お誕生日会
翌日、終業式が終わって彩桜とサーロンが帰宅すると、玄関に祐斗と堅太が居た。
「あれれ? お家の用事は?」
そう理由をつけて祐斗は先に帰ったのだった。
「いいから着替えて♪」「早くしろよな♪」
「うん……?」
「「サーロンも♪」」
「はいです♪」一緒に部屋へ。
「居間で待ってるからな♪」「来てね♪」
そして居間へ。
「わあっ♪」「あ! サーロンの誕生日♪」
中学生と卒業生だけでなく、小学生も高校生も笑顔で待っていた。
「だよ♪ 料理、頼んどいたんだ♪」
「彩桜は明日だけど、明日は みんなでアウトレットパークだから。いい?」
「サーロンと一緒がいい~♪」
「だったら2人は、ここね♪」
まるで高砂席だ。
「食べる間だけだから座ってくれ♪」
「冷めるから早くして」凌央は相変わらずだ。
「うん♪」「はい♪」
「じゃあ始めるよ♪」「おう♪」
祐斗と堅太も席へ。
台所側のドアが開いた。
「「ケーキ入場だ♪」」
黒瑯とリーロンが広いケーキを運んで来た。
「カットは任せた♪」「2人でなっ♪」
『高砂席』前のテーブルに置いて出て行った。
テーブルにはケーキだけ。
「ナイフは?」「ないですね……」
「ナイフ出せるよな♪」
『刀でスパッと♪』コールになった。
「やる?」【みんななら大丈夫だよね♪】
「はい♪」【知ってるから大丈夫だね♪】
「それでは「2人の共同作業です♪」」
笑いが湧く。
「結婚式じゃにゃいからぁ」
「でも楽しいです♪」
言いつつ彩桜はテーブルの横に立つ。
サーロンは正面のままだ。
「「せ~のっ♪」」
動かしている筈の腕すらも ほぼ見えないが、素早く動く刃物の煌めきだけは見えた。
どうやら縦横分担してカットしているらしい。
ぶつからないのは流石だ。
見ている皆は自然と嬉しさが声になる。
動きを止めた2人は透けて見える剣を掲げるとケーキナイフに変えて
「お皿、持って並んで~♪」「ください♪」
テーブルの両側に立ってニコニコ♪
「サーロンの方 半分、チョコケーキだから両方 貰ってね~♪」
配り終えて、皆が席に戻る。
「サーロン♪」「彩桜♪」
「お誕生日おめでと~♪」一斉♪ 拍手も♪
「「ありがと~♪」です♪」
「あ!」「どしたの堅太?」
「これも切ってくれ♪」丸焼きチキン。
「そうだね♪」
ケーキカットをしたテーブルにチキンが並んだ。
「カットするる~ん♪」「はい♪」
各々が前に1皿置いて両手に剣。
間に空の大皿も置いた。
「「せ~のっ♪」」
「また手が見えないね♪」
「キラキラだけだなっ♪」
「真ん中の皿に骨?」
「骨だね♪」「どーやって抜いてるんだ?」
カットされても崩れないチキンが出来、真っ白ツヤツヤな骨の山が築かれる。
後で庭の犬達に あげるのだろうか?
「取り来て~♪」危険なので手を止めた。
出来上がりの皿が運ばれるのを待って再開。
『なっ!?』「ほえ?」止まった。
【あらら~】【今日も来たんだね】
「漢中国5千年の歴史が生んだ秘技だ♪」
「そう驚くような事じゃないから慣れて」
「無理だよ。常識から出られてないから」
「純玲ちゃん、夕香ちゃん、こっちね♪」
「動けないんじゃない?」「だぁね~♪」
その通りで夕香が引っ張っているが動かない。
「困ったヤツだな。
沙都莉、頼んでいいか?
男子が触ったら怒るだろーからな」
「そうね。夏月ちゃん行こ」「うん」
「私も行くわ」六花も加わった。
2人が背を押し、2人が手を引いて、ようやく座らせた。
「夕香ちゃんは慣れた?」
テーブルは違うが椅子が背中合わせなので、銀河が夕香の袖を引いた。
「うん♪ なんだかワクワク?
楽しいから通わせてもらうね♪」
「うん♪ 来てね♪」
「馬白君、怖がらないでね?」
「え? あ……うん……」
「純玲ちゃん、言葉がキツいだけだから」
頷いたが、純玲の視界には入らないように悟に隠れた。
【どうした白竜?】
【月羽さんの不穏に睨まれてるんだよ】
【俺も警戒しとくからな。安心しろ】
【ありがと悟空】
「でも……怖いのも解る」肩を竦めた。
純玲は聞こえてもいないらしく、口を開けたままフリーズしていた。
話しているうちにチキンカットは終わった。
「食べる~んるん♪」「始めるです♪」
お昼少し過ぎ。
育ち盛り達は食べなければならない時間だ。
料理の山に隠れている彩桜は、まだ動けていない純玲を観察していた。
サーロンも料理に集中しているフリをしつつ神眼を向けている。
【弱禍、浄滅しても出てくるね】
【うん……浄滅できてにゃい?
それとも別のが出る?】
【隠れられる場所があるのかな……?】
【常識って盾?】【それかも!】
もっとよく見ようと神眼に神力を注ぐ。
【オトナには感じてたんだ。
弱禍を常識の枠が護ってる感じ。
でもコドモは ずっと柔軟で、浄滅し易いって。
彩桜達の音楽は、そんなオトナの弱禍も弱めて消していく力を持ってる。
だから弱禍も悪神も、全力で抵抗するんだと思う。
月羽さんの場合、普通のオトナよりもガチガチな感じだから、弱禍が逃げ込めるんじゃないかな】
【音楽 聴かせてもダメ?】
【どうだろ……堅牢な城郭でも鼠が齧って崩せるかもだから、聴かせ続けたらいいと思う】
【膨らんだら、ソラ兄 来てくれる?
また相棒してくれる?】
【来るよ。相棒なんだから当然♪
彩桜も東京に来てね♪】
【うんっ♪ でも響お姉ちゃんは?】
【響にもボクがサーロンだと話すつもり】
【いいの!?】
【この料理、響も一緒に作ってる。
だからもう大丈夫だと思うんだ。
もちろん狐儀様と理俱様に相談するけどね】
【そっか~♪】
【だから響の御札サポートでボク達が連携して戦ったらいいと思うんだ♪】
【うんうん♪ あ!】【立ち上がったね】
【コッチ来てるぅ~】【構えておこうね】
【うん!】
皆に見詰められているのは全く眼中に無いらしく、純玲は真っ直ぐに彩桜とサーロンに向かって来ていた。
【膨らんでない……どうして?】
【小さいけど強くなってるぽい?】
【そうだね。もう弱禍とは言えないかも】
ドアの向こうでは黒瑯とリーロンも身構えている。
渡り廊下には紅火。居間の天井には狐儀も居る。
【あと少し……】【近づいたら浄破邪ねっ】
「え? あれ? 私……」
「お祝い来てくれた~♪」「ありがとです♪」
「あ、えっと……おめでと」
「ありがと♪ コレあげる~♪」「御守りです♪」
「輝竜大明神!?」
「ジョークグッズ♪ 気にしにゃいで~♪」
浄破邪タップリな本気グッズだ。
「学力向上の御守りだよ」
「効果テキメンだよな♪」
「みんな持ってるよね♪」
「僕も持ってる。常にね」
負けず嫌いなら、これだけ言われれば捨てたりしないだろう。
「料理、冷めるですよ?」
「そ、そう、ね。うん」
キョロキョロして夕香を見付けて席に。
【弱禍に警戒されちゃったかにゃ?】
【そうかもね。気が抜けないね……】
【でも今は食べよ~♪】【そうだね♪】
食事再開♪ 皆にも笑顔が戻っている。
【後で演奏しにゃいとね~♪】
【頑張ってね♪】
【もっちろんサーロンもだよ♪】
【え?】
【空マーズも上忍だも~ん♪】
【うわ……ボクも頑張るよ】
【うんっ♪ 相棒だし~♪】
【そうだよね♪】
―◦―
アトリエに移動してホールで音楽の夕べ。
彩桜は常にステージに居て、サーロンとは勿論の事、拓斗とバイオリン、祐斗 陽咲 海月とピアノ、紗とフルート、直史 六花とサックスでと楽しく過ごした。
「サーロン 祐斗、3人でピアノねっ♪」
弾き始める。
「ここから始まりだったね。
サーロンて上達 早いよね。
やっぱり血筋?」
祐斗が しみじみしている。
「音楽、大好きだからです♪」「俺も~♪」
「彩桜はサラブレッドだよね」
「俺、お馬さんじゃにゃいしぃ~」
あ……デジャブ……そっかアメリカで♪
それも始まりだったと、ついつい、しみじみしてしまうソラだった。
「サーロン、渡音フェス来るから、また一緒に馬頭少年団ねっ♪」
「来るの!?」
「来るの~♪」「あ……はい♪」
曲が終わる。
「次、もっかい直史と氷坂さんねっ♪
サーロン、テナーサックスねっ♪」
「ちょっ、彩桜!?」
【ソラ兄に戻ってる~♪】【あっ】
「練習してたの知ってるよ~ん♪
音楽部の楽譜からねっ♪
俺バリサクする~んるん♪」
準備していると兄達も来た。
「あれれ? 黒瑯兄、晩ご飯は?」
「ウチは料理人だらけだからなっ♪」
「そっか~♪」
話している間に要塞が引き出される。
兄達、当然だと楽器を構えている。
「俺達はバックバンドだ♪
緊張しなくていいからな♪」
「だよ♪ 龍の背中に乗ってくれ♪」
直史と六花の為にカウントが入る。
流れ出した音色にはジャズらしく大人な感じもあるし、楽し気な子供感も混ざっている。
「彩桜の『楽しい』が溢れてるなっ♪」
「前に出過ぎじゃない?」
「お♪ マネージャー厳しいなっ♪」
「マネージャーだとか関係ないよね」
「直史も楽しそうだよなっ♪」
「僕の言葉は無視?」
「ベース、上手くなったよなっ♪」
「聞いてないんだね。ま、いいけど」
「聞いてるぞ♪ 凌央も頑張ってるよな♪」
「……ありがと」
「けど、ナンで音楽部に入ったんだ?
やっぱ直史を追ってか?」
「違う」
「1000点満点を目指す為か?」
「少しはあるけど、それも違う。
彩桜を知りたかった。
音楽を知れば、彩桜に繋がると思った。
上手く言えないけど」
「なんとなく解ったぞ♪
彩桜は音楽で、音楽は彩桜だよな♪」
「彩桜は音楽の神様だよ」
「祐斗も、そう思うの?」
「音楽の精かもだけど、とにかく特別な存在だよ」
「だな♪ けど普通が大好きなヤツだ♪
世界に羽ばたいても戻ってくれる俺達の彩桜だ♪」
「「そうだよね」♪」
あとは静かに、心底 楽しそうな彩桜を見詰めた。
サーロンの誕生日なので翌日な彩桜も一緒に邦和式お誕生日会をと、祐斗と堅太が企画しました。
気になるのは純玲の不穏禍ですが……輝竜兄弟とリーロン サーロンが気づいているので大丈夫でしょう。




