目覚めた悪禍達
「どうして私を閉じ込めるのよ!
ここ、どこなのよ! 出しなさいよね!」
【って月羽さんが言ってるんなら出すけどねぇ】
【そうだよね】揃って溜め息。
【欠片 見えないのにオーロザウラ?】
【うん。感じるよね】
【隠れてる? 紅火兄、結界から探れない?】
【ふむ。やってみよう】
結界を維持している紅火が目を閉じた。
今、青生と黒瑯は後方で稲荷と話しており、白久は順志からの電話で会社に戻っていた。
「強い神力持ち居るって感じてるんだから! 隠れても無駄よ!」
【感じてる? 見えてない?】【そぉかも~】
マーズは姿を消していないし目の前だ。
【お~い彩桜 サーロン、そっち行っていいか?】
輝竜家で勉強会中の悟から。
【【ダメ!!】】
【へ? 社の中、見えないんだ。
戦ってるのか?】
【そぉなるかも。
大神様 入ってるヒト来ちゃダメ。
月羽さんの弱禍、シッカリ意思あるの。
強い器に乗り移ろぉとしてるの。
悟も竜騎も聖良さんも陽野さんも篠宮さんも大神様だから来ちゃダメだよ】
【彩桜とサーロンは?】
【大神様だけど、悟達の方が大きいの。
だから来ないでね】
【ん。解った。
で、陽野さんの神様、見えたのか?】
【月羽さんの浄滅したら見るからぁ】
【そっか。
じゃあコッチで陽野さん護るからな】
【お願いね~】【おう】
紅火が目を開けた。
【欠片は見当たらない。
何処かで悪神の神力に触れたのだろう。
彩桜の答案を見る前にな】
【ほえ? 俺の数学キッカケじゃないの?】
【その前に弱禍は目覚めていたのだろう。
だから答案を見せろと来た。
そう考える】
【ふえぇ~】
【彩桜。納得だよ。
これまで全く寄って来なかったのに突然 強く言ってきたから】
【そっかぁ】
「私は勉強したいの! これも妨害ね!
私の成績が落ちるように妨害してるのね!
答えなさいよ輝竜 彩桜! 翔 颯龍!」
名を出されそうだと感じた瞬間、彩桜とサーロンは声波を浴びないように床に伏せていた。
サーロンは天海 翔なので彩桜を護ろうとして、なのだが。
【上出来だ。
あの声は神声だ。
名を呼ばれた神声波を浴びれば呪を受ける。
可能な限り下がれ】
【うん】【はいっ】匍匐後退×2。
二人は壁ギリギリまで下がり、顔も伏せて薄目な神眼だけを直視しないように斜に向けた。
そうして構えた二人の前に紅火が防音壁を成す。
【神耳で全体音として聞け】 【ん】【はい!】
騒ぎ続けている声を聞きながら、彩桜はサーロンにも伝えておかなければと話し始めた。
【あのね、青生兄と俺の魂の素材なった神様の記憶、見ちゃったんだよね。
その神様、オーロザウラに呼び掛けられて固まっちゃったの。
動けなくて、呪われて支配されちゃったの。
だから名前 呼ばれるの危ないの】
【うん。危ないってだけは聞いてたよ。
だから呼び名を決めてた。
『サイオンジ』とか、そんなの】
【悪霊とか悪神とかに知られたら大変だもんねぇ】
【同級生って、みんな彩桜の名前 知ってるよね。気をつけてね】
【俺、上級生にも知られちゃってるぅ】
【そうだね。だから どんどん浄滅してね】
【頑張ぁるぅ~】
【ボクも浄破邪しに来るから】
【うん♪ あ……】
【どうしたの?】
【芸能活動、マーズで忍者ってコトして俺 桜マーズなったのも、そゆ意味あったのかにゃ?】
【キリュウ兄弟は本名だけどね】
【デビューがデビューだしぃ、父ちゃんと母ちゃん本名だから仕方にゃいのぉ】
漢字で公表していない点だけは救いだ。
【だよね】苦笑。【マリノフスキーさんは?】
【長~いお名前、途中省略してるって~。
俺もフルネーム知らにゃいのぉ】
【そうなんだ】
―・―*―・―
輝竜家のアトリエでの勉強会は順調だったが、皆、バスでの出来事で落ち着かなかった。
帰りのバスの中、この後は勉強しようと話していると、純玲が仲間外れにするつもりなのだろうと怒りだした。
夕香に向かって裏切り者だと暴言三昧に吐いて暴力までもを振るおうとしたので、(紅火が堅固で動きを封じて)彩桜とサーロンが連れて消えたのだった。
「大丈夫なのかな……」夕香が小さく溢した。
「大丈夫よ。輝竜君とサーロン君が ついてるんだもん」
「うん。あの二人は本物の祓い屋だからな」
「長く憑かれてた僕でも助けてくれたから任せていいと思う」
右隣の銀河、その向こうの悟、左隣の竜騎が言って微笑んだ。
「うん……そうよね……」
「月羽と仲いいのか?」
「中学からだけど、毎日どっちかの家に行って勉強してたよ」
「夕香ちゃん、花盛小よね?」
「うん。家は小学校の近く。
話し方がキツくなったのは年末かな?
急に変わったの。
でも今思えばなの。
1学期の期末テストの後も騒いでたから、まただと思ってた」
「中間テストは?」
「私と比べて勝ったって喜んでたよ。
1学期も2学期もね。
純玲ちゃん、5教科しか勉強しないから10教科になると……だから、ね」
「もしかして喧嘩した?」
「うん。テスト返してもらった日の夜。
一方的に怒って帰っちゃった。
それで話さないまま終業式。
冬休み中も会わないまま。電話は してみたんだけどね。
でも3学期の最初、竜騎君の騒ぎでウヤムヤになって、友達に戻ってたの」
「学年末テストは?」
「みんなは男子が騒いでる方に居たよね。
だから見てなかったと思うけど、純玲ちゃんも大騒ぎだったの。
2組には990点以上の人が いっぱい居るって3組から聞こえたから確かめに行くって。
とうとう行って以降は知ってるよね?」
「止めてる夕香ちゃん引っ張って行ったからビックリして追いかけちゃった」
本当は禍を感じて走った。
「男子の騒ぎって何だったの?」
「悟君と馬白君の点を後ろから見た人達がカンニングしたんだろって……」
「誰をカンニング?
周りは誰も敵わなかったんでしょ?」
「誰をじゃなくて、手とか机とかに書いてたんじゃないかって」
「耳なし芳一? おバカなこと考えるね。
そんなの本当にやったらバレるに決まってるでしょ」
「ホント、そう思う。
負けたからってヒドいよね」
「毎日こうして楽しく勉強してたら当然の点数だと思う。
私も これから頑張ろ♪」
「夕香ちゃん、頑張らなくても賢いのに~」
―・―*―・―
「神力が足りぬ……悔しい……こうなれば……」
【彩桜とサーロンは退避!】
【迷うな!】【上に逃げて!】
返事よりも逃げなければとサーロンが彩桜を引っ張って瞬移した。
【【浄破邪の極み!!】】当然、人用。
【やはりオーロザウラの神力を浴びている。
それを利用すると決断したらしい】
【けど悪神に呑まれるんじゃねーか?】
【彩桜 サーロン、飛ぶかもだから逃げられるようにね】
【うん!】【はい!】
浄破邪を維持して警戒MAXで待つ。
【口調が変わったのは感じたけどぉ】
【そうだね。すっかり弱禍になってたね。
月羽さんが心配だね】
【うんうん】
【やっぱオーロザウラに呑まれたぞ!!】
【禍神が禍を得た。破られる可能性は高い】
【紅火兄、落ち着かないでよぉ】
【事実だ】【俺が闇呼吸着しちゃダメ?】
【危険過ぎる】【でも他にナイでしょ?】
【魂片という核と成る実体が無いにも拘わらず此奴は強い。
実体が無いのだから完璧な吸着は難しいだろう。
これまでに経験していない状況だ。
誰かに移る前に滅するには、危険を承知の上で結界から出すより他に無いのだろうが……】
【出たトコで闇呼吸着?】
【……青生と協力して、頼む。
それでも危険極まりないのは変わりない。
よくよく気を付けろ。
金錦兄はヤマ大の教授達と話している。
藤慈も其処に居る。
来るのは無理だろう。
黒瑯、領域供与を極限まで高めてくれ】
【おう! 任せろよなっ】
【白久兄お家で何してるのぉ?
お仕事 終わったら帰ったよねぇ?】
【このオーロザウラの元と話している】
【ん? もしかして若威さん!?】
【春希も、だ。
彼等のオーラマスクスは浄滅したが、元である事に違いは無い。
協力してもらえれば、この残気も――】
【破ったぞ!!】
「私の勝ちだ! こんな器は不要だ!
強い器を得てやる!!」
【彩桜! 構えて!】
【うん! ん?】何だろ? 揺れてる?
【彩桜アレ!!】【兄貴達っ!!】
「よくも閉じ込めたわね……響ちゃんとの結婚なんて許さないんだから!!」
「エライしんどかったやないかい。反撃や!!」
「やったろやないかい!!」
「誰にも私の邪魔はさせない!
逆斐! 皆見!
さっさとヤっておしまい!」
社の外に封じていた理子、逆斐と皆見、鳳子が純玲のオーロザウラと同調したのか結界を破ってしまった。
【闇禍の影響、消えてなぁいぃ~】
【その4人は瞬移できないから!】
【彩桜、社の中に!】【うわあ!】
【彩桜 行って! ボクが追うから!】
山を駆け下る4人をサーロンのままのソラが追った。
頷いた彩桜は社の内へ!
―◦―
【昇華光明煌輝、滅禍浄破邪雷炎華!!】
「操禍防壁!!
おのれ!! 伝説ではなかったのか!?
ヒノカミめが!! 姿を見せよ!!」
【昇華闇障暗黒、激天大闇呼吸着!!】
禍で成した分厚い壁が彩桜が掲げた水晶玉に吸い込まれる。
穴が穿たれたのと同時に
【滅禍浄破邪激雷撃!!】
青生が放った雷撃が その小さな穴を通り抜け、禍壁の向こうで花を咲かせたように拡がった。
【闇呼吸着めーいっぱい!!】
禍壁の吸着を加速した。
「ええい小賢しい!!」【ああっ!!】
純玲の姿が消えていた。
純玲の不穏禍は、弱禍+オーロザウラの禍神力? だけではない?
まだまだ判明していませんが、山を駆け下りる4人を追わなければならないし、消えた純玲も捜さなければなりません。




