サーロン帰国
帰宅後あちこち元気にウロチョロしていた彩桜だったが、夕食で満腹になると、ポテッと その場で眠ってしまった。
「彩桜? 大丈夫?」ゆさゆさ。
普段なら寝言で返事をする筈なのに無言。
泊まりの皆が風呂に行っても食べて喋り続けていたのにと、サーロンが不安そうにリーロンを探して視線で呼んだ。
「彩桜だけは静かだと不安になるよな」
立ち上がる。
「青生!?」複数。
「彩桜に……」「引っ張られたらしいな」
隣に居た瑠璃が支えた。
「じゃあ眠ったのか?」
「そうだな。
闇の神力は消耗が激しい。
彩桜も朝には復活するだろう。
我等の城に連れて行く」
瑠璃は彩桜を背負い、青生を抱え上げて瞬移した。
「どーする? 追うのか?」
リーロンがサーロンの顔を覗き込んだ。
「みんなが心配しないように分身で彩桜します」
「そんじゃあ風呂行くか」「はい♪」
そろそろ泊まりの皆が上がるので風呂に行った。
「連動する青生と彩桜なぁ。
肝心な時にアレやられるとイキナリ窮地だよなぁ」
仲良く話しながら出て行くリーロン サーロンを見送りながら、仲良し兄弟から連想して黒瑯が呟いた。
「戦闘中は気を張っているから眠るなんぞ有り得ぬだろう」
紅火のボソボソは平常稼働だが心配が滲んでいる。
「今は気を抜いたからなのか?」
「そう考える。が……」
心配そうに話している黒瑯と紅火の肩を白久がポンとした。
「瑠璃サンが付いてるんだから大丈夫だよ。
今夜中に対策を考えてくれるさ」ポンポン。
「だよな」「む」頷いて無理矢理な笑顔×2。
「あ、そ~だ。金錦兄――あれ?」
「兄貴なら東京に戻ったぞ」
「ふ~ん。白久兄、報道との打ち合わせは?」
「終わったぞ。予定表 渡しただけだがな♪」
「まさか、あの場でか!?」
「銀マーズを狐儀に任せて配り歩いてからバスで登場だ♪」
「ンなコトしてたのか!?」
ただただ待たされて寝落ちそうになっていた。
「ま、オーロザウラと闇禍の滓神力は瑠璃サンと青生 彩桜が神世に持ってってくれたし、今度こそ落ち着いただろーから全国行脚は予定通りだ。
黒瑯も紅火もシッカリ寝とけよ」
「藤慈も金錦兄トコか?」
「だよ。話の途中で教授達を眠らせて連れて来たからな。
朝には戻るから心配すんな」
―◦―
と、白久が言った通り、夜明け前には金錦と藤慈も、青生と彩桜も帰宅した。
「サーロンおはよ♪ お散歩 行こっ♪」
共有スペースで ぴょんぴょん♪
「大丈夫なの?」出て来た。
「いっぱい寝た~♪ 俺 元気~♪」
「うん、大丈夫そうだね。
じゃあ行こう♪」
―◦―
散歩も終わり、朝食も終わって皆で空港へ。
これでサーロンとの日常は終わってしまうが、マーズとしても来るし、彩桜は大学での講義も一緒に受けられるので明るく見送った。
「オレは ずっと邦和に居るからな。
また いつでも来いよ!」
「はい兄さん♪ また来ます!♪」
搭乗ゲートの向こうへ。
すっかり見えなくなるまで手を振った。
「行っちまったな……」
「渡音フェスで会えるよ」祐斗が堅太をポン。
「来るのか!?」
「あ……ピアノ弾きながら話してたんだった。
一緒に馬頭少年団で出るんだよ」
「そうか♪」「屋上に行かない?」「だな♪」
離陸には時間があるので少しだけ土産店を見て回った。
その間にサーロンは狐儀の分身に。
「ね、ソラ兄。響お姉ちゃんは?」
「昨日から車で遠出してるんだよね。
気を閉じてて掴めないんだ」
「ほえ? 結婚式もぉすぐなのに?
ソラ兄にも言わずに?」
「そうなんだよね……」
「でも、お土産 買うんでしょ?」
「うん。響の大好物なチョコがあるから」
「響お姉ちゃんもお土産 買ってると思う~♪」
「そうだよね」微笑み返してレジへ。
そして、ぞろぞろと屋上へ。
「どの飛行機だ?」「あれ~♪」
彩桜が指した飛行機が動き始めた。
「見えるかな?」祐斗が手を大きく振る。
「サーロンなら見える♪」もっと大きく。
皆も飛行機が小さな点になるまで振った。
〈ソラ兄だいじょぶ?〉
〈なんか……泣きそうなくらい感動して……嬉しくて……それに、寂しくて……〉
〈泣いちゃダメだよぉ〉
〈頑張るよ〉
〈うんうん。ね、この後は?
京都 行くまでお店番?〉
〈うん。響を待つよ〉
―◦―
帰宅すると、玄関前で走屋が待っていた。
「竜騎様、社長のお戻りが早くなりましたのでお迎えに上がりました」
「解決したの?」
「はい。奥様もご一緒ですので、お早く」
「うん。荷物 持って来るから待ってて」
「畏まりました」
そうして3ヶ月ぶりに竜騎は屋敷に帰り、他はアトリエで勉強会を始めた。
「ね、銀河ちゃん。
さっきのは? 馬白君て……」
夕香がコソッと聞いた。
「うん、気になるよね?
馬白君、3学期ずっと輝竜君のお家に居たの。
成績を報告しないといけないって言ってた。
でもお父さんの会社の船が外国でトラブルに巻き込まれてしまったんだって。
お父さんが急に外国に行ったのがテスト中だったみたい。
だから今日やっと帰れたの」
「船……馬白……海輸!?」
「うん♪」
「どうしよ……私そんなつもりじゃ……」
「ん?」ノートに『告白した?』と書いた。
『してない!!』「でも……」
『白マーズ推し』「言っちゃった……ぁ……」
純玲が不思議そうに見ているのに気付いて
『後でね』
と書いて勉強に戻った。
―・―*―・―
「ただいま戻りました♪」
リビングで待っていた両親が立ち上がったので竜騎は各々とハグしてから向かいに座った。
「お父さん、大変なのに1日早くお帰りくださり、ありがとうございます。
学年末テストと通信簿です♪」
それだけでもう母はうるうるしている。
「お母さん、心配しないで。
僕もう大丈夫だから♪」
「ほら、泣いていたら見えないだろ」
「たった3ヶ月で……こんなにも……」
通信簿を抱いて嬉し泣き。
「よく頑張ったな。
新しい馬が必要だな?」
「あれ? お父さん、あれから浜の馬牧場に行ってないの?
忙しいからだね。仕方ないよね。
あ! あの日、話してなかった……。
嬉しくて乗ってばかりで……。
竜牙、馬の神様が元気にしてくれたんだ♪
少し小さくなったけど、とっても元気♪
僕、ちゃんと謝ったよ。
それで次の大会も竜牙と一緒に出るから来てね♪」
「あの馬……そうだったのか……」
「うん♪ 毎日 朝と夕方、少しずつだけど練習してるよ♪
悟君と彩桜君とサーロン君も一緒にしてた♪
他の友達も乗りに来てたよ♪
サーロン君は漢中国に帰ってしまったけど、これからも悟君達と一緒に練習するから♪」
「そうか。本当に変われたのだな」
全て90点以上のテストの束を抱き締めて、何度も何度も頷いた。
「それでね、僕もマーズに入れてもらったんだ。
馬頭雑技団のマーズ」
「輝竜さんの、か?」
「うん。マーズな時は忍者で、フリューゲルってドイツのバンドと組んでるんだ。
今、マーズは15人。
マーズには狐松先生も入ってるんだよ♪
あっ、でも内緒だからね」
「解っているよ。
それでマーズとして何をしているんだ?」
「僕はパフォーマーの白マーズ♪
踊るんだよ♪」「坊っちゃま、こちらを」
戸口で控えていた隅居がノートパソコンを差し出した。
「あ、隅居さん ありがと♪」
操作して――「見て♪」
フルマーズが演奏しながら踊っていた。
「竜騎が……踊る?」リズム音痴は?
「リズム音痴は僕に憑いてた悪霊だよ。
だからもう大丈夫♪
彩桜君が桜マーズでサーロン君が空マーズ♪
彩桜君のお兄さん達が金銀青黒赤藤マーズ♪
サーロン君のお兄さんが灰マーズ♪
狐松先生が緑で先生の弟さんが紫♪
紺さんは鳥忍のお師匠様なんだって♪
黄さんはフランス人なんだよ♪
橙が悟君で僕が白♪」
踊っている下にプロフィールを開いて説明した。
楽し気に話す竜騎のキラキラ瞳と、画面で踊る白マーズを見ているうちに父の目からも涙が溢れ出た。
「他にも年末に来てくれてた友達が子供忍者隊してるんだよ♪
こういう黒いお面じゃなくて純和風な狐面で、腰帯が無い装束なんだ」
「坊っちゃま、昨日の大活躍もアップされておりますよ。
東邦テレビが最も大々的で御座います」
「なんだか恥ずかしいけど……でも、みんなが写ってるよね♪」
「はい♪」隅居も釣られた。
いや、うるうるを隠す為の笑顔だろう。
―・―*―・―
マーズ事務所のドアをノックする音が聞こえた。
「どーぞ」
転売チェックをしつつ全国のアリーナやらホールやらドームやらの大きな会場との遣り取りをしていた若威が手を止めてドアの方を向くと、遠慮がちに隙間が開いた。
見えた人影は背が低かった。
「俺に用なのは春希君かな?
他に誰も居ないから遠慮しなくていいよ」
ぴょこっと顔が2つ。ぺこりとした。
「えっと、正義君だったかな?」
「はい。えっと、勉強「教えてください」」
「俺? 俺は いいけど。
マーズじゃなくていいの?」
「マーズこれからラクガキ消しでしょ?」
「そうだね。そろそろ出発だね。
だからか。納得。机……これでいいかな?」
休憩用のテーブルを指す。
「「はい♪」」
「解いてる間は仕事するよ?」
「「はい♪」」
若威は来てくれた嬉しさや、申し訳ない思いやらが ごちゃ混ぜな複雑な心境を重く抱いて、パソコン作業の終わらせられる分を閉じていった。
サーロンは漢中国に帰り、竜騎は屋敷に帰りました。
春希と正義は若威と仲良くしたいと踏み出しました。
出発の春。
マーズは落書き消し行脚に出発します。
この章もオムニバス的に長くなりましたが、次は、も~っと長くてバタバタな章です。
春休みの2週間分なんですけどね。




