ショウとトシ兄と彩桜
戌井家にショウが来て半年が経ち、冬の間は家の中で育てていたショウも大きくなってきたし、暖かくなったからと利幸が庭で犬小屋を作っていた。
「お~いショウ、あんまウロチョロすんなぁ。
こらこら塀の穴から出るなよぉ」
大型犬混じりな雑種らしく、子犬とは言え中型犬の成犬近く成長したショウが、塀の低い位置の穴から顔を突き出していた。
「やっぱ塞いどくべきだったかぁ?
飛鳥も出ちまうよなぁ」
よちよち歩きが楽しい盛りの飛鳥の心配をしてしまう。
〈タカシ♪ この おっきな穴なぁに?〉
〈利幸がブロックの順番を間違えた上にネットも忘れたんだよ〉
〈あっちの上のも?〉
〈あっちはネットだけね〉
〈外よく見える~♪ 出た~い♪〉
〈落ちないでね〉〈は~い♪〉
道路側が低くなっている為に、そこから出てしまうと1メートル以上 落ちることになってしまうので、回収しようと利幸が立ち上がった時――
『出ちゃダメなんだよ~♪
ん? 俺? 彩桜♪』
――少年の声が聞こえた。
これなら安心と、利幸は犬小屋作りを再開した。
『ショウって言~んだね♪
へぇ、タカシさんも一緒なんだ~♪』
「ええっ!?」
思わず立ち上がり、穴に駆け寄った。
「ナンで飛翔を知ってる!?
どーしてショウだって分かったんだ!?」
「あ♪ こんにちは~♪
オジサンだぁれ? え? オニーサン?
トシさんねっ♪ 俺、彩桜♪」
ショウの向こうに、嬉しそうにキラキラしている目だけが見えている。
「ショウと、、話してるのか?」
「うんっ♪」
「近所の子なんだな? 小学生か?」
「うんっ♪」
「そっか。だから飛翔を知ってるんだな」
「ソコに居るから~♪」
「へ?」ぱちくり。
「ショウと一緒に居るから~♪」
「来てるのかっ!? 見えるのかっ!?」
「うんっ♪」
「飛翔! 来てるなら姿見せろよなっ!
俺はどーでもだが! 家族には見せろ!」
「たぶんムリ~。ねぇ、ショウ?」
クゥン。
「ショウが返事したっ!?」『彩桜?』
「は?」「あ♪ 瑠璃姉♪」「ええっ!?」
『そっちで騒いでいるのは利幸だな?
彩桜、普通の者は驚くのだから動物と話す時は声を出すな』
「る、瑠璃!
フツーそうにトンデモねぇコト言うなっ!」
『利幸も子供の頃は話していたではないか』
「へ? そ~だったかぁ?」
『ま、子供にはよくある事だ。
澪はどうしている?』
「飛鳥をお昼寝させてるよ」
『ならば騒ぐな。彩桜も騒がぬようにな』
「うんっ♪」「どこ行くんだよっ!?」
『玄関に回るだけだ』
「なぁサクラ……」「ん?」
「瑠璃の弟だったのかぁ? ほぼ親子だろ」
「瑠璃姉、青生兄の奥さ~ん♪」
「あ、そっか。旦那、若かったよな。
にしても――」
「兄貴6人いるも~ん♪」
「今どき珍しい子沢山だなっ♪」
「うんっ♪ トシ兄は?」
「ひとりっ子だよ。
だからナンつーか飛翔が兄貴で、瑠璃は姉貴みたいなモンだったんだよなぁ」
「タカシさん笑ってる~♪」
「あ、聞いてるんだったな。笑うなよなぁ」
―・―*―・―・*・―・―*―・―
更に半年。
穏やかな、しかし寂しさの拭いきれない日々が過ぎていった。
「お~いショウ、散歩行くぞ~。
あ、また彩桜が来てるんだな?」
塀の穴に頭を突っ込んでいるショウの尻尾が嬉しさで千切れんばかりだ。
『トシ兄♪ 俺も行っていい?♪』
「モッチロンだ」
『去年の今日、瑠璃姉トコに生まれたばっかのショウが来たんだよ♪
だからお誕生日ねっ♪
ケーキ持って来たんだよ♪』
「彩桜、川に行くぞ。
ケーキはそれからな」「ん♪」
いつもの散歩道から川の方へ。
上流側へと、緩く上る道を歩いて行った。
「トシ兄どしたの? 静かにお散歩って?」
「さっき飛翔の一周忌したトコなんだよ」
「そっか……」
〈そぉだったんだね、飛翔さん〉
〈うん。成仏を逃れてね、ここに、ね〉
〈タカシが僕を助けてくれたんだよ♪〉
〈助けて?〉
〈うん♪ 僕、死にそうだったの~。
タカシ来てくれたから生きてるの♪〉
〈そっか~♪〉「なぁ彩桜……」「ん?」
「今日は飛翔 来てないのか?」
「一緒に歩いてるよ♪」
「そっか」
「ずっと見守っているよ、って言ってるよ」
「お前、飛翔ソックリに言えるんだな。
生きてた頃の飛翔とも会ってたのか?」
「ううん。
青生兄 瑠璃姉と一緒に住んでたもん」
「って東京か? 親は?」
「今はオーストリアかな?」
「は? コアラとカンガルーの国かぁ?」
「そっちはオーストラリア」
「うっ……ま、外国なんだな?」
「うん。なかなか会えないんだ。
でも元気で楽しそぉだからいい。
それに兄貴達と一緒だからいいの♪
今は兄貴達み~んな一緒だもん♪
ね、ここ座らない?」
アスファルトの土手道から一段下がった狭い砂利道に下り、川に向かって腰掛けると街が見渡せ、川からの風が心地よく頬を撫でた。
「はい♪ ショウ、お誕生日おめでと♪」
大きく膨らんだリュックから箱を出した。
「彩桜、ソレって?」
「黒瑯兄が焼いてくれた犬用ケーキ♪
人のはコッチ♪ はい♪」
「ありがとな。お♪ こりゃあ旨いなっ♪」
「紅茶 淹れる~♪」るんるん♪
「その兄貴はケーキ職人なのかぁ?」
「あのホテルのシェフだよ♪」
「って……ここいらで一番のセレブなホテルじゃねぇかよ!?」
「そぉなの? はい紅茶♪」
「あ、ありがとな。って!
飲んだコト無い味じゃねぇかよっ!」
「あれれ? 変?」
「じゃなくてっ! 美味いよ! って!
ソレ何だよっ!?」
「ポットのコト?
紅火兄が紅茶専用に作ってくれたの♪
茶葉が舞い踊るよぉになってるの~♪」
「その兄貴は……?」「道具屋さん♪」
「ちょいホッとした。他の兄貴達は?」
「んとね~、金錦兄は煌麗山大学で教授なったって♪
白久兄、あの会社の常務さん♪」
「えええっ!?」
「支社長さんも兼ねてるんだって~」
「なんかクラクラしてきた……あ!
聞き流してたがコーレイザンって、あの煌麗山かっ!? ヤマ大なのかっ!?」
「うん。ヤマ大って言ってたよ♪
で、青生兄は知ってるでしょ♪
黒瑯兄と紅火兄さっき言ったでしょ♪
藤慈兄の研究所は~~アレ!♪
薬の研究してるの♪」
「スッゲーな……そーいやさっき、今は一緒とか言わなかったか?」
「うん。
コッチに残ってたの紅火兄だけだったんだ。
みんな東京だったんだ。
仕事とか大学とかでね、東京だけどバラバラだったんだ。
今も金錦兄は週末しか一緒じゃないけど、でも揃うから楽しいんだ♪」
―・―*―・―
その頃、彩桜の家では――
「なぁ、紅火はどっかで働くとか考えてねぇのか?」
「黒瑯は自分の店を持たぬのか?」
「まだまだ修業中だからな、そのうちだ♪」
「俺は誰かに雇われようなどと思わぬ。
生きていけるだけの収入は十分だ」
「ここの何が売れてるんだ?」キョロキョロ。
「店の物は趣味だ。儲けは注文品だ」
「ふぅん。あ、郵便屋だ。
また郵便受け見つかんねぇみたいだな」
戸を開けに行く。
『あ、こちら、輝竜さんのお宅でしょうか?』
「そっか。表札も真っ黒なんだよな。
はい、輝竜です」
受け取って戻った。
「郵便受けと表札、新しくしてくれよな。
ほら、紅火宛てだ。
ん? 同じ封筒が金錦兄にも?
美術コンクール? ふぅん」
「手が離せぬ。確かめてくれ」
「ん。……最優秀賞!?」
「金錦兄は油絵を出していた」
「紅火は!?」
「彫刻」
「金錦兄の……見たいよな?
なぁ紅火♪ 見たいよなっ♪」『構わぬ』
「うわっ」『確かめてくれないか? 黒瑯』
封筒を見ていた黒瑯が顔を上げると、目の前に紅火がスマホを突き出していた。
「手が離せぬ、じゃなかったのかよぉ」
紅火はフッと笑ってスマホを置き、作業を再開した。
「金錦兄も最優秀賞だ……」スゲー。
『そうか。ありがとう』
そんなこんなでショウと彩桜は友達だったんです。
飛翔、利幸、瑠璃、澪は幼馴染みです。
利幸も、彩桜も無自覚堕神です。
ウンディはドラグーナの子。
ややこしい事になっています。
飛翔も、瑠璃もドラグーナの子です。
ドラグーナの子は千。
龍神の子供達だらけなユーレイ外伝なんです。