソラ兄と俺が破邪するの~♪」
「そっか。さっきのね? ベストよね♪」
「うんうん♪ あっりがと~♪」
「ん? ええっ!? 忍者!?」
目を覚ました琢矢も大騒ぎ。
「ったくウッセーな!」
「その声、常務!♪」
「人違いだ!
博多くんだりまで騒ぎ起こしに来やがって!
中渡音に帰るぞ。ほら立て」
「常務じゃないですかぁ」
「違うと言ったら違うんだ!」
グイッと立たせた。
「帰るぞ」
「ま、待って! ヤスさんと話したくて新幹線で来たんですからぁ」
「何話すつもりだよ?」
「ベース練習したらサポメンに推薦してくれるかな~と……」
「で、練習してるのか?」
「それは、これから……」
「先ずはステージに立てるくらいに練習しやがれ!」
「うっ……やっぱり常務じゃないですかぁ」
「違う!」
「俺……見捨てられたんですね……」
「知らん。が、見捨てたんじゃなく卒業だと聞こえたぞ。頑張ってみろよ」
「聞こえたってぇ……あ、響だ。リーダー!♪
うわスーパーマルチサポメンも居る……」
「兎に角、帰らせるからな」
「だからヤスさん!」
「お前、記憶喪失かよ?
どこまで覚えてるんだ?」
「新幹線を降りて、博多駅を出て……」
「そこまでか。
丸1日お前はヤスを追い掛け回してたんだ。
記憶が無くても、それが事実だ。
怖い思いをして走り続けたヤスは入院した。
だからベースがプロ級になるまでは会うな。
以上だ」
「やっぱり常務じゃ――」
銀マーズが連れて瞬移した。黒マーズが追う。
「あれって、もしかして~」「白久お兄さん」
「やっぱり♪ 追いかけたのが黒瑯さんね♪」
「そう。本当に大丈夫そうだね♪」
「乗り越えた感、バッチリよ♪
彩桜くん、ユーレイ探偵団に入ってね♪」
「うんっ♪ 来学期からはショウとメグル君と一緒に頑張~る~♪」
「そうね♪ あ、さっきお父さんから着信あったんだった」
「もしかしてメグルくんで思い出した?」
「うん。あ、お父さん どうしたの?」
『やっとかぁ』
「運転してたのよ。それで?」
『翔君がお友達と一緒に行方不明らしいんだ。
それぞれ家族は友達の家に居ると思っていたそうだが、どちらにも居ないと分かって大騒ぎなんだよ。
知らないか?』
「知らないけど……」
【響、自転車で中渡音に向かってるみたい。
たぶん目的地は輝竜さん家。
リーロンさんにも伝えたから帰ろう】
「ソラが見つけたから帰るね」『見つけた!?』
「千里眼で。じゃ、輝竜さん家で待っててね」
【理俱様、リーダーは?】
【気絶は解いたが……爆睡だな。
昨日 寝てないんじゃないか?】
【そうかもですね】
【爽は魁の所に運んでおく。
ソラは響と車を運んでくれ】
【はい!】
「ソラ兄~♪ 俺達、任務に戻るねっ♪」
辺りの残気を浄化していたマーズ達が集結して瞬移した。
「ホントに忍者ね♪」あはっ♪
「本物の忍者なんだよ♪
車ごと運ぶから乗って」
「ん♪」
―・―*―・―
稲荷堂の前でソラと響が待っていると、国道の方から自転車に乗って来ているメグルと その友達が見えた。
笑顔で手を振ると、メグル達も笑顔になり、ラストスパートして到着した。
「お家は大騒ぎよ。
何も言わずに出て来ちゃうから~」
「ごめんなさい。
でも、どうしても早くお願いしたくて」
「輝竜さんに? 何を?」
「冴翔も一緒に二中に行きたいって」
「翔君と一緒がいいんです!
お願いします!」
「輝竜さん達、出掛けてるんだ。
とりあえず入ってね」
【兄さん、居間の方々には無事に着いたので話を聞くからと伝えてください】
【任せとけ♪】
まだ『兄さん』なのが嬉しくて仕方ない。
稲荷堂のカウンターではスポーツドリンクとプリンパフェとフルーツたっぷりなパンケーキが待っていた。
【兄さん、ありがと♪】【おう♪】
「疲れたよね。お腹も減ってるよね?
どうぞ」
「「ありがとうございます!♪」」
―◦―
春希と正義に明日も来たいと言ってもらえた若威は、鳴っている事務所の電話の前で緩む頬を軽く叩いてから受話器を取った。
「はい、マーズ事務所です」
『お忙しいところスミマセン。
東邦新聞の文屋です。
ええっと、そちらでは騒ぎには?』
「ああ、他の事をしていましたので少々お待ちください」
馬頭サイトの管理ページを開く。
「うわ……」
『やはり。
各テレビ局にも問い合わせが殺到しているそうなんです。
おそらく明日には各新聞社にも殺到するでしょうね。
朝刊にバンと載せますからね。
そんな訳で全報道関係を代表しろと僕に白羽の矢が。
まだマーズは落書きを消していますよね?
どうしましょう?』
「社長も出ていますので、マーズが戻り次第、話し合います。
ご連絡ありがとうございました」
「此方は いつでもです。
お返事、お待ちしています」
「ったく次から次へと……うわ、まだどんどん入ってきてる。
とりあえずページトップに何か書いておかないとな……」
一難去ってまた一難。まさに そんな感じです。
またオーロザウラの魂片を込められてしまった琢矢の件は解決したように思えますが、魂片を込めた者を探さなければならないので終わっていません。
メグルが友達もと来たのは まだいい方ですが、この忙しい時に、でもあります。
さて、文屋記者からの連絡は何だったんでしょう?




